SIDE-B 2.抜いてくんないかな?
学校を取り仕切る番長たるもの、何時いかなる時も挑戦を受けるのが作法らしいです。
不在時には大暴れされるので、子分が対応し、散々ヤラレタ後で、番長登場というのがお約束。
まあ、番外編なので、子分はどーでもいいかな。
ネタとしては、とても書きやすいですね。なんか、あっという間に書き切ってしまいましたとさ。
「みんな、お待たせ~!」
できるだけキャワイイ声で、校門を塞がれて出られないでいる一般生徒たちにアピール。
わーとかきゃーとか、なかなかの反応ぶりだわ。
で、ああん、と睨んでくるカラフルな髪の毛のお相手女子たち。
ウチのガッコのスカートがひざ上のかわいい短め丈に対して。
引きずって歩くんですか汚れないんですか殿中でござるんですか、なロングロングアウェイのスカートを蹴っ飛ばして、一歩、また一歩、威圧的に前に出る。
んと、なんたっけ、歌舞伎だったっけ?
確か、見栄を切るとかなんとか言ってたような、違うような。
まさかだけど、そうやれば相手がビビるとか、思ってるのかしらね。
それは役者と観客の間だけのお約束なんでしょ?
まさか、この、あたしに、ビビッて欲しいとか思ってるの?
んー、アホだわ。もう、どうしようもない、アホ。
「おう、こないだはウチの子分が世話になったそうじゃねえか。お礼にきてやったぜ」
ああん、汚ったらしい言葉遣い。
清純な女子高生らしくないわ。
これは、厳しく指導しなくちゃね。
無意識に、舌なめずりしてしまう。
「それはどうもご丁寧に。で、誰が相手してくれるの?それとも全員で?」
ちょっと数が足りないけど、ま、前菜程度にはなるかな?
「威勢がいいな姐ちゃん」
後ろから、ゴリラみたいなマッチョを赤いタンクトップで隠した、角刈りの推定20代後半な男が(見た目の事よ?実年齢じゃないわよ)、のっしのっしと歩いてくる。
手には木刀。
腰にはサブ武器の短刀。ただしこの場では、まだ抜いてくんない。
抜いてくんないかな?銃刀法違反の正当防衛で即潰せるんだけど。
「あんたが最初の相手?しょぼいなー」
「あん?」
安い挑発に、ご立腹のご様子。
だって、ホントに大したことないんだもん。
そんなことより、連動して飛び道具の準備とか、背後に回って奇襲とか、人質でも取ろうかとか、そういう“危険な”ことしそうなヤツ、いないかしらん。
やらかした時点で、即潰せるんだけど。
いない、みたい。
律義ねぇ。仁義を守るタイプかぁ。
あーじゃーめんどくさいけど一対一で瞬殺するかぁ。
「まーいっか。んじゃ始めるね」
「なにぃ…」
まだ間合いはある、木刀を構えるほどではない。
とか思ってる男の懐に、一歩で飛び込む。
全然遅い、反応できてない、ホント、ただのアホだ。
左ひじを男のみぞおちに叩き込み、痛みで下がった顎に左裏拳を払うように入れる。
くずおれる頭の後ろを両手でつかんで右ひざを顔面にぶち込んだ。
はい、一丁上がり。
ゲホとかゴホとか、呼吸困難のオマケつきな、悶絶級の痛みを抱えて倒れ伏した男を尻目に。
「次は、誰?」
顔色がすっかり変わっている色鮮やかな鳥たちや怯え切って動けないでいる野獣たちを、涼しげな顔で見渡す。
「だから、一斉にかかってきなさいって言ったのにね。やる気ないなら、そこのゴミを回収して、さっさと出ていって。下校する生徒の邪魔になるでしょ?」
「…」「…」
あーあ、おびえちゃって。まだ人間に戻れてないわ。
「さっさとして。できないならそのままあんたらもゴミに変えるわよ」
一歩踏み出すと。
突然、意識を取り戻したみたいで。
「す、す、スミヤセンデシタァ!」
「は、は、はやくっ!」
女たちは涙目で逃げ出すし、男たちも複数でやられちゃったゴミを乱雑に引きずって立ち去った。
よーしよし。ちゃんと自分の立場をよくわきまえて、正しい言葉遣いができるようになったわね。教育完了っと。
オースゲー、カッコイー、サイコー、みたいな声援にやあやあと手を振って、あたしはガッコに戻っていった。
本編 3.強制停止っ!と比べて頂けると、プロとアマの違いがはっきりしますね。
まるで違う、話にならないようです。
いえ、派手な格好で威圧するのも、立派な戦法だとは思うのですが、相手が悪すぎますねぇ…
蛇足ですが、この世界のこの時代、警察はあまり当てになりません。無いことは無いのですが、自分の身を守りたいならご自分でどうぞ、というスタンスです。アメリカの開拓時代に近いイメージでしょうかね。ですから、民間警備会社は大活躍です。
ですので、一人で「特待生」として学校の警備員ができる郁美は、実は重宝されております。
ちなみに大きな騒ぎ、というか、動乱になってきますと「軍」が来ます。