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推定悪役令嬢の自閉スペクトラム症育児〜異世界で児童精神サロン開きます!〜  作者: こん


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53.摂食障害5


 さて。

 ついにルナちゃんが自宅に帰る日がやってきた。


 ルナ=モルガナイト子爵令嬢は、級友に白豚令嬢と呼ばれて摂食障害になってしまった女の子だ。春からうちでお世話を始めて、今は初夏。3ヶ月かかったけど、ようやく安定して食事を摂取できるようになった。

 体重も安定してきて、それに伴い情緒もだいぶ安定して、以前のように癇癪を起こして暴れることもなくなった。表情も柔らかくなった。


 天気は晴天。

 玄関の外には、すでに馬車が待っている。


「メイベル様、長い間お世話になりました」


 ここに来たばかりの頃のルナちゃんからは到底考えられないような、綺麗なカーテシーを披露する。

 それを褒めると、ルナちゃんは嬉しそうにはにかんだ。


「レイラ様に教えていただいたんです」


 兄の家庭内暴力から逃れてうちにやってきたレイラ=ベニトアイト子爵令嬢。

 レイラにはルナちゃんの家庭教師として、勉強の遅れを見てもらうようにお願いしていたけど、勉強だけじゃなくて令嬢としての立ち居振る舞いについても指導してもらっていたらしい。

 そういえば、最初は敬語すら使えてなかったけど、最近は敬語で話をしてくれるようになってたな……


「そう、レイラといい時間を過ごしたのね」


 レイラも本当は今日の見送りを一緒にしたいと言っていたが、普通に学園のある平日なので、登校している。

 レイラは、ずっと妹が欲しかったんです、と嬉しそうにルナちゃんを可愛がっていた。その気持ちはルナちゃんにも伝わっていたのだろう、ルナちゃんもレイラによく懐いていた。


「はい。……ルナ、おうちに帰れるのは嬉しいけど、学園に戻るのは不安で。体重増えたから、また白豚って言われるかもしれないとか、ずっと休んでたからみんなに忘れられちゃってるかもしれないとか、色々考えちゃって……そしたらレイラ様が、不安になったら中等部に遊びにおいでって言ってくださったんです。お昼も一緒に食べてくださるって!」


 レイラと親交を深めたようで何より。

 今まで自分がいたコミュニティとは全く別のところに味方がいるということは、ルナちゃんにとってかなりの安心材料になるだろう。


 退院──自宅に戻るからと言って、何もかも全部解決したわけじゃない。

 むしろ家に帰ってからが、本当のスタートと言ってもいい。


 摂食障害は、頑張り屋さんの子がなりやすいと言われている。

 頑張ってもどうしようもない、ままならない現実──だけど体重は、自分でコントロールできる。そのことに満足感を得て、どんどんのめり込んでいってしまう。

 体重が減って栄養状態が悪くなってくると、脳の脂肪成分が分解されて萎縮していって、どんどん考えが頑なになっていく。


 今回、ルナちゃんの体重は元に戻った。

 だけどそれだけだ。

 ルナちゃんが追い詰められてしまった環境は、まだ何一つとして変わっていない。

 ──彼女の課題は、おそらく集団だ。

 白豚令嬢と言われて、面と向かって抗議することもできず。

 静かに傷付いて、摂食障害まで患って。

 ……おそらくだけど、かなり周囲に気を遣って、顔色を伺って、窮屈に生きてきたのではないだろうか。

 また集団に入ったらどうなるかは心配だけど、かと言ってずっと今の状態を継続するわけにもいかない。


「おうちに帰ったら、リッキーに会いたいって言ってたっけ?」


 ルナちゃんの表情が、不安に揺れる。

 リッキーというのは、ルナちゃんの婚約者だ。


「……でもリッキー、最後に会った時はルナのこと、痩せすぎて気持ち悪いって言ってたんです。もう会ってくれなかったらどうしよう……」

「どうしよっか。ルナちゃんはどうしたい?」

「……わからないです」

「わからないよね、そんな難しいこと、今は考えなくていいよ。実際にその状況になってから考えよう」


 起こってもないことに不安になったって仕方がない。

 もちろん見通しをつけたり、起こるかもしれないことを想定して準備をしていくことも大切だけど、でも考えすぎるのもエネルギーを使う。


「もし困ったり悲しいことがあったりしたら、うちにおいで。一緒にどうしていくか考えていこう」


 ルナちゃんは頷いて、それから私の両手をぎゅっと握った。

 しっかり栄養が行き届いて体温の戻った、暖かい手のひらだった。


「困らなくても、またお邪魔してもいいですか?」

「もちろん。私も、レイラも待ってるからね」


 馬車から降りてきたモルガナイト子爵と子爵夫人ともご挨拶をして、馬車が出発して見えなくなるまで、見送った。

 ひとつ、私の中で達成感が湧き上がる。


 あぁ、とりあえず一区切り。

 これからも彼女の中ではいろんな葛藤が起こるだろうし、また摂食障害をぶり返すかもしれない。だけど、とりあえず命の危機は去った。よかった。私はやりきった!

 スキップしたくなる気持ちを抑えて、淑女として粛々と屋敷に引き返した。




貴重なお時間を使って読んでいただき、ありがとうございました。

感想や☆の評価をいただけると、励みになります!


投稿を始めて、そろそろ1年になります。

最初からの方も、途中からの方も、お付き合いありがとうございます。

もしこの疾患について取り扱って欲しい的なものがあれば、感想でコメントいただければ検討いたします^ ^

マイペースな更新にはなりますが、まだまだ投稿したいものはありますので、これからも何卒よろしくお願いいたします。

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