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Sweet Bomb  作者: 白河夜舟
4.告死天使っ!
33/75

25.悪くないわねってか、ホントにイイノ?

 説明エピソード、分割した後半です。

 郁美という猛獣をなだめすかして、自分の莫大な借金を返さなければならないオーナーも、なかなか大変です。ですので、うまい話なら一度は聞いてみたいのです。そのために命がけで郁美を説得する価値はあります。

 でも、できれば陰でコソコソと決めてしまって、直接郁美に接触するのは避けたいのです。

 ついでに資金も豊富に使える、軍関係ご用達の研究チームという表舞台のオーナーに復帰してみたい野望も、もちろんあります。

「あたしが再び“表”にでるという事は、オーナーとの契約はオシマイという事でいいのね?」

「…無、無論だ。ワシの借金も、大会本部で肩代わりしてくれる事になっておる。君ら親子は自由だ。もちろん機体の所有者(オーナー)郁美君(いくみくん)に移る」

 自由、か。

 まあ、悪くないわね。

 あたしはともかく、パパは機体(マシーン)ごと買い取らないと、どうしようもないんだし。

「ただし、君のトーナメント優勝が条件だ。当然だろう?」

「だろぉ?」

 柔らかい太股を軽く捻ってやった。

「シロウト相手ならともかく、メガドーラー大会に機体価値2000crを割り込むような機体で、一体、何をさせるつもりよ」

「イテテテ…や、やめたまえ郁美君(いくみくん)……」

 普段からドライブギアを千切れんばかりに握りしめているあたしの握力は半端じゃない。本気でツネッたら、それこそ肉が千切れる。

 だから、かなり加減はしてるんだけど、それにしてもオーナー、なによその情けない顔は。

「ワシがそんな条件で試合を引き受けるわけはないだろう……

 大会本部から、君が以前の機体で使っていた装備や武装を無償で使って良いという許可を受けている。すでに格納庫(ハンガー)に届けられているよ」

「以前の、武装…?」

 ツネルのを止めて問いただすと、オーナーは涙目のまま頷いた。

 なるほど、ギルティの考えそうな事だわ。どうしてもあたしを乗り越えなければ、腹の虫が納まらないってわけね。えっと、ゲルマン魂とか言うんだっけ?

 オーナーの話では、大会本部が融通してくれるのは武装(ウェポン)補助推進装置(ブースター)のみで、前にあたしが乗っていたヘビー級AK(アーマーナイト)“Sweet Bomb”本体と、それに付随する装備はさすがに不可能という事だった。

 それは全然構わない。というより、あたしの忠実な僕である人口知能CPU“グランザール”は、あたしの許可なしには本体への介入を一切許さないのよ。

 あたしがTILTを辞めた後、“Sweet Bomb”のドーラーとしてあの機体に乗り込むためには、グランザールの「忠誠の試練」に合格しなければならない。言い換えれば、あたしに匹敵するだけの腕前がなければあの機体には搭乗出来(のりこめ)ないのよね。

 あたしがTILTで現役だったころ、セカンドに甘んじていたのはギルティ・ランスだった。あたしの後釜で彼が1st.ドーラーになったんでしょうけど(大会規定で、1チームに二人までのAK(アーマーナイト)とドーラーの在籍が認められているわけね)、誇り高い彼にとっては、あたしの存在はまさに超えなければならない壁というわけよね。

 ま、あたしは別に構わないのよ。どうせ、パパはグランザール(マシーン)から文字通り一歩も外には出られないんだし、あたしも、もう“Sweet Bomb”で闘うつもりはさらさら無いし。

 そう、未練は全て断ち切ったつもりよ。

 それに今まで武装にcrを掛けていた分を、そのまま高性能エンジンにぶち込める。

 前の機体(Sweet Bomb)に負けないだけのパフォーマンスで闘えるわ。

「あと、トーナメントの最中に失った武装(ウェポン)は、再装備はできないという規定だ。その代わりに、エネルギーや残弾は一試合ごとに補充されるし、修復(リカバリー)も可能だ」

 つまり、手持ちの武器が壊されたりしたら、残った武装で闘えってことね。

「機体は?」

「機体も同様で、腕や脚を失ったら、それから先も同じ状態で闘わなければならない。失わない限りは、一試合ごとに手持ちcrの範囲で修復できるし、それなりの賞金も毎試合ごと支給される」

 ふーん、普通の試合(ドーリング)を短期間で重ねる、連戦の状態と考えていいわけか。

 悪くない。

 うん、悪くないわね。

 これなら、例えワナだとしても、余裕で噛み破って後足で砂でも掛けてあげられるようなもんだわ。

 ご褒美にオーナーのツルツルの頭を、かいぐりかいぐりして上げる。

「随分と美味しい条件じゃないのさ。

 …でもさ、あたし、もしかして、なめられてるワケ?」

「い、いや、そんな事はないと思うぞ……さっきもいった通り、ワシらのコロニーの代表を決める選考会だから、なるべくフェアな条件下で闘って貰って代表者を決めて欲しいという大会本部の意向だ。ルールは20分ヘッドデスマッチ、前回の試合と同じく、頭部か胴体の破壊(デスマッチ)で試合終了だが、時間切れの場合は総ダメージ量の少ない方が勝ちだ。どうだ、ちゃんと説明したぞ」

 威張っていう話じゃないでしょうが。

 でも、ま、いいわ。反省の色(おしおきの後)が充分に伺えるから。

 そういう素直さが、長生きするコツよ。

「そういう条件なら、あたしは受けてもいいわ」

 にっこり笑って、オーナーを開放して上げる。

「ほ、ホントウかね?!」

 喜色満面を顔中に浮かべて、オーナーはあたしの手を握ってブンブン振り回す。

「喜ぶのはまだ早いわよ? もう一人、OKを貰わなければならないヤツがいるでしょ?」

「へ?」

 オーナーの顔が曇る。

「だっ、だって普段から郁美君(いくみくん)が試合を受けると言えば、彼も……」

「ま、ね。でも、今回は特別。でしょ?」

 再び、ガタガタと震え始めるオーナー。

 なに?あたしが出場しな(でな)いと酷い目に会わすぞとでも、裏シンジケート辺りに脅されてるわけ?

「やるだけのことはやるわ。ただ、パパも頑固な所があるからね」

 (げん)さんに合図して、理事長室の本棚を開けて貰う。

 現れた二人乗りの狭いエレベーターの中に、あたしと(げん)さんは身体を押し込む。押しつぶされた(げん)さんの息づかいが妙にくすぐったい。

 グランザールの格納庫(ハンガー)に向かう専用の通路。あたしと(げん)さんのプライバシーを保護するための対策の一つなんだってさ。

 心配そうにみつめるオーナーを、優しく睨み返す。

「オーナー、忘れないでね。あたしもパパも、“心”があるってことを」


 ようやく、なんとか、郁美の説得に成功したオーナー。

 で、パパって誰だっけ?

 いや、郁美がこだわっている要件なので(逆にそれがないと郁美は雇われてくれない)、分かってはいるのですが、アレってコンピューターでしょ?説得しなきゃダメなものなの?心なんてあるの??

 オーナーにとっては、ごく普通の反応ですね。

 

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