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隠れアルコール依存症:


半ば凍った雨だった。どうりで朝から左膝が痛むはずだった。高橋和彦は、冷たい雨が降りしきる中、家に向かって足早に歩いていた。家族の前では、いつも穏やかで頼りがいのある父親として振る舞っていたが、心の中では重いストレスと不安を抱えていた。


家に着くと、和彦は家族に挨拶し、いつものようにリビングで過ごすふりをした。夕食の時間が過ぎ、子供たちが寝室に向かうと、和彦は静かに自分の書斎に入った。ここは彼の秘密の場所だった。家族にも内緒で、小さな冷蔵庫がデスクの下に隠されていた。


和彦は冷蔵庫の扉を開け、そこに並べられた缶ビールやウイスキーボトルを見つめた。家族の前では決して見せない姿だった。彼は一本の缶ビールを取り出し、静かにプルタブを開けた。その音が小さく響くと、彼は深呼吸をしてビールを一口飲んだ。


「やっと、一人になれる時間だ」


彼は独り言のように呟いた。アルコールが体に染み渡る感覚が、彼に一時的な安堵感を与えた。日々のプレッシャーやストレスから解放される瞬間だった。彼はデスクに座り、窓の外を見つめながら、冷たいビールをゆっくりと飲み続けた。


次に彼が手に取ったのは、ウイスキーボトルだった。デスクの引き出しから小さなグラスを取り出し、ウイスキーを注ぐ。彼はそれを手に取り、香りを楽しむように鼻を近づけた。


「これが、俺だけの時間だ」


和彦はそう言いながら、グラスを口に運んだ。アルコールの強い味が喉を通り過ぎると、心の中の不安が少しずつ和らいでいくのを感じた。彼にとって、この時間は現実から逃れるための大切な儀式だった。


和彦はスマートフォンを取り出し、SNSをチェックし始めた。誰も彼の秘密を知らない。家族や友人には見せない、彼のもう一つの顔だった。彼は投稿をスクロールしながら、時折微笑みを浮かべる。だが、その微笑みの裏には、深い孤独と自己嫌悪が隠されていた。


「これで、少しは楽になる」


彼はそう思いながら、もう一口ウイスキーを飲んだ。雨の音が窓を叩き続ける中で、彼は自分だけの世界に浸り続けた。誰にも知られることのない秘密の場所で、彼は自分の弱さと向き合い続けた。


時間が経つのも忘れ、和彦はグラスを空にした。アルコールの力で、一時的に心の平穏を取り戻すことができた。しかし、その代償は大きかった。彼はふらふらと立ち上がり、冷蔵庫の扉を閉めると、書斎の鍵をかけた。


「明日も、また頑張ろう」


和彦は自分に言い聞かせるように呟き、寝室に向かった。家族の前では、いつも通りの穏やかな父親として振る舞うために。冷たい雨の音が静かに響く中で、彼の孤独な戦いは続いていた。








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