17.TILT
郁美の過去と、ついでに作品の世界観を主要登場人物に語らせるという、ベタな展開です。
ベタ展開、割と好きです。そのまま文章の流れに乗ったり、急に方向展開したりと、やりよう書きようの選択肢が増えますからね。
TILT。
大会規定にはおおっぴらに抵触してはいないものの、試合のバランスを崩すような不法なイギュレーションを施して戦いに望むようなチームに対して下される、大会本部が雇っている、“刺客専門”のチーム。
“出場停止”にするだけの証拠の無いような巧妙な改造機体を、実力で“誘爆”させて排除しようっていうわけだから、強いのは当たり前なんだけど。
なによりも、TILTはあくまでも、大会本部直属じゃなくってただの一チームとしての扱いで、資金面ではごく普通のチームなのよ。そうじゃないと、高額機体は参戦できないとかなんとか理由をつけられて“仕事”にならないから。
でも。
本来は特定の公式戦に参戦できないはずの“メガドーラー”、つまり公式戦100勝以上した百戦錬磨のドーラーが乗り組んでいるっていうのが“種明かし”で、超絶級の腕前はそのままなのに、今までの公式の戦歴は白紙扱いなのよね。
そういう事情だから、メカニックチームレベルも当たり前だけど最強に近いし。
だから、ま、チーム名“TILT”の意味が、文字通りの“強制停止”だって事は、ちょっと経歴を積んだドーラーなら誰もが知っている公然の秘密というヤツよね。
ただ、当然ながらドーラーのプライベートデータは機密厳守で、名前も“通り名”が当たり前。
なのになんで、堂々とあたしの前に出てこれるわけ?
あたしが所属していた頃は、直接出向いてくるなんてこんな回りくどい事はしてなかったわよ?
「単刀直入に申し上げます。我々はあなたの愛機“グランザール”に搭載されている人工知能が違法改造であるという認識を抱いています。こちらのオーナーは否定されていますが」
「で、自分たちで調査した結果、“クロ”と思ったわけね」
「はい。しかし、その調査の中で、あなたがドーラーだったことも判明したのです、アズラエル」
「その名前では呼ばないでって、警告したはずよ」
あたしの視線を、ヤツは真っ向から受け止めている。
ふーん、あの時よりも、少しは腕を上げたのかしら?
後ろのオーナーなんか、もう震え上がって身動きも出来ないでいるっていうのに。
「どうか抑えて下さい。あれは“本部”の判断ミスでした。不幸な事故だったのです」
「コンピューターはミスなんかしないんじゃなかったの?」
膝上までのスカートを揺らさないように気をつけながら、そろりと、半歩、左足を進める。
あと半歩、前に出れれば、もう外しはしないわ。
「いえ、“裁定”自体は正しいものです。ただ、人選を過ったという事ですが、それは本来、果たさなければならない任務であり、あなたの人間的な弱さまではデータに入っていなかっただけの事です」
「弱い?」
もう、半歩。
入った。
あたしの間合いに。
「ええ」
「ふうん、随分と偉そうな事が言えるようになったじゃない?」
「お願いですアズラエル、道理を聞き分けて下さい。あの“事故”を教訓として、本部はドーラー達の人間関係にも配慮した調査や実行命令を下すようにプログラムが改善されたのですから。あなたの一件も、無駄では無かったんですよ」
優しげな青い瞳。
あくまでも冷静な物腰。
でも、結局コイツも、判っていないのね。
「あたしが直接操縦しているから、人工知能は違法改造でもなんでもないという結論にはならないものなの?」
「ハハ、いくらなんでも、手動であのアクションは無理でしょう。そもそも2000crを割り込むような機体で40戦以上も勝ち進むなんて、違法改造が施されていない限りは不可能ですし」
「不可能かどうかは、やってみないと判らないでしょ?」
「判りますよ」
そうね。直接、単身で乗り込んでくる位なんだし。
「ふうん。“試して”みても、いいかしら?」
「どうぞ」
一触即発、Sweet Bomb寸前。
それも、プライドの塊だったギルティ・ランスが、大きな挫折を経験して、這い上がって、郁美というトラウマに立ち向かう構図も大好きです。
なんたって燃えますからね。
いやぁ、こういうの、大好物です。書きたいものを書いてるなぁって感じです。