31.この程度の相手に、きちんとした手の内なんて見せないんでしょ?
1,2回戦を勝てれば十分、なチームに対して。
優勝を目指すチームは、初戦から戦略を組んでいます。
手の内は、なるべく見せない方が良い、という考え方と。
ある程度、実力の差を見せつけて、相手の戦意を喪失させてダメージを少なくして勝ちあがる考え方。
どっちもありですが、郁美は割と後者寄りの考え方です。
左足首から起動させて、左脚、腰の回転、更に肩、腕、そして、手首。
軽ぅく、連動させてみたけど、さすがは源さんね。一発で調整OKだわ。
「こんな感じでいいのかい?」
モニターの向こうで、半信半疑してる源さんに、軽く機体の右手を上げて答える。
ま、狭い格納庫の中で、全開で打ち込むわけにはいかないから、見た目は多分わかんないんだと思う。
「いいわよ。さすが源さんね」
いやぁとかなんとか、いい年して照れている源さんに合図を送って、武装の再点検に取りかかって貰うために、グランザールをベイの中に再び挿入し直した。
「…いくみぃ、こんな調整になんか意味でもあるのかい?」
あはは、パパにも判んないのか。
「一応ね。準決勝か、決勝用に使うための調節だから、今のうちに詰められる所は詰めて置かないと」
「ふうん……」
「それより、次のお相手の方、分析録画はちゃんとしてくれたんでしょうね」
「そりゃもう、バッチリだよ。それにしても、コイツ強いねぇ」
パパのバッチリはあんまり当てにはならないんだけど、録画位はきちんとやってくれる。
スタジアムで行われている第3試合の録画ビデオは、まさに華麗の一言だった。
前に使っていたレーザーソードの最上級版、ビームセイバーの二刀流に、ビームシールドSを両腕に装備。Lじゃないのは、剣捌きを重視しているというところかしら。盾が大きいと、どうしても可動域が狭まるのよね。
片手に盾をもつ選択も、当然ながらあるのだけれど、ビーム系の武装は故障リスクが常に付きまとう。なので、両手にそれぞれ持つことでケアしているわけね。
あたしも同じ。というか、上級ドーラーの主流スタイルね。
スゴクどうでもいいことだけど、CPUはホントにバカなので、攻撃を任せると一度につき片手の武装しか使おうとしない。人間的には、二刀流なんだから両方の剣を使って技を繰り出すのが当たり前ってところじゃない?
でも、仕様に極めて忠実なCPUは、そういう発想にはならない。
攻撃をCPUに任せきりにする下手くそドーラーも、見た目重視だか知らないけど、別系統の武装を好む。
よく吟味して、これに命を預ける覚悟で選んだ武装に故障リスクがあるなら、両手に二本持てばいい、という発想にはならないみたい。
まあ、相手が何してくるか分からない場合に備えて、色々対応できるようにしておくつもりなら、ありかもしれないけどね。
あたしは、そういう細かいことする位なら、火力全開で瞬殺する方を選ぶけどね。だって、戦う時間が短ければ短いほど、故障する可能性を減らせるでしょ?
このビームセイバー使いも、あたしと同じ。
右下から軽く振ったフェイントに反応して下がったミドルサイズの甲虫系?マシンに、一気に踏み込んで(ついでにスイッチして)左手のサーベルの突きを連打。相手CPUは完全に右手からの攻撃と思い込んでたらしく、全弾命中。
受けたダメージが酷すぎて、CPUの反撃モードが酔っぱらっているみたいでまるでなってない。
そのまま、ビームセイバー使いの大上段に振りかぶった十字切りで、一気にカタが付いちゃった。
「参考にもなんにもならないわね。相手が弱すぎるわ」
「いやいやぁ、そんなに弱くもないと思うよぉ?いくみぃの武装だと、近づかなければならないだろうけど、相手ドーラーは距離を取って反撃するつもりだったんだろう?今のはしょうがないとおもうけど?」
ああ、まあ、パパにはわかんないかもね。CPUにはできない、移動しながらの攻撃、しかも左右使い分けのフェイント込みだしねえ。
単にプログラムされた操縦で、既定の武装とエンジンをフレームに詰め込んで、ガチャガチャぶつけるだけなら、そういうのでいいんだけどね。
そういうことだと、あたしや源さんみたいなプロフェッショナルは必要ないんだけどね。
ま、こいつも一応、プロフェッショナル扱いにしといてやるか。
「まあ、あちらさんも、あたしの戦いを解析して、参考にならないとか言ってるだろうから、お互い様ということで」
そうでしょ、ビームセイバー使い?
この程度の相手に、きちんとした手の内なんて見せないんでしょ?
でも、あたしには、きちんとした手の内を惜しげもなく魅せてくれるんでしょ?
…試合が、楽しみだわ。
本作「2.流星乱舞っ!」で登場したレーザーサーベル使い、再登場です。
安い機体を丁寧に乗りこなしておりましたが、今回は郁美同様、武装も機体もメガドーラー大会用に変更しております。
当然、TILTの2st.ドーラーです。