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ドーリングを運営する本部は、参加者を増やすために、最低資金を無償援助しています。
建前上は人命優先ではありますが、当然、死亡事故は絶えません。
参加者の減少は避けられないので、新規参加者が参入しやすいように手を打っているのです。
「郁ちゃん、武装はいつも通りでいいのかい?」
源さんが、大会本部に送る申請書に書き込みながら尋ねてくる。
「いまさら、小細工なんかしなくてもいいわよ」
別モニターに映るメカニックに、サービスで微笑みかけて上げたけど、書類に目を落したまま、完全無視。
ま、いいけどさ。
機体は、もう全面的に源さんの腕を信用してるけど。
武装って、大会本部から購入の形にはなってるんだけど、実際の所はいつどのように使われたのか判らない、レンタル品みたいなものなのよね。
賞金が入ったり、壊されちゃったりで、毎回の試合ごとに武装が入れ代わるのは当たり前なんだから、仕方ないんだけどさ。
だから、対戦中に武装が故障したり弾が詰まったりするのは、結構よくあることなのよ。
軽くて威力があって命中率も高いビーム兵器なんかは、特に壊れやすいのよね。
一発撃ったら回路が焼き切れてハイオシマイなんて、日常茶飯事だし。
第一、そういう複雑な機構の武器ってば、基本的にお値段が張るから、あたしんとこみたいに借金抱え込んでる特殊事情チームだと“手が出ない”。
といっても、安くて丈夫なスティックやトンファーなんかの「塊」みたいな武器なら「故障」はしないけど、威力もあんまり期待できない。
んで、あたしがいつも使ってる主武装は、右肩からニョッキリと生え出てくる第三の腕、トリニティビットなのよね。
あたしは「歯医者さんのドリル」って呼んでるんだけど、昔の歯医者さんってレーザー治療なんか知らなかったから、こんなもの使ってたのよね。
命中率も威力も破壊力も攻撃回数も充分、しかも軽い上に155crという安さ。
ビンボーなあたしたちのチームにとっては、まさに「お気に入りの武器」なのよね。
んで、反対側の肩には、ちょっとお値段が張るけど頼りになる武装、ドラゴンクローよ。
一見、肩からちょっと張り出したお飾りみたいに見える本体の中には、まさに竜の爪そのものともいうべき、巨大で鋭い隠し爪が仕込まれているわけ。
ガス圧発射式だから一発しか撃てないんだけど、その代わり構造自体は至極単純で、切ったり殴ったりする武装と同じだから、近接距離ならまず絶対に外さない。
破壊力もかなりのものだし、なによりも相手に食い込んだ爪と、絡みついたワイヤーのお蔭で、相手に逃げられなくてすむのよ。
相手の防御はともかく、一時的にせよ攻撃不能に陥らせる事の出来る、お値段が400crと泣けちゃうくらい高いだけの価値のある武装ね。
まあ、これを買っちゃうと、残りの資金が35crしか無くなるのが悲しすぎるんだけど。
後は、光学式センサーの目つぶしに仕えるフラッシャー。値段は10cr。接近戦主体で、軽量機体だからいつでも先制攻撃のできるあたしにとって、重宝できるんだけど。
あたしの対戦相手って、みんな金持ち機体ばっかりなのよね。
だから、安くて丈夫な光学式センサーは、あまり使ってくれないことが多い。
だからまあ、装甲の代わりと、牽制の意味合いが強いんだけどさ。
これで、攻撃武装はオシマイ。
防御にかけるお金は、25cr。
たったこれだけ、じゃないわ。これで充分お釣りがくるのよ。
両手にそれぞれ、白いお饅頭みたいなプニプニしたものを握る。
通称「的」。
まさに、的。
冗談じゃなくて、ほんとに敵弾の命中率100パーセントを誇る謎の物体なの。
なんて、本当はコロニーの緊急補修用の風船なんだけどさ。
一個10crという破格の安さ。
その代わり、当然ながら一発当たったらオシマイの、使い捨て品。
まあ、手で使える武装は、強力で使いやすいものが多いんだけど、ビンボーなあたしたちには関係ないお話だから。
ううん、ヤケで言ってるわけじゃないの。
両手に一個ずつ、2回だけ絶対に直撃を防いでくれる、信頼性抜群の防備だからこそ。
なかば冗談みたいな武装でも、ベストセラーと呼ばれているのよ。
なんたって、一回限りの使い捨てで構造が単純という事は、絶対に故障しないわけだし。
新規参加者の死亡率は、相当高いのです。
しかし、勝ち続けると莫大な富と名誉を手にできます。
しかも、参加費無料、コンピューター任せでいいので、特別な技術も必要ありません。
ですので、参加者がいなくなることは無いようです。