12.なんで勝手に撃つかなぁ
インファイター同士のバトルは、書きやすいです。
観客が盛り上がるのは、離れた処からチマチマ撃ち合うよりも、顔と顔を向き合わせての殴り合いですよね。
あたしたちは、同時に接近する。
お互いに接近戦仕様というのは、めんどくさくなくてアリガタイわ。
向こうも、オールレンジで使えるはずのマザーファンネルは、相手が距離をおいた場合の反撃用としか思っていないみたい。
いきなり離れて飛び道具として撃ってくるかと思っていたけど、なかなか覚悟があって宜しくてよ。
こういう勇敢な相手に、ゲームのグランザール様みたく一方的に攻めたてるわけにはいかない。
それはお互いさまで、瞬秒なんだけど、相手の出方を伺う。
それに合わせて対応出来た方が、なんといっても有利だし。
機体重量は、あたしの方が軽いけど、エンジンの性能が違いすぎるから、向こうの反応速度が上のはず。
だから、レーザーサーベルで斬ってくるかと思ってるんだけど。
で、こっちは的をぶつけてから、ドラゴンクローで先制かけるつもりだったんだけど。
読み間違えたわ。相手、フラッシャー使ってきちゃった。
「いくみぃ!」
画面が真っ白に輝いて、あたしの目をものの見事に焼いてくれちゃう。
すぐに緩行フィルターが作動してくれるけど、しばらくはなにも見えない。
モロに先制食っちゃったわ。こればっかりは「的」じゃ防ぎきれない。
それどころか、グランザール様のオートショックセンサーが働いちゃって、勝手に的を破裂させちゃうし。
「こっちも!」
見当をつけて、というわけじゃないけど、あたしが向こうのパイロットなら、さらに死角に回り込もうとする筈。
それも、右肩のトリニティビットを避けて左側へ。
だから、機体を左回転させながら、フラッシャーのスイッチを入れる。
「手応えはッ?!」
「あるよっ!」
良かった、なんとか当たってくれたわ。
これで状況はイーブン。
後は、源さんのメカニックレベルの力で快復を計るのと、あたしのパイロットとしての腕前次第というわけよね。
「いく…」
「判ってるっ!」
左半身にザワザワと走る緊張。
今のあたしは、グランザール様と一体であり、機体が感じる事はあたしも感じる事よ。
パパが好判断で操縦系をこっちに回してくれて良かった。
左手を振り回して、さっさと的を放出する。
間髪入れず、最後の的が破裂する音が響いた。
「危なかった、もう少しで左手持っていかれる所だったわ」
強い。
このパイロット、あたしと同じように目の見えない条件で、正確にこっちを狙って斬ってくる。
「このヤロオッ!」
「あっ、パパだめぇ!」
操縦系をあたしが持っているという事は、攻撃系はパパの担当。
だからって、いくら自動反撃がコンピューターの担当だからって、勝手にドラゴンクロー撃たないでよ!
なんて止めるまもなく、ガス発射式特有の軽い衝撃があたしを包んだ。
「で、当たった?」
過ぎた事は後悔しない。
後は結果のみ。
「いくみぃ、ごめぇん…」
「うっそ外したのー!」
こっちもフラッシャー浴びてる以上は、いくら普段は命中率90パーセントを誇るドラゴンクローといえども、かわされる事はあるわよね。
「しゃあない、クローのワイヤー切って。くるわよ!」
さすがは源さんの整備だけあって、急速にモニターが快復してきている。
あたしの目も、普段からTVゲームで鍛えているだけあって、もう眩しくないわ。
ああん、これだけ視界が戻ってれば、あたしの腕ならドラゴンクロー外しっこないのに。
なんてぼやいてもしょうがない。
頭部を狙って繰り出される緑色の突きを、最小限度の動作でかわす。
左腕で相手の腕を撥ね上げながら、右肩を向こうの胴体目掛けて突き出す。
あたしの武器は、もうトリニティビットのみ。
ま、折角、接近戦を挑んでくれてる相手だし。こんだけあれば充分よ。
「いっけー!」
右肩から、まるでロケットのように一直線の軌道を描いて繰り出される、細いドリル。
予想通り、的で受け止められてしまったけど。
逆に、かわす余裕がなかったということよね。
「よっし、次は本体直撃よぉ!」
マイクで観客に、リップサービスするゆとりを見せつけてっと。
向こうのレーザーサーベルの出方を伺う。
「いくみぃ」
「なによいま忙しい」
右に刀身を振ったのは、フェイントね。
本命は下からの斬り上げ、か。
「ス、スマン」
「判ってればいいのよ!」
ほーら読み通り。
あっさりかわして、しかもベストポジション。
アハン、腕一本、貰いっ!
カチャ…
攻撃トリガーを引いた指に、反応がない。
「え?」
「スマン、トリニティビット、故障してしまった…」
「…」
トリニティビットは、射程距離が割とあります。アームを伸ばして、相手の奥深いところまでドリルを届かせることができる仕様になっているわけです。
いやでも、接近戦でレーザーサーベル相手に振り回して当たるかぁ?と思いますが、郁美は相手の態勢を崩してから当てに行ってるわけですね。そのために、ギリギリで攻撃をかわして、崩す時間を稼いているわけです。