21.デカブツ同士の殴り合いって、サイコーよね!
新章開幕。今までと打って変わって、重量級同士のドーリングです。
お互い資金は潤沢、機体や装備に妥協は一切ありません。
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今までは週一で各章をまとめて投稿していましたが、毎日午後6時投稿に変更致します。なんでも、予約投稿ができるらしいので、試してみたいのです。
ああ、これ、夢よね。
よく判っていた。
でも、あたしの身体はあたしの意志なんか聞き入れてはくれない。
一度、戦闘に入ったら、あたしは“あたし”でいられないから。
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デーモン・デザインの黒を基調とした“ディアブロ”はベースタイプがAKH-TND、つまりあたしと同じヘビィ級ハイパワー対応型の機体。
主戦武装のビームクローは、5本それぞれの指から放出される、それぞれが12、3メートルほどもあるビームサーベルで、至近距離で振るわれる相手にとっては、まさに“悪魔の爪”という呼び名に相応しい武装だわ。
に対して、あたしの愛機“Sweet Bomb”は天使をモチーフにした、白を基本デザインにしたボディカラーにしてるし、こっちの主戦武装も同じような一撃必殺の破壊力を持っている。
お互い、いい趣味をしているとは思う。
「並のドーラーでは、傷をつけることすら出来ない」と自己主張している辺り。
ついでに、両方の手に同じ武装をつけている所までそっくり。使い慣れた信頼のおける武装だからこその選択。相手に合わせた有利不利の選択肢マージンを大きく取るよりも、自らの使い勝手を最優先させているのよ。
そうやって、自分は勝ち残ってきた。そう、書いてあるわ。
それは、あたしも同なじ。
だから久しぶりの、好敵手相手の試合。
観客も判っているみたいで、実況スタジアムも満員御礼。お互いにこれまで公式リーグ戦全勝の機体同士の上に、見栄えも迫力もたっぷりだからね。
“悪魔の爪”を1、2、3本目まではかわしたけど、後は回避不可。
あたしの機体の両肩で、翼のようなフォーメーションで等間隔に広がって防御力場を生成しているフィンファンネルに対して、あたしの有線ヘルメットに装着されているサイコミュシステムに指令を飛ばして防がせる。
悪魔の爪に、フィールドバリアーを圧縮成形して特攻していったファンネルたちの内の一機がまともにビームサーベルの餌食になって、あえなく爆散して闘技場の塵と消える。
その間にあたしは機体を危険地帯から引き下げる。
「姫様っ、シールド装甲が1Pt減少しましたっ!」
長い銀髪に浅黒い顔の、エウロピアン系スーパーモデル顔の男が、CPUモニターで甘く叫んでくれるのが、実はちょっと嬉しい。
あたしだけに絶対の忠誠を誓ってくれる美形の騎士さま。
大丈夫よ、心配しないで。
あたし、絶対に負けないから。
「あたしに楯を使わせるなんて、中々やるじゃないのっ!」
マイクに向かって大入りの観客にもリップサービスしておきつつ、あたし自身の空いた両手両足を忙しくフル稼働させる。
普通のドーラーは、サイコミュシステムの使用中には意識がそっちだけに集中しちゃうんだけど、あたしにはそんな常識は関係ない。だって考えるより手足の方が速く反応するから。
左足でサイドのクラッチを蹴っ飛ばしつつ、右足のペダルを全開に。左手でギアドライブを押し込みながら回しつつ、右の親指で攻撃トリガの安全弁を外す。
「グランザールっ!」
「姫様っ、照準OKです」
あたしの忠実なる僕、頼りになる相棒が、間髪入れずに応えてくれた。
「いっけー!」
ご褒美にCPUにウインクを一つくれて、そのままトリガーを絞る。
拳に装着した、オート射撃・パワーセレクターのフィールドパンチAPが、20MGPの力場を至近距離から2連射で叩き込む。
まさに「天使の拳」というあだ名は伊達じゃない。相手の両腕に装着された、最強の防御力(ついでに防御系最高のお値段)を誇るビームシールドSが、高密度収束粒子を押しつぶされて大きくへこむ。
そのまま、じりじりと圧迫されていく黒い機体。
だけど、ダメ。
さすが装甲値20DFを誇る最強の楯。文字通り完全に受け止められてしまった。
「楯を使うなんて反則よぉ!」
「相手のシールド装甲に3Ptのダメージを与えました」
興奮気味にマイクに向かって叫ぶあたしに、冷静に状況を告げてくれるグランザール。
ちなみに、盾を使っても反則じゃない、なんてことは言わない。そういうところも大好き。
「オッケ。殴り合いは望む所よ」
楯ごと貫くつもりで全開を叩き込んだから、あたしの機体もバランスを崩してる。
当然、狙いすませた反撃が来る。
右にフェイントを掛けたけど、相手もよく見切ってきた。
主攻撃武装は互角。機体のパワーも互角。
ただ、防御に関しては、向こうが防御専門の楯を使っているだけ、ちょっと不利。
あたしの愛用しているフィンファンネルは、防御の信頼性はすごく高いんだけど、左右に8機づつのフィンネル自体は単体の装甲だから、壊れやすいといえば壊れやすいのよね。
上級の相手の放つ、受けきれない攻撃に対しては、身代わりになって貰うしかないから、ま、計算通りなんだけどさ。
なんて、ぐちってもしょうがない。
あたしの頭部に向かって手刀のように放たれる凶悪な青いビームサーベル。5本まとめて威力を増している攻撃は、絶対に避けきれないと確信しているからの事。
右肩のフィンファンネルを、翼で顔を被うようにして全て防御にまわす。
ファンネルの相互作用によって強化された防御フィールドに、相手のビームが干渉してプラズマを引き起こしている。
貫かれたら、そのまま頭部をまるごと持っていかれてあたしの負け。
対ビームコーティングのセラミック装甲、何枚かつけておけば良かったかもしれないけど、機体を軽量化させて回避でかわすのがあたしの基本スタンスだから、しゃーない。
フィンファンネルが防御フィールドごとまとめて二枚もバッサリと斬られた瞬間。
そのラグを利用して頭を左後ろにスウェーさせる。
直撃だけはなんとか避けた。
でも。
ビームが擦過するイヤァな音と共に、メインモニターに水平線が何本も入って画像が乱れる。
「んもう、だからサイコニュシステムはいまいちなのよねぇ」
普段使っている、接近戦専用の光学式ワイドカメラアイなら、仕組みが単純なだけに、ここまでぶれたりはしないんだけど。
いくらオーナー命令ったって、サイコミュシステムの新製品を試せなんて話、受けなきゃ良かったわ。
ま、左右16機のフィンファンネルを同時起動させながら、機体をコンピューターに頼らないで自分で操作できるパイロットが、あたししかいなかったんだから仕方がないんだけどさ。
「姫さまっ、頭部に10Ptのダメージっ。エンジン出力10%、攻撃、防御出力5%減少、センサー能力1/2ダウンっ!」
グランザールの凛々しいお顔が緊張感に染まっている。
うーん、なんて初心ヤツ。
やっぱ、いい男は、サイコミュシステムの安定起動には不可欠だわね。
接近戦なので、フィンファンネルは動く盾扱い。本編で郁美も言ってましたように、こういう展開なら専用の盾の方が有利ですね。ファンネルは複数いるので故障には強いのですが、一度コントロールを失うと一気に使い物にならなくなります。例えば、パイロットへの直接精神攻撃など、策は色々あります。
CPUのダメージ報告は優先順位があり、盾の損傷だけならともかく、本体ダメージがあるならそっちが優先です。場合によっては盾のダメージ報告は後回しです。基本フォーマットは決まっていますが、レベルの高いパイロットはその辺も“好み”で仕様を変えてしまいます。