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Sweet Bomb  作者: 白河夜舟
2.流星乱舞っ!
14/75

14.なんで?

 なんかもう、やりたい放題だなぁ。郁美も、作者も。

「くみぃ、いくみぃ!」

 メインモニター一杯に広がる、さえない中年のおっさんの顔。

「ギャッ!」

 貞操の危機を感じて、思わず大声を出しちゃった。

「な、なんだよ、そんなに驚かなくてもいいだろう」

「その画面一杯のドアップやめて。さっさとCPUモニターに引っ込んで、外をみせてよ」

「ハイハイ…」

 パパの顔の代わりに映し出されたのは、一杯に広がる乳白色の宙空の色。

 コロシアム全体を被う、高密度粒子バリアーの色だ。

 てことは、あたしのグランザール様、仰向けでおねんねってわけね。

 ドライブギアを引いたけど、手応えが異常に重い。

 パーツダメージチェックモニターに目をやると、頭部以外は真っ赤に染まってい

た。

 左腕完全破壊、右腕損傷率93パーセント、右脚部損傷率53パーセントっての

は、最後の蹴りは一応は当たったのね?

 胴体の損傷率75パーセントって、もう少しでエネルギー炉貫通じゃないのさ。

「アハハ、また見事にやられたもんね」

 命があっただけでも、めっけもんか。

「…勝ったよ」

 なんとなく寂しそうな、パパの声。

「…あたし、たち、が?」

 だって、機体が動けないって事は、ノックアウト負けってことじゃないの?

「今回の試合(ドーリング)は、向こうの希望(リクエスト)をオーナーが呑んでのデスマッチ制だったからね」

「…聞いてないわよ?」

「言えば、いくみぃ、なにかとうるさく言い出すだろうからって」

 …オーナーってば、何考えてんのよ。

 機体のパーツのどこかを先に破壊すれば試合終了のイニングマッチと違って。

 デスマッチは、相手の頭部か胴体を破壊しない限りは終らない。

 手足の全てを失って、攻撃も防御も移動も出来ないダルマさん状態になっても、試合は続けられるってわけ。

 それなら、それなりの闘い方をするでしょうが。

 あ、そっか。

 今日は(げん)さんの顔、見てないのよね。

 普段なら、あれこれおしゃべりしている時に、色々と教えてくれるんだけど。

 武装チェックは、大会本部の係員が来てたくらいだし。

「だから相手のパイロット、優勢だったのに、いくみぃに脱出の機会をくれていただろう?」

 …なーる。

 あたしの頭部に攻撃を当てるのは至難の技だし。

 胴体を完全破壊するためには、あたしの存在が邪魔ってわけか。

 だったら遠慮しないで、あたしごと殺っちゃえば、と思うのは“あたし”よね。

 彼は“あたし”じゃない。

 でも“あたし”ならそうするのに、そうしなかった。

 だから、なんか、ある。

「パパ、ハッチ開けて」

「え?」

「早く!」

「ど、どうしたんだい?」

「だって、相手パイロット、“いい男(イケメン)”なんだもんっ!」

「い、いくみぃ!」

 ああンもうじれったいっ!

 ぐずぐずしてると、逃げられちゃうじゃないのさ。

 強制脱出レバーを引いて、自分でさっさとハッチを開けちゃう。

 コロニアムの焼けた匂いが吹き込んでくるのも構わずに、あたしは機体の外に飛び出した。

 体のあちこちから煙を吹き出し、スパークを散らしているグランザール様に、瞬間の謝辞(ありがとう)を告げてから。

 頭部だけが失われている、直立不動の相手の白い機体に向かって駆け出した。


               ~ ・ ~


「どしたのよ(いく)ちゃん。今日は朝から機嫌悪いね」

「…別にぃ。ちょっと“いい(イケメン)”捕まえそこなっただけよ」

「アハハ、なにそれ」

 無邪気に笑うみーよ。

 あたしはさぞかしブスっとした顔をしている事なんだろう。

 相手パイロットはさっさと機体(マシン)降りちゃってるし。

 パイロット名は本名じゃないし、プライバシーは大会規定で守られてるから、本人が希望しない限りは突き止めようがない。

 あたしが少し前の試合で引きずり出した既婚子持ち(恋愛対象外)ハンサム(残念)さんみたく、直接、本人同士が出会わない限りは難しいのよ。

 んもう、パパがぐずぐずしてるから、逃がしちゃったじゃないのさ。

 それに(げん)さんは(げん)さんで、あたしの試合の話は事前に知らされてなくて、関係者(メカニック)に渡される公式記録MD(ディスク)にチェック入れてる時に、初めて気がついたって始末だし。

 こりゃ、オーナーに直訴(カチコミ)もんだわね、と思ってみーよに聞いてみたら。

「パパ、じゃなかった、理事長(りじちょう)なら、教育懇談会(偉い人同士の会議)出席(出張)するから。来週まで家にも学校にも帰ってこないわよ?」

 だって。

(いく)ちゃん、またなにかやらかしたの?ヨソの生徒とケンカ?」

 あのねえ、あたしをどういう風に見とるんじゃい。

 ケンカを売るのは、ニキビだらけのガキどもなんかじゃない。

 みーよのおとうちゃまの方なんだけど。

 ま、こうやってダチ付き合いしている間は、学校の中で「人質」とってるようなもんだし。そのうち向こうから頭を下げに来るしかないはずよ。

 オーナーにしたって、あたしの「パパ」を人質にしているつもりでしょうけど、自分の娘と対等に交換できるとまでは思ってないでしょうし。

 とにかく、なんか、ある。

 絶対に、なんか、あるわよね。


 ま、なにがあろうと、あたしはこれからも勝ち続けていくしかないんだけどさっ!



                           (おしまいっ!)


 頭部が失われた、直立不動の白い機体。

 理解る人には分かる、アレですね。

 腕の方は、グランザールが代わりに破壊されております。

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