13.じゃあ、一人で勝手に死になさいよっ!
ちょっと長いので分けようかとも思いましたが、まあ、いっか。
いやぁ、自分で言うのもなんですが、書いてて楽しいっ、が詰まってますね…
あたしとした事が、一瞬、躊躇してしまった。
その隙に、相手の機体は、文字通り手の届かない距離に離れてしまう。
元々、レーザーサーベルはそれなりに間合いの広い武器だから、命中率を上げるためにフラッシャーを撃つ以外は、あたしに付き合って超接近戦を挑む必要はない。
それは、別にいいんだけど。
いくらあたしでも、攻撃するたびに自分の手足も一緒に痛めちゃう「素手」で闘うのは、かなり厳しい。ヘタすると自分の攻撃で自爆しかねないのよ。
特に、グランザール様はライト級のなかでも最軽量のEzタイプだから、威力もあんまり期待できない。
「最悪、よね」
せめて、相手の持ってるようなアームブレイドでもあれば、こんな心配はしなくてもいいんだけど。
ま、いまさらそんな事言っても遅いか。無理なものは無理なんだし。
「向こうも、こっちの故障は判ってるみたいだし」
シュッ、とレーザーサーベルをしごいて、あたしの手の届かない距離で挑発しているわ。
「むこうのエネルギーパックの残量、判る?」
「えっと、あと16Pwって所、かな」
「そ」
そんなにあるの…
なんて、パパには言わない。
言うのは、あたしたちが勝ち残る方法、だけ。
「(パパ、MD-D3に…)」
「(判った、急いでやるよ)」
相手の足が、軽くステップを踏んだ。
来る。
あたしは両腕で頭部と胴体をガードしつつ、後ろ足に下がる。
体を揺らして、直撃を貰わないようにしながら。
でも、そんな事はお構いなしに緑色の流星が、連打で迫ってくる。
まさに、あたしがゲームのグランザール様で相手に与えるプレッシャー“流星乱舞”そのものだわ。
「いくみぃ、右腕に15Ptのダメージ!残り装甲15!エンジン出力80パーセントに減少、攻撃力20パーセント防御力20パーセント減少!」
「ああうっさいっ!少し黙ってて!」
んなもん、機体の衝撃具合でわかるわよ。
それより、このパイロット、かなりの熟練者よ。
というより、かなりの死線をかいくぐってきたメガドーラーじゃん。
所々に飛び込む隙を作ってくれてるけど。
あたしがパンチやキックを入れた直後に、レーザーサーベルでなで斬りするつもりだわ。機体のバランス自体は全然崩していないもの。
だから、あたしとしては、じり貧なのは判っていても、ガードを固めたまま、なんとか隙を待つしかない。
まさかゲームじゃない、実戦で「あたしのグランザール様」と闘う事になるとは思ってもみなかったわ。
こりゃ、あたしの相手してくれた人たち、たまんなかっただろうなぁ。
とか思いながら、機体を思い切って沈めて、右手一本でバランスを取りながら低い水車蹴りを放ってみる。
あら、そんなにあっさりかわさなくてもいいじゃない!
舞踊でも舞うかのように旋回しながら蹴りの届かない範囲に下がってくれちゃう。
と、そのままの勢いを生かして、ステップをきって一直線に突っ込んでくる!
上手い、その動き今度使わせて貰おっ、なんて余裕こいてる場合じゃないッ!
「くっ!」
右手を払って、機体ごと転がって逃げる。
でも、間に合わない、か。
バシっという音と共にコクピットが大きく揺れた。
モニターが、一瞬ブラックアウトした暗闇の中を、いくつかの火花が弾け跳んだ。
今度は背中にダメージ。エネルギー炉に近い。かなり深刻。
でも、モニターはすぐに快復してくれた。さっすが源さん。
「いくみぃ、これ以上機体が酷くならないうちに、脱出してくれよ…」
ダメージがうったらこったら小うるさい事言ってくるかと思ったら。
「あん?なに言ってるのよパパ」
寝言は試合が終ってからにして。
「だって、誘爆したら、パパ、お前の事を守りきれないし…」
そりゃそうよ。そんなこと誰も当てになんかしてないわよ。
あたしだって命はオシイ。
でもね、そのつもりなら高いドラゴンクローなんか買わないで脱出装置におカネ掛けてんのよ。
違うの。
あたしにとって、一番の「脱出装置」は自分が勝つことなのよ。
第一、パパはどうすんのよ。逃げるもなにもないでしょうに。
「パパは、もう充分だから…」
カッチーン!
このクソ親父がっ!
「じゃあ、一人で勝手に死になさいよっ!」
吐き捨てて、あたしは懸命に機体を引き起こす。
そんなあたしを、向こうは余裕ありげに待っててくれている。
あーら、随分と紳士的じゃないの。
そっちがそのつもりなら。
わかったわよ。あたしも腹をくくってあげるわ。
「いくみぃ…」
「ああうっさいっ!やる気ないんなら黙っててよっ!」
「ゴメン、ゴメンよぉ…」
そこで泣かないでよパパ。あんた男でしょうが。
「(泣いてる暇あったら、ミッションディスク取り替えて。どうせもうMD-D3は間に合わないんでしょうし)」
「(ス、スマン…)」
まあ、しょうがないわよ。こんな接近戦で、あちこちにダメージ貰いながら難易度の高いディスクにチェンジなんて、パパにはそこまで期待してないから。
「(ヘッドキラーにして。レベル2ディスクだから、そんなに難しくないでしょう?)」
「(わ、判った。30秒待ってくれ)」
30秒…
眩暈が起きそうになるのを、なんとか我慢する。
あたしが逆の立場なら、その間に3回は誘爆させてあげてるわ。
でも。
相手パイロット、技量はあたし並みでも、「あたし」じゃない。
だから、負けるわけにはいかない。
向こうがまだ仕掛けてこないのは、あたしをあくまでも誘っているのか。
それとも…
「オニイサンどういうつもり?真剣勝負に、そんな余裕は似合わないわよ?」
マイクをオールレンジに切り換えて、相手に呼びかけてみる。
「お願いです。もう決着はついている。このまま、降伏して下さい」
最初の宣誓の時と同じ、気弱そうな声。
腕前と性格は、別物、か。
「ダメよ。それはルール違反だって、判ってるでしょう?」
「いえ、あなたが脱出した後で、機体を爆破させますから。その機体、脱出装置はついていないんでしょう?」
あらま、優しいのね。そのゲロアマな性格に惚れ(吐い)ちゃいそうだわ。
これは、上手く時間稼ぎが出来そうね。パパ、頼むわよ。
「…いいの?」
せいぜい、可愛らしい声でそう言ってあげる。
いいのよ、どうせこっちの顔は見えないんだから、清純なジョシコーセー風でも。
「かまいません。スーパー良心回路の決定ですから」
あ、なるほど、ね。これ以上は“手加減できない”ってわけ、か。
「うーん、どっしよっかなー。
…そうだ、あなたが“負けてくれる”っていうのは?」
もう一押し、キャワイイ声音で迫ってみたけど。
「…これが最後通牒です。今すぐ、機体を降りて下さい」
「怒ったの?」
でしょうけど。
「3、2、1…」
あら、せっかちさんねぇ。
「(いくみぃ、出来たよぉ)」
「(ありがと。じゃ、後は乱数の女神様にでも祈ってて)」
「0!」
あたしたちは、試合開始と同じように、同時に相手に向かって飛び出していった。
ただ、今度こそ、向こうは様子なんか見ない。
あたしの手足の届かない距離から遠慮のかけらもない突きを繰り出してくる。
でも、そんな単純な攻撃が、あたしに当たるはずもない。
今にももげそうな左手で払って、懐に飛び込む。
それは、お互い承知の上。
向こうも、一撃は貰っても確実にあたしを仕留めるつもりなんだし。
だから、ラストチャンス。
ゲームであたしが操るグランザール様の必殺コンボを破れるのは、やっぱり「あたし」しかいないから。
機体を前方向にジャンプさせ、空中で前転させる。
浴びせ蹴りの要領で、でも相手の頭部辺りで両足を左右に交差させながら、からめ捕るように蹴りとばす!
モニターからは完全に見えない所での技だから、もうパパのディスク「ヘッドキラー」に頼るしかない。
お願い、当たって!
と、あたしのモニターの前を、緑色の閃光が疾走っていく。
「“聖龍天翔”…っ」
ダメ、か。
あたしの得意技、剣を下から巻き上げるようにして自分も相手も宙に飛ばす大技。
まさにその剣技だ。
「ごめんね…」
誰に、ともいえないセリフを呟いて。
バンっ!
全てのモニターが一瞬で死んで、そのまま、あたしも目を閉じた。
どんなに凄腕でも、故障だけはどうにもなりません。
だからこそ、脱出装置や予備の武装を準備するのですが、基本的に郁美は人の助言を聞かないタイプですので、どうしようもないですね。