22.ちょっとナニやってんのよ!
ヘビーウェイト同士の殴り合い。力と技を駆使して、一歩も引きません。引いたら負けです。
当然、機体や武装の損傷が激しくなりがちなので、資金運用の面からは芳しくはありません。
ですので、遠距離からチマチマと射撃するのが主流の戦い方になってはいるのです。
でもねえ、見ている方はツマラナイ。やっぱり、殴り合いは盛り上がります。
「まだまだっ!」
モニターや照準の回復は、センサーが集中している頭部だけにまだかなりかかりそう。
エンジン本体の損傷は当然なし。エネルギー循環系の調整で落ちた出力を回復させるだけだから、CPU調整ですぐに元に戻るはず。
やられっぱなしは性に合わない。当然、倍返しあるのみ。
左手ドライブギアのウェポントリガー安全弁を外しつつ、右手のトリガーはドライブギアに押し込んで操縦系に連結。右利きから左利きに操縦、攻撃系をシフト。俗にいう“スイッチ”ってヤツで、相手はまだ右腕で攻撃してくるという予想で防御行動を取るだろうから、結構効果的なのよ。
ついでに、さっきかわされたフェイントをもう一つ入れてから、あたしのお顔に傷をつけてくれた相手の右腕目掛けて、左拳のフィールドパンチAPを、モーションなしのショートアッパー気味に突き上げてやる。
出力はセーブ気味。当たれば充分、牽制になる。なんたって真近にあって、狙いがつけやすかったし。
あたしのダブルフェイントに引っかかって、本体のガードにまわった相手の黒い機体。
これは、入る。
ビームシールドSは確かに最強の防御用の楯だけど、防御率が25%と低いのが難点。ドーラーが意識して使わなければ、わりと楯はかわしやすい。
「腕一本、貰いっ!」
あたしの拳が、楯をかわして相手のビームクロー発生装置にモロに直撃した。
フィールドパンチの普通の使用法は、フィールドバリアーを前方に展開させて相手を圧壊させるんだけど、あたしは拳に力場を集約させて、命中と同時に相手の機体内部でフィールドを放出させている。
拳が当たらないと意味がないので命中率は悪いらしいんだけど、操縦に絶対の自信をもつあたしは、入れば一撃で強烈な破壊力を有するこの攻撃方法を完全に自分のものにしているから。
だから、ものの見事にヤツの右腕のビームクローが吹っ飛んで四散した。
ま、攻撃に関しては凶悪な能力だけど、武装本体の耐久性はかなり弱いし、対ビームのコーティングは、モノがモノだけに十二分だけど、あたしの力場系の武装に対してはなんの防御手段もないのよね、その武装。
「姫さまっ、相手の右腕のビームクローの破壊に成功しましたっ!」
「あら、武装だけなの?」
そうマイクに向かって言ってはみるけど、笑いを堪えるのに一苦労よ。
高い武装を一瞬で失って、やっこさん、赤字は確定だし。
と。
相手の右腕自体にも亀裂。
そこからこぼれ落ちる青い閃光は、一気に本体にまで広がっていく。
武装が内部で誘爆したんだ。
「ちょっと、なにやってんのよ?!」
聞こえないはずの相手ドーラーに向かって、あたしは思わず叫んでしまった。
そう、普通の腕前のドーラーなら、武装が破壊された時点で放出して、本体への誘爆を避けるんだけど。
どうやら、排除し損なったみたい。
たまに、いるのよねぇ。高価な武装を惜しんで、自動排除のタイミングを逸して本体まで被害を及ぼすバカドーラーが。なまじ、腕が良いと過信しているドーラーが起こし易いミスだから、なおタチが悪いのよ。あたしは例外だけど。
しかも、高出力のビームクローよ。ただでさえ、無茶苦茶な5本のビームサーベルを発生させる超小型粒子融合炉なのに。
唐突に右腕全体が吹き飛ぶ。
反動で、うつ伏せに黒い機体が倒れる。
すでに、本体にも暴走したエネルギーが回りはじめている。
背中の圧力弁が作動したらしく、白い蒸気が迸る。脱出装置が作動したらしい。
でも、腹を地面に向けているその状態じゃ、脱出ポットは機体から抜け出せない。
せめて、ひっくり返して上げようと手を伸ばしたあたしの前で、誘爆の衝動は黒い機体全体を一気に震わせた。
あ、だめだ。もう助からない。
グランザールがエマージェンシーモードであたしの機体に緊急退避行動を取らせた。同時に、立ち上がる火柱からあたしをかばうように、生き残ったフィンファンネルがフィールドを展開させる。
強烈な熱源に反応してバチバチと光る防御バリアー越しに、あたしは自分の呼び名にまた一つ、確実に実績を積み上げてしまった事にげんなりしていた。
アズラエル。
初めは、ただカッコイイなという理由で、ドーラー名として名乗っていたのに。
まさか、又の名を“告死天使”という意味だとは、当時は知らなかったのよ。
ついでに、あまりにも“お似合い”になるなんて思っても見なかったし。
んもう、好きで“殺して”いるわけじゃないのよ。
大体、今のは向こうのドーラーのミスなわけだし。こっちだって久しぶりの強敵相手だし、手加減なんて出来ないんだからねぇ。
「そうでしょ、グランザール…」
マッチメーカーのゲーム仕様では、相手のどの部署を狙うのかはランダムです。
それじゃツマラナイので、郁美の(相手も)パイロットレベルが高いと、好きな個所を狙えることにしています。