15.微分と積分なんかこの世から消えてなくなればいいのに
新章開始。一応じゃなく、学園ものでもあるので、その辺りから、ボチボチです。
微妙に、当時の世の中の雰囲気が出てるような気がしますが、そういうもんだと思って下されば幸いです。
作者、チョイ役で登場です。本編の流れの邪魔はシマセン。
作者は自分の事を”二流作家”と自称しております。
電子黒板に刻まれた、あたしには理解出来ない数列。
ハハ、答えを出せってーの?
だめ、ダメだってば。
45人もいるのよ、この教室の中に。
白川センセ、どーしてあたしを見つめるの?
数学教師なら、もっと確率ってものを実践しなきゃダメじゃん。
それとも、そんなにあたしって魅力的?
アハ、ダメよ。
だめだって。
あたし、こんなのワカンナイ。
微分積分なんて、ドーデモいいじゃない。
こんな青春真っ盛りのうら若き乙女に、無駄なオベンキョーする時間なんてないんだって、それ位判って欲しいわけでー
「近野、前に来て、この問題、解いてみろ」
あっちゃー
教科書立てとけば、目と目を合わさなくって済むと思ったのに。
「おまえな、今どきそんなギャグみたいなマネ、二流作家でも思いつかないぞ?」
ガーン、ショックぅ。
あたしは、二流変態作家以下かい。
「誰もそこまでは言ってない。いいからさっさとこの問題解けって」
「わっかりませーんっ!」
ああもう、前に行くのも面倒だしぃ。
無駄と判ってる事に、無駄な努力するほどバカじゃないんだ、あ・た・し。
「お、おまえなぁ…」
「センセー、あたしはあなたの奥さんでも友達でもないんです。“お・ま・え”は、無いんじゃないんですかー」
教室から湧き出る笑い声。サンキュー、愛してるよんクラスメートちゃわん。
「おいこら、フザケルのもいい加減にしろよ近野」
「フザケテなんかいません。問題の答えを判ってるのはセンセーで、あたしじゃない。よって、問題を解くのはセンセーの役割で、あたしじゃない。こんなナンセンスなジョーシキもわかんないのに、よくセンセーなんてやってますね」
「近野、オマエなあ…」
おおっと、センセーかなりお怒りのご様子。
「後で職員室に来いっ!樫崎、お前解いてみろ」
アハッ、みーよゴメンネっ。今度はちゃんと買い物付き合うからさっ!
あたし、こういう数式みるとジンマシン出ちゃってさぁ。
アレルギー食品食べちゃダメだってお医者様から止められてる人っているじゃん?
それって、至極もっともな当たり前の事でしょ?
だ・か・ら。
数学アレルギーのあたしに、無理にこんなん解けっていう白川センセの方が、どうかしちゃってるのよん。
~ ・ ~
「センセ、元気?」
「近野、お前、ホント、悩みなんかナンニモなさそうだなあ…」
白川センセ、苦笑いしながら、あたしにもお茶だしてくれる。
といっても、センセ専用のポット、いつも机に常駐してるから、手ー伸ばせばすぐ届くんだけど。
そこいらのイス引っ張ってきて、「ドッシン」なんて効果音を自分で言って座り込み決めちゃう。
「センセは、悩み多き中年って所ですかぁ?あ、白髪」
「うわバカ、ヨセって」
前髪を無理くり引っ張ってやろうとしたら、センセ、大慌てであたしを押し退ける。
「うわっ、あたしに触ったっ!セクハラだぁ!ああ、教師と教え子が、禁断の愛だわ…」
なんて、大げさに騒いで見せても、職員室の他のセンセ、見向きもしてくれない。
ちょっとプライド、傷ついちゃうけど、まあ、しゃーないか。
こう見えてもあたし、先生たちにもクラスメートにも、結構人気あるんだ。
自分の体型は、もうしょーがないと割り切ってるから、その辺のあっけらかんさがウケテるのかしらん。
「ハハ、まったくお前には叶わないな」
白川センセ、笑いながらお茶を美味しそうに飲み干した。
と、急に顔がマジになる。
あらま。
「いまさら、あたしにオセッキョーですかぁ?」
言うまでもないけど、あたしの“学校の成績”は、最悪そのもの。
ま、あたし自身、元々オベンキョーなんてする気も起きないから、いいんだけどさ。
「お前に説教する位なら、猫とお喋りしてた方がマシだ」
「あぁあ、猫好きの人にきーらわーれるんだー」
とか茶菓子てみたけど、センセの真剣な顔は変わらない。
ありゃ、ベンキョーの事じゃないみたい。
うぅん、最近のあたし、なんかしたかなぁ。
去年は入学したてって事もあったんで、先輩たちとかに“目を付けられて”しまった事もあるし。
同級生にいちゃもんつけてきた他校の生徒に“お説教”した事も何度か、ある。
あ、もしかして、この前、牛丼屋でゴハンしか注文しなかったから、後になってクレームがきたとか?
マズイなぁ。そういえばあたし、あの時、制服姿のままだったし。
こうなったら、トコトンしらばっくれるしかないわね。
「…オマエさぁ、理事長と、なんかあった?」
あたしの顔をみたくないのか、メガネを外してハンカチで拭き拭きしながら、センセ、予想外の事を言い出し始める。
おっと、そっちの方でしたか。
全くオーナーったら、あたしに直接言わないで、担任のセンセを使ってくるとは。
ま、確かに「なにかあった」わよ。パイロット契約無視して、必要なバトルルールを事前に知らせなかったんだから。
それに、優秀なメカニックチーフの源さんに知らせないで、勝手に試合を組んでいるというのも変よ。
そもそも、相手パイロットも、妙にあたしに遠慮がちだったし。
ま、勝ったからいいようなものの、まかり間違えばあたしとパパはスタジアムの塵と化していたんだから。
あの狸ヅラのど真ん中に、文句の一つも叩きつけてやりたい所よね。
「そんなコワイ顔して俺を睨むなよ。俺は、担任として理事長から、お前の様子を聞かれているだけなんだから」
…でしょうね。
いくらマッチメーカーがコロニー最大の娯楽だとはいえ、ドーラーが大手を振って世間を歩けるわけじゃない。
“競技”とはいえ、命のやりとりを日常茶飯事でやってるんだから、ウラミツラミを買うのも当然。無用なトラブルを避けるためにも、ドーラーのプライバシーは厳守されてるんだし。
だから、あたしがドーラーって事を知っているのは、この学校の理事長であるオーナーと、チーフメカニックである、普段は学校用務員の源さんだけなのよ。
っていうか、もしあたしが負けたりとかして借金が返せなくなると、この学校自体も抵当にとられてしまうんだとか。
言いようによっては、センセ方の勤め先とお給料の行方もあたしが握っている事になるのよね。
だからオーナー、じゃなかった、理事長があたしのご機嫌を伺うのも、ま、わからないでもないわね。
んでも、だったらなんで裏でコソコソしなきゃならないのよ。
気に入らない。絶対に気に入らないわ。
「理事長はどうしてんのよ」
「なんだおい、直談判なんかヤメテくれよ。俺の立場ってものがあるだろうが」
ああハイハイ。知った事じゃないわね。
「大丈夫よ、あたしの性格は理事長もよーく判ってるから。センセのせいにはならないわ。アイツ、いるのね?」
「お、おい…」
すぐに立ち上がったあたしに、すがるような視線をむけるセンセ。
ったく、なんて顔してるのよ。あたしが何するって思ってるのよ。
まあ、センセもあたしの性格は、よく判ってるみたいだけどさ。
ちょこちょこと、学園の雰囲気とか、郁美の普段の生活ぶりとか、描けてたらいいな、みたいなことを当時は考えて書いていたのでしょうね。
本編の中で郁美がやらかしたエピソードは、番外編として投稿予定です。
作者は、自分は二流と自覚はしていますが、変態だとはさすがに思っていません。
しかし、まあ、物書きって、ある意味“変態”みたいなものじゃアリマセンか?