24.そんなに野蛮な女じゃないのよ?多分…
前回の試合申込内容の、細かい部分です。その時はバタバタしていて、書ききれませんでしたので。
え?上手く書ければ問題ない?
いや、まあ、その、あの、おっしゃる通りなのですが、文章の流れとかイロイロありまして…
そ、一週間前の話。
「めっずらしいじゃない。公式トーナメントへのご招待だなんて」
「郁ちゃんのガンバリが評価されたんだよ」
「あははっ」
なんにも知らなさそうに源さんも言ってくれるけど。
そんなわけ、ないじゃない。
あたしらみたいに高額の賞金稼ぎでやってるチームは、大抵は非公式、俗に言う“裏”試合に出場する。
ドーリングは元々、公式戦と非公式戦があって、公式戦にエントリーする機体は賞金などに関しては、かなり厳しく管理されているというのが一般的なのよ。裏でやってるみたいに無制限に賞金をばら蒔くと、豊富な資金力がある機体しか勝てなくなるってわけだし。
それに対して公式戦は、いわば弱小チームにも門戸を開いて全体の活性化を図ってるわけ。(例えば、初期投資額の2000crは無償で用意してくれるとかね)
だから、時々入り込んでくる不正にバランスを崩しそうな連中のために、大会本部はTILTっていう専門チームを雇って退治しているというのは、前に話したっけ?
ま、そういう事情だから、あたしんとこは公式戦には縁がないものだと思っていたのよ。裏試合は、莫大な掛け金が動いたりするから、賞金も高いし、いわばイージーに参戦できるというメリットがあるからね。ただし、時々、主催者の言い出す条件を無条件に飲まなきゃならないけど。(例えばデスマッチとか…)
話が長くなっちゃったけど、だから当然、このご招待には裏がある。っていうか、無いと考える方がおっかしいのよね。
「ま、とにかく、詳しい話を聞きましょうか」
ジロッとオーナーに視線を映す。ま、この前、あれだけ五寸クギをまとめて打ち込んで置いたから、下手な策謀は慎んでくれると思うけどさ。
「あ、ああ……」
頭頂部の不毛の砂漠から沸きだす泉をひたすらハンカチで拭いながら、上目づかいにあたしのご機嫌を伺うオーナー。
心配しなくても大丈夫よ。別に引き受けないと言ってるわけじゃないわ。あたしはホントに寛大な女なのよ?
ただ、影でコソコソするのが気に食わない、それだけよ。
「郁美君も知っての通り、通常の公式戦は“メガドーラー”つまり、100勝以上したドーラーは参加する事が出来ないと規定されている。
だが、今回のドーリングは、メガドーラー・オブ・メガドーラーを決める、いわば超一流ドーラー同士のトーナメント戦というわけだよ」
あらま。10年置きにも開催するかしないかって位の大きい大会じゃないのさ。
でもね?
「だって、あたしはもう、表からは“引退”した事になってるわけでしょ?」
じゃないと、幾ら裏の試合とはいえ、おおっぴらには出場できないわけだし。
「いや、今回はそういう固い事は抜きにして、とにかく真のメガドーラーを決めようという大会のようだ。当然、プライバシーは堅く守られる。いくら大会本部の企画とはいえ、不正参加しているドーラーを集めて一網打尽にするなんて事はないと確約してもいるし」
オーナーってば、なんか目が潤んでいる。あたしに断られたらどうしようという脅えの色が伺えるわ。
「じゃあ、どういうウラがあるわけ?」
あらま、ちょっと近寄っただけで、そんなに逃げ腰になる事無いじゃない。失礼しちゃうわね。
「い、いや、実は、シリウスコロニーとの間で、小惑星NO.152の採掘権を巡って揉め事が起こっているそうで、互いのコロニー同士で最強と言われるだろうドーラーを闘わせて決着をつけようという動きがあって、それで大会本部が人選を迫られているようなんだよ」
ああ、あのなんとかいうレアメタルが産出ってニュースになったとこね。
未だにそんなキナ臭い話になってるんだ。
そういう事なら、確かにシロウトを代表にするわけにはいかないわよね。
だけど、さ。
「TILTの連中に行かせればいいんじゃないの?」
あたし程ではないでしょうけど、連中ほどのレベルなら、誰が試合しても、そこそこヤルでしょ?
「いやほら、この間の試合で君が逆転勝ちしたから、彼らの権威というか、面子が立たなくなっている事もあってね…」
え?
あたしが、TILTの連中と闘った事があるっての?
だって、今のあたしってギルティ・ランスの挑戦待ちじゃないの?
ま、アイツにあたしと本気でやりあう度胸があればだけど。
あたし、好敵手相手に戦闘に入ったら、手加減できないしねぇ。
「いや、3週ほど前に、レーザーサーベルを主戦武器にしていた…」
「ああっ、あの気の弱そうな奴…!」
そういえば、安い機体をやけに丁寧に乗りこなしているアマちゃんがいたわね。
そっか、アイツ、TILTのメンバーだったんだ。どーりで上手かったわけだわ。
あたしが現役の時はいなかったから、後から入った新入りなのね?
うん。才能あるわ、アイツなら。
「彼でいいんじゃないの?あたしを本気にさせる位だもん。充分通用するわよ」
「郁美君。そんな実力者を、主戦武装の相次ぐ故障を抱えながら破ってしまった君にこそ、再び“表”でデビューして貰いたいと大会本部は考えているんだよ」
「ほほう、スゴイ話じゃないか、郁ちゃん。及ばずながらわしも応援させて貰う
よ」
……そっか。源さんは知らないんだもんね。
「オーナー。マジメな話なんだと考えていいわけね?」
源さんはともかく、オーナーはそれでホントにいいわけなのね?
あたしが“表”のドーリングから引退する原因の一旦は、アンタにあるっていうのを承知の上で言っているのね?
「ああ、無論だ。この間、ワシの所に来られたギルティ・ランス殿から直接、正式な招待の通知を頂いたし、お受けする旨、返事を差し上げたのだし」
ふーん、そうなんだ。
あたしの気持ちも知らないで、勝手にそういう事するんだ。
「あたしにはなんにも相談なしで、ね」
「い、いや、あのドタバタを解決…」
逃げるのが遅いわよオーナー。
もう手が届くもん。すでに、あたしの間合いなのよ?
オーナーの首筋に軽く手を当てつつ、もう片方の手を背中ごしから脚を抱え上がるように下腹部にまわす。
ちょうど、まだ首の据わっていない赤ん坊を抱き抱えるみたいに。
耳元で囁くのは、もちろん子守歌。
気持ちよく、ぐっすりとよく眠れるように。
そう、永遠に、安らかに。
「あ、あ……」
あたしの腕の中で、オーナーったらガチガチに固まってしまっている。
そうねぇ。
このまま高く持ち上げて、一気に床に叩きつけてもいいし。
首の骨を握り潰して、神経節を切断してもいい。
もちろん、抱えた関節を外すことも出来るし、脳に直接届くように、鼓膜を息で破壊も出来るわ。
でも、そのどれもしないで置いた。
源さんがオロオロとあたしの様子を伺っている前だし、なんたって大事な話の途中だから。
そ。大切な話だからこそ「心からの」本心が聞きたいだけなのよ。
あたしはそんなに野蛮な女じゃないわ。
多分、だけど。
説明調にはなるべくしたくないのですが、どこかで書かないと話が進みません。
とはいえ、一回で読み切れる量ではないので、分けるしかないなぁ。