第6話 天技と別れ
「【雷歩】って俺は呼んでいる。一瞬で間合いを移動する技さ」
ヴィータ領まであともう少し。
歩きながらサルバの説明が続く。
「だからといって誰もが使えるわけじゃない。つまりは、その個人個人にしか扱えない技ってこった。
これは単純に天技と呼ばれているし、ほかに固有術とか天稟とか呼ぶやつもいるな」
「へ~…」
感心したような相槌を打ちながら、俺はさりげなく探りを入れてみる。
「じゃあ、そのスキル? を手に入れたとき、なんか使い方とか効果とか、説明書きみたいな文字とか見えたりするの?」
「はあ? いや、そんな親切なもんでもないっていうか…」
サルバは困ったように眉根を寄せて、
「自分で言っていて良く分からないが、突然『出来る!』って思うっていうか確信するんだよな。俺たちの間じゃあ、こういうのを技をモノにしたっていうんだが」
「そうなんだ…」
落胆したような声を出してしまったけれど、これってかなりの有益な情報だ。
つまりは俺のユニークスキルとやらと、サルバの言う天技とは別系統の可能性がある。
……よし、この機会だ。
サルバの隣を歩くネピアにも訊いてみよう。
「あの、ネピアさん。新しい魔法を習得するときって、どんな感じなんですかね?」
「ごめん。質問の意味が分からないな」
「す、すみません。えーと、新しい魔法を習得するとなんか頭の中に注釈とか浮かんだり…?」
そういうと、ネピアは困惑した表情を浮かべた。
「注釈? 魔導書から引用して照らし合わせるのが普通だろう?」
ある意味予想通りの返答に俺は頷く。
この世界での魔法の使い方と効果は結構ざっくりとしていて、火の塊を投げれればそれは一律でファイヤーボールだ。
あとは個人の魔力量で塊の大きさや飛距離などが変わってくるって感じ?
線香花火の先端のような火球しか扱えない人と、全長2メートルの火球を撃ちだせる人の破壊力の違いは推して知るべし。
ともあれ、これでもう一つの疑念もはっきりとした。
あんな風に属性やスキルに対してフレバ―テキストが見えるのは、どうやら俺個人だけらしい。
だからといって意味不明すぎる。詩的ではあるけどさ。
仮に転生特典なら、もっとこう、がっつりと主人公らしい最強無比のレアスキルとか欲しいよ。
それを『看取り』ってなんなのさ?
突然潮の匂いが鼻先を掠めた。
ゆるやかに下って行く山道の視界が急に開け、広大な海が見えてくる。
キラキラと輝く海面に、遥か遠くの水平線。
「わあ……」
我知らず声が漏れた。
海に対して郷愁を覚えるのは、人間が原初の海から生まれた証拠だとか。
それに加えて前世の俺は、入職してから海へ遊びに行く機会がなかった。うんと子供の頃に両親に連れていった記憶が呼び起こされて、感慨もひとしおである。
気付けば隣のキャモも食い入るように眺めていた。
内陸育ちの彼女も海を見るのは初めてなのかも知れない。
そんな風にしばらく見惚れてから振り返ると、サルバたちが静かに待っていてくれた。
「ほら、目的地はあそこだぜ」
サルバの指し示す先。
海辺に集落と漁港らしき場所が見えた。
俺たちの目的地であるヴィータ領ベルソ村はもうすぐそこだ。
「色々とお世話になりました」
俺はサルバたちとがっちりと固い握手を交わす。
「お、おう」
彼らが揃って珍妙な表情を浮かべている理由は、俺の背後で冷たい視線を突き刺してくるキャモを見れば一目瞭然だ。
分かってるよ。貴族たるもの、そうそう平民と馴れ馴れしくしちゃいけないってことでしょ?
サルバたちだってビジネスライクに割り切って生きているのは知っているさ。
けれど。
「短い間でしたけれど、みなさんと一緒に旅が出来て本当に嬉しかったです」
まっすぐにサルバを見上げる。
人との出会いは一期一会だ。
電話やインターネットも存在しないこの異世界。
気軽に連絡を取り合って遊びに行く、なんてのは実質不可能で、今日の別れは永遠の別れになる可能性も高い。
ましてやサルバたちは冒険者だ。いつ命を落としてもおかしくない仕事なんだ。
「………」
無言だったサルバだけど、不意に大きな身体を屈めて俺に抱き着いてきた。
無骨な鎧の冷たさに反し、うちに秘めた筋肉の熱と野性味のある臭いに包まれる。
「ああ。俺も面白い依頼だったよ。セージ」
身体を離したサルバは、実に男らしい笑顔を浮かべている。
「また何かあれば、俺たちを頼ってくれ」
「ええ。その時は必ず」
「とは言っても、俺たちもしばらくここいらに滞在するんだけどな。上手く行けば帰りの道中の護衛をしたっていいぜ?」
おどけるように肩を竦めてるサルバは分岐路に立っている。
俺とキャモは向かう左の道の方向には『ベルソ村』が。
サルバたちが向かうのは右の道の方で、その先には保養施設というかリゾート施設があるみたい。
道々で訊いた話によれば、中堅以上の稼ぎのある冒険者たちにとって、バカンスをこのヴィータ領で取るのは一種のステータスなんだとか。
「ありがとう。でも僕の仕事はいつ済むか分からないから……」
むしろ王命ってだけで、なんの仕事かすらまだ知らなかったり。
「そうか。頑張ってくれ。そして機会があればまた会おうぜ」
ポン、と俺の肩を叩きサルバは気持ち良いくらいあっさりと長身を翻す。
「それじゃ若様。お元気で」
柔和な笑顔を湛え優雅に頭を下げるネピア。
「セージくん、風邪引いちゃだめだよ? 海辺も冷えるから夜はあったかくして寝るんだよ?」
ちょっぴり涙目で俺の両手を握り締めたユニさんは、名残惜しそうに手を解くと二人の後を追っていく。
三人の姿が見えなくなるまで見送ってから俺は背後を振り返る。
「さあ、行こうか、キャモ」