52.きょうだい児
「ミリちゃんは、きょうだい児だったんだね」
きょうだい児というのは、障害をもつ兄弟姉妹がいる子どものこと。障害を持つきょうだいが家庭の中の中心となるため、幼い頃から我慢する事も多く、孤独感や不安を抱えやすい。家庭内で世話役として特別な役割を任せられたりすることもあり、ヤングケアラーとなってしまうこともしばしばある。
家族内の助け合いと言えば聞こえはいいけれど、……その境目はあまりにも曖昧で、簡単に行き過ぎてしまう。
最近はきょうだい児の存在も世間で認知されることも増えてきているけれど、支援はまだまだ足りてはいない。
「そうですね……そういうふうに呼ばれるってことを知ったのは、成長してからですけど」
「送り迎えに、入浴介助に歯磨き……いっぱい頑張ったんだねぇ」
綺麗事を言うのであればそれは、子どもが担うものではない。
送り迎えは移動支援やファミサポを利用してほしいし、入浴や歯磨きは訪問介護を利用してほしい。両親の死後は、成年後見人制度を利用してほしい。……だけど現実問題として、大人の手も支援の手も足りていないのが現状だ。特に日本人は、家庭内で抱え込んでしまう傾向にある。
「……わたしが死んで、たぶん両親はホッとしてると思うんです。姉だけでも手一杯だった。そこにわたしまで、となると……」
「そういう風に思わせてしまう環境が、悲しいね」
なんて言ってあげればいいのか難しくて、気持ちに寄り添うにとどめた。
ご両親を私が責めるのは絶対に違う。そんなのミリちゃんは望んでいないだろう。
私は障害のある兄弟姉妹たちの方の、主治医の立場だった。
時々、彼らの受診についてきて顔を見せるきょうだい児たち……
母に代わって、走り回る多動の弟を追いかける姉。障害のある兄に叩かれても、慣れた様子で平気そうに頭を振るだけの弟。
きょうだい仲はいいんです、と親御さんが嬉しそうに語ることが多かった。
だけど、それは本当? 仲がいい、だけで片付けて大丈夫?
……そう感じても、口には出せなかった。あまりにもデリケートな問題だし、越権すぎると思ったから。
彼らと直接会話することはあまり無かったけれど、……診察室の中では関係は悪くなさそうに見えても、きっとそれぞれ葛藤はあったのだろう。
「そうですね、……ただ、悲しいです」
しんみりと頷いたかと思えば、ミリちゃんはピョンっと元気にソファーから立ち上がって、両手を天井に向かって勢いよくかかげた。
「だからこそ、わたしは今回の人生をエンジョイしたいんです! ひとりは寂しいけど、逆にいえば自由です、なんのしがらみもないんです! なんだって出来るんです!」
さっきまでのしんみりした雰囲気を吹き飛ばすように、彼女は明るい口調で宣言した。
虚勢もあるだろう。
だけどそれは暴く必要のないことだ。
ミリちゃんは自分で切り替えて、前を向いている。
私がすべきことは、彼女の頑張りを支持すること。
「教えてくれてありがとね。ミリちゃんのことがよく分かったよ」
「いえいえ、そんな……! ──あの、語りながら考えてみたんですが、わたしやっぱり、きょうだいのいない子どもとして目一杯誰に憚ることなく愛されてみたいです。わたしだけの両親がほしい。ラブラドライト子爵に邪魔されないように、王都からは離れたいです。そしてもしも可能なら……フローライト辺境伯の領地に近いところがいいです!」
「フローライト辺境伯?」
突然の固有名詞に、きょとんとしてしまう。
辺境伯は、辺境にお住まいのため社交にはあまり出てこない。そのため情報もあまりなく、噂すら出回らない。当然私もお会いしたことはない。
「もしかして、フローライト辺境伯のお子さんも攻略対象なの?」
「いえ、フローライト辺境伯はお助けキャラなんです!」
曰く、ゲーム『宝石色した7つの恋』では後半のイベントに、研修旅行があるらしい。
攻略対象と順調に仲が深まっていれば、2人で抜け出して流星群を見にいくイベントが発生する。その際森の中で遭難するまでがセットで、その時に保護してくれるのがスローライト辺境伯なんだそうだ。
「フローライト辺境伯の納めるフローライトはですね、治安がいいんです! 研修旅行では町の散策をするイベントもあるのですが、明らかに貴族の子女である生徒たちがうろついてても、犯罪に巻き込まれないんです! それから、フローライトは職人の町で、細工物が有名なんです。町散策では、ルートによっては髪飾りをプレゼントされるイベントが発生するんですよ! わたし、生前はビーズ細工とかレジンとか大好きで、できれば今世ではそういうので生計立てていけれたらなって思ってるんです」
確かにフローライト地方の職人は腕がいいことで有名だ。私もリヴィから、フローライトの職人が手がけたブローチを贈られたことがある。鳥と花の意匠で、かなり繊細な造りの銀細工だ。触るのも怖いくらいなので普段は大切にしまってあるけど、流石に王妃様とのお茶会には身につけていった。
「素敵な目標ね。わかったわ、フローライト地方の近辺で探してみるわね」
「やったぁ! ありがとう、メイベル様!」
くるくるとその場で回って喜ぶミリちゃん。
うん、この可愛い子にはいい養子先を探してあげないと……!
「そういえば私、ゲームの世界観がいまいちよく分かってないんだけど……ミリちゃんヒロインの『宝石色した7つの恋』は剣と魔法の世界なのよね?」
「いえ、あくまで異世界風恋愛シュミレーションゲームでした。魔法とかそういう非科学的なものはなくて……」
「でもこの世界には、魔法がある」
例えば聖女ミモザは、治癒魔法が使える。
治癒魔法の他にも、水魔法、火魔法、風魔法……いろんな魔法が知られている。魔法使いはだいたい100人に一人くらいはいて、そんなに珍しいものではない。治癒魔法だけはその中でもかなりレアだけど。
魔法を使えるかどうかは、遺伝にも環境にも寄らなくて、完全にランダムだ。だから貴族に偏ってるわけではなく、むしろ絶対数の多い平民にこそ多い。
「『宝石色した7つの恋』と『虹かかる国の聖女』は、同じ世界観なの?」
「いえ、わたしが知る限りそれぞれ独立したゲームで、つながりは無かったはずです……」
「『虹かかる国の聖女』は少なくとも魔法がある世界観ってことよね。この世界は、『宝石色した7つの恋』と『虹かかる国の聖女』が混ざってるってこと?」
「……だと思います。でも、それだけじゃない気もします……」
「だよね」
リヴィが、レオくんのお母さん──ローズ姫の話をしてくれた時に言っていた、男爵令嬢の話。あれ、明らかに乙女ゲームのような話だったよね?
それから市井にある、冒険者ギルド。今まであんまり気にしたことなかったけど、冒険者ギルドって異世界モノの定番よね?
「この世界、色んなゲームが混ざってる感じだよね」
「そう、わたしもそう思います!」
ミリちゃんと意見が一致した。
いろんなストーリーが混ざって、混沌とした世界……
転生者も、きっと私たち以外にも意外といるのかも……
貴重なお時間を使って読んでいただき、ありがとうございました。
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