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推定悪役令嬢の自閉スペクトラム症育児〜異世界で児童精神サロン開きます!〜  作者: こん


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48.新しい家族


「少しまとまった休みが取れそうなんだ」


 めずらしくウキウキとリヴィが言ったのは、晩餐の席でだった。


「どこかに旅行にでも行かないか?」

「れーくん、りょうちにいってみたいなー!」


 領地、と聞いてリヴィの表情がギクリと強張るのが分かった。

 領地にはリヴィのご両親がいらっしゃる。かなり教育に厳しかったと聞いている。憎んでいるほどではないけれど、──苦手だと。なるべく疎遠でいたいと。


「りょうちで、はっくつする!」


 ラピスラズリ公爵の領地には、鉱山があるらしい。

 虫博士だったレオくんは、ミリちゃんにもらったてんとう虫の石をきっかけに鉱物にも興味を持ち始めた。

 いまのレオくんのこだわりは、石だ。


「あのね、すいしょうをほるの! とうめいでキラキラのいし! ずかんでみたの、いしをわってね──」


 レオくんは嬉しそうに腕も振り上げて、ガチャンとスープに当たってこぼれた。

 給餌にあたっていた使用人が飛んできて、手慣れた様子でランチョンマットごと片付けていく。


「……あーこぼれちゃった……」

「レオくん、こういう時は何て言うんだっけ?」

「スープさん、こぼしてごめんね……」


 そのトラブルの間にすっかりと気持ちを立て直したリヴィ、こほんと一つ咳をしてレオくんと視線を合わせた。


「……領地は遠すぎるから、また次の機会にしよう。今回は、そうだな……レオ、水晶の代わりに真珠はどうだ?」

「しんじゅのはっくつ!」


 レオくんの瞳がキラキラと輝き出す。

 行き先は、海に決まりそうだった。


「メイベル、どうだ? 海辺の町に別荘があるんだ。美味しいものでも食べて、少しのんびりしないか?」

「んー……」


 妊娠したことは、まだリヴィに伝えられずにいた。

 なんとなくタイミングがなくて、気恥ずかしさもあって。

 そうこうするうちに悪阻がどんどん酷くなっていて、──リヴィはそれを働きすぎによる疲労と勘違いして、心配してくれているようだった。


「行きたい、けど……」


 海辺の町まではおそらく馬車に揺られて丸1日くらいはかかるだろう。

 その距離を、私の今の体調で耐えられるかどうか。

 馬車ってお尻が痛くなるくらいには揺れるんだけど、なんとなく胎児に良くない気がする。根拠はないけど。

 ……そもそも、妊娠中の遠出って怖い。この世界、医療がどうなってるか本当にわからないし。公爵家ならミモザのいる教会までは近いし、何かあってもなんとかなりそうだと思うけど。

 

 ──うん、冷静に行けないな。

 行けない理由、しっかりリヴィに伝えないと。心配かけてしまっているし。


「……レオくんが寝た後、時間ある?」


 なんとなくレオくんの前で伝えるのが憚られて、私はそう提案した。

 こうやって予定を立てておかないと、最近の私はレオくんの寝かしつけの時に一緒に寝落ちてしまう。それもあって最近はなかなか夫婦の時間が持てていなかったのだ。

 リヴィは嬉しそうに快諾して、それから食事の間はずっとレオくんと海辺の町で何をしようか計画を立てていた。



 ──夜。

 レオくんが夫婦の寝室で眠るので、夫婦の寝室は使えない。

 以前はレオくんの子ども部屋でリヴィと過ごしていたけど、流石にそれは背徳感がすごいので、新しくもう一つ夫婦の部屋を用意してもらっている。


 コンコン、

 ノックをして扉を開けると、すでにリヴィがソファーに座って、持ち帰った仕事をしていた。報告書を一枚ずつ処理していくリヴィは表情がなくて、なんだか作り物めいて綺麗で、──でもどこか冷たくて。氷の公爵様なんだなぁ、と改めて実感してしまう。

 私が近付くとリヴィの持つ書類に影が落ちて、リヴィはやっと私に気がついて顔を上げた。過集中で、ノックの音が聞こえていなかったんだろう。


「あぁ、メイベル」


 途端にリヴィが柔らかく微笑む。

 ──私の知っている彼だ。私の夫で、家族の、リヴィだ。


「いつもレオと一緒に寝てやってくれてありがとう」

「いえいえ、リヴィこそ遅くまでお仕事お疲れ様」


 リヴィは私がきたので、仕事を中断して書類をまとめて机の上に置いた。それから少しずれてソファーを空けてくれたので、私はリヴィの隣に座ることにする。

 淑女らしく少し隙間を開けて座ったはずが、だけど私が座った瞬間にリヴィがこっちに身を寄せてきたので、ぴったりと密着することになった。

 リヴィが甘えてきているのがわかって、私はクスクス笑ってしまう。

 

「……ふふ、どうしたの?」

「いや、最近なかなかタイミングが合わなかっただろう。それで少し……な」


 寂しかったんだ、と。

 初対面のあの時の文言なんか綺麗さっぱり忘れてしまったみたいに、リヴィは私に愛情表現をしてくれるようになった。朝陽であった前世を伝えた、あの夜から。リヴィがくれる言葉たちは、私のこころの柔らかいところにキラキラと降り積もっていく。

 

「私も寂しかったよ」


 私もリヴィに体重をかけて、彼の肩にコテンと頭を乗せる。


「ごめん、私が夫婦ごっこしようって言い出したのに、最近私も忙しくて、夫婦ごっこの時間が作れてなかったね」

「……まだ、ごっこか?」

「え?」

「ごっこではなく、本物の家族になれたかと思っていたのは……俺の思い上がりだっただろうか」


 言いながら、リヴィはそっと私の頬を手のひらで包み込む。そのまま手のひらをスライドさせて、私の耳たぶを親指と人差し指で軽く摘んだ。

 リヴィの顔が近づいて、唇が重なる。


 あ、と思った時には、そのままソファーに押し倒されていた。

 額にもキスをひとつ、首筋にもひとつ。


「リヴィ……あの……」

「ん? どうした?」


 甘やかな声で、リヴィは私に言葉の続きを促した。

 ゆっくりと彼の指が、首、肩と下に向けて降りてくる。胸にかかりそうになったところで、私は思い切って口火を切った。


「……しばらくね、その……、こういう行為、控えたいの」


 ぴたりとリヴィの指先が動きを止めた。


「あのね、大事な話があって──」

「──聞きたくない」


 聞いたことも無いくらい恐ろしく低い声だった。思わず固まってしまった私に、リヴィは感情の抜け落ちた声で淡々と呟く。


「俺のことが嫌になった? 他に好きな男でも出来たのか? メイベル、君が出ていくことなど許さない、君は俺の妻だ。誰にも渡さない、絶対に許さない!」

「……え、ちが、──ッ!」


 誤解を解こうした瞬間、強引なキスで口が塞がれた。ぬるっとした舌が唇を割って侵入してくる。乱暴に舌を絡められて、激しく口の中を蹂躙されて、突然のリヴィの行為に戸惑いながらも、……流されてしまいそうになる。


「君は俺の妻だ、愛してる、愛してる──」

 

 角度を変えて、何度も何度も、深いキス。

 凍りついたような表情と対極に、藍色の瞳だけが恐ろしいほどに激情を宿していた。


「り、リヴィまって、話を聞いて、」

「嫌だ待たない聞かない、君にとってはごっこでもいい、君が俺を愛してくれるならなんだってする──」


「──リヴィ!!」


 大きな声を出すと、一瞬リヴィが動きを止めた。その隙を逃さず、私は両手でグイッとリヴィの両頬を包み込む。

 怯えるようにリヴィの瞳が揺れた。


「私はあなたの妻よ。大丈夫、ずっとここにいる。大好きよ、リヴィ」


 我を忘れて取り乱すほど。いつの間にこんなに想われていたんだろ。

 依存なのか、執着なのか、愛なのか。

 わからない。

 怖い。

 嬉しい。

 ここまでの感情を私は返せないかもしれない。

 でも、でも本当は、こんなに熱烈に愛されてみたかった。


「──新しい家族ができたの」


 彼の手をとって、私のお腹にそっと持っていく。

 まだ外からは全く分からない、だけど私のお腹に新しく息づいている命。


「……君と、俺の……?」

「当たり前でしょう、私は貴方の妻なのだから」


 リヴィは呆然と、それから恐々と私を見つめている。

 私はにこりと笑って、安心させるように穏やかに言葉を紡いだ。


「ごっこなんかじゃないわ、本当の家族よ」


 穏やかな言葉とは裏腹に、心臓はずっと跳ねている。

 誰かの、たった1人になりたかった。

 好きだなんて言われたら、それだけで好きになってしまうとずっと思ってた。

 ──なのに、愛してるだなんて!

 誰にも選ばれなかった朝陽の──前世からの想いが昇華されていく。


 リヴィが安堵の息を漏らすのが耳に届いた。

 眉尻を下げて、縋るように恥ずかしげに、彼は微笑みを浮かべる。


「……すまない、取り乱してしまった」

「こちらこそ、言葉が足らなくて誤解させてしまってごめんなさい」


 あぁ、──愛しい。

 もう死んでもいいくらい。


「レオくんはお兄ちゃんになるのよ」


 すっかり満たされてしまった。叶ってしまった。

 もうこのまま死んだって後悔はないくらい、──ううん、だけどリヴィとレオくんを残しては逝けないな。私がいなくなってしまったら、きっと彼らは深く嘆き悲しむだろう。


 ……ああそっか、これが幸せなんだ。


 ストン、と急に腑に落ちる。


「実はつわりも出てきてて、最近あまり体調が良くなかったのはそのせいなの。ごめんね、そんな訳だから今度の旅行、私は行けそうにない」

「君に負担がないように、近場に変更しようか?」

「ううん、レオくん真珠楽しみにしてそうだったし。私はのんびりさせてもらうから、レオくんと二人で行ってきて」


 君を置いていくのは心配だが……、とリヴィは私の手の甲に、キスを一つ落とした。

 

「土産をたくさん買ってくる」

「ふふ、楽しみにしているわ」


 出産前後しばらくは落ち着かないだろうから、今から準備しておかないと。

 サロンは病院とは違うし、しばらく閉じても誰かに迷惑をかけることはないとは思うけれど。

 ……でも今、相談に乗っている方たちを途中で放り出す訳にもいかない。

 レオくんたちが旅行に行ってくれるなら、その時間を使って今のうちにできることをやっておきたい。


 




すみません、3週間開いてしまいました……

なのにその間ブックマークと☆の評価もいただいて、おかげさまで2回もランキング入りしてたようです……!

読んでくださる皆さまのおかげです、ありがとうございます!!!!


貴重なお時間を使って読んでいただき、ありがとうございました。

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