1.パイロットスーツの下は、何も着てないのヨ
昔、2000年代初期に書いた小説です。なんか、自分の書きたいものが詰まってるな、と、一人でニヤニヤしております。
「よお、郁ちゃん、相変わらずだねぇ」
「何が相変わらずなのよっ!」
メカニックチーフの源さんを睨み付けながら、パイロットスーツをちょっと引っ張ってみたりする。
んな事したって、体型に合わせて補正されるスーツが伸び縮みするわけじゃないけど、まあ、オンナのコの嗜みってヤツよ。
…うっさいわねえ、余計なツッコミは無しなの!
どうせ、あたしは男並みに背ぇ高くてちょっとオデブよ。
パイロットプロフィールだって、“性別不明”なんだから。
いいのよ別に、顔だってメットで隠してるんだし。
「オーナーは?」
「例によって雲隠れじゃないの?ほら、試合に負けたりしたら、即…だし」
「なぁんだ。晩ゴハン奢って貰おうと思ってたのに。だったら、みーよのかいもにでも付き合ってあげんだった」
「全く、大物だねえ。普通のパイロットは、試合の数日前から緊張して眠れなかったりするのに」
「アハ、だから脱出失敗して死んじゃったりするのよ。あたしのパパみたいに…」
「…スマン、無神経だった」
およ、珍しく源さんがあたしに気を使ってくれてる。
て、ことは…
「なーによ、今日の相手、もしかして強いの?」
「い、いや、たいした事はないと思うよ。ただ、郁ちゃん、39連勝中だからね。大会本部も、そろそろ刺客みたいなのを差し向けてきてもオカシクないかな、なんて思ってさ」
「まあね。初期投資額2000crの機体でこんなに勝ち進んでいれば、不審に思わない方がどうかしてるもんね」
「だからさ郁ちゃん、今日こそは少しでも脱出装置にカネを回しておいても…」
「ダメ!」
あたしは、きっぱり言い切った。
「逃げる算段なんかしてたら、勝てる試合も勝てなくなっちゃうわよ。それに、余計な装置におカネ回してたら、いつまでたってもオーナーの借金返せないじゃない」
「いや、でも、命あっての物種というじゃないか」
「大丈夫よ、あたし、絶対無敵だからっ!」
心配性の源さんを捨ておいて、搭乗リフトに飛び乗った。
あたし、近野。近野 郁美。
御年17歳。花も恥じらうジョシコーセー。
でもま、お約束通りの美少女ってわけには、イカナイんだなぁこれが。
身長173センチで、体重は85キロって、どーみても太りすぎじゃない?
スリーサイズ?んなもん聞くなっ!
背は、まあ、努力しても、しゃーないわな。
体重は…これでも、痩せようと頑張った方なのよ?
でもさ、ウチ、パパも母ちゃんもオデブだったもんで。
なんでも、サモア系が色濃く残ってんだとか発現してるんだとか。
だから、この人種特有の、髪、肌、目、鼻、くちびる、眉毛までもが、何もかもが、濃ゆい顔なのよ。
それってつまり、いわゆる血筋、遺伝ってヤツだし。
まあ、それが人生の悲しきサガってもんだし。
ただ、“郁美”って名前だけは、カンベンして欲しかったけどね。
口の悪い男共、あたしの事、陰で“発育郁美”って呼んでるの、知ってるんだゾ。
まあ、確かに、あたしも、そうは思うけどさ。
なにおぅ、その分、胸もお尻もバッチリイケイケな発育ぶりなのよん。
だ・か・ら。
あんたら、口ではドウコウ言ってるけれど、その視線は、このゆっさゆさと揺れる女の象徴を追っかけてるの、判ってないとでも思ってる?
まあ、確かに。
自分で言うのもカナシイけれど、街中を連れ回すにはちょっとツライ女だよね。
た・だ・し。
真っ暗なお部屋の中だったら、ウブな男なんか一発で悩殺しちゃうつもりだから、悲観してなんかいないし。
おっと、こりゃ、ジョシコーセーのいうセリフじゃないね。
乙女は、もっと恥じらいってものを胸に抱いてイキテいくのだ!
とかなんとか言ってる間に、リフトは胴体にあるコクピットシートの前へ。
俗にいう人間型のアーマーナイト、二足歩行型戦闘マシーンってヤツ。
あたしのグランザール様。
全長11.2メートル。ライト級としては、まあ、標準並み。
接近戦においてなら、最強の捕捉命中率を誇るワイドカメラアイを内蔵した、凛々しすぎて失神しちゃいそうなお顔。
真紅の機体色のベースの上に、銀と蒼の鮮やかなコンストラクション。
全体に細身で精悍なフォルムは回避率重視で、装甲は極限まで削ってある。
隅々まで磨き上げられた機体は、源さんが愛情込めて整備してくれてる証よね。
…いつまでも見とれていたいけど、試合前にやる事はまだ沢山あるのよ。
「よっと!」
掛け声一発、コクピットに飛び乗る。
自動的に対Gシートが膨らみ、アームベルトがあたしを優しく抱きしめる。
コクピットドアが閉じると同時に、全方位型モニターが煌き、正面のドライブギアが立ち上がり、左右に広がる各種パネルも光の命を帯び始める。
この瞬間から、あたしはグランザール様の魂そのものになる。
読み返してみて、編集してみて、ああ、当時、小説書くの好きだったんだなぁ、とか思い返しております。