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第3話 出立と謎仕様


 キャモが荷物をまとめ、キャモが馬車を手配し、キャモが旅装束を着せて整えてくれた。

 いや、俺も自分でしようとしたよ?

 けれどことごとくダメ出しをされたあと、キャモに溜息をつかれてしまう。


「セージさまはもう10歳です。けれど、まだ10歳なんですよ?」


 中身はほぼ30歳なんですけどね。


「というか、キャモは幾つだっけ?」

「私は13歳ですが何か?」

「ッ!?」


 うっそでしょ? 今の俺の肉体年齢より3つくらいしか違わないんじゃ。


「兎族も含め獣人族は成長が早いんです」


 俺の内心を見透かしたように得意そうに胸を張るキャモがいる。

 

 しかし、そもそもが異世界なのだ。

 この世界に義務教育とか存在しない。

 識字率は低いし、一部の知識などは貴族に独占されていたりする。

 書物なんかはその最たるもので、俺が貴族ではなく農民にでも転生していたら、一生お目にかかれなかったかも知れない。

 

 翻ってフィジカルは強い。超強い。

 書物で読んだ限りじゃ、12歳くらいで兵役に着いたり、傭兵や冒険者として活躍している子供もいるらしい。農村とかじゃあ俺くらいの年で立派な戦力だ。

 

 キャモもきっと必要に応じて成長したんだと思う。

 彼女がどうやってうちに雇われるようになった経緯とか知らないけどさ。


 



 早朝。

 俺とキャモは旅に出た。

 門番と、本邸で働いている使用人のうち、顔見知りの何人かが見送ってくれた。

 父の姿はなかった。


 門を出てしばらく歩く。

 十字路まで来ると、幌付きの小さな馬車が待っていた。

 御者のおじさんが被っていた帽子を持ち上げてくれたので、俺も軽く挨拶を交わして乗りこむ。

 

「これもキャモが手配してくれたのか」

「アイエット商会の隊商に便乗させてもらいました。このままクレマンティまで行きます」

 

 キャモが教えてくれたことには、クレマンティという比較的大きな街まで馬車で一週間。ヴィータ領の目的地まで、そこから更に一週間かかるという。

 

 街の門前で隊商の一団と合流した。

 リーダーらしき人とキャモが何かやりとりをし、彼女は小さな袋を渡している。

 隊商の立派な馬車の後ろを追いかける形で、俺たちの馬車は街道をトコトコと進む。

 道はしっかりと整備されているらしく、乗り心地は悪くなかった。

 見れば街道沿いに樹木が植えられていて、立派な果実が成っている。


「ナカングの実です」


 キャモが教えてくれた。


「これか」


 図書室で読んだ本に差し絵はあったけれどカラーじゃない。 

 しげしげと青い実を眺めていると、キャモが手を伸ばし実を一つ取ってくれた。


「食べてみますか?」

「あ、うん」


 受け取って齧る。

 仄かに甘く、瑞々しい。


「この時期の旅人は飲み水の心配をしなくて済みます」

「これもご先祖様の成果かぁ」


 名君と謳われたエルキューレ・フォン・フィーネヴィータ。

 あらゆる典礼に通じ、内政能力も抜群だったそうな。

 おまけに火、土、光の三重属性持ちだったとか。何の主人公だよ、もう。

 

 そうだ。この世界の魔法と言えば。


「キャモも魔法を使えるの?」

「ええ。あまり強度は高くありませんが」


 そういってキャモが人差し指を立てる。

 ぼっ! と彼女の指先に炎が灯った。

 燃える炎はするすると伸びてキャモのピンとした兎耳の辺りまで届く。

 

「へえ、凄いじゃないか」


 俺自身も火の属性を持っているので、キャモと同じ芸当は可能だ。

 しかしぽっと出た炎はせいぜい5センチほど。


 眉をしかめる。

 その理由は、自身の魔法力の弱さに辟易したからではない。

 俺の視界には、半透明なフレームのウインドウのようなものが開き、そこに文字が浮かんでいた。  





 属性:火

 あらゆるものを燃やす。ゆらゆらと燃える。

 闇を照らす光のもと。 



 属性:水

 たたえる。とどまる。包む。時には残酷なまでに。

 命を飲み込むもの。命のみなもと。




 …なんなんでしょう、このふわっとしたフレバーのテキストは。

 正直、意味が分からない。



 おまけに


 ユニークスキル: 看取り

 ???????



 ………。

 

 なにこれ?

 

 声を大にして叫びたいがぐっと我慢。


 キャモに、こんなステータス見える? って訊いてみよう考えたけれど、やめた。

 これがいわゆる転生ボーナスとかの可能性がある。つまりは俺だけに備わった特殊スキル。

 迂闊に訊ねて説明を求められたりしたら、少しややこしいことになるかも。

 

 なので、他の人はこんな風にステータス表示されるかは分からない。

 少なくとも今まで読んだ本にはそんな内容はなかった。

 ……当面の間は秘密にしておいた方が良さそうだよな、これ。


 しかし、『看取り』って。

 どう考えても戦闘系スキルじゃないよなあ。


 外の景色を眺めつつ、時折キャモと雑談したり。

 日が暮れると街道沿いに馬車を止めて野営だ。

 隊商の焚火に混ぜてもらい、食事をしながら商人と冒険者たちの雑談に耳を傾けるのが楽しかった。キャモは「教育に悪い!」って感じであんまりいい顔をしてなかったけどね。


 この世界には冒険者がいて魔獣も出る。

 だから旅はこうやって集団ですることでリスクを減らし、夜は交替で見回りも立てる。

 もっともここいらの街道に魔獣が出ることは滅多にない。出てもジャイアントトードとかジャイアントスラッグくらいで危険度は高くないそうだ。

 

 そんなこんなで1週間後。

 予定通り、俺たちはクレマンティの街へと到着したのだった。



 



「へえ~、でっかい街だなあ!」


 街を囲むように張り巡らされた門を越えて、中の光景を目の当たりにした俺の感想はこれだ。

 もちろんセージには王都に行った記憶はあるけれど、緊張してあまり景色や外観は覚えていないんだよな。

 なんでもこのクレマンティは、かつての城があった跡地に、残った城壁を活用して出来た街だそうだ。

 本邸の図書室にあった歴史書に記載されていたのを覚えている。

 石壁の質感に、なるほどすごい年季を感じた。


「それではぼっちゃん。ギルドへと参りましょうか」


 そこそこの宿に部屋を確保すると、キャモが荷物を降ろしながらいう。


「ギルド? 冒険者の?」

「ええ。ここから先の護衛の手配手続きを旦那さまからを預かってきておりますので」

「え? そうなの?」


 意外だったので驚いてしまう。

 父、テオドール・フォン・フィーネヴィータ。

 セージの記憶の中ではほとんど放任だったけれど、ちゃんと心配してくれていたんだ。


「どうしました? そんなジャイアントトードを丸のみしたような顔をされて」  

「い、いや……」


 すると、そんな俺の内心を見透かすようにキャモがふっと笑う。


「それこそ王命だからでしょう。少なくとも現地に嫡子が無事に到着していなければ、言い訳も出来ませんからね」


 今度こそ俺はジャイアントトードを丸のみしたような顔でキャモを見てしまう。

 ……そんな物言いをするなんて、きみ、本当に13歳?



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