17.夫婦ごっこ
更新が遅くなりました……
胃腸炎で苦しんでおりました……
「すまない、ローズの話のつもりだったが、……話が逸れてしまったな。俺の想いなど気持ち悪いだろう、忘れてくれ」
「気持ち悪く……は、ないですけど」
要するに、母親みたいに思われてるってことでしょ?
前世モテなさすぎて彼氏いたことなかったし、今世でも浮気されて婚約解消だし、……女として自信なさすぎて、恋慕ではないにしても好意もたれるなら正直なところ何でも嬉しい。いやまぁ、生理的に受け付けないひとは無理だけど。
「元奥様のこと、……それから、オリヴァーさまのこと。聞けて良かったです、お話ししてくれてありがとうございます」
今日、彼の話を聞くことができてよかった。
圧倒的に言葉が足りない人だから、こうやって彼のバックボーンを知ることで、やっと彼の理解へ一歩踏み出せた気がする。
「私、オリヴァー様はレオくんに興味ないのかもって思ってました。でも今日の話を聴いて、オリヴァー様もレオくんのこと可愛く思ってるんだなってわかって嬉しかったです」
「……自分の子どもだ、可愛くないわけがないだろう」
「多分、ですけど。ローズ様も私と同じ勘違いしてますよ、あなたがレオくんに興味ないって。育児、関わってこなかったんでしょう?」
「…………」
オリヴァー様はむっつりと黙り込んで、カモミールティーを一口、口に含む。眉が寄ったのは、カモミールティーが冷えてしまっていたからか、それとも私の言葉への反応か。
「……育児に詳しくない俺が関わらなくても、専門家である乳母がついていた」
「子育てに正解なんてありません。乳母は色々教えてくれるかもしれませんが、結局は決めて行くのは親です。ローズ様は、オリヴァー様と一緒に困りたかったんだと思いますよ。二人の子どもなのだから、二人で考えていきたかったんじゃないでしょうか」
婚約直後から、愛することはないと言われ。結婚しても仕事ばかりで帰ってこず。子供が生まれても家庭を顧みず。──そりゃあ、しんどかっただろう。
レオくんを後継から外すという、オリヴァー様からしたらレオくんのことを思ってした行動が、見捨てられたように感じてしまって。張り詰めていたものがプツリと切れて、──出て行ってしまったのではないだろうか。
「とはいえですね、ローズ様も出て行くのは我慢していたことを全てぶちまけてからでも良かったと思います。圧倒的に対話が足りてない」
勇気を出してレオくんのことを相談しようとして、突き放されたら心が折れるのもわかる。わかるけど、でも、全部諦めちゃう前にどうにかならなかったのかな。話し合いに第三者を交えるとか。……前世だったら、夫婦カウンセリングなんてものがあったけど。
すれ違い系の小説、前世でもちょこちょこあったけど、もっと対話しろ!ってツッコミ入れながら読んでたもん。
「過去は変えることはできません、ですが未来は変えることができます。私とオリヴァー様の未来を、同じ轍を踏まないように、今後について話し合いをしませんか?」
私だって結婚してすぐに、君を愛するつもりはないって言われたし。初夜もすっぽかされたし。ないがしろにされているのは、ローズ様と同じ。
このままだと、私もどんどんフラストレーションを溜めて、オリヴァー様のことを諦めてしまう。
せっかく家族になったんだから、私は諦めたくない。
「オリヴァー様は、私のことを好きなわけではないんですよね?」
「好ましくは思っている」
「恋慕、ではないってことですよね」
「……恋慕というのがどういう感情かわからない」
──私は彼のことを、どう思ってるんだろう。
顔はめっちゃ好みなんだけどね、正直! 最近はコミュニケーションも取れるようになってきたし、気安く話せるようにもなってきて、嫌いではない。では好きかと言われると、──少なくとも恋慕はない。
「オリヴァー様は私を愛するつもりはないと言いました」
「……その通りだ」
「私も別にオリヴァー様のこと、好きじゃないと思います」
もうほんと、最初の印象が悪すぎだったし。
私の気持ちを慮れなかったこと、言語化が苦手で言葉が足りなかったこと、合理主義すぎること、今では自閉スペクトラム症の症状のひとつなんだろうってわかってる。でも症状だからって全部許せるわけじゃない。
「でも私たち、夫婦でしょ、家族でしょ? そこに愛があるかはともかく、仲良しに越したことはないでしょう」
どうせ人生を共にするのなら、仲が良い方がいいに決まってる。
だけど私たち、このまま過ごしても何も変わらず時間だけ過ぎて行くだろう。どっちかに恋慕の感情があれば距離を詰めようとするだろうけど、……お互いその気がないし。
「形から入りましょう、私たち」
構造化だ。
曖昧な人間関係を、わかりやすい形に持って行く。
「具体的には?」
「物理的に一緒にいる時間を増やしたいです。週に1回は、家族でどこかに出かける時間を作りましょう。……私たち、今は割と他人だと思うんです。週に1回くらい、お互いを夫婦として意識していくことから始めませんか?」
ローズ様みたいにならないためには、何かを変えていかないといけない。まず第一歩としては、一緒にいる時間を増やすことだと思う。レオくんにとっても、お父さんと一緒に過ごす時間が増えるならそれは良いことだろう。
「まぁ、夫婦ごっこ、って感じですかね」
もうすでに夫婦だから、ごっこという表現はちょっとおかしいかもしれないけど。
でも私の中で、まだまだオリヴァー様は他人に近いから。
「……わかった、週1回は休みを取れるように調整してみる」
オリヴァー様は私の提案に、あっさりと頷いてくれた。
そう、この人は誠実な人なのだ。しっかり説明して、必要性を理解してくれたら、向き合ってくれる。
「……俺からも一つ良いだろうか」
窓の外は暗く、室内の灯りを反射して鏡のように私たちを映している。
向かい合ってお茶をしている二人の男女は、まるで仲睦まじいように見える。
「俺にも、敬語はなしにしてくれないだろうか。レオに話すみたいに」
「……いい、けど」
「呼び方も、様をつけるのは辞めてほしい」
「……オリヴァーくん?」
「リヴィでいい」
「リヴィ」
「うん」
名前を呼んでみると、オリヴァー様──リヴィは嬉しそうに表情をほころばせた。
いつも、無表情なのに。ほとんど表情が変わらないのに。
──突然笑うなんて、ずるい。
動揺を隠すように、私は慌ててすっかり冷えたカモミールティーを飲む。
……私は、彼の顔は好きなのだ。
なんだか色んな話をしたからか、頭の中が疲れてぼんやりする。
「夫婦ごっこの一環として、」
なんでこんな提案をする気になったのか、自分でもわからない。夜の空気に飲まれてしまっただろうか。
「……とりあえず、キスしとく?」
ぽろりと言葉が口をついて出た。
──実はずっとしてみたかったんだ。
あまりにも綺麗なその、作り物めいた顔に触れてみたかった。体温を、命を感じて、安心したかった。
「──したい」
表情の変わらないリヴィ、だけどその瞳は熱っぽい欲動を灯していて。
そうっと指を伸ばして、頬に触れてみる。
……あたたかい。
初めての口付けは、カモミールティーの味がした。
貴重な時間を使って読んでいただいてありがとうございます。
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あっという間に6000PV、ブックマークも増えて、先日はローファンタジー部門デイリー70位に入りました。
これからもコツコツ勧めてまいりますので、よろしくお願い申し上げます。




