20.さすが地球産天然もの!
そうか、寿司無限に喰ってるから、無駄に長いのか。
下手したらメインバトルよりも長いんじゃないのか⁇
「ウニ」
「へい」
無愛想で無口でゲジゲジ眉毛で、ついでに顔の形が真四角な大将の握るお寿司は、しかし絶品なのよ。
まさに男は顔じゃないわ、腕なのよと思わせてくれるイイ男。
「オーナー、食べないの?」
「いや、ワシは…」
「なによ遠慮しちゃって。たまにはいいじゃないこういうのも。大将、大トロお願い」
「へい」
大将、握るのが早いし、何たって上手なのよね。
ドライブギアを握るあたしみたいなもんね。
「源さん、食べてる?」
「頂いてるよぉ、郁ちゃん。いやあオーナーが御馳走してくれるなんて、珍しいねぇ。なんかあったのかい?」
ついでだから、オーナーが気絶している間に源さんも呼んじゃった。どうせ支払いはあたしじゃないし。
「まあねえ。大将、大トロも一つ」
「へい」
この大トロ、オイシー!
さすが地球産のネタは違うわ。普通の養殖臭いネタとは段違いの美味しさよね。
「で、TILTがオーナーんとこに直接出場ってくるって事は、パパの事は嗅ぎつけられたって事なのかしら?
…大将、イクラ」
「へい」
これ見よがしに、“時価”ばかり注文してやりながら、オーナーの顔をギロリと睨んでやる。
この朝日寿司のいい所は、ここの大将は秘密をばらしたりはしないという事なのよね。
予約入れておけば、ちゃんと「準備中」の看板だして、他のお客さん入れないし。
「郁美君、大事な話なんだから、食べながらというのは…」
「大丈夫よ、ちゃんと聞いてあげるから。まさかこのあたしに向かって失礼だからどうこととか言うつもりじゃないでしょうね。
…大将、このイクラ美味しいわね」
「どうも」
真っ赤な宝石が口の中でトロトロに溶けだして、うーん美味美味!
「次はカニミソ、握って頂戴」
「へい」
お茶啜って、一息いれてから。
首を揺すって、話の先を促してあげる。
オーナー、あたしの食べっぷりを諦めたように見ながら、蚊の泣くような声で話し始めた。
「元々、人工知能と人間の脳の融合という研究は、どこのチームもやってきたことだし、サイコフレームはすでに実用化されているんだ。まして、操縦しているのが郁美君ならば、我々の研究は隠し通せると思っていたんだ」
「そうよね。じゃあ、なんで目をつけられるのよ。
…大将、ウニね」
「へい」
「君は、あまりに勝ちすぎたんだよ。“なにかやってる”と思わせる位に」
「そりゃそうよ。あたし、負けるためにAKに搭乗ってるわけじゃないもの。
…大将、大トロ」
「へい」
あらヤダ、オーナーったらこめかみがヒクヒクいってるわ。
「ま、確かに“あたし”が乗り込んでるってだけで、規定違反というのは確かよね。公式戦100勝以上の凄腕ドーラーは普通の試合に参加できないのが建前なんだから。
…あ、大将、ツブガイなんて握ってくれるの?それ一つ」
「へい」
「でもさ、それってTILTでもやってることじゃない?目のつけ方が、間違ってるわよ。
…カニミソ、貰おうかな」
「へい」
「だから、あまりに圧倒的なんだよ君の勝ち方は」
「なに言ってんのよ。あたしがTILTの“現役”だった頃のこと、忘れたわけじゃないでしょう?
…大将、ホタテ」
「へい」
お茶を啜って、一息入れる。
「誰に何を言われようとも、あたしはあたしの戦い方を変えるつもりはないし、わざと負けてあげる気も全然ないのよ。オーナーがTILTとどんな“密約”をかわしていようとも、ね?
…大将、シャコと牡蠣ね」
「へい」
「お、おい郁ちゃん…」
さすがに源さんが止めに入ってくれたけど。
オーナーは図星を刺されたらしく、黙ったまま。
でもダメよ。あのギルティ・ランスが自分で乗り込んでくるんだもん。なにもナイと思う方がオカシイじゃない?
ただ、彼があたしの前に姿を見せたのは、なかば計算づくよね。話せば判ってくれるんじゃないかという期待なんか、最初から思ってるはずなんかない。
判ってるわよね。どんな説得されたって、判らないものは判らないってこと位。
言ってみれば、このあたしに、数学の問題解いてみろって言ってるようなもんよ。
「郁美君、わしは、君の事を心配してだな…」
「無用よ。あたしがなんでわざわざオーナーの所に雇われに来たのかすら、忘れたの?
…大将、カズノコ頂戴」
「へい」
オーナー、堪えていたため息を吐き出すようにして、あたしを見つめる。
「いや、覚えている、覚えているがしかし、相手はあのTILTなんだ。彼らに狙われて助かった者などいない。だが、今ならまだ間に合う。今ならまだ、降りることができるんだ」
「で、TILTにパパを殺させるの?
…大将、イクラもひとつ」
「へい」
「オーナー、あたしがこのチームに入った時の契約は今も有効なのよ。借金を返し終った時点で、グランザールはパパも含めてあたしに所有権が移るという契約は。
…大将、カズノコおかわり頂戴」
「へい」
全く、ホントに情けないわね、この男。
「い、郁美君、もうそれ位に…」
あらまあオーナー、半分泣きそうな顔になってるわ。
いい気味。むしろこの程度で済んで良かったと思って欲しい位よ。
「恨むんなら、“パパ”をドーラーにした自分を恨みなさいよ。あたしは充分後悔したわ。
…大将、ウニを二貫ね」
「へい」
オーナーが、目元を潤ませてあたしを見つめている。
あたしには、オーナーの考えてることなんて、よく判らないわ。
コイツ、後いくら食べるつもりなんだろう、という方向なのかしら。
それとも、あたしがグランザールを降りるつもりがない事を心配しているのかなんて。
どっちかしらね?
でも、あたしにとってはどっちでもいいのよ。
そんな一方的な“強制停止”を受け入れる程、あたしはヤワじゃないのよ。
あたしは、ただ勝ち続けるだけ。絶対無敵を貫いていくしかないんだから。
とは言え。
ああんもう、オーナー、そんな目であたしを見つめないでよ、食べにくいじゃないの。
ま、仕方ないわね、この位で勘弁してあげるわ。
と思ったけど、このお寿司、あまりにも美味しすぎるわ。
「大将、エビと、ヒラメと、それから赤貝ね」
「へい」
ゴメンねオーナー、後、五十貫程食べたら、許してあげるねっ!
(おしまいっ!)
いいなあ寿司食べ放題、しかも廻らない上に高級なネタばっかりってヤツ。
描く分にはいくらでも書けるというのが小説のいい所ですが、文字通り「絵に描いた餅」ですからねぇ。