33.螺鈿
ファイヤーバードアタック。通称“火の鳥”。科学忍者隊ガッチャマンの必殺技です。もう知る人は少ないんだろうなぁ。
マッチメーカーでは普通に武装技として存在しています。両肩装備なので、もったいないようには思いますが、作中でも示していますように、移動力が格段に増します。しかも必殺技付き。
昔のロボットアニメって、こういうのが多かった気がします。
うん、お相手、悟ったらしい。
ファイヤーバードアタックを起動した。
俗にいう“火の鳥”、文字通り機体を鳥型に変形させて、防御フィールドに過干渉プラズマ現象を起こさせる。そのまま、まるで炎をまとったかのようにみせて、直接体当たりするという、今どき冗談にもならない必殺技システム。
両肩に装着しないといけないし、システム自体もかなりの高額品。しかも一回しか使えない(まあ、機体にかかる負担を考えたら当たり前だけど)し、付属ブースターを全開にして、落下速度を利用してのカミカゼ攻撃なんだけど、さ。
あながち、バカにしたものでもない。命中率は高いし、破壊力は強烈。当たればオシマイでしょうし、かすめても、まとった炎の効果でセンサーやコンピューターを狂わせる効果もかなり高い。
高い、んだけどねぇ。
向こうから近づいてくれるんでしょ?
かわしたりしないんでしょ?
「(いくみぃ!きたよぉ!)」
パパ、なんか慌ててるけど、余計な事だけはしないでね。
「(ディスクは“インセイン”でお願い。急いでね)」
「(ええっ??)」
ディスク・インセインは回避無視、超攻撃型ディスク。命中率が“自分”にも“相手”にも3割増しで上がるという、諸刃のプログラム。
つまらない相手だけれど、せっかくギルティ・ランスが「よく見ておけ」とか、回線を強制的に開いて教えてくれたんだし、サービスで、ちょっとだけ手の内を見せときますか。
機体を軽く上下に二度振って、滑らかにしておく。
フィンファンネルをすべてあたしの機体の前方に厚くまとめる。
真正面から、ファンネルの盾で受け止める、ように観客からは見えるわよね。
さらに防御を上乗せする、ように、観せる。
あたしの拳、フィールドパンチAP(オート射撃・パワーセレクター)。
文字通り、フィールドバリアーをパンチの形で前方に展開して、敵を触れずして圧壊させる、高価格系接近戦機体としては人気の武装。
威力、破壊力、命中率が高く、超接近戦からある程度離れた距離でも使い回せる上に、武装構造上、バリアーとしても有用に使える。普段はデイフェンシブモードに設定してあるけど、今回はオフェンスモード、出力を全方位じゃなくて前方に絞る。展開フィールドは、拳じゃなくて、フィンファンネル達ね。
「え、え、なにそれ??」
こらこら、パパ、素でしゃべってるぞ。マイクカフ落としてるからいいけど。
お、来た来た。
真っ赤に燃え上がって空高く舞い上がり、あたし目がけて“落ちてくる”火の鳥。実際は少し手前に、地面に激突する寸前で地上すれすれを飛んでぶつかってくる。
もちろん、こいつはゼロ距離まで引き付けないとダメ。
パパがワーワー言ってるけど、邪魔なのでスピーカーをオフにしといた。
右足を、地面を貫くように踏み込みつつ、左足は前に蹴りだす。
発生する“螺鈿”のベクトルを、腰、背中、肩、肘、手首、指先にまで、ロスしないように滑らかに伝える。
さっすが源さん、調整に抜かりなし!
なんて美しい連動かしら、ほれぼれしちゃうわ!
モニターいっぱいに映し出されるお相手の“火の鳥”が、フィンファンネルの集団もろとも、あたしを焼き尽くそうと突っ込んでくる!
その先端がファンネルたちに触れる寸前、左拳を“添えるように”合わせる。
同時に、フィールドバリアー・オフェンシブモードを右拳中心(左拳も添えてるけど、仕様は左右のどちらかを指定)に展開。
フィンファンネルたちがまとっている力場、新たにグランザールの動作で発生した螺鈿の力場から放つフィールドバリアーが同時に合わさって、この瞬間だけ、膨大な水の塊のような圧力が、お相手の機体を直撃した。
例えていえば、高さ200メートルからプールに飛び込んだみたいなものね。
お相手がまとった炎が、一気に吹き消される。
見えない壁にまともに衝突して、お相手の機体が粉々に吹き飛んでいく。
ぶつかってはいけない不可視の壁。その瞬間にしか発生しない、まさに絶妙のタイミング。
速くても遅くてもダメ。
濃厚な力場が発生しなければ意味はないし、遅いと力場が周囲に散ってしまう。
まあ、あたしも、絶対にこのポイントに来る、と確信していないと使わない技なんだけどね。
ああ、それにしてもなんて綺麗。
お相手の機体のなにもかもが、粉みじんに吹き飛んでいくわ。
普段は捕まえて羽根を毟るように潰してたんだけど、こういうのもいいわね。
あ、ごめん、パパがなんか言ってる。もうスピーカーオンにしていいよね。
「いくみぃ!パイロットが、パイロットがぁ!」
「あ~多分大丈夫よ。脱出装置作動してたから」
「え?本当かい?」
「うん、ちゃんと見えてたよ」
「そっか、よかった…」
優しいのねパパ。
さっきまでワーワー言ってたのに。
殺されかかったのは、こっちの方なんだけどね。
ま、ドーリングだから、その辺の文句は、あたしにはない。
ついでに、お相手の脱出装置が作動してたかどうかは、知らない。
優しいパパに、優しい嘘を与えただけよ。
~ ・ ~
当然だけど、二戦連続で、本体無傷。
この程度の相手じゃ、あたしに傷なんて一つも付けられない。
機嫌の良い源さんを見るのは、悪い気分じゃない。
でも、次からはそうはいかないんだろうな。
準決勝のビームサーベル使いと、決勝で当たるだろうギルティ・ランス。
普通に闘えば負けないんだけど、パパがハンデかなぁ。
ま、なんとかなるでしょ。
だってあたしは“鉄拳無双”なんだからっ!
(おしまいっ!)
螺鈿。漆塗りの陶器に巻貝を飾り付ける手法。
武芸の技にこんなものはありません。ただのコジツケです。
イメージとして、身体で練り込んだ螺旋のベクトルを外部に一瞬だけ放つ、感じ。
発勁の考え方に近い,というか、そのものズバリ、なのかもしれない。
ただ、郁美の中では全くの別ものです。
蛇足ですが、お相手のパイロットはきちんと脱出しています。向こうも、逃げようともせずにまともに待ち構える郁美相手に、対策も無しにやみくもに突っ込んだりはしません。必殺話ですので、突っ込む以外に道はないのですが、それでも命は大事なのです。