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【メイドアチートスキル】貴族学園の落ちこぼれている天然少女はレジェンドだった〜追放されたら魔法使い、ないし冒険者の王女〜  作者: 猫村有栖
月は無慈悲な魔法使い.ep1〜勇者の夫の手から、その妻である幼馴染を救い出すため、覚醒しなさい〜
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第三話 探求の彼方へ

あらすじ:

スキル【感覚欠落】の力を引き出し、最強とされる勇者カインを倒したメルファ。しかしメルファはカインの勇者としての強さに疑問を抱かずにはいられなかった。……果たしてこの物語の結末はどこに向かうのでしょうか?


***


「おい……嘘だろ……!?」

「ま、まじかよ!明日とか学校休みになんじゃね?」

「カイン様ぁぁぁ…………どこですか………」


「何……?なんか交番前が騒がしいなぁ。何だ?」

「そりゃないよカリンちゃん。新聞かニュース見てないの……?」


「?」

「勇者が失踪したんだよ。それも一昨日の夜、突然ね」

「へぇ……んで、何か私達に影響あるのか?」


「……私達警察でしょ?」

「そうだな?」

「だからねその……治安が…………」



「勇者が居なくなっただと!?ヒャッハー!!何か知らないが暴れるぜぇー!!」

「おらおらー!!俺が新世代の勇者だぁー!!」

「なわけねー笑笑笑!!!」



「お、おいおい…………まじか……」

「ま、仕事が増えるんだよねー」

「はぁ……いつものことかぁ……」



あの夜、何があったかと言うと…………


***


「………この……循環する魔力の量は……まさか……もう既に……こいつ……目覚めていた……!?」

「ご立派な姿を台無しにしてしまい申し訳ありません勇者様。しかし、私の勝ちです」


「貴様あ………!!!」


体がぐらりと揺れ、勇者カインは倒れた。

カインからは魔力は感じられずスキルを発動する気配も感じられない。


だが【七つの技能】を持つ勇者にしては、拍子抜けというか。



「随分と、酷い姿ね、カイン」

「アーリア……貴様………図ったな…………?!」


這いずるカインの目の前にアーリアは立ち、声をかけた。


「いや、違う。これは私たちが計画したことで、アーちゃんは関係ない」


「聞いておこう。あなた、アーちゃんの婚約者って言ってたけど、その行動、態度……自分の嫁さんに向ける顔じゃないよね。まるで、【道具】に対する態度みたいだけど」


「道具……?そうかもなあ!!アーリア!!!その横のクソガキを殺せ!!!自分の母親がどうなってもいいのかー!!!」


「……面白い発想ねカイン。あの母親を人質にするなんて。母親から私への仕打ちを知らないの?」


「…………………な、何を言っている?」


「それこそ道具のように扱われたわーーあぁ、そうね」


………なるほど。

なんとなくだけれど、私にも察せたかもしれない。


「『あなた』も私も、ただの道具だったのよ。母様のね」

「馬鹿な馬鹿な馬鹿な………」


「…………カイン、私は知ってるわ。あなたのその力は偽物だっていうことを」


「!!いや違う、違う!!ぼくがお前を、お前の力を【コピー】した才能なんだから本物だ!!ぼ、ぼくの力だ!!」


【コピー】。

他者のスキルを模倣し再現する力……


「違うわ。その力は本来私が持つもの。だから私と結婚したのよね?私、知ってたんですから」


つ、つまり。


まさか彼は、アーちゃんのスキルを……

コピーしていた……のか!


「……そうだ。そうだ!だからおとなしくお前は俺のとなりに……」


「あなたは、かわいそうだから」


「………………は?」

「辛そうよ。強がって悪ぶるあなたは。その力を使いこなすために努力するあなたを私は知っています。けど……勇者の力は、やはり勇者にしか使いこなせない」


「ち……ち……ちが……」

「もう、叶わない夢を追わないで。このままだとあなたは捨てられる。勇者の力を、10%ほどしか使えないことが判明したら……!お母様はきっとあなたを……」


「同情するな!何なんだよ!辞めろ!!」

「!」


「ぼくのことだ!ぼくがやってるんだ、ぼくが好きでやってるんだ!!お前は関係ないだろ!!!」


「……あなたには才能がある」

「……勇者の力を10%でもコピーできるのは才能よ。何も勇者の力に固執しなくても、あなたには特別な才能がある」


「だからこそ……その才能を蕾のままで終わらせてしまう道を選ばないで」

「誰かの権力のためでもなく、地位のためでも、あなたが嫌いな貴婦人たちのためでもない」


「彼らから逃げてもいいから」


「あなたは、あなただけのために生きて……」



「……はは、ははは、はははは」

「……馬鹿だよお前ら」


そしてカインは、力なく笑った。



「……このぼくに、かわいそう、なんてことば」

「本当に、はじめて、言われたよ」


***


彼は拘束具をつけられても抵抗しなかった。


……私は、倒れているメアのもとへ向かった。


そうしようとした時。


「苦しんでまで、人が生きる意味なんてあるのかな?」


アーちゃんがそう溢した言葉が聞こえた。


「ある……と思う」

「……メルファ?」


「あってほしいと私は思う」


「例え、死ぬ事でしか救われないと思うくらい、全てが苦しみに満ちている人生があるとしても、等しく意味があると思う」


「…………何も残せそうにない人間にも?」

「違うよ。……何も残ってないなんて。それは、ただの勘違い」


「…………」


「けれど自分が残したものを、見失うことはある」


「そして、自分の未来を見失うことだって……ある」


「なら……」

「?」


そんなことを言いながら。

泣きじゃくりながらアーちゃんは、私の手を取る。


「あんたに、着いていくわ、私」

「……はは。騒がしくなりそうだねぇ……」


***


「あの不気味なマツリ家の魔術師は一体なんなんでしょ?」

「ン?知らんのか」


アーリアスマ……つまりクレトリア当主。

そのお付きの男が尋ねる。


「あやつの力はわしにも見通せんな。十五の儀の時分……貴様らはわしに、あやつの持つ力を事実に関わらず『貧弱』だと分析して、あやつに恥をかかせてやれと言った」

「へ、へぇ。ベロ様。報酬は今、もうたんまりと支払いましたよね?勿論これは口外しねぇで下さいよ……へへへ」


「ああ……確かに受け取った。……これはおまけとして話してやろう。もしこの不正が無くとも、やつの力は実際にも貧弱だと……わしの検査ではそう結果を出したよ」

「……?あっしには分かりませんぜ?つまりただの出来損ないのガキってことじゃないんですかい?」

「違うな。アレはおそらく……十五の儀では価値を発見できんスキルだ」

「???」



「まあつまり、クレトリアは大きな利用価値のある魔術師を殺そうとしている訳だ。……どころか勇者があの少女をマジで殺せるかどうかすら分からんがね」


お付きの男に背を向けた。

金の入ったトランク片手に。


その老人は「がははははは」と豪快に笑う。


「アーリアスマも死ぬほど後悔するだろうよ!ありゃあ……勇者を超える逸材だ!!忠告しておくぞ〜君ィ、辞表を出しておいた方がいいんじゃないかね?」

「あ、あっしには良くわかりやせんぜベロ様……」


「まあなんだ、悪党のわしが言うのも何じゃがな、あの性悪クソ女からのとばっちりに気をつけたまえよ君。あの女の下で働くにゃちと……アレだからな」

「へ、へぇ………?」


***


聞けば、アーちゃんのクレトリア家での扱いは凄惨なものだったらしい。


その中でも……特にカインのこれまでやってきたことを許す訳にはいかない。


「………カイン、約束は守ってもらいますよ」


私の言葉に、力無く反応する。



あの日から丁度、約一日。


今日は月が見えない夜らしく、屋敷のあたりは暗い。

私たちは色々な準備をした。


特に、カインのスキル【コピー】については、アーちゃんからよく聞いた。


三人でよく話し合って、そして、彼に勇者の力はもう使わせないことに決めたのだった。


「ああ、もう、好きにしろ……アーリア、お前との婚約を破棄する」

「……謹んでお受けします」


「……あとは知らん。お前もぼくも、ぶらぶら生きる。そうなんだろ」

「……私、冒険に出ます」


その言葉を聴き、勇者は笑った。



「ははははは!いいね、騎士道物語にありがちな聖杯だの何だののお宝が狙いかい?」

「……わかりません」


「…………」

「私は私のやりたい事を探します。この旅で」


「そうか、俺も、同じさ」




「これからどうするつもりですの?」


……それでも、アーちゃんは彼を許した。彼に情状酌量の余地があると下し、この国に戻って来ないことを条件に彼を解放した。


勇者の力は彼から失われているので、彼が国に追われることもないだろう。


……そして、彼は強い。


「……………分からない。だが……」


彼は一人で生き抜く力を備えている。

彼はほんの少し、彼にとっても間違えただけ。



だからこそ、力の責任から逃れようとする大人から遠ざけねばならない。


そう、アーちゃん、彼女の母親のような……



彼は気の抜けたような背中をしていた。


「もしもまた、どこかでお前らと会えるのならば……また会おう」


その言葉を最後に、彼は去った。

何も持たずに、どこかへ行った。


***


「何故…………貴様がここに…………………」


女の前に、一人のメイドが首を垂れていた。


「おや。私しめの顔をお覚になられていたとは、大変嬉しい限りです。マツリ家専属メイドのメアリーと申します。どうぞこの場の皆さん、以後お見知り置きを」


クレトリア家の屋敷に、やってきたのはとあるメイド。


「おい………マツリ家とは…………」

「………マツリ家…………滅んだのでは…………」

「……………マツリ……………………」


「馬鹿な…………………………………………………」


女はただ自分にとってありえないものを見ている。

しかしそれは現実、勇者がしくじったという結末だ。


「馬鹿な!!!【七つの技能】を上回る力をあの愚民が有している訳がない……!!!」


場の空気が静まり返った。

クレトリアの家系が集まって、お茶会を開いていた。


そんな雰囲気は消え去りーー喧騒は一瞬にして凍る。

皆、その女の発狂に視線を集めるばかりだった。


「何のことでしょう?ただ私は挨拶をと、ここに伺ったのみでございます。ああ、確かに有りましたね。最近広まっている、貴族を辞めたものが皆、死亡する噂ーーそれについてのご心配痛み入る限りでございます。しかし、そのことについてはこちらを」

「ふ…………………っふ………っ…………」


怒りに声が漏れそうなその女に対して、メアリーは手紙を渡す。


「では、皆さまどうも、お邪魔しました」


礼をしてから、軽やかな足取りで中庭から姿を消した、若きメイドの姿を一同は見たが、すぐに女の方に視線を戻した。




「この手紙………魔力による契約で、開封にはサインをしなければならないらしいな?」

「そ、そのようで……へへ。しかも貴女様のサインのみ受け付けるようになっているらしく……」


静まり返ったその場所で、その女は当たり前のように一人語る。


皆に、命令をする。

ふんぞり返り、それが正義だというように。


「そこの女。万年筆を寄越せ」

「は……はい」



「おい」

「………は、はい」


「ペンを渡す方向が逆だ!!常識も分からんグズ女め!!」

「し、失礼しました……」


「何だ何を記している?この手紙に、脅して金でも取ろうと言うのか?カスの小物の分際で良い度胸だ笑ってやる」


彼女は冷静さを完全に失っていた。為に、ひとつの単純な過ちに気づけなかった。


間違いの指摘を、悪と切って捨てた為。

だから彼女はいとも簡単に契約をしてしまった。


【七つの技能】継承の契約書、それがこの手紙だった。


***


「アーリアスマ・リン・クレトリア……突発性心臓ショックにより意識不明……原因はストレスか。エブリ新聞……」

「常にお怒りであられました方でしたので。まあ、糸が切れたんでしょうか?」


「お、お母様…………」


街の宿屋で新聞を購入し、その報を見た。

……やりすぎたか?いや………まあ、【勇者】なんて重大な責任は、カインでも、アーリアでもなく、【大人】が背負うべき責任だし。


アーリアスマには、今の今まで、それを子供に背負わせていたツケだと思ってもらいたい。


私たちのやったことは要するに、勇者の技能をアーリアスマに、一部を継承させたのだ。


伝承では、書面で継承を行ったなんて前例もあるから、これで良いかなとは思ってはいたものの。


しかしまさかこんなに上手くいくとは……ほとんど彼女を騙して契約したみたいなものなのに。


「よし、さっさとこの街からトンズラよアーちゃん」

「うう………まじで帰れないわこれは………」


「まあ私たち、そもそも不法侵入器物破損から罪のフルコースですもの。クレトリア側も悪事がバレるので事件は隠蔽する……ということになりましょうけど、限度がありますし。それこそ刑罰は大盛りでしょうね、捕まったら」

「……はぁ……面倒なことに……なったわ……」


「こっちも事情があるのだし、も、そういうものだと思いましょ?まあ……犯罪者になった、私の家が壊されるくらいよ。結果としては上等でしょう」


「……ねぇ。旅で、私に気遣いなんか不要だから。その点疎かにしないように、分かった?」


「やっと調子戻って来た?アーちゃん」

「あとその呼び名をやめろと言うとるでしょうが、私とあんたが親しいみたいになるでしょうが(殺意)」

「痛い痛い痛い……全身ぎゅーしないで痛い痛い……」


……本当に、素直じゃないお姫様。


「いや、そもそもこれからどうするのよ?兎に角この街には居られないでしょうけども」


「………うん、私達はそもそも目的がない。定職でも探す?」

「いや……この国の犯罪者が定職なんて無理でしょ……」


「あはは、まあ半分冗談。まあ……新居探しの旅もいいんじゃない?しばらくは」

「て……適当……まともな人生送る気はないの?」


「まあそんなの、十五の儀の時捨てたから」

「一番厄介なやつ!……通りで肝が座ってると思ったら……」


「ははは」


「で、どこに向かいましょう。お嬢様?」

「………メアの治癒が大体終わったし……そうね。よし、まずは国外逃亡から」

「………うーん………もうなんか……慣れたわ………」

「運命が決まっていて、変えられないとしてさ?」

「勇者でも魔王でも、魔法使いでも変えられないのかい」

「うん。そして、その運命が見えるとしたら……父さんはどうするの?」


「それはどんなものかな」

「例えば世界が滅ぶとか、自分が死んでしまう運命とか」

「うーん……」


父は確かにこう答えたというのを覚えている。月の光が飽和するような夜に、一緒に散歩した時、私が父にそう問うた。数刻考えて父は返した。


「……なら、自分じゃない別の誰かに変えてもらうかな」

「何その答え……へりくつだ。私、変えられないって言ったのに……」

「ひひひ。上手い答えでしょう?」


「はあ。あきれる」

「おっメルファ、反抗期かな?」


「……じゃあ、誰にも変えられない運命ってあると思う?」

「あるかもね。ただその時……」


「ただ?」

「変えられる運命もまた存在するだろう」

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