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カードゲーム世界でサイコロリ扱いされてるのだが???  作者: 53860
グロと絆のパワフルコンボ!勝ち進めトーナメント編
12/28

獣じゃなきゃダメみたい

トーナメント戦だとサブキャラの試合がダイジェストになったりしますよね?

つまり、そういうことです。なんてこった!

あくまでこの作品の主人公はカスちゃんなので……。

ただ、いずれまたカスちゃん目線でもホクト君には活躍してほしいと思ってます、はい。


「オレは【ファリーアニマル・ラットガール】の召喚時効果を発動する!コイツは手札を1枚捨てることで、山札から【ファリーアニマル】アタッカー1体を墓地に送れるぜ!うおおお!漆黒のダークネス墓地送り!」

『なんなのこのクソガキ……』

「いちいちダークネスって付けてるのウケる」

「そしてオレは墓地に送った【ファリーアニマル・ラビットガール】の効果を発動だ!コイツは、手札か山札から墓地に送られたとき、山札から【ファリーアニマル】アタッカー1枚を手札に加えるぜ!オレは【ファリーアニマル・ドッグガール】を手札に加える!魂のダークネス手札追加!」


 ホクトの宣言とともに、墓地から真っ白なウサギ娘が登場した。大きな赤目はキラキラさせながら、白くて可愛らしい前歯を見せつつクスクスと笑っている。やはりケモノ要素がキャラクターの半分以上を占めているだけに、骨格など元となった動物の身体的特徴が目立つ。

 鼻をひくつかせながらピコピコと長い耳を動かすと、上半身だけホクトのデッキに突っ込んだ。足をせわしなくばたつかせると、お目当てのカードをホクトに手渡し、彼の頬にキスすると墓地に帰った。


「来たな!ホクトのダークネス・コンボ!」

「クックック……今から見せるのは、スーパー・ダークネス・コンボだぜ!」

「なにぃ!?すげーぜ、ホクト!たった一週間でパワーアップするなんて!くぅ~!ワクワクしてきたあ!」

「なんでこいつらこんなイチャイチャしてんの?愛し合ってるから?」

『マスターそれ以上はいけない』

「墓地の【ファリーアニマル・キャットガール】の効果だ!コイツは自分の場に【ファリーアニマル】アタッカーがいるとき、ELを1000ポイント減らすことで1ターンに1度、特別召喚できるぜ!」


 ホクトの呼びかけに応じるかのように、墓地から猫娘が飛び出してきた。三角形にとんがった大きな耳をピクピクさせながら、手を舐めている。さらしを胸にまき短パンをはいた少女だが、茶トラの体毛がモフモフしていて、若干太いながらもくるんと立てていて、なんとも愛らしい。


「まだまだぁ!【ファリーアニマル】アタッカーを特別召喚したことで、オレは手札の【ファリーアニマル・ドッグガール】の効果を発動!コイツも特別召喚だ!」


 場にあらわれた犬娘は、モチーフが柴犬だろうか。人懐っこい笑顔を浮かべて、ホクトの顔をぺろぺろと舐めている。顔や体つきには若干ながら丸みがあり、きらりと見せた小さな八重歯はどことなく幼さを感じさせる。

 可愛いながらもそれなりのAPを持ったアタッカーが一気に3体も並んだことで、実況のオジサンはテンションマックスで会場を盛り上げる。


「なんてことだー!すごすぎるぞホクト選手!召喚権を消費しない特別召喚を駆使することで僅か1ターンで3体のアタッカーを並べたー!これぞ誰もが何にでもなれるケモノの楽園!彼とケモノ娘たちの信頼、そして愛情が圧倒的な盤面を作り上げたにちがいなーい!」

「オレはスペル2枚を伏せてダークネス・ターンエンドだ!さぁ来い!ショウタ!」

「行くぜホクト!俺のターン!ドロー!」


 なるほど。手札・山札からカードを墓地に送ったり、特別召喚を連鎖させたりすることで、アタッカーを大量展開していくのが【ファリーアニマル】のコンセプトか。上手くやれば1ターン目から生贄が必要なトップグレードアタッカーを召喚できそうだ。展開スピードが速いので、ショウタも悠長に武装カードを何枚も使ってチマチマと強化してはいられないだろう。

 それにしても、見ていて腹が立つのが【ファリーアニマル】アタッカーの打点の高さだ。【ファリーアニマル・キャットガール】はAP1100、【ファリーアニマル・ドッグガール】がAP1200と平均並みだ。一番APが低い【ファリーアニマル・ラットガール】でさえ、AP700ポイントもある。私の【JKガールズ】カテゴリのアタッカーで、戦闘破壊できるヤツはそう多くない。

 ホビーアニメにおけるライバルキャラというのは、主人公と人気を二分するような存在だ。使っているカテゴリもかなり優遇されていて、アニメのストーリーにあわせて定期的に新カードが出るなどの強化が入りやすい。

 ついでに、少しキャラは濃いけど中性的な美少年だし、カッコいい部類であるショウタとのカップリングはウケがよさそうだ。ホビーアニメの腐向け二次創作というのは隠れたメジャージャンルだし、ショウホク(ショウタ×ホクト)も淑女の皆様に刺さるのではなかろうか。2人のやり取りを見ていても良好で濃密なライバル関係にあるというのがわかる。


「相手の場にのみアタッカーが存在するとき、俺はハイグレードアタッカー【小さな馬車の勇者ライアン】を特別召喚できる!出てこい異世界の希望の光!少女への想いを胸に戦う小さな勇者よ!」

「ハンッ!AP1000のノーマルグレードアタッカーなんか敵じゃないぜっ!」

「それはどうかな?俺は武装カード【スーパーソード】を、場の【小さな馬車の勇者ライアン】に装着!これでコイツのAPは1500にアップするぜ!」

「ショウタ選手、ホクト選手の大量展開に引けを取らないプレイング!生贄なしでハイグレードアタッカーを召喚しつつ、武装カードで手堅く強化!これぞ質実剛健の優れ技だー!」

「そして俺は手札からアタッカー【小さな馬車の修道女ミレイナ】を召喚!コイツの効果で場にいる【小さな馬車の勇者ライアン】はAPが1000ポイントアップだ!」

「うおっ!?でっか!Fカップくらいあるでしょっ!」

『うわっ…………マスターぁ……』

「クッ……流石は我がダークネス・ライバル。まさか1ターン目からAP2500のアタッカーを出すなんて……まぁまぁやるじゃねぇか」


 ショウタと同年代くらいの【小さな馬車の勇者ライアン】は、小学生にしては身長がやや高く肩幅もしっかりしている。よく知らないが、おそらく額に傷のあるガキ大将と言ったところだろうか。背丈よりも大きなメイスを背負っており力自慢なのがわかる。

 そんな彼に駆け寄ったのが、おっとり系のマイペースな雰囲気の修道女だ。シスター服がはち切れんばかりに大きな胸をバルンバルンと揺らしながら走ってきた。大学生くらいの少女は薄いピンク色の長髪をなびかせると微笑んだ。

 おそらくライアンはミレイナのことが好きなのだろう。つんけんした態度をとりつつも、頬を染めながら目をそらしている。ただ、ちらちらとおっぱいに目がいってるのがバレバレだ。そんな初心な彼の頭を、ミレイナは優しく撫でる。

 恥ずかしがったライアンは、少女の手を振りほどくと、自信ありげに自分の胸を叩いた。きっと、俺が姉ちゃんを守ってやる、とでも言ったのだろう。ミレイナは嬉しそうに小さく拍手している。

 それにしてもホクトもショウタも、なぜミレイナの胸に気をとられないのだろうか。男の子ならば前方不注意になってでもガン見するはずなのに。まさか、やはり2人は……ごくり。


「ファイトシーンだ!俺は【小さな馬車の勇者ライアン】で、ホクトの【ファリーアニマル・ドッグガール】」

「甘えなショウタ!オレはカウンタースペル【アニマル・バックキック】を発動だぁ!【ファリーアニマル】アタッカーを戦闘で破壊した相手アタッカー1体を墓地に送るぜ!」

「そんなっ!【小さな馬車の勇者ライアン】が墓地に行っちまった!」


 攻撃を受けてよろめいた【ファリーアニマル・ドッグガール】だが、後ろ蹴りで反撃するとその場にうつ伏せで倒れて消滅した。思いもよらぬカウンター攻撃を受けた【小さな馬車の勇者ライアン】は勢いよく吹き飛ばされて地面を滑っていく。

 心配のあまり再び胸を大きく揺らして駆け寄るミレイナだったが、時すでに遅し。グルグル目で気絶したライアンは、光の粒子となって消滅した。なんともコミカルな戦闘だ。


「さらにカウンタースペル【アニマルハンター・ハンター】を発動するぜ!【ファリーアニマル】アタッカーが戦闘で破壊されたとき、山札から【ファリーアニマル】アタッカー1枚を手札に加えて、相手のファイトシーンを終了させる!オレは【ファリーアニマル・タイガーレディ】を手札に加える!」

「くそぉ!なら俺はスペルを3枚伏せてターンエンドだ!」

「ホクト選手のELは1700ポイントだが、場にはアタッカーが2体!対するショウタ選手はEL4000ポイントで3枚のスペルを伏せているが、アタッカーは僅か1体!この勝負まだまだわからないぞー!」


 一進一退といったところだろうか。おそらくホクトは次のターンにトップグレードアタッカー【ファリーアニマル・タイガーレディ】を生贄召喚するはずだ。ちらりと見えた感じAPは2500らしいが、どのような効果を持っているかで有利・不利も大きく変わってくる。

 目の離せないカードバトルに会場は大盛り上がりだ。観衆たちは歓声をあげ、両選手を応援している。

 ただ、ファイトシーンを見ていると、どうにもムズムズしてしまう。なんというか、刺激が足りないのだ。

 さっき犬畜生をガキが叩き切ったときも、低年齢向けアニメのようなアクションシーンだった。おかしくないか?もっと派手に血しぶきが飛んだり、目を覆いたくなるほどにハラワタをぶちまけたり、脳に響くような断末魔をあげたりしてもいいと思うけど。折角の大型アリーナと最先端のAR技術を腐らせているではないか。


「……つまんない。もっと楽しい試合をしてほしい」

『えっ?どこが不満なのさ?お互い一歩も引かないバトルですごく面白いじゃん!』

「もっと血の飛びち……血の沸くようなバトルをすべき」

『今のはただの言い間違えだよね!?ねっ!そうだよねっ!?マスター!?』

「悲鳴と絶叫が足りない」

『あらやだこのサイコロリ阿鼻叫喚を求めてる!やっぱり好きでグロカード使ってるじゃん!なぁにが冷静沈着で理路整然としたデッキ構築だよっ!!』


 そんなことないもん。

 強いカードが総じてグロテスクなヤツしか手元にないから、仕方なく採用しているだけだ。強いカードを正しく使うと今のデッキになるってだけだし。こんなカードゲームが全ての殺伐とした世界で、趣味全開なデッキを使うわけがないじゃないか。

 仮にグロ効果のない強力なスペルが手元にあれば、それを使うに決まっている。だってデッキは40枚以上なら、何枚あってもいいのだから。今までのグロテスクなカードは1枚も削減せずに有難く使わせていただく所存だ。


「だいたい、チマチマしたバトルなんか見てて楽しい?」

『一進一退の白熱バトルをそう表現するんだ……』

「クソガキ2人がイチャイチャしてるのを見ても面白くないもん」

「まったくもってその通りね」


 いきなり背後から声がしたので、咄嗟に振り返ってしまう。

 見上げると真っ黒なスーツをキチンと着こなした若い女性が立っていた。若干、青みがかかった黒髪ロングで三つ編みハーフアップと強い意志のこもった青紫の眼が印象的だ。スレンダーながらすらりと伸びた手足で、ファッションモデルのようにスタイルも良い。

 てか、リボンでかいな!後ろ髪を後頭部のあたりで結っている純白のリボンは、女児アニメのアイドルキャラかってくらいに大きい。小顔なせいか顔面の半分くらいあるように見えてしまう。オトナっぽい雰囲気のバリバリな女性なのに、なんともアンビバレントだ。


「初めまして、神引スルメさん。私は公荘レジィ」

「……初めまして、クソウさん」

「ところで。貴女カンナちゃんのなんなの?」

「…………はい?」

「貴女。カンナちゃんの。なんなの」

「ただの昔なじみの常連、ですけど?」

「嘘をつくなァッ!!」

「!?」

『ウェッ!?』


 近くで突然大声をあげられたせいでビクッとしてしまった。

 てっきり知的で冷静なオトナの女性かと思いきや、狂気的で落ち着きのない獰猛な獣だった。気のせいか目元が暗くなっていて狂気を感じさせる表情だ。怖い。


「どうせその浮き世離れした顔でカンナちゃんを誘惑したんでしょッ!この意地汚いメスがッ!」

「別にカンナさんとはやましい関係じゃない。いつだって私は幼馴染一筋」

「私にはわかんのよッ!なんたってカンナちゃんが赤ん坊のときから幼馴染なんだからッ!ほぉ~ら!私の中の泥棒猫レーダーがビンビンに反応してるわァ!カンナちゃんに甘い声で尻尾を振るこの泥棒猫がッ!」

「そのレーダー壊れてますよ」


 なんだこいつ。他人の話を聞けよ。

 というか、いい加減に頬から手を放してほしい。さっきから両頬をものすごい力で挟まれているせいで、口がすぼんでしまって話しづらいったらありゃしない。あと視界の端でアホムラが、私の顔を見て爆笑しているのがムカつく。

 ただ悲しいかな、ヒス女は顔面に唾が飛んできそうなくらいに顔を近づけて吠えた。


「昔っからカンナちゃんはそうなのよ!私という幼馴染がいながら他の女をとっかえひっかえ!ズッコンバッコンしてばっかり!」

『え……元ヤンのお姉さんって実はプレイガール?』

「傾奇町の女は全員カンナさんのお手付きって噂なら聞いたことがある」

「事実よ!両手じゃ数えきれないくらいメスを食い散らかしてたわ!なのに!いつでもウェルカムむしろヤらせろってアピールしている私は完全に無視!だから腹いせに今までカンナちゃんと関係を持ったクソメスは全員漏れなくギッタンギッタンにボコしてやったわ!」

「うそでしょ……」


 どうしてこの世界のカードゲーマーは、他人を好き勝手ボコボコにするのだろう。良識とかないのか?イカれてる。私みたいにマナーとルールを守っていて節度のあるプレイヤーをもっと見習ってほしい。

 どうやら自分の世界に入ってしまったらしいイカレ女は、ミュージカルでも演じるかのごとく手を伸ばして独白を始めた。


「嗚呼、カンナちゃん……どうして私を捨てたの?私が競合チェーンの娘だから?束縛が強いメンヘラだから?カンナちゃんを監禁しようとした前科があるから?半グレを使って営業妨害したり強引に店を地上げしようとしたから?所属する区役所の権限を悪用して店を潰そうと画策しているから?教えてカンナちゃん。私にはもうワケがわからないの」

「やってること全部アウトじゃん」

『はぁ~……。マスターの周りの幼馴染キャラってさ~、ヤバい奴ばっかりだね』


 げんなりとした様子のホムラは、肩を落としてため息を吐いた。

 は?スズは可愛くて純粋無垢で立派なおっぱいを持ってる理想的なお嫁さんなんですけど?ちょっと愛が重くて犯罪スレスレな行為に手を染めてたりするけど、でも素晴らしい幼馴染なんだから。

 ついでにインリンもきっといい子なはずだ。勝気なツンデレ幼馴染にヤバい要素なんて皆無ではないか。

 なんにもわかっていない愚か者の尻を叩いたらとても良い音がした。さっきからブツブツ独り言を繰り返しているイカれ女に聞かせられないのが残念でならない。

 抗議するアホムラをいなしていたら、突然イカれ女が金切り声をあげた。


「アァァァアアッ!思い出すだけでイライラするッ!昔は愛し合っていたのにッ!お互いの脳髄が熱暴走して蒸発するくらい激しい交尾をしていたのにッ!いきなり他の女が好きになったんだとか言ってフリやがってッ!下半身暴走族かお前はッ!?しかもその後も沢山のメスにちょっかいかけられてワンナイトしまくるなんてッ!本当は私の旦那様なのにッ!私だけの王子様でナイトで下僕なのにッ!どいつもこいつも私のカンナちゃんを寝取りやがってッ!許せない許せない許せないッ!」

『あ!マスター見て!さっきからこのイカれお姉さんの周りに黒い靄が漂ってる!』


 たしかにホムラの言う通り、イカれ女からは大量の黒い靄は噴き出している。周囲を漂うそれらによって周囲の空気がびりびりと振動しているようだ。命の危機を感じるプレッシャーとでもいうべきか、息が詰まるような雰囲気を醸し出している。

 正直、今すぐ家に逃げ帰ってスズによしよしされたいくらいには恐怖心を抱いている。


「本当だ。なんなのこれ?」

『わかんない!けど、とてつもなく邪悪なオーラを感じるよ!下手したら人が死ぬヤツ!』


 冗談じゃない!邪悪な存在が出てきて命懸けの勝負になるとか、そういうシリアス展開は主人公のショウタの管轄じゃないのか!?私みたいなノン主人公が背負うべき重責ではないだろう!

 カードゲームを題材にしたホビーアニメでは、カードを媒介に何らかの危機が訪れる。例えば、悪意に満ちた闇のカードが登場したり、カードによる攻撃エフェクトが物理的なダメージに変換されプレイヤーが被害を受けるような勝負が始まったり、世界崩壊を企む悪の勢力が暗躍して街を滅茶苦茶にしたり。物語を盛り上げるためか、恐ろしい能力のカードを使った殺し合いに発展することが、とにかく多い。

 邪悪なイカれ女がひとしきりヒスって落ち着いたせいか、いつの間にか周りの黒い靄の圧力が弱まっていた。だがしかし、メリメリと音をたてながら両肩をつかんできたイカれ女は、ハイライトが消えた目で私を睨んでいる。怖い。


「まァ……いいわ。どうせ次の準決勝で対戦することになるからね。ボコボコのギタギタにしてやるから覚悟しなさい、神引スルメ」

「準決勝、辞退させていただきます。貴女の不戦勝です」

『ちょっとマスターッ!?リリカのカードはどうなるのさっ!?』

「アハッ!許すわけないでしょうがッ!逃げたりしたら必ず地の果てまで追いかけて嬲り殺しにしてやるからッ!そしたらカンナちゃんの店先にアンタの首でも吊るしてやろうかしらッ!イヒヒヒッ!せいぜい最後のひとときを楽しむがいいわッ!」

「ひえ……」


 一方的にまくし立てるとイカれ女はずかずかと大股で控室を後にした。嵐が去ったのを確認すると、思わず床にへたり込んでしまった。不思議なことに腰が立たない。あと冷房がききすぎているのか、激しい悪寒を感じる。やはり準決勝は欠場すべきだろうか。


『頑張れマスター!大丈夫だよ!もしものときは私が守るから!安心してっ!』


 アホムラは小ぶりな胸を張ってふんぞり返っている。AP1000ぽっちの雑魚が何を偉そうに。

 まぁ……物は試しということでコイツに活躍の場を提供してやってもいいかもしれない。ちょっと武装カードで強化してガードに徹してもらうのもアリだろう、うん。スペルのコストにしてばかりというのも味気ないし。

 決して、イカれ女が怖くてホムラに守ってほしいから、というわけではない。なんたって私はクール系美少女なんだから。どんな対戦相手でも冷静沈着に普段のプレイングをしてやるつもりだ。さきほどから止まらない震えも、きっと武者震いにちがいない。

 目尻にたまっていた涙を拭うと、ホムラの服の裾を掴んで念を押した。


「絶対に守ってね。少しでも痛い想いしたら、お前のカードをちぎって再生紙にしてやるんだから」

『ひえ……』


 さっきまでニヤニヤしていたアホムラだったが、いつも通り圧をかけてやったらしおらしくなった。それでいい。二度と調子に乗るなよ。

 刹那、控室に観衆たちのどよめきが伝わってきた。しまった!イカれ女のせいでショウタとホクトの試合を見損ねてしまった!一体、今はどうなっているのだろうか?

 モニターを見ると、そこには四つん這いになり落ち込むホクトと、鼻に指をあてて得意げなショウタが映っていた。テロップには勝者ショウタと書かれている。

 なんてこった!こんな最低なダイジェストになるなんて!ホビーアニメでこんなこと許されるのか!?いや、普通のホビーアニメだったらあんな狂ったメンヘラが出てくることなんてないはずだけど。


「夢でも見ているのでしょうか!?ショウタ選手がなんとカウンタースペルを使いこなし、【ファリーアニマル・タイガーレディ】の攻撃を突き返し、ホクト選手のELを削り切ったー!ファイトシーンでの戦闘を拒否し勝利を奪い取るまさかの展開に会場もどよめきを隠せなーい!今日、勝利の女神を寝取る輩は1人じゃないようです!」

「クソォッ!なんてダークネス・スペル・コンボだッ!そんな戦い方があるとは……オレの完敗だショウタッ!」

「良いバトルだったぜホクト!今度はアタッカー同士のガチンコバトルもしような!」


 ゆっくりと立ち上がったホクトは、ショウタの手をがっちりと掴むと力強く握手した。青春の1ページをなすような理想的な友情といえよう。羨ましい。

 しかし、握手を終えたショウタはびしりとカメラに向かって人差し指を突き出すと、大声で宣戦布告してきた。


「勝利のためならどんな戦術でもハナから否定しないで試す!オレはお前から大切なことを学んだ!決勝戦で待ってるぜ!神引スルメ!今日は俺がお前を倒して優勝するぜ!」

「なんてことだー!ショウタ選手はどうやら外道幼女と少なからぬ因縁がある模様!これは今後の試合からますます目が離せなくなったぞー!」

『えぇ……マスターってば何したのさ……』

「なんもしてない。あのイカれカード馬鹿が勝手に何かを学んだ気になっているだけ」


 まったくいい迷惑だ。

 だが、イヤじゃない。さっきまで変な女にちょっぴりビビっていたが、もう大丈夫だ。今はあの女、そしてショウタとのカードバトルが楽しみでならない。


「いくよ、ホムラ。人語を解さないケダモノを討伐しなきゃ」

『おっしゃー!任せてよマスター!』


 私たちは控室を後にして、会場へと向かった。

 相棒とのパワフルコンボをあのイカれ女に思い知らせてやる。


【ファリーアニマル】

ケモノ要素の強い獣人少女がモチーフのカテゴリ。3DCGを使ったアニメのように元となった動物の身体的特徴が目立つ美少女アタッカーが主体となっている。アタッカーを手札や山札から墓地に送って特別召喚につなげて大量展開していくコンセプト。展開スピードが速いわりに標準的な打点を持つため、ホクトをイメージしたスターターデッキも初心者向けとして人気が高い。

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