23.生卵山芋納豆丼
幕間エピソード、短めです。
郁美は高級寿司からジャンクフードまで選り好みしないので、その辺も書きやすいです。
番外編でも掲載していますが、本編にもちょこちょこ描いていきたいですね。
ったく、やーな夢、みちゃったわ。
それもこれもあのやさ男、ギルティ・ランスのせいよ。
あれ程、昔の名前で呼ばないでって言ってるのに。
「どしたの郁美」
「…なんでもない。それより母ちゃん。今日、店長からバイトの残業頼まれてるんだ。帰りは遅くなるから」
「また、なんとかいうゲームのデモンストレーション大会かい?」
「ん……今回は公式のトーナメントみたい。一回戦で負けたらすぐ帰れるけど、あたし、負ける気無いし」
「ハイハイ。あんたのやる事だから、あたしゃなんにも言わないけど。せいぜい気をつけておくれ」
「ん……」
生卵山芋納豆丼のお代わりを受取りながら、あたしは母ちゃんに心の中で詫びた。
ま、ウソは言ってないし。
“せいぜい”気をつけるつもりよ。
ゲーム関係には全く興味のない母ちゃんには、あたしはゲーセンでのバイト兼インストラクター兼所属選手の一人という事にしてある。その辺は、オーナー、じゃなかった、ウチのガッコの理事長が上手い事やってくれている。ま、あたしにへそ曲げられると、自分の借金首だって危なくなるんだから、当然なんだけどさ。
もち、実際にあたしたちの住んでるコロニーの中には、あたしに格ゲーで勝てる奴はマグレでもほとんどいないけど。ドーリングに比べたら、あんなもの操作のうちにも入らないしね。
「んじゃ、行ってくるね」
「気をつけるんだよ」
一応、お見送りはしてくれる。
だけど、どーせ母ちゃんの事だ。ウルサイのが出かけてああセイセイしたとか思って、TVの前でしばらくはカウチポテトなんだろうけど。
いいなぁ。あたしも早くそういう身分になりたいものよねぇ。
~ ・ ~
親の借金抱えた我が身を恨みつつ、退屈な授業が終わると同時にとっとと教室を抜け出す。
「郁ちゃぁん!」
「ゴメン、バイトォ!」
親友のみーよからのお誘いも蹴っ飛ばして、理事長室にチョッコー。
うーん、あたしってば、なんてけなげっ!
それに比べて、いいわよねえ、他のみんなは。教育委員会の重要会議があるとかいって、今日は授業は半ドンだから、みーよもあたしを買い物に付き合わせるつもりだったに違いないのよ。
なんて、んなことは表向きのお・は・な・し。
ドーリングの大会に合わせて、半日で授業はオシマイという事に決まってるわけ。
合鍵を使って理事長室に入り、背後で扉を閉める。
当然だけど、理事長、じゃなかった、オーナーも。
そして表の顔はよーむ員の源さんも、すでに来ていた。
「いよいよ、ね」
「そうだねぇ、こんなに楽しみになるとはなぁ」
オーナーも、あの時とは対照的に晴れやかな顔をしている。
そ、試合の話があったのは、ちょうど一週間前。
あの時のオーナーは、世にも悲壮な顔をしていた。
相変わらず、影でコソコソするからよ。
何気にさり気に、母ちゃんのおおざっぱさが結構好きです。
掘り下げて書き込むほどではないのですが、箸休めに程よい感じとか。