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11.孤児院(集団)に行こう

2000PVありがとうございます!

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「レオくんを集団に入れたいです」


 この間夕食を共にしてから、オリヴァー様は1週間のうち数回は帰ってくるようになった。以前のことを考えたらすごい進歩だ。

 一緒に夕食をとることが増えるうち、レオくんもオリヴァー様に慣れて、自分から話しかけに行くようになった。それに伴って、私もオリヴァー様に少し気安く話しかけることができるようになって来た。


「いま言葉が急成長していて、人への興味も出て来ています。なので、いま同世代の集団に入ることによってさらに言葉も伸びると思うんです」

 

 しかしこの世界に幼稚園はない。

 貴族はみんな家庭教師をつけて学び、6歳で学園に入園してそこで初めて集団に入る。それまでは母親のお茶会についてきた子ども達だけで遊んで、社会性を学んでいくらしい。けど……


 まず、私にお茶会をする相手がいない。

 学園の時の友人たちは、みんなまだ結婚したてだったり婚約中だったり、要するに子持ちはいない。

 公爵夫人としての仕事に多分お茶会、サロンを開くことも含まれているけれど、──まだオリヴァー様に公的な社交界でのお披露目をされていない私が公爵夫人としてサロンを開くのは、少し先の話になる。


「もうすぐ社交シーズンも始まるだろう。それからでは駄目なのか?」


 社交シーズンはイギリスだと夏だったみたいだけど、この世界では冬だ。

 冬も雪に閉ざされる地方はない四季の緩やかなこの世界では、わざわざ夏にシーズンを置く必要がなかったみたい。特に夏は食べ物も傷みやすいしね。農民の出稼ぎが増える冬に、雇用を増やす意味も兼ねて、シーズンを置いたそうだ。


「それでもいいんですけど、……お茶会で集まる子ども達の集団に急に混ざるには、まだ不安で。まずは私が見守りの元で、どこか集団に入れたらなって……」


 お茶会では私も社交という仕事をしないといけないため、私もレオくんを見守れない。

 もちろん使用人たちは見守っていてくれるだろうけれど、保育の専門家でないわけだし、定型発達の子ども達だけならまだしも、──特性を持つレオくんは荷が重すぎるだろう。


「ふむ、──それなら孤児院はどうだ?」

「孤児院ですか?」

「ああ。慰問も兼ねて、レオと行って来てはどうだ? 子ども達に混ざって遊べるし、君もレオを見守れる」


 そもそも慈善活動は貴族の義務だ。孤児院への寄付や慰問は割とポピュラーな慈善活動だけど、だいたい寄付だけして慰問は使用人任せ、という貴族が多い気がする。

 そうか、確かに孤児院なら子ども達もたくさんいる!


「行きたいです!」

「承知した。では近日中に慰問に行けるように手配しよう」


 オリヴァー様はさすが国王の片腕として政治で手腕を振るっているだけあった。

 あっと言う間に調整してくれて、3日後には私とレオくんは、孤児院の門の前にいた。




 まず院長先生に寄付金を手渡し、それから孤児院の中を簡単に案内してもらった。レオくんは初めての外出にテンションが上がり、廊下の端まで走ってみたり、廊下に貼られた当番表を指差して何か言ったりと、楽しそうに振舞っている。

 院長先生はふくよかな体型の年配の女性で、子ども達とすれ違うたびに親しげに声をかけている。子ども達もみんな溌剌としていて、顔色もいい。この孤児院は、きちんと適切に運営されているのだろう。

 最後に案内された食堂では、5歳くらいの女の子が水を飲んでいるところだった。


「院長先生、その子だれー?」

「こちらはラピスラズリ公爵家からいらしている、公爵夫人様とご子息のレオ様ですよ。今日はみんなの元気な顔を見に来てくださっているんですよ」

「ふぅん、そうなんだ! いまね、アリス様が絵本読んでくれてるよ! 一緒に行く?」


 女の子がにっこりと笑って、レオくんに手を伸ばしてくれた。でもレオくんはビクリと身を震わせて、慌てて私の後ろに隠れてしまった。


「かくれちゃった! どうしたのー?」

「ごめんね、レオくんはとっても恥ずかしがり屋さんなのよ。誘ってくれてありがとうね」

「いいよ! またね!」


 あっさりと去っていく女の子の背中を、私の後ろからチラチラと伺うレオくん。興味はある様子だった。そんなレオくんの様子を見つめながら、院長先生はゆっくりと口を開いた。


「──ラピスラズリ公爵様からは、簡単に事情は伺っております。なんでも、ご子息は成長がゆっくりだとか」


 女の子が完全に見えなくなって、レオくんは私の背中からそろりと離れる。女の子が去っていった方をチラチラと気にしながらも、さっきまで女の子が座っていた椅子に手を伸ばして、座ってみたり降りてみたりを繰り返している。


「ここの子ども達は、親と死別したり、貧困で育てられないと預けられることが主ではありますが、……成長の遅い子どもが門の前に置いていかれることもしばしばございます」 


 ──なるほど。療育施設もなく福祉も発展していないこの世界では、……障害のある子どもは切り捨てられてしまうのか。もちろんレオくんみたいに家で育てられるケースも少なくはないのだろうけれど、……こういう話を聞くと、胸が締め付けられてしまう。


「そういう子ども達を育てるのは、人手がかかります。人を雇うには、……お金がかかります。ですので、こうやって慰問に来ていただけるのは本当に有難いのです」


 確かに、知的障害があったり発達特性があったりする子ども達を育てるには、物理的に人手がかかる。

 日本では知的障害を持つ子どもには療育手帳、発達障害の子どもには精神障害福祉手帳を発行することで、公的な支援を受けることができるようにはなっていた。障害の重い子ども達へは、特別児童養護手当や障害児福祉手当などの制度も充実していた。

 この世界にはそういった手助けがない。


「あの、もし良ければ、──定期的にこちらに慰問に来ても良いですか? その代わり、レオくんをみんなと一緒に遊ばせたいのです」

「ええ、こちらとしては大歓迎ですよ。いつでもいらっしゃってください」


 院長先生はにっこりと笑った。私も当初の目的をお願いすることができてホッとする。

 母子通園の療育園みたいな感じになるかな。社交シーズンになって公爵夫人としての仕事が始まったら、もしかしたら頻繁には来れなくなってしまうかもしれないけど。それまでにレオくんがここに慣れてくれたら、私が行けない時は誰かに付き添いをお願いしてもいいし。通えるうちに、なるべく通おう。

 

「今日はこの後、どうなさいますか?」

「子ども達が遊ぶところを少し見せてもらえますか? レオくんは初めてのことが苦手なので、次来るときに一緒に遊べるように、イメージをつけさせて欲しいんです」

「もちろん構いませんよ。では行きましょうか」


 歩き出した院長先生について、私とレオくんも外に出る。

 食堂のすぐ外は中庭になっていて、そこには子ども達が集まって、一人の少女を囲んでいた。茶色の長髪を後ろで一つにまとめ、橙色の瞳は優しそうに細められ、子ども達に絵本を読み聞かせている。顔色は白く、唇の色は薄い。どことなく線の細い、儚げな印象を持つ少女だった。


「本日は、カーネリアン伯爵家からアリス様も慰問にいらしてくださっているんです。週に1回は寄ってくださっているんですよ」


 カーネリアン伯爵家と私の実家のタンザナイト伯爵家は交流があり、その関係で私もカーネリアン夫妻とは夜会でご挨拶させていただいたことがある。お会いしたことはなかったけれど、確か15歳になる娘さんがいたはずだ。そうか、この子が。


「レオくんも一緒にお話し聞いてくる?」


 念の為に聞いてはみたけど、予想通りレオくんは嫌々と首を振って、私の足にしがみつく。でもしがみつきながらも少女が読んでいる絵本を見て、一緒に話を聞いているようだった。

 今日のところはまぁ、これでいいかな。

 レオくんを安心させるように背中を撫でながら、私も少女の絵本の読み聞かせを見つめた。



貴重なお時間を使って読んでいただき、ありがとうございました!

感想や、☆の評価をいただけるととても嬉しいです!


今回はストーリーを進めるためのパートで、療育らしさがあまり出てこず申し訳ありません……

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