30.ファイヤーバードアタック
故障リスクはつきもの。大切な試合に限って、壊れます。
実物武器は故障しないので、それなりに人気があります。ただ、重くて威力が少なめに設定されているだけです。ですが、特殊金属などを使うことで補うこともできます。
と。
あらま超初心者ちゃん、折角、予備弾まで積み込んだビームスナイパーライフル、相次いで故障とは運がなかったわね。ホーミングレーザーも弾切れみたいだし。
まあ、あたしみたいにさっさと決着をつけないで無駄に試合を長引かせた自分が悪いのよ。もうどうしようもないわね。
しめたとばかり近づこうとする星龍杯ドーラー。
でも超初心者、最後の必殺技の、ファイヤーバードアタックを起動させたわ。
肩のブースターが、爆発でもしたんじゃないかという勢いで噴射され、機体をむりやり高く飛翔させる。
空中で広がっていく肩から伸びた翼から、フレア現象のように揺らめく炎が尾を引いていく。そのまま、両端の翼が変形し、機体を包み込む。
浮力を失い、急速落下していくと同時に、フレアが激しく燃え上がる!
あはは……。
何度か、このオバカな武装つけた機体と闘った事があるけど、いつ見ても見栄えだけはスゴクいいのよね。
落下途中で地面すれすれで軌道を修正し、そのまま体当たり攻撃を試みる。
かなり広範囲に広がったフレアと、超高速での機動によって命中率はそんなに悪くないんだけど、経験を積んだドーラーにとっては、かわすのはそれほど難しくない。
案の定、タイミングを合わせて星龍杯ドーラーは上にジャンプしちゃった。
「あぁあ……」
試合は、終わったわね。
と?
フレアがかすめたらしくて、星龍杯ドーラーの左脚、傷が入ってるじゃない。
バカねえ、肝心な所で操作をコンピューターにでも任せたみたい。自分はカウンターで攻撃に専念でもするつもりだったのかしら?
悔し紛れに射程外でメーサー砲を撃ってるけど、当たるはずもないわ。
そのまま、時間切れ。
機体本体のダメージの総量で勝敗が決まるから、超初心者の勝ちになっちゃった。
「運が良かったわね」
肩をすくめて、あたしはふかふかのソファーから立ち上がる。
「だ、大丈夫、だよな、郁美君」
なによオーナー、随分と心配性じゃない?
「いや、その、か、彼の事もあるし…」
奥歯にものでも挟まっているみたいね、オーナー。
取って上げましょうか、無理やり。
両手をわしわしっと動かしてオーナーにすっと近寄ると。
パニックに襲われた小動物のように、一目散で部屋の隅っこに逃げ出したオーナー。
「彼って、ギルティの事?心配なくても、トーナメント表を見る限りは決勝にならないと当たらないわよ。後はせいぜい、準決勝で当たるTILTの2st.ドーラーのレーザーサーベル遣い位じゃないの?」
超初心者は表向きなのかもしれないけど、こんな闘い方をするドーラーにあたしが負けるはずもない。この程度の相手なら、パパに任せきりにしても構わない位だわ。
「いや、その、彼の事だよ。あまり弱すぎる相手だと、君がやり過ぎて、その、彼が……」
ああ、彼って、もしかしてパパの事?
パパ、相手ドーラーをとにかく助ける事しか考えてないから、あたしが相手の機体どころか、勢い余って相手ドーラーまで殺しちゃうと、関係が悪くなると言う事?
へえ、オーナーが、パパの心配、ねぇ…
ま、確かにね。
あたしは回りくどい事は好きじゃないけど、その辺は上手くやるつもりよ?
源さんがグランザールの傷を気にしているのは承知しているけど。
パパが相手ドーラーの生命を気にしているのは承知しているけど。
なんとか、折り合いはつけているわ。
あたしが絶対無敵を貫いている事を、承知しておいて欲しいから。
「いまさらオーナーに言われなくても大丈夫、心配しないで」
「あ、ああ。そう、だよな……」
オーナー、随分と顔色が悪いわ。よっぽど裏の組織辺りから脅されているのね。
ま、あたしのパパを巻き込んで下手なギャンブルを打つからよ。尻拭いするあたしの身にも少しはなって欲しいものだわ。
「ねえオーナー…」
あんまり心配しすぎていると、そのうち禿げるわよ、なんてつまらない洒落を言おうと思ってたら。
メイン画面の第三試合の映像の中に源さんの顔が割り込んできた。
「郁ちゃん、調整終わったんだけど、来てくれないかねぇ?」
「あーはいはい。じゃ、またねオーナー」
ホント、こんな狸親父の心配なんかしてる暇はあたしにはないの。
第一、あたし、そんな柄じゃないし。
いくみくんとかなんとか背中越しにごにょごにょ言っているオーナーを放っといて、あたしはさっさとグランザールに戻った。
必殺技は、やはり必殺なのです。直接当たらなくても、勝ちに導いてくれます。
ちなみに、超初心者チーム、相手の重装甲チームを狙い撃ちしています。ここだけ勝てればいい、という戦略です。