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推定悪役令嬢の自閉スペクトラム症育児〜異世界で児童精神サロン開きます!〜  作者: こん


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40.身体表現性疾患(転換性障害)



「本日はお時間をいただき、誠にありがとうございます」


 優里──聖女ミモザから手紙が届いたのは、数日前のことだった。

 曰く、治癒魔法を何度かけても治らない女の子がいる。身体的なものじゃなさそうだからそっちで1回診てみて欲しい、とのことだった。

 その翌日には、件の令嬢から、個別サロンで相談したいことがあると手紙が届いた。そこから日程を調整して、──今日に至る。


「わたし、ココ=サードニクスと申します。学園高等部の、第1学年になります」

「私はメイベル=ラピスラズリです。今日は来てくれてありがとうね」


 事前にいただいていた手紙によると、彼女はサードニクス伯爵家のご令嬢で、いま16歳。だけど16歳には見えないくらい小柄な、抜けるように白い肌の女の子だった。赤みがかったオレンジ色の瞳が、なんとなくウサギを思わせる。

 目の色と同じ色の、裾がふわりと広がったレースたっぷりのドレスを着ていて、年齢よりもかなり幼い印象を受ける。


「私のことはメイベルと呼んでね、サードニクス伯爵令嬢」

「ありがとうございます、メイベル様。わたしのことも、ココとお呼びください」


 お互いに自己紹介をして、テーブルに着く。

 患児と話すときは、すぐに本題に入っても表面的な話にしかならないだろうから、まずは雑談めいたことから入るようにしている。


「ココ、今日は本当は学校だったんじゃない?」

「いいえ、今日は試験の振替でお休みの日なのです。……あの、アリスをご存知でしょうか」

「アリスって、アリス=カーネリアン伯爵令嬢?」

「そうです! わたしアリスとは学園で仲良しで、──こちらにお伺いさせていただいたのは、聖女様から勧められたのもあるのですが……実はその前から、メイベル様のお噂を聞いていて」


 そっか、去年の秋にアリスに出会った時、アリスは中等部の3年生だった。今はアリスも高等部1年のはずだから、ココとは同学年なんだ。

 学園は1学年の人数もそんなに多くないし、進級しても学年の顔ぶれもそう変わらない。同じ伯爵位の娘同士、交友があっても不思議じゃない。


「そうなんだ! アリスは元気にしてる? 最近会う機会もめっきり減っちゃってて……」


 アリスはご両親と和解した後も孤児院への慰問は続けてくれていたけれど、高等部進級後は生徒会に入ったのもあり、慰問の頻度は減っている。私も孤児院に行く機会が減ったのもあって、顔を合わせることが少なくなってしまった。

 最後に会った時には、孤児院に入る前に子どもたちを支援する方法があったんじゃないか、そしたら子どもたちは親と離れなくても済んだんじゃないか、孤児院のスタッフに就職するよりも王宮で働いて支援の方法を探った方が子どもたちのためになるのではないか、となんだか色々将来について考えているようだった。


「元気です! 今日わたしがこちらに伺うことを伝えたら、メイベル様によろしくお伝えくださいとのことでした」

「そっか……元気にしているなら良かった」


 アリスの近況は、実はサロンに出入りしてくださっているアリスのお母さん、カーネリアン伯爵夫人から伺っているのだけれど。

 

 ──自傷行為はやっぱり、ゼロにはならないようで。

 家族と和解しても、葛藤が無くなるわけじゃなくて。

 だけど、伯爵夫人が優しく手当しているらしい。手当ての最中、ポツリポツリと心の内を吐露することもあるようだった。

 ……自傷行為をしてしまう前に言語化できれば、援助要請できれば一番なのだけれど。それはまだまだ難しいようで。こうなってくると、注意獲得行動としての自傷行為になってきてしまうのが心配ではある。

 まぁそれは今考える事じゃないか。私は目の前のココに意識を戻す。


 それからしばらく、学園の他の友達や先生の話を聞いたところで、ココのティーカップが空っぽになった。

 そろそろかな、とおかわりを給仕しながら、私は本題に入ることにする。


「実は聖女ミモザから、事前に手紙をもらっていたのだけれど……」


 ぴく、とココの肩が震えたのがわかった。

 彼女にも私が本題に入ったのが分かったのだろう。


「ココはいま何か困ってることがある?」

「──耳鳴りがするんです」


 相談のイメージトレーニングはしてきていたのだろう。

 頷いて、ココは詳しく語り始めた。





 ────耳鳴りがするんです。


 聖女様からは、ストレスが原因かもしれないとご指摘いただいたのですが……全然思い当たることがないのです。

 

 いつから、というのが定かではなくて……気がつくと耳鳴りが聞こえるようになっていました。

 酷くなってきたのは、この一年くらいでしょうか。1日に何度も、酷い時は1日中……。

 ゴォーっという地響きのような低い音の時もあれば、キーンという金属が響くような音の時も時もございます。

 

 めまいですか?

 無いと思います。音だけです。

 音のせいで困ること、ですか。

 そうですね……授業中に耳鳴りがし始めた時に、先生の声が聞こえない事でしょうか。でもそれくらいです。

 はい、耳鳴りのせいで出来なくなったことは特にありません。


 聞こえるのが多いのは……そうですね、学校よりも家での方が多いでしょうか。

 家族で食事を摂っているときに耳鳴りが始まってしまって、お父様が何をおっしゃっているのか分からなくなってしまって……会話が噛み合わなくなってしまって。

 それでお医者様に来ていただいたのですが、原因は分からず……聖女様の力にお縋りしようと教会を頼りました。ですが、3回通って治癒魔法をかけていただいても改善せず……

 そうこうするうちに、どんどん耳鳴りが酷くなってきて、……眠ろうと布団に入っても耳鳴りがするので、あまり眠れなくなりました。

 そのせいで学園でも授業中にぼんやりとしてしまうことが増えてしまって、貴族の子女としてあるまじき事なのですが、──うとうと居眠りをしてしまうこともあります。


 原因として思い当たること……は、全然ありません。

 学園では友達にも恵まれておりますし、勉強も好きではないですが特に困ってはおりません。


 そういえば……あの……

 わたし、卒後は隣の領地へ嫁ぐことが決まっているんです。

 お父様の決めた婚約者で、お年は32歳とお兄様達よりも年上ではあるのですが、……とても優しい方なんです。時々領地から抱えきれないくらいのお土産を持ってわたしに会いにきてくださって。多すぎです! と伝えると、顔をクシャっとして笑うんです。わたしが可愛いから、つい色々買ってしまうんですって。ふふ、彼の方が可愛いですよね!


 ──聖女様から耳鳴りの原因はストレスでは無いかと指摘された時に、お母様からは、婚約を苦に思ってるのではないかと心配されました。

 ですが、絶対に違います!

 大切にしていただいております。わたし、彼の元へ嫁ぐ日を心待ちにしております。ストレスになんて、なるはずないのです!


 ──わたしの家族についてですか?

 ええと……お父様とお母様と、お兄様が2人おります。


 お母様はとてもしっかりした人で、お父様が不在の屋敷を執事に任せることなく取りまとめていました。近頃は貧民街へ炊き出しのお手伝いに行かれることが多いです。わたしも誘われて、時々付き合います。


 お兄様達はもう成人していて、今はお父様に変わって領地におり、領地経営に勤しんでおります。お兄様達が領地に常在するようになってから、お父様は王都の屋敷で過ごされることが増えました。今までお父様とはあまり一緒に過ごしてこなかったので、──実はお話しする時は、少し緊張します。


 ……お母様には、お父様のことも心配されました。

 突然一緒に住み始めたことで、何か嫌な思いをしてるのではないか、と。

 ですがわたしは、お父様のことは嫌ではありません。緊張はしますが、……小さい頃から、時々しかお会いできませんでしたが、その分とてもわたしにお優しくて。特に末娘のわたしのことは可愛がってくださって。

 ──一緒に暮らすことが出来て、本当に嬉しいんです。


 ですのでわたし、ストレスなんて思い当たることがないのです。

 そりゃあ数学の授業が憂鬱とか、もっと可愛くなりたいとか、ストレスが全くないなんて言いません。ですが、そんなのみんなそうですよね?


 メイベル様、教えてください。

 わたしは一体、どうしてしまったのでしょう──





1日更新が遅れてしまいました……

新しい章、よろしくお願いします!!!


貴重なお時間を使って読んでいただき、ありがとうございました。

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