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上 強盗さんの


「おい店主、騒ぐんじゃねぇ!!」

「ごはぁ……っ…………」

「ようやく静かになったな。ったく、まあいいや。そうだ!この店主のおっさんを人質にでもすれば……サツからももっと稼げるな」


深夜一時。

とある街中のとある宝石店。


「おい馬鹿が!!ケースに触れるな!警報が作動するだろ!!」

「す、すみませ……ん……」


「兄貴ぃ!俺はここに入る前にコイツにきちんと言い聞かせてた筈ですよ!!……お前何だったらまともに出来るんだ?!」


「え、ええと……お掃除とか……魚の解体とか……」

「そんなこと言うが……お前俺らのアジトで掃除させたけど全然ダメだったじゃねえか!!料理だって、俺はお前の飯で三日もお腹を下したんだぞ!?」


「……ったく、ほんっとゴミスキル人間ってのは謝ることしか能が無いな!強盗もまともにできないか……!?」


「……ご、ゴミスキル……は……関係な……」

「あ?」


「す、すみませんすみませんすみません……宝……宝石を沢山持ち帰った方が、お役に……立てるかなと……」

「……はあ。俺らと同じスラム出身でもお前は特にずば抜けた出来損ないだな!」


「……え、何で分かるんですか……?」

「は?隠してたつもりなのか?頭も悪いのか?」


「テメーのその言葉使いだよ!スラム訛りじゃねえか!」

「……う…………うぅ……う…………」


「チッ……もうコイツ泣いてますよ!」

「仕方ねぇな……サツの餌としてもう置いていくか……」


「兄貴、丁度良さそうなロープがありますよ!」

「!!?」


「よし」

「えっ何を……」


「もうお前は黙れ!」

「……………………」


「……あーあ。俺が一発殴っただけで伸びちまったよ。」

「戦闘の出来る俺らの用心棒として雇ったのにその以前の問題ですね……このグズ女の方は」

「冬蝶風節が寄越した人材だってのに、まるでダメダメじゃないか!後で文句付けてタカってやる!!……いやよく見りゃ身体の肉付きはいいな……タカりがダメだったらあのチンピラどもの欲の掃き溜めには使えるか」

「『あの』冬蝶風節もタカりの対象にするなんて……流石兄貴ハイエナみたいでっせ!!近い将来裏社会の頂点に立つと言われてる男!!」


「……おい。後輩…………」

「何ですか?」



「……ふっ……地獄まで着いてこい……兄弟……」

「兄貴、かっこいい――!!!」


***


……ああ……私……猫塚アヤネは……

これからどうなるんでしょうか……


これからもう身体を売るしか無いのでしょうか……

そうしたらきっと私、偉い人の慰めものになるんだ……

誰にも大切にされないで、馬車馬のように働かされて……

逆らったら殺される環境に怯えて一生を過ごすんだ……


……けど……そんなの当然ですよね……

何をやっても上手く行かないし……

……消えたい……できれば楽に……

けどそんな勇気もないし……


……それに私が天国に行ける訳もないですよね……

盗みも働いてきたし……


ああ……どうして私なんか生まれたんだろ……


***


「………………」

「おいお前さんよ!随分と無口だが、もう少し喜べばどうだ!……確か名前は、メーさん??だったよな?」


「……仕事ですから」

「安心しな。お前、あの女よりかは使えたぜ!」


「では早速……あ、あれ?」

「……どうしましたかアニ……」

「………………!?…………」

「ま、まぶしいっ…………」



「警察だ!手を挙げて武器を捨てろ!!」

「何ッ……!?」


「私は首都治安維持隊巡査部長のカリン・シェリーベット!市民警備員からの通報により出動中である!泥棒どもめ……逃げられると思うなよ!」


「チッ……サツだ、奴ら待ち伏せしてやがったか」

「だが、投降するのなら傷ひとつ付けないと約束しよう!だが逆もまた然り!その場合、本官には武力鎮圧の権限が与えられる!」


「ははは!たかが女のサツ一匹だろ?スラム逃走王のこの俺の敵じゃねぇな」

「雑魚敵警官!兄貴の実力も知らないくせによく言うぜ!」


「何だと!?貴様ら、投降するなら今のうちだぞ!!」

「それは俺のセリフだ。警察のクソ犬さんよ!俺はスキルで固有の結界を持ってる!どういう意味か分かるか?」

「何!?結界だと……!」


「そうだ!第三位上級魔術に相当する結界の展開!この世界でこの俺に戦いを挑むんなら、行方不明の勇者でも連れて来な!」

「ハッハー!!俺の兄貴は最強だ!手前なんか怖くねぇんだよ!!」


「だが、警察である本官がこれ以上……引くわけにはいかない……」

「じゃあ兄貴に挑みなよ!何秒持つか楽しみだなぁひゃひゃひゃ!」


「お前さっきからうるさいな!笑い方気持ち悪いし!!」

「何っ!?」

「あぁもう我慢の限界だ!!本当に撃つからな!!」


「はは……落ち着けお巡りさんよ。それで、どうやってこの俺を武力で鎮圧するつもりだ?」

「……ぐ…………その稀な才能を何故、社会のために生かさないのだ!?お前のような人間が魔術師協会や国際ギルド連盟に所属すれば……沢山の人間を救える筈だというのに……」


「手前!!兄貴を舐めやがってこのカス犬!!!」

「……鎮まれ兄弟。だが、このお巡りは社会ってものを分かってねぇな」

「何だと!?」


「スラム生まれで十五の儀さえ受けられん俺が、そんなご立派な職業に就けると思うのか?」

「…………え?」


「この俺だってこんなやり方で飯を食うのは避けてぇよ。だがな?スラム生まれがまともに一日働いてもバス一回乗る運賃さえ稼げない」

「…………そ、それでも、こんなやり方は…………」


「なあ、お巡り。この世界を支配してんのは何だと思う?」

「…………?」


「法律でも憲法でもない。暗黙の了解ってやつさ。グレーラインさ。許されるギリギリの道徳ってやつだ。そうだろ?スラム生まれは雇わない、服は売らない、食いもん買う時高い金をふっかける。それは覆せない決まりだ」

「…………」


「だが俺は、そんなクソルールを作った手前らを恨んでないよ。それがあるから、俺らの居場所がある。汚い世界は心地が良い、全部暴力で解決する。俺みたいな強い人間に徳しか無い世界を手前らはわざわざ用意してくれたんだ」

「…………」


「さてお巡りさんよ、こんな世界に入ってくるな。お前は明らかに違う側の人間だ。さっきお前の言った通り好きに社会に貢献すれば良いさ。……少し近寄るぞ」

「……?お前私のポケットに……」


「はいよ。俺はわざわざいらん戦いをするほど馬鹿じゃない。これで見逃せ。な?」

「………そんなこと、していいはずが…………!」


「俺は優しいぞ?機嫌が良い時だけだがな」

「………私だって、警察としてのプライドが……!」

「……【固有結界】」



「おおっ兄貴の固有結果だぁーっ!!」


「何ぃ!?……くっ、発砲する!!」

「ぐはは!兄貴にそんなオモチャを使っても意味ねえな!」

「…………嘘だろ」


「何だ?これだけか?」



「流石兄貴、九ミリ弾丸六発を素手で止めやがった!!」

「ぐっ……【ファイアー】!!」


「……今、何かしたか?」

「ぐぅ、まさか……!【MAA-57式魔術砲】!!」



「効かんな」

「……こ、攻撃が通らない!」

「馬鹿かお前!兄貴の身体強化固有結界の中で戦いを挑むとか!物理攻撃は兄貴の身体が受け止める!魔術なら兄貴の結界が吸収すんだろーが!そんなことも知らないんだな!!」


「今なら腕の骨の一、二本で済ませてやる」

「ひ……卑怯だぞ!いきなり攻撃……があっ!?」

「だが良くやってるよ、お前は」


「……ぐぁっ!?……げほっ、げほっ…………!」


「この蹴りは効くだろ?そのまま金持って失せなよ」

「分かったろ雑魚警察!兄貴には敵わねーのさ!!」


「……………………」

「こいつ起き上がりやがった!!?」

「兄弟よく見ろ。あいつ逃げてんだよ」

「あ、ほんとだ、逃げてますね」


「………………」

「メーさん!?……追わなくていい!待てったら!聞こえないのか!?」

「ほっときましょうよ兄貴!それよりもさっさと宝石獲りましょう!俺、待ちきれないんですよ!!」

「……ああ……突然何なんだあいつは……?」


***


「怪我は大丈夫ですか!?」

「メルファさんの言うこと聞いとくべきだったんだよ……ほっとけない同僚だなぁ、いつまでも」


「悔しながらお前の言う通りだ、魔術師メルファ……奴のスキルの前で、私の攻撃は一切通らなかった……!」

「見てられなかったので飛び出して来ました。……お怪我は大丈夫でしょうか?」


「カリンさんは無茶しすぎなんだよ……ったく。」


「私のことは気にするな……痛っ…………」

「安心して下さい。今、治癒魔術をかけますね」


「メルファさん……ウチの署のカリンをお願いしますね。私の言う事なんか聞かずに飛び出すんだから。全くもう」

「すまない、セラスちゃん……」


「……」

「魔術師メルファ……無知からの質問ですまないが、固有結界とは何なんだ?奴がそのスキルを使って突然、力が増大したように見えたんだ!」


「まず結界とは、特殊な空間を形成する魔法のことです。その中で力を増大させるだとか、魔術を無限に行使できるようによるになるとか効果効力は個々の差ですね。……まあ、固有結界というスキルの名前はあの泥棒のネーミングセンスでしょう」

「へぇ…………だから第三位上級魔術なんて呼ばれているんだな」

「ですね」


「では、私らがそれに対抗する手段はあるのか?」

「カリン。正直に言ってしまえば、そんなことができる奴を私達が相手にするのは無理だね。結界は一度展開さえすれば他人が解体することはできない。中で戦うのはもっと無謀。それにあいつら結界抜きでも私たちより強いよ……」

「セラスちゃん……」

「そんな目で見ても無理なもんは無理。私達みたいなちょっと鍛えただけの一般人があれを相手にするのはただの無謀」


「うぐっ!………………そう……だけど……」


「いつもいつも後先考えず突っ走って……しかもそれが出世できない要因でしょ?」


「せ、セラスさん……そこまで言わなくても……」

「この人にはこれくらい言っといた方がいいの。………………怪我してほしくないのに、もう」

「セラスちゃん、最後なんて言ったんだ?」


「……バッ……!……べ、……別に何も……というかそれよりもさ、今はこんな事態になっちゃった訳だし……もう、この件についてメルファさんに頭を下げてお願いするしかないじゃん」


「そうだな。……警察が犯罪者の検挙に手こずるなんて、情けない話だが、魔術師メルファに頼るしか無い……」


「いえ……固有結界が相手なんですから、苦戦するのも当然です。いやそもそも本来なら国軍が動く案件ですがね。固有結界を相手にするなんて」


「……だが、我々警察が見過ごすわけにもいかない。奴は己の力を悪用しこの街で数えきれんほどの犯罪を犯してきた。そんなものを放置すれば」


「まあ。今よりも更に酷く犯罪者から警察は舐められるだろうね……」


「……どうして、こんな人間が生まれて来るんだろうな」


「え?」


「……彼らに話は通じない。私がどれだけ説得を試みても無駄だ。それは彼らのせいだと私は思っていた」


「……明らかに彼らが悪いと思うよ?話が通じないんだから、力で抑えつけるしかないでしょ」


「……そう……だよな……?」



…………


「……あの方達、確かに出自は恵まれていない」


「メルファ……さん?」



「……彼らには運が無かったのも事実です」


「まぁそうかもね。スラム出身で大成してる人もいるか……」


そうだ。私は知っている。

ちょっぴりだけ変た……言い直せばおいたがある……


彼女に名前は無かった。

付けてあげられるヒトがいなかったから。


今ここにいる彼女を知っている。

彼女は命を懸けて役を果たす。



「……彼が選択肢を持てないのは、多くの人が彼を出自だけで信頼しなかったからです」


「信頼……」



「彼らには、自分の罪に責任を取ってもらいます」


「……それが信頼」


***


宝石を根こそぎ頂き、自分たちのアジトに漸く帰ってきた時のことだった。


五分間だ。


俺は人生で悪夢なんて見たことがなかったが、これは一生もののそれになった。


時刻、温度、ドアノブが錆で落ちやがったという下らん記憶まで不思議によく覚えている……


「ん?」

「どうした兄弟?そんなスッとぼけた顔を」

「いや、へへ。なんか空気が変わったなとおもいまして」

「空気だと?」

「いゃぁすみません。兄貴、スズメ(警察)避けで固有結界を展開してましたよね?それのせいスかね?」


そう言うと兄弟は宝石が詰まったカバンを置いた。

もう少し丁寧に扱って欲しいと感じる乱雑さで。


「おいおい……もうちょっと具体的に説明してく……」


そうだ。


「……その時だ」

「……チャイムが鳴ったのはだ」


「結界を張ってたんで、サツが見つけられるはずもねぇ」

「警戒もしてる。俺は十二回アジトを引っ越したよ」

「この辺り、治安が最悪なんで人も寄らねぇ。近くにあんのはスラムのボロ小屋とトタンのボロ小屋とブリキのボロ小屋くらいのもんさ。それがぎゅうぎゅう詰めで並んでんのよ」

「結局はうちもボロ小屋だから、外から見た玄関の醜さがちと癪だが、俺の結界を通じればこの通り!上級国民の住むような広々とした部屋に早変わりさ」

「贅沢に鍵も付いてる。おーとろっく?じゃないがね」

「だから人なんて入ってこねぇ」



「ごめん下さい〜あの〜」

「……?」


外でそんな気の抜ける声がしたのさ。

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