こんなのぼったくりのクソ店舗デース!
ブルアカ夏イベきたー!ティーパーティー水着やったー!
本作もいつか水着回をやりたいです。更新、頑張るぞい!
騒動の翌日、私とスズは久我山ズイの経営するメイド喫茶「マハラニ★萌神殿」へと向かった。
お店は爆走寺ビル碌号館の4階にあり、客席は10坪くらいとこじんまりしている。多国籍のアジアンテイストな内装で、母娘らしき2人のメイドとズイが料理の準備などをしていた。
奥のスタッフルームへと案内されると、休憩スペースには昨日カードバトルしたメンヘラ大馬鹿女とその友達である不思議ちゃん風な少女が座っていた。
「あ!昨日のクソチビ!ここのカレー食べた?めっちゃウマいわよ!」
「食べてない」
「はぁ!?ちゃんと食べなさいよ!そんなんだからいつまでもチビで成長しないのよ!」
「やめなよヘラちゃ~ん。もう成長の見込みないんだから可哀想だよ~」
「なははっ!たしかにレンの言う通り!見込みなしっ!ウケる!」
「キレそう」
「あぁ……スルメちゃん、どうどう」
こんなときアホムラがいれば八つ当たりできるのだが、スズにビビっているのか、今日はリリカたちと遊ぶためにデッキに引きこもると言っていた。肝心なときに役に立たない雑魚だ。
ひとまず、ヘラたちとBSS団とのつながりについて聞く。すると驚いたことに、まったくの無関係だった。どうやら何者かに襲撃を受けたコンカフェに散乱していたカードを全部盗んで、自分のデッキとして使っていたらしい。倫理観どうなってんだ。
「マジ働きやすい店だったから良かったのに1回の襲撃くらいで萎えて閉店しやがったの!まぁ使えそうなカードとか小銭とか金目のモノはもらったからいいけどさ!」
「でもヘラちゃんの盗ったカード、いつの間にか絵とか効果が変わっちゃったね~」
「ほんと不思議!BSSとか爆撃とかオリジナルで派手なのが良かったのに!【ソード・ファイター】みたいなコモディティカードになるとかサイテー!これ、都落ちってやつ!?」
「格落ちじゃない?」
「それそれ!」
コモディティカードとは、誰もが扱えて大量に市場流通しているカードを指す。だいたい数千円もかからず40枚くらい揃うはずだ。ただお世辞にも強いカードとはいえない。たとえばアタッカーでいえば、外資のヘンテコジジイが使っていた超レアカードと違い、効果がない上にAPも平均並みかやや低い。
それでも我が【JKガールズ】カテゴリの方が、コモディティカードよりもAPは低いのだが。とんでもない雑魚どもだ、まったく。
モラルのないヘラとレンの会話に若干引きつつもスズが問いかける。
「えっと……じゃあ、もともとは、その、お二人のカードではなかったんですね」
「そゆこと!強かったから気に入ってたんだけどね!ホスクラとかバイトで嫌なヤツらをボコボコにできたし!失ってわかる悲しさってヤツだわ」
「たしかあれってチョ店長の持ってきたカードだよね~?昇進祝いだガハハとか言ってた気が~」
「チョ店長?」
「私とヘラちゃんが働いてたコンカフェの店長ね~。チョ・ドングってオジサンだよ~。ニューコウライ出身で~すっごい野心家なの~」
どうやらその店長が怪しそうだ。おそらくBSS団と関係があるのもそいつだろう。なんだかRPGみたいにストーリーが進んでいる感じがして楽しくなってきた。
「ねぇ、そのチョってヤツはどこに行けば会えるの?」
「スルメちゃん……?どうしたの?危ないからやめようよ……」
「まぁ、まぁ。いいからいいから」
「もう……仕方ないんだから……」
「わかんない!自分のコンカフェを襲撃されてからどっかに雲隠れしたんじゃないの?」
「最近、増えてるみたいだね。コンカフェ襲撃」
「噂では20件近く襲撃されてるとか~?コンカフェが潰れると私たちも働き口にありつけなくて困る~」
「あーこが働いてた店も襲撃されて閉店したわね!痛客の悪口大会で盛り上がったクソ店だからよく覚えてる!」
「みぃちゃんのいた店も酷かったよね~。床一面がガラスで足の見えるチャイナ服着用とか趣味悪すぎ~。わざとガラス割ったらクビにされたし~。襲撃されて潰れちゃったけどさ~」
「それを言うなら『ヘテロな百合園』の方が最悪だし!クソ客多すぎてウチらだけで10回くらいオッサンぶん殴ったじゃんね!閉店ざまぁみろってのよ!マジで襲撃犯サマサマだわ!」
家出少女って大変そうだなぁと思ったけど、話を聞く限りこの2人は随分と図太い。どうやら問題を起こしていくつかの店舗で出禁になっているらしい。クソ客はお前らじゃい。
ホビーアニメの都合上か、少子高齢化を理由にこの世界では成人年齢が12歳だ。中学生くらいの2人が好き勝手に色々なコンカフェで働けるのは良いことだが、そのせいか傾奇町には家出勢がとにかく多い。NPOやカンナさんたち自警団などが対応しているらしいけど、課題は山積しているとか。
そんな話をしていたら、ホールからやってきたズイが神妙な顔で会話に加わってきた。
「あの店は百合カップルの片方を寝取るってコンセプトでしたね。キャストの子たちに乱暴をはたらくスタッフと悪質な男性客が多く、同業者として悪い印象しかありません」
「なんですかその吐き気を催す邪悪。許せない。知的生命体の恥」
「落ち着いてスズ、どうどう。にしても、悪意あるコンセプトだね。コンカフェってそういう店ばっかりなの?」
「最近はコンセプトへの熱意と愛のある店舗が減っているのです。代わりに勢力を広げているのが、大資本がバックについた粗製乱造の店舗ばかり。奴らはいかがわしいサービスを提供してお客様から金を搾り取ることしか考えていません」
ズイは忌々しそうに拳を握りしめている。コンカフェ経営者兼店長として思うところがあるのだろう。何か彼女の誇りのようなものを感じた気がした。
すると、愛しの幼馴染のスズがおずおずと手をあげた。
「あの……ズイさんの意見だと、コンカフェってコンセプトへの愛、が大切なんですよね?」
「左様でございます。それがなければコンカフェをやる意味なんてありません」
「えっと、カレーとかデュイニアンパル、お好きなんですか?」
「可もなく不可もなくといったところです」
「あー……そう、なんですね……。メイドは、好きだったり……?」
「そこそこでございます」
「えー……?」
デュイニアンパルとは前世で言うところのインドやネパールなどに似ている国だ。近隣のマンシン帝国と頻繁に武力衝突を起こしていて、ネトラ連邦とも緊張関係にあるとか。
淡々と受け答えするズイに、スズは何やら腑に落ちない表情を浮かべている。
「どうしたのスズ?そんなにカレーとメイドのこと好きだっけ?」
「ううん、違うのスルメちゃん。カレーは普通に好きだけどそこまでこだわりはないよ。メイド服はスルメちゃんが着てくれるなら大歓迎だし最高なんだけど、他の人が着ても別に萌えないからどうでもいい」
「お、おぅ……」
「あのね、スルメちゃん。ここからキッチン横にある窯って見える?」
「あー、なんか大きなヤツがあるね」
「あれはタンドールって言って、カレーのナーンとか焼くのに使う特別なものなんだ」
「……ん?メイド喫茶なのに何でそんな本格的な設備が?」
「僭越ながら申します。タンドールがある飲食店には税制優遇があるほか、デュイニアンパル出身の従業員の就労ビザ取得に有利なので導入しております。法律上欠かせない戦略的な設備です。そうでもなければあんな大きくて邪魔なもの好き好んで置きません」
コンセプトへの熱意やら愛はいずこへ?
私とスズが白けた眼を向けるとズイは、ゴシゴシと力を込めてカトラリーを拭き始めた。
「グルメサイトをご覧いただくとわかりますが、当店はメイドとのチェキ撮影も可能な本格カレー屋さんでございます。デュイニアンパル出身のメイドが本場さながらのカレーを振る舞っているのが強みです。しかも明朗会計でいかがわしいサービスもないクリーンなお店であります」
「この前はメイド喫茶って言ってたじゃん」
「コンカフェとして事業登録すると、風俗営業許可が必要となり規制も厳しくなります。その点、カレー屋さんならば飲食店営業許可になるので緩やかな規制の下で営業できます。ゆえに当店はメイド姿の女性店員と交流できる本格カレー屋さんを標榜しています」
「詭弁じゃん」
「厳しい世界を生き抜く処世術と言ってください。低原価サイコー、でございます」
「その……ズイさんも大概、金の亡者のように思えますけど……」
そんなことを話していると、店内からメイド姿の褐色少女がやってきた。カレーと大きなナーンがのった銀色のプレートを両手に持っている。
「はいカレーセット。おかわりのナーンいる?」
「いらない」
「ハーフナーンできる」
「いらない」
「一口ナーンどうぞ」
「いらな、もがっ!」
「スルメちゃん!?大丈夫!?」
いきなりおかわりナーンを口に押し込まれた。なんて酷いメイドだ。
ゲホゴホとむせていたら、スズにぎゅっと抱きしめられて背中をさすられる。むほほ、おっきなお胸がおでこに。優しい手つきとおっぱいにメロメロになってたら、褐色少女から冷たい視線を感じた。
よく見ると顔立ちの整った美少女で、おそらくは同年代だ。少し青みがかった光沢のある黒髪ショートは、やや内巻きに整えられている。表情は理知的でクールな印象を与え、ダークブラウンの瞳からは力強い意志を感じた。知的なエリート然とした風貌だと思う。
ただし、私並みのつるぺたでスレンダー体形だ。こっちは将来性がなさそう。そんな考えを見透かされたのか、褐色少女は長いため息を吐くと、ゴミを見るような眼を向けてきた。
「お前、気持ち悪いな」
「は?」
「あと店長バカにするな。私とママの恩人」
「お客様を窒息死させかけておいて何様なの?」
「臆病な者は愛を表明することができない。愛を表明するとは勇敢さの現れである」
「は?」
「つまり敵を退けることは愛の表明」
「申し訳ございません。この子はちょっとマゾ向けサービスに特化したメイドでございまして。ヴリンダ、クソガキサマに形だけの謝罪を」
「サーセンシター」
「ぶっ飛ばすぞ」
あっかんべえと舌を出してくるヴリンダに腹が立つけど、とりあえず提供されたカレーを食べることにする。ふむ、なかなか美味であるぞ。
「それより店長。クレーマーでた」
「わかりました。どのような方ですか?」
「えっとね」
「ホワッツ!?ノー!アンビリーバボー!カリーセットが4000円なんてクレイジー!責任者出てきやがれデース!」
「あの人」
うわぁ……なんだか聞き覚えのある声だ。
スズやズイと一緒にスタッフルームからひょこっと顔を出すと、カウンター席で怒っている男がいた。カードバトル大会で戦ったゴールドマンとかいうヘンテコジジイだ。ビーチでくつろぐサングラス姿のゴリラの顔がでかでかと刺繍されたピンクと紺のグラデーションカラーのスーツを着ている。相変わらず趣味が悪い。
ヘンテコジジイに怒鳴られているメイド姿の20代くらいの女性は困惑している。どうやらあまり日本語が喋れないようだ。
「アー……アム……アー……」
「なにママ?」
ヴリンダが通訳するようだ。耳に寄せてこしょこしょと話している。母の言いたいことを理解したメイド少女はヘンテコジジイに指を突き付けた。
「チェキはプラス3000円」
「いりまセーン!というかチェキ撮影も高すぎマース!」
「生活かかってるから。腹が空いていては哲学は語れぬ」
「哲学うんぬんよりもまず常識が足りてまセーン!こんなのぼったくりのクソ店舗デース!」
かえってややこしくなっている。仕方がないので、スタッフルームから出た。
「オジサン久しぶり。なにしてんの?」
「オー!これはこれはいつぞやのクソガキッズではありまセーンカ!ミーは今、本場のカリーをいただいていたところデース!ナマステー!」
「カレー好きなんだ?意外」
「ノンノン!ケツコンバレーなどのクライアントとの話題作りのためデース!そう!フリーダム・ユニオンの西海岸ではヨーガの精神がトレンドとなっているのデース!カリー!エレファント!アーンド、ニュークリアーパワー!」
「あの……それってヨーガの精神では、ないんじゃあ……」
「オー!ワッツ・ア・デカパイキッズ!アンビリーバボー!」
「あぅ……スルメちゃあん……」
「おースズ、よしよし」
なんてデリカシーのないヤツだ。多様性だなんだ言ってるくせに、恥を知れ。
怯えているスズを宥めながら、ヘンテコジジイを睨みつける。
「愛しの幼馴染をよくも傷つけてくれたな。私とカードバトルしろ。目にもの見せてやる」
「望むところデース!雪辱を晴らすとともにフリーカリーをゲットしてやりマース!カードバトルで勝ってすべてをもぎ取るのが我がシルバー・セックス・スタンリーのやり方デース!」
「は?勝ったら無料?なぜゆえ?クソガキサマ?」
なんかズイがキレてるけど、無視だ無視。さっそくガラガラの店内でカードバトルだ!
個人的にヘンテコジジイはなんか気に入っているのですが、皆様はお気に入りのキャラとかいますか?いたら教えてください!




