第三話-1 日常、そして隣の非日常
駅から少し歩いて、徒歩数分のあいだに大きな看板が見え、それが目印。
クラリネット学園、アイドル養成学校。
「ねぇ、オカルト部の新しいプロデューサーって誰なのかな?」
「さあ……リエはどう思う?」
「ど、どんな人なんでしょうか……お、女の人……とは……聞きましたが……やぁ、優しい方だといいなぁ……」
「まあね……ちょっとでいいからマシな大人だといいけど……」
「誰でも結構」
「お姉?」
「だって、このオカルト部は」
「……」
「もうどーせ廃部寸前!ああはうわぁん!やだやだ退学なんてヤダよー!!!」
「お姉……」
「……ドットさん、珍しく落ち込んでますね……」
「お姉、ただでさえ直情型で情緒不安定なのに……」
「け、けど……私に歌唱力があれば、こんなことには……じゃあ……私のせい……?うぁぁぁん……」
「……リエちゃんは平常運転だけど……お姉まで……」
「いいや!考えてても仕方ないや!とにかくバズる方法を考えよう!どうしよう!」
「いやそれでいいの……?」
「……な、なら……私の裸をどうぞお使い下さい……snsにアップすれば、なんとか閲覧数は稼げるはず……」
「いやダメだよ?」
「やべースキャンダルだねそれ、ある意味私達有名になれるよ」
「……リエは巨乳だし、プロポーションもいいのに、自信がないのが勿体無いよ。歌唱力もあるのに……」
「そ、そんな……身体はともかく……私の歌を好きになる方なんて……いるとはとても……思えません……」
「いいや?リエちゃんの守護霊さんは好きだって言ってるよ!」
「……?守護霊………………?」
「ああ……いつものお姉の新しい設定だよ。今度は霊感少女方向で行くみたいだね……」
「そんなぁ……設定だなんて夢のないことだ、我が妹。貴様それでもアイドルか!!」
「か、関係ない…………」
***
クラリネット学園に入学した者は、必ず【部活】に入部する。その部活内でのみ、アイドル活動が許される。
つまり、アイドルのグループにあたるものが、クラリネット学園の【部活】と呼ばれるものである。
現在部活数『42』
吹奏楽部、テニス部、バスケ部など……
そして果てにオカルト部、情報部など。
……しかし、それはあまりに大きなピラミッドだ。
頂点に君臨するたった三組の部活は、それを除く部活の収入を超えてしまえる。
そしてアイドルとは夢を与える仕事だ。
だからこそ、何もかも揃っていなければならない。
「アイドル業界で、アイドルとしてのし上がってゆく……それは果てしない苦難の連続です。メルファさん」
「……ごくり」
「それを支援するのが我々、冬蝶風節の仕事です。少なくとも彼女らのチャンスが公平であるように」
「……とっても、緊張感が伝わってきます」
「……ええ。この仕事は冬蝶風節の表の顔でもありますし、何より……私ら以外のやくざ者が……アイドルに手を出してしまうことも有ります。ヤクザは表の人々を動かす力を持ちますが、しかし責任、線引きははっきりさせるべきです。暴走しないよう監視し…………そしてもし外道を行く者がいれば、それを暴力によって鎮圧する」
「……暴力…………」
「そうです。これが最も効果的かつ、伝統的で、納得を得られる手法です……私らはヤクザです。皆、それを受け入れる覚悟がある筈だ……」
「…………そう、ですか」
「……ええ。……しかしね、いつまでたっても下衆は現れる……時代は変わりますが、人の犯す過ちの種類は変わらない」
「これは……?」
「とあるアイドルに届いた、予告ですよ」
「……殺害予告です」
「…………!」




