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【メイドアチートスキル】貴族学園の落ちこぼれている天然少女はレジェンドだった〜追放されたら魔法使い、ないし冒険者の王女〜  作者: 猫村有栖
『竜化少女「マリア・ノバラ」救出特殊作戦』.ep2〜即席の仲間達と暴走する少女を救出する〜
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第二話 バベルの塔


「ここで振り返っておく。我々が解決せねばならないのは、ユニークスキル制御障害者についての問題だ。ユニークスキル【フォームチェンジ】が制御できず、本人の意思に関係なく竜種に変化してしまった少女がいる」

「スキル【フォームチェンジ】の暴走……」


「そして、この森のガラーユ洞窟に発見されたと、報告が今朝あった。次に起きるのは推定三時間後だそうだ。決着は早めに付けなければならん」


スキル【フォームチェンジ】。ユニークスキルの種類の名称。肉体を構築する魔力を変化させ、その姿を変化させるスキルである。その変化の姿は人によって異なり――オーク、ゴブリン、あるいは――伝説のドラゴン竜種であったりと様々。


――そして、そのスキルを制御できなかった少女が、暴走し竜となり、街を荒らしたらしい。……貰った写真からは、決して小さいものでないその街の被害の大きさが伺える。


ジグラットとして街に潜伏していたアキラ・ムラカミは緊急事態としてこれを認定。ジグラットとして、街でその竜と戦闘――その後、ドラゴンに変化した少女は彼から逃げるように飛び去ったそうだが、彼は深傷を負い追跡を断念。


そして私達の宿泊している宿へと足を引きずり血まみれ状態で帰ったという。聞けばなんと、アキラ・ムラカミはその宿を棲家としていたらしい。


私達の出会いは、そんな偶然が重なった様子である。

やはり人生は分からないもの。


つい一週間前は私、ぼろとはいえ――貴族として屋敷にいたのに。こんな調子なら、来週までに何が起こるだろうか、空から槍でも降るかもしれない……


「スキルでしょ?――それが制御できなくて暴走。なんて、こと……信じられないんだけれど」

「我々も信じられないが、実際起きたのだから仕方がない。ともかく解決しなければならないことには変わりはないさ。そして私は幸運にも……」


「こっちを見ないで下さいほんと……私が立てた作戦、実際博打みたいなものですよ……?」

「そうね。正気じゃないと思うわよ、こんな金かけてさ。成功率なんて1%もないかも」


アーちゃん程、そこまでは言ってないけれど、まあ確かに、とは私も思う。


スキルとは、行使する際自分が制御できるもの。

それが当たり前である。スキルの暴走というのがそもそも前代未聞。異常極まる現象とも言っていい。


その現象の詳細すら無い状態で、私達はその異常に立ち向かおうとしている。


だが、その少女を「竜化」状態から解除させることができなければ――それを人間の敵として、人間が手を下すしかない。それを避けるのならば、どうにか――暴走竜化現象を解決しなければならない。


解決のためにどうすれば良いのか検討も付かないと、アキラ・ムラカミは溢していた。まだ死者のない事が幸運で、討伐の命令は下されていないものの、誰かひとりでも被害者が生まれて仕舞えば――と、そうやって語る彼があんまりにも健気だったから。


……私の持つユニークスキルの力なら、あるいは。

と、宿で私はつい口にしてしまったのだ。


「安心しろ、私はその1%に金を賭けたのさ。一度出した金を引っ込めはしない。それにもうひとつ」


「?」

「十割の不可能を一分の可能とした、その大きな一歩分の進歩にも、だよ」


……うわあ。アキラ・ムラカミに、アーちゃんがすごい顔をしているのが分かる。


アーちゃん曰く、カインはいきりでキザだったようで、今、そういうのにはウンザリだそう。


少々キザっぽいのがアキラ・ムラカミの特徴らしいが、ただ、それをかっこつけのつもりもなく、素でやってしまうらしい。つまりあるいみ、素でカッコいい人間?



「よし、ここで止まれ。そろそろポイントのガラーユ洞窟だ」

「……はいはい」


あからさまに機嫌が悪くなるアーちゃん。

そしてそれに気づきもしない彼。


「オッ、車の停め方も上手い。流石魔法使いの下僕だな」

「下僕う!?おいこらもういっぺん言ってみなさい!!!」

「……違う……のか?」


…………この先、大丈夫だろうか?



車から降りて洞窟へ向かう。竜の眠りは深いと聞く。それ故に音を立てても問題は無いはずだが念の為、エンジンの稼働する音が大きい車は、ここで使わないでおく。


ここから洞窟までの距離は1キロ程だろうと、アキラ・ムラカミは言った。あとは徒歩で移動する。


「――では、作戦を開始しよう。ガラーユ洞窟まで、もう距離は無いはず。念の為、警戒は怠るな」


アキラ・ムラカミは様々な火器を取り出して、車に乗っていた時に点検などを行なっていた。その仰々しいさまは、彼らジグラットの慎重かつ油断しない性格を表していた。


「もしその竜が目覚めたら……どうします?私の方法で少女のスキルの暴走を止めるのには……少女が変化したその竜がおとなしい状態じゃないといけませんから」


「ドラゴンって、余程が無ければ基本ずっと寝てるらしいじゃない?そんなの大丈夫でしょ」

「アーちゃんそれ」


「…………何よ」

「フラグだね…………」


「……………………う」

「映画とかだと絶対…………こういう会話のあとは……」

「う、うっさい!なら賭けてもいいわよ!もしドラゴンが起きたら一週間早朝のゴミ捨てやってやるわ!…………何よその目は!!」


…………アーちゃんはこの性格のせいで本当いつも損してるよね……という目である。言葉にすればどこを蹴られるか分かったものじゃないから、私は目で語るのだが。


森を分けて歩く。ガラーユ森林……調べるとこの森は一度、三〇〇年程前に起こった大きな戦争でつい一〇〇年前まで焼け野原になったらしい。それでも、不思議と人が手を加えずとも自然と緑は戻りまた、森の形になったのだとか。


争ったのは二つの国で、領土争いが戦争の原因だったそう。

私達が今暮らしている国の祖である、魔法による発展の歴史のあるポメラデス王国と、科学などを駆使し急成長を起こしたイタラスゴア国の衝突。


この森は大気中の魔力の濃度が高かったらしく当時、商人などらが開発しようと躍起になったようだが、両方の国の境目だったこの土地を所有するのはどこの国かというのがはっきりしていなかった。


それがいけなかった。両方の国に起こる土地の起源の主張は激しさを増し、ついに衝突へと向かうことになってしまったのだ。民族間の対立も深まり……その影響は三〇〇年後の現代にも及んでいる。


そして、人はこの戦争を『塔バベルの大衝突』と呼んだ。



「いやいや!その時は私が止めよう」

「大丈夫なんですか?」


「……この竜の攻撃のパターンは存外少ない。一度戦ってみたら分かるがね――魔術による攻撃だけだ。それも、簡単に固めた魔力を飛ばすだけのな。まだ自身の力を使いこなせていないのか……こちらにしては大助かりだが。だから、気絶させる程度なら、こなしてみせよう」


「昨日大怪我した割には、自信あるのね?」

「ははは……いやまあ、油断していた訳では無いはずなのだがね。戦っている間……少し、気を取られてしまって。その隙に腹に魔力を食らってな」


「命かけてる割にはのんきね。それで何に気を取られたって?」

「…………まあ。お化けとでも言えばいいかな」


「は、お化け?」

「いやすまん。つまり、そのクラスのものを見かけたから、気が逸れてしまったということだよ。私の見間違いだった筈だし、今度ばかりは大丈夫なはずさ」


「やっぱり不安になってきた…………」

「うん。ゴミ出しは三日でいいよ。一週間は長いし」


「最悪を引く前提で話さないでくれる!?」

「…………いや。……最悪のパターンらしいよ」


「………………へ?」

「ギャオオオオオオーーー!!」


聞こえたのは、森を震わすような鳴き声。

それはまさに……


「これは竜の鳴き声…………竜を逃がさん為に私は戦闘に入る!魔法使いとわがまま娘は後ろに下がっていろ…………!!」


「いや。アキラさん、何かおかしいです」


「……どうした、魔法使い?」

「変な音が混じってる…………まるで、何かが爆破しているみたいな……」


「竜の魔法じゃないの?」

「いや、それは違う。――簡単な魔術しか竜は使えない」


なら、それは竜が出している音ではなく。


「――火器の、攻撃する音?」

「まさか!我々ジグラット以外に誰が…………?」


「急ぎましょう。竜を殺そうとしているのかも!……あの竜が人だと知らない人が……」

「ああ。兎も角先ずは状況把握だ。行くぞ……!」


***



「…………何よ、これ」


洞窟の入り口には結界が展開されていた。それは魔力を吸収するタイプのものらしく、生物が中に入れば、その殆どは五分足らずで命を落とすだろう。



魔力は身体を支える重要なリソースである。


この世界の大気には数々の毒性を持つ物質が含まれている。それは鉄を腐らせるものから豚の死体を貪るものまで様々らしいのだが、皆無意識に魔力を使って無意識に外敵から身を守るのだ。


植物、動物、細菌から、人間の区別なく。

常に一定の魔力を保持することが生物を生物とする。


偶然入り込んだのだろう、向こう側の黒いツバメがそれを証明している。だらりと羽根を下げ眠るように横たわっているあの哀れなツバメが。



魔力を絶やせば待つのは、冷たい死のみだということを。


こんなとんでもないもの、もちろん自然に形成されたものではない筈。何かただならぬことが起こっていることだけはたしかだ。


「まさか竜が結界を張った?」

「こんな密閉空間でそれは自殺行為よ。そもそも、そんな魔力を残しているとは思えない。竜を殺そうとする誰かだろうけど、一体……」


「全容がはっきりとしなくなって来ましたね……このまま動く訳にも……違法狩猟家の仕業……?」

「いやどうだろう。私の勘が言ってるのだよ、これは……金の目的ではない、と」


アキラ・ムラカミが銃を手にした。


安全装置を解除して弾丸を装填する一連の手つきは素早く行われた。言葉と裏腹に、その仕草は丁寧かつ冷静だった。



「アーちゃん、【気配探知】って使える?」

「……!了解」


不遇の才児アーちゃんに宿るスキルは多い。アーちゃん本人が何を持っていたか忘れるほどに。気配探知もまたその一つ。


全く羨ましいものだ。

そして私の愛しい親友はもちろん、何より頼もしい!


「そうなのか」

「変わらないわね、あんたほんと……」

「恥ずかしがり屋さんなのもかわ……」


「いいかげんにしろっ、緊急事態でしょうが――!」


弱点のすねを蹴られ悶える私。

不思議そうにアキラ・ムラカミが見る。


私は横目にアーちゃんを見た。スキルの発動のために、長い木製の杖を構えて空へ向けていた。杖はアーちゃんの身長と同じくらい長いものだった。


クレトリア家にいた時に持っていた杖なのだろう。装飾が施され、華美だが、どこにも下品さのない美しい姿をしている。


まさにアーちゃんの好きそうなセンスだ。


「【気配探知】……流れ落ちる波、石を形とせん」


アーちゃんは探知を終わらせたらしい。


「そこ!洞窟入り口右斜め上方向……草むらの影に人間二名!」

「警告する!!身分を明かせ!対応によっては撃つ!」


アキラ・ムラカミは私が杖を構えるよりはるかに素早く、その草むらに標準を合わせていた。


緊張の走る一瞬二秒……返答を私達は静かに待つ。


「さっきあんたが言った……違法狩猟家……まあ違法なのは確かね」

「そんな小物共と一緒にしないでくれます?」


聞こえたのは二つの声。

どこか冷徹さのある高い声と、敵意丸出しの鋭さ含む声。


「どうする。蜂の巣になりたいか?」

「…………はん!身分ね。私達は……」


そうして草むらから降りて来たのは、敵意を隠さない金髪の少女。


「ジェイムズ研究所といえば、おわかり?」


そう自らを名乗ったのだった。


***



「いっつーう…………」

「ねえ。私達はケンカしに来たんじゃないんだけど」

「……け、けど。舐められるのも……」


先ほど声高らかに名乗りを上げた金髪の少女を叱りつけ、少女のその相方らしき女は続ける。


「面子の為に死にたいなら、マフィアにでもなってれば?いっつも後先を考えないよね……あんたは」


「うぅ………………」

「……はあ………………」


説教の声の主は大きなため息を吐く。この二人私達の目の前に出て来たかと思えば……いきなり片方がいきなり相方を殴りつけたのだ。


ジェイムズ研究所……聞いたことはある。たしか二年ほど前この国のこのあたりの地方で興った製薬企業らしいが……違法な治験実験を繰り返し繰り返し、廃業の通告をつい1ヶ月ほど前出されていたはず。


「その研究所が……竜に何の用件だ?」

「何ですかその目は!別に実験なんてしませんよ。竜なんて何の利用価値もないし――てか、何です?警察ごっこですか?まあ?こんな所までやって来る暇なオマワリなんていないだろうけど」


「私は警察だが」

「…………………………」


驚愕に口が閉じないらしい顔をして絶句する金髪の少女に、項垂れて呆れる青髪の女性。


その二人に姿勢を揺るがすことなくしっかりと銃を向ける。それでもこの光景をアキラ・ムラカミは目を丸くして見ていた。


「絶対こいつら大物よ……」


アーちゃんの言葉に同調するアキラ・ムラカミ。


「ああ…………銃を向けられてこの度胸。今まで一度だって見た事もない……」

「この娘が馬鹿なだけよ。知なき勇気は蛮勇なりってね」

「はあ?馬鹿っていった方が馬鹿なんですけど!?」


「うるさい…………」

「ひどいー!ひどいですよ先輩ー!!」


「あ、あの……横から失礼なんですけど、私はメルファです。だったら、何故竜を狩ろうとしてるかって言う理由を知りたいのですけど……」

「私はアーリア。……あんたらには色々言いたいけど、今はこらえとく」

「私はジグラット諜報員のアキラ・ムラカミ。今の質問に答えて貰えると、助かるのだがね」


すると、答えて言う。


「失礼したねメルファさんにアーリアさん、そしてアキラさん。私はワトソン・デューイ」

「………………メリル・ジョーダンです。て言うか――!そんなの言う訳……」


ワトソンと名乗った女性は即答した。


「ジェイムズ研究所にもう予算なんて無いし、まあ研究費欲しさだよ。私達は、とある組織から依頼を受けてね。どうもこの竜の死体が欲しいんだと」

「先輩何で言っちゃうんですか――!!!」


メリルはワトソンに突っかかる。メリルは暴走っ子で、それを止めるワトソン…………その様子から、この二人の普段の関係が想像できる。青混じるショートの髪に、長い金髪。


見た目だけだが、年齢はどちらもそう大差は無いだろう。


「やっぱおっぱいでかいからアホなんですか!?先輩はFですよね?あ、話し変わりますけど……どうしたらそんだけでかくなるんです?私Cしかないのに……歳なんて三歳くらいしか離れて」

「ぶち殺すぞべらべらとぁぁぁ!!こんのアホガキ!!」

「ご、ごめんなさぃぃぃぃ………………きゅう」


勝手に色々とバラされて、メリルの胸ぐら掴んで叱りつけるワトソン。………………不憫だ。当のメリルはオチたらしい。絞りかすの声をあげて白目をむいている。



しかし………竜の死体を欲しがる組織……?


「こっち見て何の顔です?メルファさん?」


アーちゃんが私に問うてきた。


「……見てないです」


本当に見てない、考えていたのは別のこと。


「ん?私が自意識過剰とでも言いたいのかしらね?ねえメルファさん」


構わずアーちゃんは続ける。………けどあえてその話をするとしたら、アーちゃんは無いからこそ可愛いのに。


「何か?」

「何も?」

「何だ?何の話しだ?」


「関係なーい。んで?アキラ?聞きたいことがあるんじゃなくて?」

「ああ、あんたらのカップ数には興味は無いが……その組織というのには興味がある。それは何処の誰だ?」


「どんな訳でこんな僻地にサツが捜査に来たのかは知らないけど、ジグラットに目をつけられちゃもうどっちもどっちか……いいよ教えてあげる。ただ交換条件でどう?」

「…………何だ?それ次第だがな」


アキラ・ムラカミは銃をより前に突きつける。


「私達だって仕事だし、そうやすやすとあの組織からの信用を失いたくはない。今ここに居ないんだけど……リーダーから叱られるのも面倒くさいしね。ただ捕まりたくはない。だから私が要点を話す前に、あんたらに逆に質問したいんだ――貴方達は、この竜に一体全体何がしたいの?」

「……本来は極秘情報だが、それで面倒ごとを避けれるのであれば致し方ない。時間も無いからな……あい分かった話そう」


「……ジグラットって極秘情報話す、ノリ軽いわよね」


***


「なるほど……人の竜。確かに他の竜とは知性の面で挙動が明かに違うタイプだったけど……スキルの暴走、とは」

「救出せねばならんからな。その竜を殺すことは少女を殺すことに等しい」


「スキルの暴走なんて前例が無いですよね?本当にそんなことがあれば面白いけど」

「……ただ。もう一ついい?それをどうやって助けるつもり?スキルの暴走なんて解除の方法……検討も付かないけど」


「それについては、私が」


「何です?この陰湿丸メガネ?どうせトーシローが知ったかしてるんでしょう、ねえ先輩?」

「へーえ?まだ殴り足られないか後輩。その煽り癖が治るまで殴るのに私の人生の何時間消費すればいいかなー?」


「ひっ」

「いいですよ、陰湿でもなんでも。それよりも方法はあります。研究者ですか。……私も実は似た様なものなんです」


「……へえ」

「魔法使いですから!……まあ、見習いみたいなものですが」


***



「私は最悪……この竜とメリルを置き去りに逃げようかなと思ってさえいたよ。ジェイムズ研究所のことを嗅ぎ回ってるのかと思ってたし」

「えっ」


「本当に初めてだよ。ジグラットを目の前にしても寸分も動揺せず、その上ある種の気持ちが良いほどの誠実さを持つ者を見たのは。……やはり、いつの時代も研究者というのは……面白い人種だな」


「……私達はただのろくでなし集団なだけだよ」


ジェイムズ研究所――彼女らは、自身らを研究者と呼ぶ。


彼女から、自嘲の笑みに漏れる声が聞こえた。なんとも力の無い声だった。しかし同時に、ワトソンからメリルへの親しみのような暖かさも感じられた。


「ワトソン……その口調ならば、気が変わったとでも言いたいのだろう?」


「うん。貴女以外のその二人……紹介してもらった通り、本当にジグラットではなさそうだし、私達を拘束しにきた様子でもない。けど一つ、メルファさんについて」

「……?」


「どうやって竜の少女を助けるつもり?本来人の手足のように制御できるはずのユニークスキルが暴走したっていう事実も興味深いけど、暴走状態にある個人が発動しているユニークスキルを他者が解除する方法なんて全く想像がつかない。そんなことができるのなら、私たちにとってはそれこそ奇跡だよ」


「えぇと、要するに……?」


「誤解を恐れずに表現すれば……つまりメルファさんに興味があるってこと」

「どうしてこう……研究者ってのはいつもこうなのかしね……?」


***


「無論ですが。少女を救う為に、私が竜のすぐそばに近寄らないといけないんですよね」


「しかし……我のことながらこの結界は厄介だね。竜を殺すために威力を増したのが不運だった……どう迂回する、か」

「先輩。防御魔法で突っ込みますか?」


「肌がゾンビ色になりたいのならそうしたら?人間が……竜に効くレベルの結界を無視して正面突破なんて無理」

「けど、方法なんてそれしか無いじゃないですか?迂回といっても……」


「そうだな、この結界が簡易式なのが厄介だ。展開が素早い分解除への融通がきかない。結界内のエネルギーが大きい分それにまた拍車がかかっている。解除まで時間を待つしかないだろうが……」

「ですよ!流石ジグラット諜報員。兎に角、普通なら結界の解除なんて無理ですね。だから強行突破しかないんですよ!!」

「じゃあメリル、いってらっしゃい」


殺意滲む満面の笑顔を浮かべ、ワトソンさんはメリルを洞窟の入り口方向に押している。


ちなみに、鳥の死体はもう骨にだけになっていた。この有様なので、常人が境界線を越せばどうなるのかは想像に固くない。


「ごめんなさい突破方法考えますから押さないで!」

「でも、確かにもう時間なんて……その竜って傷だらけじゃないの?だったら竜に残された魔力も……結界の迂回策を考えてる暇はあるの?」


アーちゃんの示す様に、竜の魔力が尽きれば少女は死ぬ。


時間はもう残されていない。

この結界は構造が単純故にあまりに強力。


それこそ竜の力を封じ込めてしまう程には。

結界を無視して洞窟を進むのは不可能と考えるべき


……ならば。


「ひとつ方法はあります」

「聞こうか、メルファさん」


私は自分の持つ杖を握りしめた。魔法使いの私にしかできないことを成す為に。


「結界を解除するんです」

「どうやって?」

「はん!!そんなの私でも出来ませんて。賭けましょう!出来たら逆立ちで裸で街を歩きましょうか」

「後輩……それはフラグでは…………」


「……私もそのくらいの覚悟でやりますよ」


境界線ギリギリに立ち、杖の一部分を結界の中へ入れる。

杖を中継し、結界と私の繋がりを作る。


父から受け継いだこの杖には、いつも温もりを感じる。何かかたくましさを感じるようなそれは、私にいつも勇気をくれた。


「――【コンセントレイト】」


スキルを発動させる。

意識を削り、ただ一つの命令を遂行せんと不要を捨てる。


結界の構造はひどく単純だ。だからこそ解除に手間がかかる。結界の展開する際消費した量と同等のエネルギーで相殺しなければならないから。


だがそのエネルギーを発電してしまえば問題は無い。

体内の魔力を回し、最高の効率で魔力を変換させる。


今できる最高の理論を、最低の出力により叶える。

故に人一人の僅かな魔力でも事足りる。


「……………………!」



「……………………うっそ、マジ、ですか……?!」

「こんなにあっさりと……うん。もっと興味が湧いてきたよ」


「……………………ふー」


散らばった残骸が太陽の恵みを受け輝く。洞窟のカーテンのように光を遮っていた結界は崩壊し、真昼の森の洞穴は森の緑に照らされた。


もはや、先の怪異的な不気味さは薄れていた。


「メルファさん、貴女のその力は……」

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