くちびるからハンバーグ
やっぱり料理は愛ですね。
自身で作られた料理が貶されて嘔吐されると、食材はどんな気持ちになるんでしょう?
カード同士の掛け合いやプレイヤーとの絆みたいなものがなんとなく伝われば嬉しいです。
*一部重複があり修正しました。大変申し訳ございませんでした……。
「私のターン。山札からカードをドローしてメインシーンに移行。相手の場にのみアタッカーが存在するとき、私は手札からアタッカー【JKガールズ・炎激のホムラ】を特別召喚できる」
『いよっしゃあ出番だ!マスターありがとっ!』
「ホワッツ!?ワン・サクリファイスが必要なハイグレードアタッカーなのに、APたった1000ポイントなのデースか!?ありえナーイ!」
言うなよ、悲しくなるだろ。
観客席からも「なんだあの雑魚カード」とか「アホそうだしAP低いから使えなさそう」とか評価は散々だ。別に自分のことじゃないし、アホムラのことだからどうでもいいはずなんだけど、なんか嫌な気分になる。
無意識のうちにギュッと拳を握りしめていると、ホムラは私の傍に降り立ち、そっと手を握ってくれた。見上げると普段のアホアホなホムラからは想像もできないような優しい笑顔だった。ふむ、まぁ悪くないかな。
ただ、ずっとそうはしていられないので、ホムラの手を適当に振り払うとカードを発動した。
「さらに私はアタッカー【JKガールズ・水麗のシズク】を通常召喚」
「おーっと!スルメ選手はここで2体のアタッカーを並べたぞー!ただAPはどちらも低い!ゴールマン選手のAP1800アタッカーと比べると、低すぎて話にならない!これで一体なにをするつもりだー!?」
うるさいな。これからわかるから黙って見とけ。
ARビジョン上に青髪ロングの魔法少女が登場する。これぞ大和撫子というクールな美少女で惚れ惚れしてしまう。少し冷徹そうな雰囲気はあるが、なぜか私には柔和な態度をとってくれる。現に、私の傍に立つと頭を撫でてくれた。感覚のないARビジョンなはずだけど、なんとなく暖かい感触を感じた気がした。
『マスターってさぁ、シズクのことだいぶ好きだよねー』
「いきなりなに?否定はしないけど」
『ふーん、そうですかー。つーん』
「は?なに?舐めてんの?殴るよ?」
『殴ればー?どうせ私はシズクみたいなお気に入りじゃないもんねー。つーん』
唇を尖らせてそっぽを向くアホムラに、思わず手が出そうになる。面倒くさい女だな。目を凝らすとなんかチリチリと小さな黒い靄が身体の周りにあるみたいだし、いつものコイツとは少し違う気がしてきた。
一体なんなのか見当もつかずにいると、隣のシズクが苦笑交じりに話しかけてきた。
『落ち着けマスター。ホムラは少し嫉妬しているんだ。私にマスターを奪われるのではないか、とね』
『ちょっ!?そういうこと言う!?そうやってノンデリなところが嫌いなんだよっ!』
『私もお前の周りを顧みないアホなところが嫌いだよ』
途端に2人は髪を引っ張り合って喧嘩を始めた。やめてよね。せっかく立派なバトルアリーナでカードバトルをしているのに、無様な姿を衆目にさらさないでほしい。
バックストーリーとして、たしかにホムラとシズクはそりが合わないコンビだった。知的だけど言葉足らずで塩対応なシズクと、天真爛漫だけどアホで単細胞なホムラでは無理もない。戦闘でも上手く連携できず、いがみ合うことも多かったようだ。
その一方で、お互いの強さは認め合っていて、切磋琢磨するような良きライバルでもある。ただ、どうにも最近のホムラを見ているとやけにシズクへの対抗意識が強いような気がする。スズとのカードバトルで、【JKガールズ】専用の武装カードを初めてシズクに装着したことも、あれから定期的に嫌味を言われている。
ロングヘアでクールな大和撫子なんて好きになって当然じゃないか。それにホムラにはホムラで良いところが一杯あるんだから気にしなくてもいいのに。いつだって私にとって一番のカードはお前だよ。まぁ、それを言ったら調子に乗りそうだから絶対に言わないけど。
すると、対戦相手のヘンテコジジイがいきなり大声で笑いだした。
「HAHAHA!クソガキッズはどうやらおバカさんだったようデース!」
「私の成績が下から数えた方が早いというのが、なぜわかったの?」
「オー、ソーリー……。そういうことではありまセーン。ただ、フィールドのフールガールのようなアホならば、クソガキッズはもっと勉強すべきデース……」
『不審者オヤジの言う通りだぞマスター。そこのアホみたいにはなりたくないだろう?』
『失礼なっ!マスターと私は相思相愛なんだからいいんだよっ!ね、マスター?』
「そんな……私が……アホムラと同レベルだなんて……」
『この世の終わりみたいなショックを受けてるっ!?』
コホンと咳払いすると、さっきまで何とも言えない表情だったヘンテコジジイは再び大袈裟に語り出した。
「ミーが言いたいのは、AP1000以下の弱いカードばかり並べるなんて非合理的だということデース!そもそもAP1500未満のアタッカーを採用するなんてバカげていマース!」
「たしかにアホムラやシズクはAP雑魚でクソカスのゴミだけど、無関係なオジサンに悪く言われる筋合いはない」
『そうだそうだー!私たちをバカにするなー!……あれ?ひょっとしてマスターが一番貶してる?』
「それに2人はそこそこ有用な効果を持っている。よく言うでしょ?バカとハサミは使いようって」
「ならばこう返しマース!バカは死んでも直りまセーン!」
バッと両腕を広げると、ニカッと白い歯を見せてきた。なんてイラっとする笑顔なんだろうか。
「破壊されなければ意味がないなんて、相手のプレイングに依存する弱々しいエフェクトなのデース!ビジネスのようにカードバトルはオールウェイズ弱肉強食!自律した強さの象徴であるAPがこんなに低いなんて!こんなゴミカードおバカさんしか使いまセーン!」
「相手に依存する効果?自分から破壊すればいいとは思わないの?」
「アンビリーバボー!そんなサイコパスいるわけがナーイ!フリーダム・ユニオンでは、カードはヒューマンと同様に、ゴッドが自身を模して創り出した存在だと信じられていマース!それを自ら殺めるなんてありえまセーン!ゴッドに反逆するなんてクレイジー!」
「じゃあオジサンは今から目の当たりにするんだね、神への反逆者ってヤツを」
「パードゥン?」
ヘンテコジジイは右耳に手を当てて変顔をしてきた。これ見よがしに聞き返すような仕草がムカつくが、この武装カードで盤面をひっくり返してやるから見てろよ。
「手札から武装カード【悪魔的美食!絶望ハンバーグ】を発動!このカードは、場のアタッカー1体を墓地に送ることで、他のアタッカーに装着できる」
『え゛っ!?ちょっと待ってよマスター!?』
『どうしてそんな邪悪なカードを使うんだマスター!?』
邪悪ってなんだ。強い、弱いはあってもカードに貴賤はないだろ。
私の足にすがりついて目を潤ませて見上げてくるホムラと、固唾をのんで棒立ちしているシズク。そして前者はスペル2枚を破壊し、後者はカードを1枚ドローできる。効果を見れば、どちらが墓地送りになるかは明白だろう。
「私は【JKガールズ・水麗のシズク】を墓地に送る!」
『そんなっ!?マスター!なぜだっ!?』
『いよっしゃあああああ!くたばれ冷酷クソ女ぁ!』
私の宣言とともに場に、瘴気をまとった巨大なミートプロセッサがあらわれる。禍々しい刃が所狭しと並び、回転しており、機械から飛び出した大量の鎖がシズクを生き地獄へと誘おうとする。
必死にホムラの方へと手を伸ばして道連れにしようとするシズク。その手を払いのけて大爆笑するホムラ。もしこれが良識と愛のある魔法少女ならば乗り越えられたかもしれない。だが、現実にいるのは性根の腐ったアホバカクソ女だ。シズクを敵視している少女に現実を打開する意志など端からなかった。シズクが伸ばした手は、ホムラをつかめず、残酷にも空をきる。
シズクという新鮮な肉を取り込むとミートプロセッサは勇ましい轟音をあげて稼働を始めた。金属製の刃物による不快な回転音とともに、シズクの痛ましい叫び声が響き渡る。観衆からはつんざくような悲鳴があがった。
それでもシズクは生き延びようと足掻く。すべては引っ込み思案で少し陰のある幼馴染を守るため。自らの肉体を貪る邪悪な機械から抜け出すべく、彼女は握りしめていたロッドを振る。放たれた魔法は鋭利な氷を生み出し、シズクの胴体を切り離した。上半身だけになった魔法少女は地面に転がると瞬時に切断面を凍結。そのまま両腕を動かし這いずっていく。
なるほど。下半身を犠牲にすることで、生き長らえようというわけか。だが、邪悪なミートプロセッサはそれをよしとしない。食品ロスはSDGsに反するからね。再び鎖を吐き出すと、シズク(上半身)を拘束し処刑場へと連れ去った。
不気味な金属音が鳴り出すと、哀れな少女への拷問が再開された。聞くに堪えないシズクの絶叫とともに、周りに勢いよく飛び散る大量の血液。吐き出される骨や皮など不要物の残骸。発狂したサルのように手を叩いて大笑いするホムラのことなど意に介さず、無数の刃が少女を痛めつけて命を刈り取る。
いつしか少女の絶叫が聞こえなくなりミートプロセッサが停止すると、機械の下部からオーブントースターのような音が鳴った。【JKガールズ・水麗のシズク】を主原料とした【悪魔的美食!絶望ハンバーグ】の完成だ。
ひっそりと静まり返るバトルアリーナだったが、ホムラの高笑いが静寂を破った。
『アハハハ!マスターが選ぶのはいつだってこの私っ!お前ではぁ!んなぁい!お前じゃあないんだよぉ!ざまぁぁぁあああ!キャハハハ!で、このハンバーグどうすんの?』
「お前が、食べて、AP1000ポイントアップ」
『はぁ!?ぜぇったいにイヤっ!こんな汚物、口にしたら食中毒になるわっ!』
そう。まぁ効果処理は絶対なのだけどね。
見えない何らかの力によって、ホムラは強引にフォークとナイフを握らされる。いつの間にか、皿に乗ったハンバーグがホムラの目の前を浮遊していた。奇声をあげながら首を振って拒否しているが、それも無駄な足掻きだ。シズクだったハンバーグは強制的にホムラの口へと運ばれていった。それでも決して飲み込むまいと頬をパンパンに膨らませていた魔法少女だったが、ナイフとフォークが鼻をふさいだ。酸欠で顔が変色すると諦めたのかアホムラは大きく喉を鳴らして腹の中にハンバーグをおさめる。
さて、ここまできて気になるのが味だ。幼馴染を食べたマナは絶賛していたが、コイツの場合はどうだろうか。
「ねぇ、美味しかった?シズクのハンバーグ」
『不味いよ!ゲロマズ!下痢の味がしたっ!砂食べた方がマシ!げえーっ!』
おい!吐くな!効果が発動しなかったらどうしてくれる!?
ステージ上に虹色のゲロをぶちまける姿は、女として終わっていた。まったく……食材へのリスペクトがないヤツめ。幸いホムラのAPは2000ポイントに上昇しているので、無事に効果が処理されたようだ。
それにしても、やはり料理は愛ということか。私が1人納得していたら、目と鼻の先にまでホムラが顔を寄せてきた。
『呪物を無理やり食べさせないでよっ!これで私がシズクみたいな冷酷女になったらどうするのさ!?』
「ホムラなら大丈夫って、信じてるから」
『うぅ~っ!そんなこと言われたら嬉しさ感じて許しちゃう!マスター大好き!』
私も大好きだよ、都合の良い手駒として。
先ほどまでは「諸般の事情により、映像を変更してお送りしています」というテロップとともに、湖畔を航行する船の映像が流れていた会場モニターに、いつの間にか私に抱き着いて頬ずりするホムラの姿が映し出されていた。ちょっと恥ずかしいし、観客席の1点からとてつもない殺気と黒い靄が漂ってきているので、やめてほしいのだが。
ていうかよく見たら、私も口角が上がっている。いかんいかん。さっき武装カードの効果を発動している最中も口元に弧を描いていたようだし、このままでは無表情系クールキャラとしての立ち場が危うい。表情を引き締めると、放心状態の観衆に配慮できる私は改めてカード効果を説明してやる。
「武装カード【悪魔的美食!絶望ハンバーグ】を装着した【JKガールズ・炎激のホムラ】のAPが上昇。また場の【JKガールズ・水麗のシズク】が墓地に送られたことで、私は山札の上からカードを1枚ドローするとともに、オジサンのELを500ポイント減らせるの。どう?これがコイツらのポテンシャルを発揮するコンボだよ」
「なんて残忍で凶悪なコンボなんだー!これぞ悪魔!まさに邪知暴虐!傾奇町に君臨するサイコロリの外道コンボが!観衆を恐怖のドン底に突き落としたー!」
「ユーッ……!ユー・アー・サイコ!イービル・デーモン!ゴー・バック・トゥー・ヘル!」
は?このジジイ失礼すぎやしないか?
人を指差してサイコだとかデーモン呼ばわりするのがグローバル・スタンダードだとでも言うのだろうか。カードバトルのプレイングは十人十色でしょうが。多様性にもっと配慮しろ。
「事実無根の罵詈雑言はやめてほしい。モラルとかないの?」
『マスターには言われたくないと思うよ!?』
「そっくりその言葉、返してやりマース!このクレイジーサイコガール!」
「ふん。ファイトシーンに移行。【JKガールズ・炎激のホムラ】で、オジサンの【ブラック・セダン・リザード】を攻撃。ラブ・フレイム・スラッシュ」
『任せてマスター!うおー!消えろキモトカゲ!』
「オーノーユードント!ミーはカウンタースペル【ドラフィック・コントロール】を発動!そこのフールガールのアタックをミーが直接受けることで、【ブラック・セダン・リザード】の戦闘破壊を回避しマース!」
「ほう」
『わわわっ!?ちょっとなにこれ!?』
カウンタースペルの発動とともに、場に二足歩行して交通整理するドラゴン2体が登場した。黄色いヘルメットとゼッケンを着たドラゴンたちが誘導灯を振ると、ホムラの魔法ロッドをヘンテコジジイへと向けさせた。そのまま放たれた炎の刃は趣味の悪い柄物スーツを着たジジイの方へと迫り、ELを1500ポイントにまで削った。
「ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛!グローバル・エリート・マッスル!!」
「は?」
ジジイが凄みを利かせた大声をあげると同時に、大きなゴリラが描かれたパステルカラーのスーツが破裂した。なんで?
「な、な、なんとー!【JKガールズ・炎激のホムラ】の直接攻撃を受けたゴールドマン選手のスーツが盛大に破れたー!そして観衆に見せつけられる筋肉隆々の肉体!黒光りする筋肉こそグローバル・エリートの証しかー!?」
「おい。趣味の悪い攻撃をするなアホ」
『私のせいじゃないよ!?あのオジサンが勝手にスーツをちぎったんだよっ!』
私がアホムラを睨みつけると、筋肉ダルマの変態ジジイがチッチッチと人差し指を振る。
「オー、ノープロブレム!これはミーがちょっと力み過ぎただけデース!グローバル・エリートなビジネスパーソンというのは常にパワーが有り余っているものデース!」
「気持ち悪いジジイだな」
「HAHAHA!生意気なクレイジーサイコガールですが構いまセーン!クソガキッズに大人の世界をわからせてやるのもグローバル・エリートの責務デース!」
「やってみなよ。私はスペル2枚を伏せてターンエンド」
これはまずい。
冷静な態度をとっているが、高APアタッカーが変態ジジイの場に残っているうえに、手札も4枚ある。次のターンに戦況が一変しないか心配だ。私はグッと気を引き締めた。
あけましておめでとうございます!
2025年も、カスちゃんとほのぼのゆるふわガールズラブコメディなカードゲーム世界をよろしくお願いします!




