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Sweet Bomb  作者: 白河夜舟
5.鉄拳無双っ!
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33.螺鈿

 ファイヤーバードアタック。通称“火の鳥”。科学忍者隊ガッチャマンの必殺技です。もう知る人は少ないんだろうなぁ。

 マッチメーカーでは普通に武装技として存在しています。両肩装備なので、もったいないようには思いますが、作中でも示していますように、移動力が格段に増します。しかも必殺技付き。

 昔のロボットアニメって、こういうのが多かった気がします。

 うん、お相手、悟ったらしい。

 ファイヤーバードアタックを起動した。

 俗にいう“火の鳥”、文字通り機体を鳥型に変形させて、防御フィールドに過干渉プラズマ現象を起こさせる。そのまま、まるで炎をまとったかのようにみせて、直接体当たりするという、今どき冗談にもならない必殺技システム。

 両肩に装着しないといけないし、システム自体もかなりの高額品。しかも一回しか使えない(まあ、機体にかかる負担を考えたら当たり前だけど)し、付属ブースターを全開にして、落下速度を利用してのカミカゼ攻撃なんだけど、さ。

 あながち、バカにしたものでもない。命中率は高いし、破壊力は強烈。当たればオシマイでしょうし、かすめても、まとった炎の効果でセンサーやコンピューターを狂わせる効果もかなり高い。

 高い、んだけどねぇ。

 向こうから近づいて(突っ込んで)くれるんでしょ?

 かわしたりしないんでしょ?

「(いくみぃ!きたよぉ!)」

 パパ、なんか慌ててるけど、余計な事だけはしないでね。

「(ディスクは“インセイン”でお願い。急いでね)」

「(ええっ??)」

 ディスク・インセインは回避無視、超攻撃型ディスク。命中率が“自分”にも“相手”にも3割増しで上がるという、諸刃のプログラム。

 つまらない相手だけれど、せっかくギルティ・ランスが「よく見ておけ」とか、回線を強制的(パパでも分かるよう)に開いて教えてくれたんだし、サービスで、ちょっとだけ手の内を見せときますか。

 機体を軽く上下に二度振って、滑らかにしておく。

 フィンファンネルをすべてあたしの機体の前方に厚くまとめる。

 真正面から、ファンネルの盾で受け止める、ように観客からは見えるわよね。

 さらに防御を上乗せする、ように、()せる。

 あたしの拳、フィールドパンチAP(オート射撃・パワーセレクター)。

 文字通り、フィールドバリアーをパンチの形で前方に展開して、敵を触れずして圧壊させる、高価格系接近戦機体(お高いインファイター)としては人気の武装。

 威力、破壊力、命中率が高く、超接近戦(インファイト)からある程度離れた距離(ミドルレンジ)でも使い回せる上に、武装構造上、バリアーとしても有用に使える。普段はデイフェンシブモードに設定してあるけど、今回はオフェンスモード、出力を全方位(マルチ)じゃなくて前方(シングル)に絞る。展開フィールドは、拳じゃなくて、フィンファンネル達ね。

「え、え、なにそれ??」

 こらこら、パパ、素でしゃべってるぞ。マイクカフ落としてるからいいけど。

 お、来た来た。

 真っ赤に燃え上がって空高く舞い上がり、あたし目がけて“落ちてくる”火の鳥。実際は少し手前に、地面に激突する寸前で地上すれすれを飛んでぶつかってくる。

 もちろん、こいつはゼロ距離まで引き付けないとダメ。

 パパがワーワー言ってるけど、邪魔なのでスピーカーをオフにしといた。

 右足を、地面を貫くように踏み込みつつ、左足は前に蹴りだす。

 発生する“螺鈿(らでん)”のベクトルを、腰、背中、肩、肘、手首、指先にまで、ロスしないように滑らかに伝える。

 さっすが(げん)さん、調整(チューン)に抜かりなし!

 なんて美しい連動かしら、ほれぼれしちゃうわ!

 モニターいっぱいに映し出されるお相手の“火の鳥”が、フィンファンネルの集団もろとも、あたしを焼き尽くそうと突っ込んでくる!

 その先端がファンネルたちに触れる寸前、左拳を“添えるように”合わせる。

 同時に、フィールドバリアー・オフェンシブモードを右拳中心(左拳も添えてるけど、仕様は左右のどちらかを指定)に展開。

 フィンファンネルたちがまとっている力場、新たにグランザールの動作で発生した螺鈿(らでん)の力場から放つフィールドバリアーが同時に合わさって、この瞬間だけ、膨大な水の塊のような圧力が、お相手の機体を直撃した。

 例えていえば、高さ200メートルからプールに飛び込んだみたいなものね。

 お相手がまとった炎が、一気に吹き消される。

 見えない壁にまともに衝突して、お相手の機体が粉々に吹き飛んでいく。

 ぶつかってはいけない不可視の壁。その瞬間にしか発生しない、まさに絶妙のタイミング。

 速くても遅くてもダメ。

 濃厚な力場が発生しなければ意味はないし、遅いと力場が周囲に散ってしまう。

 まあ、あたしも、絶対にこのポイントに来る、と確信して(分かって)いないと使わない技なんだけどね。

 ああ、それにしてもなんて綺麗(美しい)

 お相手の機体のなにもかもが、粉みじんに吹き飛んでいくわ。

 普段(むかし)は捕まえて羽根を毟るように潰してたんだけど、こういうのもいいわね。

 あ、ごめん、パパがなんか言ってる。もうスピーカーオンにしていいよね。

「いくみぃ!パイロットが、パイロットがぁ!」

「あ~多分大丈夫よ。脱出装置作動してたから」

「え?本当かい?」

「うん、ちゃんと見えてたよ」

「そっか、よかった…」

 優しいのねパパ。

 さっきまでワーワー言ってたのに。

 殺されかかったのは、こっちの方なんだけどね。

 ま、ドーリングだから、その辺の文句は、あたしにはない。

 ついでに、お相手の脱出装置が作動してたかどうかは、知らない。

 優しいパパに、優しい嘘を与えただけよ。


               ~ ・ ~


 当然だけど、二戦連続で、本体無傷(エクセレント)

 この程度の相手じゃ、あたしに傷なんて一つも付けられない。

 機嫌の良い(げん)さんを見るのは、悪い気分じゃない。

 でも、次からはそうはいかないんだろうな。

 準決勝のビームサーベル使いと、決勝で当たるだろうギルティ・ランス。

 普通に闘えば負けないんだけど、パパがハンデかなぁ。

 ま、なんとかなるでしょ。

 だってあたしは“鉄拳無双”なんだからっ!



                       (おしまいっ!)


 螺鈿。漆塗りの陶器に巻貝を飾り付ける手法。

 武芸の技にこんなものはありません。ただのコジツケです。

 イメージとして、身体で練り込んだ螺旋のベクトルを外部に一瞬だけ放つ、感じ。

 発勁の考え方に近い,というか、そのものズバリ、なのかもしれない。

 ただ、郁美の中では全くの別ものです。


 蛇足ですが、お相手のパイロットはきちんと脱出しています。向こうも、逃げようともせずにまともに待ち構える郁美相手に、対策も無しにやみくもに突っ込んだりはしません。必殺話ですので、突っ込む以外に道はないのですが、それでも命は大事なのです。

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