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第4話 冒険者たち

 そもそも俺みたいな出来の悪い子を王命で派遣することからして違和感がある。

 

 考えられるのは、王命自体が出鱈目で、体の良い俺の厄介払い。

 とはいえ、偽りの王命を口実にするのも色々とヤバイ気がする。

 

 ならば、本当に王命ではあるものの、フィーネヴィータ家にとって旨味が少ないのかな?

 不出来な三男坊でも任せられるほどで、要は体裁を繕えればそれでいいとか。

 もしくは命令の内容自体が形骸化しているとか……。


「ぼっちゃん!」


 キャモの声で我に返る。

 気づけば冒険者ギルドの前まで来てしまっていた。

 一見、レンガ仕立ての郵便局みたいな佇まいの建物である。


「あ、うん。ここ、扉?」

 

 顔を上げると、澄まし顔のキャモが恭しく扉を開けてくれる。

 中に足を踏み入れ―――なんだ、この雑多な人たちは。

 それが俺の第一印象。

 

 重厚な鎧に軽装の鎧、長いローブを引きずるように着て歩いている人がいる。

 反面、ほとんど上半身は裸で、下もまるでモーターショーのモデルのように丈の短い服を着ている人もいた。。

 そんな服を着ている人たちも、いわゆる普通の人間、鱗と角が生えた人、耳が長かったり、背中に羽があったり、なんなら常に肌が発光している人まで様々だ。


「すごい……」


 ここまで沢山の異種族が行き交っている光景なんて初めて見る。

 うん、本当にここは地球とは違う異世界なんだ。


「……ぼっちゃん。顎を引いて背筋を伸ばし、威厳を出してくださいまし!」


 見惚れている俺を小声で叱るキャモ。彼女に腕を引かれて受付のカウンター前まで連れていかれる。


「あら? 君、どうしたのかしら?」


 受付嬢らしき女性が俺を見た。

 笑顔を向けれられてドギマギしている俺の隣でキャモはゴホンと咳払い。


「こちらに、既に手配を依頼していたと思いましたが……?」


 そっと彼女が胸元から出したのは、フィーネヴィータの家紋が入った書状。

 すると受付のお姉さんは大きく頷く。


「はい、承っておりますよ」


 お姉さんは素早く書状の中身を確認すると、


「……サルバさーん!」


 その声に、ギルドの奥の席からのっそりと人がやってきた。


「お、アンタが依頼人か。待ちかねたぜ」


 ごつい鎧をギシギシと軋ませた、日焼けした大柄な男性だった。

 そんな彼のあとに二人の女性が続く。


「俺はサルバってんだ。よろしくな」

「あたしはユニ」

「ネピアだ」


 女性二人も名乗る。


「俺たちゃあ『王華』って徒党を組んでいる。あんたらの護衛依頼、確かに請け負ったぜ」





 そのまま顔合わせ会というか親睦会というか、みんなでご飯を食べに行くことになった。


「いいのかよ、アンタ? 貴族の坊ちゃんなんだろ?」


 サルバの物言いは、しっかりとこちらの素性を把握したうえで依頼を引き受けたと語っている。

 

「別に貴族だからって、毎日フルコースを食べてるわけじゃありませんよ」

 

 俺がそう返すとサルバはニカっと笑う。

 連れてってもらったのは、いかにも大衆酒場という感じの店だった。


「さあて、何を食べる?」

「お任せしていいですか? 僕たちはここいらの料理には詳しくないので」

「ん。了解だ」


 サルバの目配せでユニと名乗った女の子が注文しに行く。

 彼女が戻ってくると、手には人数分のジョッキ。


「そこのメイドさんは果実酒で良かったか?」

「……ありがとうございます」


 受け取るキャモ。

 俺のジョッキの中身は水だった。本当は俺も果実酒が飲んでみたかったけれど、まあ、ここらへんは見た目からして仕方ないか。


「それじゃ、かんぱーい」


 ジョッキを打ち鳴らす。

 みんなが飲み干すのに合わせて俺も一気に杯を空けた。特に冷たい水ってわけじゃなかったけど美味かった。

 そして飲み終えたタイミングで運ばれてくる新たなジョッキと料理の数々。


「さあて、お貴族様の口にあうかどうか?」


 おどけるサルバが皿に盛りつけてくれたのは、何かの肉の煮込み料理だ。

 ホルモンっぽい歯ごたえに、ちょっとだけクセのある臭みを感じたけど、甘じょっぱくて美味い。


「…お替り貰えます?」

「お!? いけるねえ。ほら、どんどん喰え!」


 他にも渡されたのは、何の肉か良くわからないけれど焼肉みたいなもの。

 ゴロゴロに切ったかぼちゃに似た野菜を辛く炒めたもの。

 ピザみたいな土台に、苦みのある緑色のソースがかけられたもの。

 どれもこれも味付けが濃い目だけど、とても美味しかった。

 この街まで来る道中は、干し肉と固いパン、具はそこらの野草が入った塩味のスープっていう料理というか微妙な食事ばっかりだったんだよね。

 久しぶりの料理らしい料理に素直に舌が喜んでいる。


「……今回の依頼は引き受けて正解だったかな?」


 あっと言う間に五杯くらい空のジョッキを重ねてサルバが笑った。

 俺もいい加減腹いっぱいで首を捻っていると、ネピアと名乗った女性が説明してくれる。


「一緒に食事をして、相手の為人を伺う。サルバの主義だ」


 なるほど、食事ってのは一番無防備になる態勢だと聞いたことがある。

 そして食事の仕方や料理の好みからも、その人の育ちや品性、嗜好が分かるとか。


「まあ、お貴族様の坊ちゃんにしてみれば、当たり前の人物鑑定方法かも知れないけどな」


 照れたように苦笑するサルバに俺は言い返す。


「その言い方はやめてください。セージでいいですよ」

「そうか。セージか。これからよろしくな、セージ」

「こちらこそよろしくお願いします。サルバさん」



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