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推定悪役令嬢の自閉スペクトラム症育児〜異世界で児童精神サロン開きます!〜  作者: こん


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23.ADHD1


 ────ブライアンは5人目だったからか、安産だったわ。


 赤ちゃんの時? そうね、直接的なお世話は乳母がやってくれていたから、私は空き時間に顔を見にいくだけだったけれど……抱っこするとすぐに安心して眠ってしまう、とても可愛らしい赤ちゃんだったわ。

 あれ? と思い始めたのは、1歳を過ぎてからかしら。1歳から歩き始めたのだけれど、歩き始めたらもうじっとしていなくて。高いところによじ登ったり、変なところに入り込んだり……いつも乳母が走って追いかけていたわ。一人の乳母では手が回らなくて、もう一人乳母を雇用したのよ。

 2歳くらいの頃かしら? 一緒に城の庭園を散歩したことがあったのだけれど、……手が繋げないのよ。繋いでもすぐに振り払って走って行ってしまうし、抱っこしても嫌がって抜け出して走って行ってしまう。

 上の子達とは違う、と感じたわ。

 でも、男の子だし元気がいいだけ、教育が始まれば落ち着くわ、と思ってた。愛嬌がある子なのよ。元気いっぱいで、ずっと喋ってるの。よくそんなに話すことがあるものね、と感心するくらい。人が大好きでね、誰にでも声をかけて話しにいくから、みんなに可愛がられて育ったの。


 感覚の過敏さや鈍感さ? いいえ、気になることは無かったわ。食べ物も何でもよく食べたわよ。こだわり? そうね、あまり気にならなかったかしら……


 5歳からは王族としての教育が始まったわ。

 やっと少し落ち着くかと思ったのだけれど……そんなことは全くなかった。

 まず、我慢が出来ない。教師が教材を持ってくるでしょう? 説明も聞かず、すぐに触ってしまうの。それから、話を聞けない。教師が説明していても、口を挟んでしまう。黙っているかと思うと全く聞いてなくて他のものを見ていたり、ボーッとしていたり。

 文字はすぐに覚えたけど、急いで書き殴るから読めたものじゃないし。


 それでね、──座れないのよ。

 とにかくじっとできなくて。教師が話していてもフラフラと立ち歩いてしまったり、……部屋を抜け出したり。最近は成長してきて、教師と対面して1対1での座学ではそんなこともなくなってきたようなのだけれど……トイレと言ってはそのまま帰ってこないことは、今もよくあるそうよ。

 図書室で教師が少し目を離した隙に、棚によじ登っていたという報告を受けた時には頭を抱えたわ。登れそうだと思ったから、登ったんですって。危ない、とかはその時には考えつかないんですって。

 約束していてもすっかり忘れてすっぽかしてしまうこともしょっ中だし、例えば晩餐の時間なんかは守れないことが多いわ。今は侍従がブライアンのスケジュールを管理して声かけすることで、なんとかやっていっているのよ。王族として以前に、この子はちゃんとした大人になれるのかしらと心配で……。


 でもね、優秀なのよ。

 お忍びで城下に降りるとね、すぐに誰とでも仲良くなって、困ってることなんかを聞き出して。それを解決するアイデアを何個も思いついては、私たちに進言するのよ。もちろん子どもの考えることだから、現実的ではなかったり甘かったりするけれど……でもね、一部はブラッシュアップして実際に法定化したこともあるわ。優秀なのよ。


 まだ5歳だから、6歳だから……と様子を見ているうちに、もう10歳になってしまって。

 あと5年もすれば、学園に入学するわ。今は城での学習だからなんとかなっているけれど、今のままだと、学園生活すら碌に送れないような気がするの。

 どうすれば、人並みの学生生活が送れるようになるかしら? ────

 



 ……こ、困る……!!

 話だけ伺うとADHD単独っぽいけど……実際に会ってないからなかなかイメージが掴みにくい。

 親御さんの目を通しての訴えだから、それは親御さんにはそう見えてるってことで、本当のところはどうか分からない。例えば『うちの子は落ち着いてて多動なんてありません!』って親御さんが訴えていたとしても、実際に来院してもらうと診察室に入室すると同時に動き回る……なんてことは良くある。

 だからこそ、本人と会って話してみることが大切なんだけど……王族と会いたいなんて言いにくい!


 ADHDの診断基準として、幼児期から続く症状であること、これは当てはまる。様々な場面で同様の症状が出ること、については……王妃様の前と教師の前それぞれで症状が出てそうだから当てはまるかな。

 本当だったら、ADHD-RSっていう評価のためのチェックリストをつけてもらいたいんだけど、……項目、ふんわりとしか覚えてない上に異世界でもこの項目でいいのかなぁっていう所がね!


 なんてことを考えながらモゴモゴ言い淀んでいると、察した王妃様が眉尻を下げて穏やかに笑った。


「貴女の忌憚ない意見を聞かせてちょうだい。それで不敬だなんて言わないわよ。王妃としてではなく、──ひとりの母親と思って話してちょうだい」

「では……遠慮なくお伺いさせていただきます……」


 嘘だ、遠慮は拭いされない。

 でも王妃様が何らかの解答を求めている以上、やはり何かはお伝えする必要がある。


「確認なのですが、ブライアン様は試験ではどれくらいの点数をお取りになるのでしょうか」 

「試験ではね、とにかくミスが多くて。最後まで問題文を読まずに解いたり、解答欄がずれていたり、とにかく不注意なのよ。あとでやり直すと、理解しているのよ。知的にはむしろ高いと思うわ」

「物の管理はいかがですか?」

「何でもすぐに無くすわ。置き忘れたり、そもそも置き忘れたことすら忘れたり……。民の血税から買わせてもらってるものだから、大切に扱うように言うのだけれど」


 うーん、聞けば聞くほどADHD!

 ADHDは100人中6人くらいはいると言われていて、割とポピュラーな疾患だ。いや、これだけ人数が多ければもう、疾患というより個性といっていいと思う。だけど、その症状によって困りやすいタイプの個性だから、名前がついていて、処方がある。


 ──ADHDは内服がよく効く。自閉スペクトラム症とかの混じり物のないADHD単独であれば、特に。だけどこの世界には、当然だけど薬はない。作り方もわからないし、作り方が分かったとしても私に作れるかどうか。江戸時代にタイムスリップして、カビから抗菌薬作った人の漫画を読んだことあるけど、すごすぎて私には無理……って思う。


 まぁADHDのガイドライン的には、第一選択は環境調整だからね! 薬剤調整じゃないからね!

 ……とは言え、環境調整だけでどこまで効果が出るか……


「僭越ながら──ブライアン様は、困っていらっしゃるのでしょうか?」

「それは、もちろん……」


 王妃様は首を傾げて、それから眉を顰めた。

 当然本人も困ってる! と言いたかったことだろう。だけどおそらく普段のブライアン様の様子はそうじゃなかったんじゃないだろうか。王妃様は考え込みながらも、ゆっくりと言葉を絞り出した。


「……どうかしら。あの子はいつもなんだか自由で飄々としてて楽しそうで──困ってるようには見えないわね」


 これは本当にあるあるなんだけど、──親の主訴と本人の主訴がズレることは多い。だから患者の訴えを聞いた時、その困りごとが誰の主訴なのかを考えなければいけない。


「であれば、改善は難しいかと。……不注意、忘れっぽさ、それらを劇的に改善する方法なんてありません。ただ、工夫のコツはあります。だけどそれはあくまで、工夫なんです。根本から改善するわけじゃないんです。本人の努力が必要なんです」


 いくら『あなたは忘れっぽいんだからメモをするように』と口うるさく言ったところで、本人にやる気がなければメモなんてしないし、メモしてもまず見ない。例えば忘れ物したことで困って、なんなら先生にこっぴどく叱られて、そこで自分で自分の特性を自覚して理解して、やっとメモをするようになるのだ。

 本人が困って初めて、『こういう風にしたらいいよ』という工夫のコツに耳を傾けられるようになる。

 ……まぁ、忘れ物して怒られたけどまぁいっか! になるタイプだったらどうしようもないけれど。だけどそれなら本人は困っていないわけだし、それもまたその人の人生だと思う。


「だけど、まだ幼くて困りごとが見えていない場合であれば、周りのフォローが必要です。本人の努力の代わりに、周りが努力するイメージですね」


 どんな環境調整するかどうかはケースバイケースなのだけれど。

 体を動かしたくて我慢できなくなって立ち歩いてしまうのであれば、授業の途中に体操の時間を作ってもらったり、授業中の配布物をみんなに配る係に任命してもらったり。

 それから座る席も大切で、窓際だと窓の外が気になるし後ろだと友達の頭が見えて気になってしまう。なので、教卓の目の前、一番前の真ん中の席。そこがADHDタイプにはオススメの席だ。

 忘れ物が多いのであれば、物理的に忘れないようにするシステムづくりも大切だ。例えば、机の上に置いておいて忘れるなら、絶対に忘れないように家を出る時に必ず触るもの──例えばドアノブに引っ掛けておくといいし。ランドセルに入れてても提出し忘れる、なら必ずランドセルを開けたら目に付くフタとかに宿題を取り付けておいて、学校に着いてランドセルを開けて宿題を発見したら後回しにせずにすぐに教卓に置きに行くようにする、とか。


「──だけどいつまでも、周りが努力の肩代わりをするわけにはいきません。どこかで少しずつ手を引いて、少しずつ困ってもらって、自分で努力できるように導いていくのが大人の仕事だと思います。ですが──」


 現実はそううまくいかないし、小手先の工夫なんかで太刀打ちできないくらいの症状もあったりする。そこで薬物療法の出番なわけだが……それはこの世界では使えない。

 だからこそ、私は前世の患者さんには絶対に言えなかった言葉を、王妃様に投げかけてみる。



「──ブライアン様に、努力、必要ですか?」




貴重なお時間を使って読んでいただき、ありがとうございました。

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長くなったので一旦切ります……続きは今日中に投稿できれば……!

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