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推定悪役令嬢の自閉スペクトラム症育児〜異世界で児童精神サロン開きます!〜  作者: こん


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29.追求


 リヴィは最近、ほぼ毎日帰ってきてくれている。

 時々、どうしても外せない仕事の時は城に泊まるけど、それも月に数回くらい。

 そして、屋敷に滞在する時間が長ければ長いほど、一緒に過ごす時間も増えるわけで。──夫婦の時間も増えるわけで。


「……こんなに帰ってくる時間を増やして、大丈夫なの?」

「君に以前言われた通り、任せられる仕事は部下に任せるようにした。問題ない。……嫌だったか?」

「ううん、……嬉しいけど」


 レオくんが夫婦の寝室のベッドで寝るので、もはやレオくんの子ども部屋のベッドが、夫婦のベッドと化している。そのことはレオくんになんとなく申し訳なく感じるので、いずれどうにかしていきたい。いや、メイドさんたちが綺麗にはしてくれてはいるけど。


 行為のあと、疲れ切って起き上がれない私に付き合って、リヴィもしばらく一緒に横にいてくれる。

 レオくん用のベッドがちょっと狭いので、お互いに密着しながら、剥き出しの胸板に頬を押し付けてみたりなんかして。

 薄暗い室内で、リヴィの至極整った顔がいつもより近い。ぽつりぽつりと話して、彼が口を開くたびにに吐息がかかる。指を絡ませて、この指がさっきまで私を……なんて考えると、もうどうしようもなく顔が火照ってしまう。


「そういえば、例の預かっている娘は、どうなんだ?」

「今のところすごくいい子にしてる。身体がしんどいのもあるとは思うけど……ちゃんとベッド上にいるし、出してる食事もなんとか食べてくれてるわ。この1週間、出したものはしっかり完食できてて、身体も問題なさそうだから、明日から少しカロリーを増やすつもり」


 皮で自作した胃管は使わなくて済んでいるので、正直ほっとしている。

 摂食障害の治療は『イヤイヤ食べる』、これに尽きる。

 これまでせっかく苦しい思いをして痩せた努力が無に帰すのだ、どんなに言葉を弄したところで納得して食べる子は正直いない。部屋の外に出たいから、退院したいから、学校に行きたいから……そのためにはイヤイヤ食べるしかないのだ。


「体重は増えたか?」

「そんなにすぐには戻らないわ。基礎代謝量って言って、寝てるだけでも人間はエネルギーを使うんだけど。心臓を動かしたり、呼吸したりするのに使うカロリーよ。今食べてるカロリーは、基礎代謝にも満たないくらいだと思う。だから最初は増えない、むしろ減ることが想定されるわ」

「そうか……」

「体重計測は1週間に1回。体重が増え始めたら、1週間に500gくらいを目指してカロリーを調整していくの。急に増えるのも良くないしね」


 部屋の隅にひとつだけ残した灯りのおかげで、部屋の中は薄暗い。リヴィの顔に、まつ毛の影が落ちている。瞬きするたびに揺れて、きれい。


「君は……」


 リヴィはいったん言葉を切って、力強い腕が、突然私を抱きしめた。

 驚く間も無く、突然深いキスをされる。

 息継ぎ出来なくて苦しくてもがくけど、身じろぎすらできないくらい、強く抱き締められていて。

 

「リ、リヴィ……んうッ」


 一瞬唇が離れた隙に息を吸って、彼の名前を呼ぶ。

 でもすぐにまた唇が塞がれて、何度も何度も。

 酸欠になって頭がぼーっとしてきたところで、やっとリヴィと瞳が合った。深い藍色の、美しい瞳。今その中には、私が映ってる。


「……君は一体、何者なんだ?」


 耳元で囁くような声。

 だけどそこには、甘やかさはない。

 切迫した──どこか苦しそうな声音。


「一体どこでそういう知識を手に入れたんだ? 君は本で読んだと以前言っていたな。だから俺も調べてみたんだが、──蔵書量が一番の王城の図書館にすら、そんな本は見つからなかった。外国の本だとしても、王城の図書館にすらないものを一介の伯爵家が手に入れてるとは考え難い」


 ……そうだね、うん。

 私の知識は前世は知識だ。いくら調べたって、そんな本はどこにも存在しない。

 嘘を重ねるか、正直に伝えるか。


 でも、──前世を思い出した、なんて。

 妄想性障害を疑われてしまう。

 明らかに妄想なのに、それを現実と思い込む患者さんを見たことがある。だけどそれは私も一緒で、私はこの記憶が妄想じゃないなんて、証明できない。私にとっては確かにあるのに。

 妄想だとしたら、わたしが今やってる治療は何の根拠もない行為になるわけで。……そんなの怖い。

 私は、エビデンスを証明できない──


「……どうしていま、キスしたの?」


 答えあぐねて、純粋な疑問が口をついて出た。

 リヴィの腕の力が緩んだので、勢いをつけて身体を起こす。

 それに合わせてリヴィも起き上がり、のそりとベッドサイドに腰掛けた。

 

「君が、いなくなってしまうことが不安で」

「……不安?」

「そうだ。メイベル、君が何だっていい。だが、それを知っておきたい。──知らなくて、君を守れないことだけは避けたい。君がいなくなってしまうことは耐えられないから」


 不安だから、キスしたの?

 以前リヴィは、私とレオくんが一緒にいるのを見るのが好きだと言ってた。レオくんに自分を投影して、──得られなかった母親の愛情を、私の中に見てるんだとばかり思ってたけど。


「……私を、好きってこと? 恋愛的な意味で……」

「そうだ」


 何を今更、とリヴィは不思議そうに言う。

 

「で、でもリヴィ、そういうの分かんないって──」

「今はわかる。この気持ちは恋慕だ。……君が目の前にいないのに、気がつくと君のことを考えている。少しでも長く君といたいと思う。君に、触れたいと思う──」


 これは恋慕だろう? と。

 リヴィの指が、遠慮がちにそっと私の頬に触れる。さっきまであんなに私の身体のあちこちに触れていたというのに。

 なんだかおかしくなって、くすりと笑ってしまった。


「だから教えてくれないか、君のことを。俺が君を、何があっても守るから」


 あぁ、もう降参だ。

 なんて愛しい人だろう。

 こころの奥底にくすぶっていた葛藤すっかり溶けて、霧散してしまった。


「──いいよ、教えてあげる。だから私を、離さないでね」


 妄想性障害だっていい。

 そうだったとしても、きっと彼は妄想ごと──朝陽ごと、私を守ってくれる。

 そう信じれるくらいには、彼の気持ちは伝わっている。


「あのね、私、メイベルにはね、前世の記憶があるの──」



2人がいちゃついてる話は、描いてて楽しいです。笑


先日、久しぶりにローファンタジー日間ランキングの96位に入りました♪

評価ポイントをつけてくださる読者様、ブックマークをしてくださる読者様のおかげです。

感謝しております!


貴重なお時間を使って読んでいただき、ありがとうございました。

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