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推定悪役令嬢の自閉スペクトラム症育児〜異世界で児童精神サロン開きます!〜  作者: こん


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39.目標設定



「……俺はレオに、ひとを傷付けるような人間にはなってほしくないんだ……」


 その夜。

 レオくんがお友達に怪我をさせてしまったことを報告すると、リヴィはたいそうショックを受けたようだった。


「再発を防ぐには、どうしたらいいんだろうか……」


 仕事が立て込んでいたとかで、リヴィが帰ってきたのは日付も変わる頃だった。

 いつもは彼が遅くなる日は私は先に寝てしまうけれど、今日はレオくんのことを話さなきゃと思って、眠い目をこすりつつ起きて待っていたのだ。


 食堂に明かりを灯して、疲れ切っているリヴィを席に着かせる。

 夏が近付いて来ていて、最近は夜でもじっとりと空気がぬるく、重くなって来た。


「まぁまぁ、とりあえずこれ飲んでみて。アイスティーよ」

「……美味しい。マスカットの味がする」

「でしょ! 絶対好きだと思ったのよ」


 私も自分のグラスを持って、リヴィの横の椅子に座る。

 一口飲むと、うん、さっぱりしてて美味しい。


「今回はわざと怪我させたわけじゃなくて、衝動的に押してしまって、相手の子が転けた先に運悪く石があってってことだから……」

「それでもまず押すのがダメだろう」


 がっくりと項垂れて、リヴィは沈み込むように椅子にもたれかかった。

 椅子がギィっと軋む。


「以前に君が言っていた、子どもに指示を通す方法……ご褒美をあげるだったか? 友達を怪我させなかったらご褒美を上げれば良いのだろうか」

「うーん、怪我をさせない、って言うのは指示としては適切じゃないかも……」

「と言うと?」

「死人テストっていうのがあってね……」


 死人テストっていうのは、応用行動分析学──ABA──の技法の一つ。

 療育に使われることも多い技法で、日本では一部考え方を取り入れてるところはぼちぼちあるけど、ガッツリ取り組んでるところはそう多くない。

 海外からの転居ケースで、いまABAをやってるから日本に帰っても継続したいけどやってくれる施設はないか? と問い合わせがあって、困ったことがあった。


「死んだ人にもできることは、行動じゃないの。例えば、怪我させないってのは死んでる人にもできるよね。死んでる人は動かないわけだから」


 子どもには、行動として指示を出すことご望ましいと言われている。

 有名なのが、廊下を走る子どもには『走らない』じゃなくて『歩いて』と言うやつだけど……

 走らない、は死んでる人にもできる。

 歩いて、は生きてる人にしかできない。


「指示を聞いてくれた時にはね、その行動を強化するために褒めたいのよ。──その褒める手段として、私は分かりやすいようにお菓子を用意していたわけなんだけど」


 まぁでも、できれば物よりも言葉で褒められるということをご褒美に出来ればそれが1番ではある。

 レオくんの場合は、言語発達がゆっくりだったし、まずは視覚化しやすくて味覚に訴える──身体に感覚として入る──お菓子を採用したわけだけど。


 といってもまだ、言葉は通じるようになってきたとはいえ話は通じないからなー……

 褒め言葉だけでご褒美に出来る日はまだ先かな……


「でも死人テストに合格しないやつだと、褒めるのが難しいから、なかなかその行動を強化できないのよ。

 例えば、怪我をさせない、だと怪我をさせない間中ずっと隣で褒め続けるのは無理よね」


 褒めるためには、それが数えられるかどうかも意識すると良い。

 カウントできるってことは、明確に褒めるタイミングがわかるってことだから。


「ふむ、理論はわかる。だが、実践としてはどのようにすればいいんだ?」

「怪我させない、をうまく行動で言い換えたら……どんな風に言えるかな?」

「今回の場合だと押してしまったことが原因だから……友達には優しく触れる、はどうだろうか」

「いいね、かなり具体的になった!」


 国政に関わるだけあって、リヴィは頭の回転がはやい。

 私が伝えたかったことをあっと言う間に飲み込んで、返答してくれる。

 

「だけどあともう一歩……『優しい』をさらに具体的に置き換えられないかな?」


 まず子どもに指示を出すには、子どもにとって分かりやすい指示でないといけない。

 例えばさっきリヴィが言っていた、『優しく触る』。でも、『優しい』は人によって定義が違う。

 私の思う優しいと、リヴィの思う優しいは違うだろうし、──当然、レオくんにとっての優しいも違う。

 極論、例えばレオくんが激しく相手にぶつかっていってても、レオくんが優しく触ったと主張したら、そこまでになってしまう。


「なるほど……難しいな……」


 そう。実はこれ、めちゃくちゃ難しい。

 色んなシチュエーションを想定すればするほど、難しい。


 でもこの難しさが、抽象的な指示をされた時に子どもが感じる難しさなのかもしれないな、とも思う。


「では『友達に触れる時には許可をとる』は……いや、それでは怪我をさせない意図からだいふ離れてしまう……」

「ううん、でもリヴィが立ててくれた目標が実践できたら、怪我させることは無くなると思うよ」


 目標設定にはコツがある。

 まずは、死人テストに合格すること。

 数えれられること。

 それから、具体的であること!


「一緒に考えよう。お仕事でお疲れのリヴィには申し訳ないけど……」

「いや、君と話すのは面白い。今まで知らなかった視点を知れるのは単純に興味深いし、──それがレオに関わることなら俺は、なんでも知りたい」


 結婚した当初からは考えられないくらい、リヴィは穏やかに笑う。


 リヴィのグラスが空になっていたので、お代わりを取りに席を立った。

 ついでに窓を開けると、さぁっと外の空気が流れ込んできた。

 ひんやりと涼しくて、じっとり重くなった空気を押し流してくれる気がする。

 虫が入ってきちゃうかな?

 それでもいいや、夜風が気持ちいい。


「──子育てって、面白いな」


 リヴィも夜風を感じてるんだろう、窓の外を見つめながら、ぽそりと小さく呟いた。

 

 うん、面白いよね。

 私も子育てがこんなに面白いなんて、知らなかった。




更新が一週飛んでごめんなさい……

家族旅行に行ってました……海、キレイでした……!!

またぼちぼち投稿していきますので、よろしくお願い申し上げます。


貴重なお時間を使って読んでいただき、ありがとうございました。

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