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推定悪役令嬢の自閉スペクトラム症育児〜異世界で児童精神サロン開きます!〜  作者: こん


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24.ADHD2


「努力は、当然するべきだわ」


 さすがは王妃様、貫禄たっぷりに自信ありげに頷いた。

 まぁそうよね、大体の人はそう言う。

 努力、友情、勝利。美しくて、みんな大好きな言葉。


 でも努力ってとっても大変なのだ。する方も、させる方も。

 必要な努力ならしなければならない。

 だけど、その努力、本当に意味のある努力?


「ブライアン様には、専属の侍従がいらっしゃいますよね。王族ですものね。少々忘れっぽくても、侍従に持ち物やスケジュールを管理してもらったら良いのでは?」


 もちろん、みんながみんなそれができるわけじゃない。普通は侍従なんていないわけだし、将来困ることが目に見えてるから対応しないといけないけど。だけど、症例はケースバイケース。侍従がいるのであれば、そのアドバンテージを生かして侍従に任せるというのも環境調整の一つだと思う。

 そしてその環境で困らずにやっていけるのであれば、それでOKなのでは。


「でも、同じ年齢の他の子どもたちは当然できていることくらいは……」

「そうですよね、それは子どもを持つすべての親の願いだと思います」


 健康であればそれが一番だけど、でもみんなから落ちこぼれないで欲しい、なるべくなら優秀であって欲しい。

 這えば立て、立てば歩めの親心、なんて慣用句があるけれど。

 親ってそんなもんだと思う。

 ──子どもの不幸を願う親を、私は一度も見たことがない。いわゆる毒親めいた行動をとってしまっている親御さんでも、根底には子どもへの想いがあった。やり方を間違えているだけなのだ。……子どものことを全然考えていない親は、わざわざ児童精神の外来になんて受診しないっていうバイアスはかかっているだろうけれど。


「ですが、みんながみんな、同じことをできるようになる必要があるでしょうか。得意なこと、不得意なこと、様々ですよね。不得意なことは、絶対に克服しないといけないですか? もちろん本人が困ってて何とかしたいと思っているなら克服したほうがいいかもしれませんが、困ってないのに? 自分で克服しなくても、誰かにお願いできる環境なら、それで良いのではないでしょうか。そして、他の人の不得意を引き受ける人になれば良いのではないかと思っています」


 全員がスペシャリストにならなくてもいい、分業すればいい。

 みんなが裁縫できなくても、料理できなくても、家を建てれなくても、できる人が作って、売ればいい。得たお金で、自分が得意じゃないことを補えばいい。


「これは個人的な想いなのですが、──私は、苦手なことの克服に努力させるよりも、得意なことを伸ばしてあげることに時間を使う育児の方が好きです」


 わかりやすいのが、知的障害のお子さんの例かな。できない勉強を無理やり教えるのではなく、本人の得意なことやできそうな事──例えば料理だったり掃除だったり。そっちに力を入れて、就労につなげていければと思う。その考え方を実践してくれるのが、支援学校なのだけれど。


「得意なこと……」

「はい。ブライアン様は、素晴らしい発想力をお持ちなのですよね? 10歳で、法案の元となるようなことを思いつく力はすごいです」


 歴史上でもダヴィンチとか坂本龍馬とか、ADHD特性を持つ偉人はたくさんいるし、偉人じゃなくて身近にもADHD特性を持つ人はしばしばいると思う。いろんなことに興味持って手を出して、いつ寝てるんだかわからないくらい多忙で、でもやり切っちゃうような人。社長や起業家に多いと思うけど。大多数の方の人と違うからこそ、大多数の人が出来ないことが出来る。

 ADHDは、世界を動かすことができる可能性だと思う。もちろん色んなタイプのADHDがいるから、みんながみんなそうではないけれど。


「そうね、ブライアンの発想力はすごいわ。学園に入学した後のことを心配していたけれど……そうよね、得意なことを伸ばした方が断然良いわ。発想力を伸ばすためには、そうね、色々な経験をさせた方が良いかしら。そしたら学園に入学させるよりも、外国へ遊学させた方が経験になるわね……高等部の学年まで待つことは無いわ、今からでも……ブライアンの気持ちを確認する必要があるわね。……そうだわ、隣国には確か同じくらいの年齢の姫が……」


 頷きながら、どんどん自分の世界に入っていく王妃様。

 声を掛けて気を散らすのも恐縮なので、静かに見守りつつ、出していただいているお茶菓子をつまむ。ピンク色のマカロンは、サクッとした歯ごたえと思えば口の中でほろりと溶けて、甘みが口いっぱいに広がる。ニチャっとするのが好きじゃなくてあんまり食べたことなかったんだけど、このマカロンはそんな感じが全くない。さすが王宮御用達……!

 最初は味のしなかったお茶も、やっと美味しく感じることができた。渋みが一切ない! 茶葉も高級なんだろうけど、淹れ方が良いんだろう。

 

「メイベル、ありがとう。やることが明確化してきたわ」


 王妃様はニッコリと笑って、ご自身のカップに残っていた紅茶を一気に飲み干された。

 それから腕をサッと動かして合図をすると、離れていた給仕の方達が即座に戻ってきた。空っぽになった私と王妃様のカップに、湯気の立った紅茶がまた注がれる。

 

「いいえ、私は何も。お力になれずに申し訳ありません」


 王妃様がお求めになっていたような、主訴に対して改善に向けてのアドバイスはできなかったし……そのままでいいんじゃない、としか言ってないし……


「そんなことないわ、私では思いもよらなかったことよ。ブライアンの悪いところしか見えてなかったことに気づかせてもらったわ。相談して良かった」

「そのように言っていただけるとは光栄です。もし、ブライアン様がお困りになって、自分でもどうにかしたいと思われるようになったら、その時はまたご連絡ください。その時の状況で、具体的にどうしていくか一緒に考えさせていただければと思います」


 王妃様からの相談についてはこれでおしまいなんだろうけれど、お茶会をお開きにする気配がない。なんならさっき、追加のお茶が注がれたばかりだし。あ、お茶菓子に今度はチョコレートが給仕された。つやつや表面が光って宝石みたい。


「──ところで、レオはどうしてるのかしら」


 新しい紅茶に、角砂糖をひとつ入れて、王妃様はティースプーンを前後に揺らすようにして混ぜている。もちろん茶器の音など全くしなくて、お作法の美しさに見惚れてしまうほど。


「元気に過ごしております。最近は表出言語も増えてきて言葉でのやりとりが増えてきました。集団に入れたことが大きかったのだと思います」

「集団?」

「はい、孤児院へ慰問を名目に。孤児院の同じ年齢の子どもたちと遊ぶことで、爆発的に言葉が増えてきています。それから、社会性を学ぶにも良くて。子どもたちは遠慮なく関わってくれるので、レオくんも孤児院へ遊びにいくのを今では楽しみにしています。──本当は、学園の初等部よりも前に通わせる施設があれば良かったのですが……」

「なるほどね。初等部入学前まではそれぞれの家庭で教育することが習わしとなっているけれど……もし初等部よりも前に子どもたちを集めて教育する施設があったら、ニーズはあるかしら」

「──貴族社会ではわかりません。ですが、平民にはニーズはあると思います」


 実はレオくんのお世話に疲れ果ててた時に調べてみたのだけれど、平民の小さい子どもたちは普段は母親について仕事に行くか、年長の兄弟たちが家で見るか、それも難しい場合には主婦たちで持ち回りで子どもたちを預かっているんだそう。なので、小さい子どもたちを集めて預かっておく施設があると、助かる家庭は多いと思う。具体的には、保育園・幼稚園的な。


「検討の余地がありそうね、少し調べてるわ」

「貴族にニーズがあるかどうかは、子育てサークルを開いた際にはその場で話題に出してみたいと思います」

「ありがとう、また教えてちょうだい」


 それからしばらく、王妃様へレオくんの話をした。どんなことができるようになってきてて、どんなことが課題だとか。リヴィとの関わりが最近増えてきたことだとか。

 王妃様はニコニコと聞いてくれるので、私も嬉しくなって、つい色々と話してしまった。だって、話したいんだもの。うちの可愛いレオくんのこと、自慢したいのだもの!!


「貴女には聞きにくいことなのだけれど、……レオは、ローズ姫の話をすることがあるかしら」


 途中、王妃様は少し表情を曇らせて、言いにくそうに言葉を絞り出した。答えに窮してしまったけれど、嘘を答えるわけにはいかない。


「──いいえ。覚えておられるかどうかすら……。レオくんの部屋にはローズ様の似姿を飾っておりますが、反応はありません。……僭越ながら、母へ向けるべき愛着はいま私に向いております」


 ローズ様のことを考えると、罪悪感が湧き起こる。彼女の居場所を私が奪ってしまったような。現実には、私のせいで出奔したわけではないし、罪悪感を覚える必要なんてないと頭では分かっているけれど。──でもその罪悪感のせいで、私はレオくんに私を『母』と呼ばせることができない。


「──夫はね、年の離れた妹姫を大層可愛がっていて。それはもう、私が嫉妬するくらい。だから今でもね、妹姫の残した子のことを気にかけているの。

 だけど、身内が子どもを残して出奔した手前、ラピスラズリ公爵にはレオのことを尋ねにくいのですって。おかしいわよねぇ、普通に聞いた方がいいのに」


 そう言って笑った王妃様は、王妃様じゃなくって、どこにでもいる普通のおばちゃんに見えた。

 レオくんだって王族の血を引いてるけどレオくんはレオくんだし、王妃様だって王妃様である前に母であり、妻なんだ。当然のはずのことだけれど、実感を伴って初めて納得した。


「どうか許してちょうだい、関わりを絶っていた私たちを」

「いえ、私はなにも……それは直接、レオくんに言ってあげてください。レオくん、最近は随分大人に遊んでもらうのが好きになったんですよ。きっと喜びます」


 それは本当。大人に遊んでもらう云々はちょっと盛ったけど、この広い庭園にも美味しいお茶菓子にも、きっと大喜びだろう。

 ──それにお城は、レオくんのお母さんの実家だ。自己満足かもしれないけれど、レオくんにお母さんの育った場所を見せてあげたい。


「今日はまずは貴女だけお招きしたけれど、──次回はレオも一緒に連れてきてちょうだい。私もレオとおしゃべりがしてみたいわ」

「はい、是非よろしくお願い致します!」


 そこからもうしばらく歓談して、お茶会は和やかにお開きになった。

 次回もお呼ばれすることになったけれど、王妃様もご多忙だし、またしばらく先のことだろう。

 それまでは、よし、サロンの開設がんばるぞ!



間に合った、本日2回目の更新でした^^


貴重なお時間を使って読んでいただき、ありがとうございました。

感想や☆の評価をいただけると、励みになります!


そして、一万PVありがとうございます!!!!

ついに!!!!

めちゃくちゃ嬉しいです!!!

ひとえに読んでくださる皆様のおかげです、ありがとうございます、これからもどうかよろしくお願い申し上げます!!

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