エピローグ 陰謀の下に人々は出会う
「……もしもし。アキラさんですか?」
「ああ。紛れもなく本物のアキラだ」
(もうあの日から一週間だ)
「……はは。もう偽者はごめんですけどね」
「そんなことが出来てしまう人間がいること事態、気味が悪いよ。まぁそれはいい」
「そうですね、あの洞窟はどうなりました?呪いの異常値が急に上昇したお陰で、土壌が汚染されてるでしょう?」
「勿論閉鎖したよ。専門家を手配して自然に影響が出ないようにはからった」
「異常値が爆発クラスまで行かなくて本当に良かったですね……近くに自然文化財もありましたし、この地域まで土壌汚染が広まっていたかも知れませんし……」
「勿論あの洞窟が汚染されたのは手痛いのだが、そうだな。……それも貴女の功績だよ。我々に出来たのは、単純な戦闘、その程度しかなかった。なんとも情けない……」
「い、いや。そんなことは。こちらに託して頂いた仕事ですので当然でしょう。寧ろ、活躍の場を設けて頂いて有難いくらいです」
「メーさんー!ご飯できましたよー!今日はステーキですよー!!」
「すみません!!電話中だから待っててー!!」
「おっとすまない、もう昼食の時間だったかね」
「いやぜんぜん構いませんよ?」
「……そうだな、下宿先はどうだ?何か不便はないか?」
「良くして頂いてますよ。これもジグラットが私達の評判を広めてくれたからですし、あの日のことは気にしないで下さい」
(……私達は、爆破テロを止めたということになっていた)
『蔓延するテロリズム、もう地方にまで』
そんなタイトルの記事に私達の名前が載っている。
テロを未遂に留めたという評判は、この地方で私達が受ける視線を『余所者』から『英雄』に変えてくれた。
少々持ち上げられ過ぎで恥ずかしくなったが少なくとも、飲食店なんかに入店拒否されることは無くなったわけだ。
まぁ良しとしよう。
……その新聞にはそのテロリストの動機、詳細については全く語られていない。
もちろん他紙だって似たような内容しか記されていない。
あんな取り止めもないような少女達が『テロリスト』だったので、至極当然だ。
(あの日――突然やってきた敵)
(ノバラ姉妹の母親に――黒服の少女)
(『運命』――少女が盲信していたもの)
私達、かなりの面倒ごとに巻き込まれているのでは?
だが首を突っ込んだ以上、その分の責任は取らなくてはならない。
「………………ぶつぶつ……」
「どうしたぁ?……おーい?」
「はっ!……すみません……」
「はははっ。新生活にお疲れの様だ。他には……そうだな」
「メイ・ノバラの様子はどうだ」
「……残念ですが」
「……記憶は消えたままみたいです」
(あの日以降、メイ・ノバラの記憶は消えてしまった)
(原因は分からないが、嘘を付いている様子でもない)
一方……
「……なんとも言えないが、【ドゥムジ】のスキルは彼女から消えたままだよな?」
「そうですね。それにまさか突然復活するということもないでしょう」
「なら彼女がテロを起こしたり……人に危害を加える可能性は殆ど失われたままなのだな」
「ですね。……それに記憶喪失が逆に幸いしたのか、精神汚染の影響も見当たりません」
「……分かった。彼女への警戒ランクを下げよう。それにあなた達が見張ってくれるのなら、我々は安心できる」
「ええ。……責任を持って、私達が彼女たちを大人にします」
「ありがとう。ついては、何か手伝えることや困り事があれば直ぐに伝えて欲しい。こちらに出来ることがあれば何でもしよう」
「…………それで、なんですが」
「どうかしたのか?」
「……不安と言いますか。彼女らを竜化させて、呪いのスキルを埋め込んだ……テロリスト?達のことです」
「……すまんな。何の情報も得られていない。残された簡易観測基地のような場所からも、貴女がスキルでPCをハッキングした情報以上のものは得られていない。まるで空に舞う塵を追っている気分だ」
「……彼女らは、一体何なのでしょうか」
「さあなぁ……この事件の黒幕であることは確かだが。……マフィア、企業、政治、宗教。どの団体の特徴も無かった。……強いて言うなら研究者かも知れないな。あの事件の時あそこで我々の邪魔ができたのは、少女達がどうなるのかを観察していたからだ。あの事件の動機は恐らく……『実験』の経過観察……それが目的だったんだろう」
「これは私見ですが……少女達の処理も含まれていたんじゃないでしょうか?」
「どういうことだ?」
「彼女達に与えられた力は暴走していましたし、逆にスキルを取り出すのは一般に困難です」
「……なるほど、要するに廃棄か……」
「……」
「……どの様な理由があったとしても、許されざることだ」
「ですね」
探求とは、一歩間違えれば他人の人生を破壊する。
私も……心に刻まれねばならない。
「それでは、また連絡しますね」
「……ああ……分かった。じゃあ、よい夜を」
「メーさん――それが例の男の人――?」
「ぐぁっ」
背後から声をかけてきたのは下宿先の女将さんだ。
「まさか早速こんなイケボイスの男性をゲット……やるぅ」
「違います!お仕事ですから!」
「そうなの?ウチの娘が広めちゃったらしいんだけどー」
「!!!!?」
「もうこの街じゃ知らない人はいないわよ〜?多分」
「………………にゃぁぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛!゛!゛゛」
「メーさん!!?」
これだから!!!
せまい!!!
田舎!!!
は!!!
(……誤解を説くのに、一週間かかった)
(ちなみに。ジェイムズ研究者のあの二人は、襲撃後逃げ切れたらしい)
(あれも謎が多い人達だった……今度、施設を訪れてみようか……)
***
「ほう。……あの娘……覚醒したか……」
「……うむ……一致率99……面倒じゃがな…………」
「……これは、もはやワシが出向かねば、天国の母様に叱られるわい……」
「く。まさかワシの代にこの役目が回るとは……だが決めた以上は……」
「……急がねばな……」
「…………世界の滅ぶ、その前に」
つづく