10.あたしはグランザール様一筋
「小説家になろう」ならではの投稿の仕方や章設定に戸惑っていましたが、イメージ通りにできそうで良かったです。慣れると、とても使いやすいですね。
第2章です。初回から少し長めですが、分割するほどでもないですね。
2000年当時は、格闘型対戦ゲームが流行っていたのです。オープニングエピソードは、その辺がネタになっています。分からない人はサッパリ、だと思います。
でもまさか、この手のゲームがeスポーツとして確立することになるなんて、思ってもいませんでしたね。時代の流れをしみじみと感じます。
「郁ちゃんってば、ホントこういうの上手よねえ」
「相手が弱すぎるんだってばさ」
アクションレバーと大中小の2連装ボタンのみの、旧時代から続くスタンダート筐体の前で、あたしはアップライトピアノで曲を弾くかのようにして、画面に映る「グランザール様」を操っていた。
銀色の長い髪をなびかせ、青銅色の鎧に身を包んだ浅黒の美男子が、真っ黒な大剣を軽々と振るう様は、いつ見ていても胸がキュンとなっちゃう。
なんて、まあ、どこにでもあるファンタジー系格闘もんの対戦ゲームなんだけど。
あたしたちの住むコロニーはもちろん、他のコロニーや地球に住んでる連中なんかとも通信対戦できるのがいい所よね。
大会なんかじゃないエキストラステージなのにギャラリーの数も多いし、あたしのエントリーしている特Aクラスであっても、対戦者には事欠かない。
ただし、申し込んでくるのはやっぱりザコばっかり。
どいつもこいつもホントに特Aなの?っていうキャラの力ばかりに頼るだけのアホしかいないわ。
『挑戦者現る』
決まりきったパターンしかもたないCPUのザコキャラに、華麗な15連コンボを叩きこんで瞬殺して差し上げたあたしの“グランザール様”の実力を見て、なおも挑戦してくるんだから、よっぽどのアホか、よっぽどの腕自慢かということよね。
どっちにしろ、遠慮はいらないし、するつもりもない。
相手のエントリーキャラクターは双頭のリザートマン・ガウイ。
剣も魔法も使えて、パワーもスピードも充分。固い皮膚によって防御力も強いという、このゲームでもかなり人気のキャラクター。
ま、あたしのグランザール様の敵じゃないけどさ。
どこかの城壁の上での一騎討ち、といったステージで、試合開始のコールが鳴り響く。
開始の位置は、ギリギリ剣が届くか届かないかという風に定められている。
だから、対戦相手が最初にとる行動は、いきなり飛び道具を撃ってくるか、剣を当てるために近づいてくるかのどちらかと相場は決まっている。
シロウト、ならば。
特に、あたしのグランザール様は、飛び道具が一切無いから、大抵の相手は遠くから撃っていれば勝てると考えている輩が多い。
ほら撃ってきた。
水平に軽くよける事もできるけど、それじゃ前進は出来ない。
で、口から火焔弾を撃ってくるのを予測して、先に飛び込んでかわしちゃう。
撃った後、相手には少しの硬直時間があるからこそ飛び込めるんだけど、こっちも空中では防御手段はない。
だから、相手の対空技で撃ち落とされないように、微妙な所で下に向けて剣を振るう。
ガードしてくれたら、シメタもの。
というより、それで“おしまい”にしてしまうのが、あたしがこのゲームで無敵を誇る理由かな。
相手のガードの硬直時間が切れる前に着地して。
そのままグランザール様の“瞬剣”が楽に入っちゃう。
まあ、単なる“弱斬り”なんだけど、ボタン連打でそのまま突進しながら突きを連発する“流星乱舞”が入っちゃうのよん。
必殺技だから、ガードの上から相手の体力をガンガン削ってくれる。
でも、必殺技だから、技の終わりに「反撃をどうぞ」という長い硬直時間がある。
はずなんだけど。
当然、相手はこっちの技が終るのを待って大技で返してこようとするんだけど。
あたしは、技の途中でキャンセルを掛けて、硬直時間をずらしちゃうわけよ。
相手が慌てて、ガード以外の“なにか”をしてくれたんで、間髪入れずに飛翔しながら剣を巻き上げる、もう一つの必殺技“聖龍天翔”で根こそぎ体力を奪い取る。
画面一杯に広がる蒼い龍と共に、鮮やかにグランザール様が相手のトカゲ男と共に舞い上がる。
「うわぁ…」
「まだこれからよ」
画面の派手さに見とれている間にも、あたしの両手は忙しく動いている。
空中で鷹が何度も獲物を引き裂くかのように、上中下段の選択ガードを迫りつつ剣を振るい続ける。
相手は都合5回振るわれるグランザール様の“大斬り”を、とにかく受け続けるしかできない。
しかも、二回連続で剣が入っちゃたら“気絶”して、残りの攻撃を一方的に貰って終る。
トカゲ、頑張って3回はなんとか受けきった。
でもダメ。
もうヨレヨレの状態。
着地と同時にグランザール様の弱斬り“瞬剣”を入れて、そのままガードに構わず二回目の“流星乱舞”。
技が終る前にキャンセル。
さっきの“聖龍天翔”に懲りて、こっちの硬直時間にも仕掛けてこない。
それじゃダメなのよ。折角のラストチャンスなのに。
んじゃ、もう一回 “瞬剣”から“流星乱舞”で最後まで体力を削りきって、「降伏」に追い込んで差し上げた。
「楽勝っと」
「ほんとスゴイよねぇ郁ちゃん。ねえ、私にもできるかなあ?」
「うーん、みーよがやるなら、もっと初心者キャラの方がいいと思うよ」
ま、グランザール様を褒められて、悪い気はしないし。
あたしがホントに操縦している「マッチメーカー」みたいに命のやりとりしているわけじゃないから、いいんだけどさ。
このゲームのグランザール様は、実は“上級キャラ”というよりは“最弱キャラ”と言われてるんだ。
なんたって必殺技が二つしかなくて、ただボタン連打で発動する“流星乱舞”は最後まで出しちゃうと無防備な硬直時間が長すぎて反撃確定、長いコンボ技を持っている上手い対戦相手なら即死まで持っていかれちゃうという諸刃の剣だし。
技を途中でキャンセルした後、唯一出せるもう一つの必殺技“聖龍天翔”は、コマンドがムチャクチャ長くて難しい。(アクションレバー上・左下+弱蹴り・右上+弱斬り・左上+中斬り・右下+中蹴り・上+大斬りを、誤動作させないように0.27秒以内に入力)
しかも、外したらもちろんの事、単にガードされただけでも、自分だけがむなしく空中を彷徨い、完全無防備のままサメのウヨウヨ泳いでいるプールに投げ込まれる状態になっちゃうからね。
飛び道具もないし、防御力もそんなに高くない。
攻撃力は隙だらけの大斬りを除いてはイマイチで、リーチだって他のなみいる猛者たちと比べても、取り立てて長いわけじゃない。
プレイヤーの腕が無くともそこそこ闘える他のキャラに比べて、無理に使う理由はどこにもないのよね。
でも、あたしはグランザール様一筋。
どうしてって?
決まってるじゃない、お顔、このお顔の凛々しさ、凛々しさなのよっ!
だってだって、トカゲづらだのマッチョな牛だの狼男だのコウモリ女だのがひしめいているこのゲームの中にあって、この御方だけが、そう、この御方だけが真の戦士様だからよっ!
郁美はイケメンが大好物なんです。使い勝手とか性能よりもそっちを優先させるタイプです。
本作品の世界のもともとのゲーム「マッチメーカー」では「ターン制」が当たり前のように採用されています。攻撃ターンは交互に与えられ、成功判定されます。
実際には、このエピソードの中でのテレビゲームのように、相手が受け間違えると一方的に攻め立てられるのが現実でしょう。
ただ「マッチメーカー」でも「気絶」「拘束」「状態異常」「深いダメージ」などで、反撃ターンは与えられるが、成功判定がとても低い、という形で表現されております。なるべく、リアリティを出そうとしているわけですね。