第十話 私達は決別するために
「……【コンセントレイト】」
「メルファ!…………く」
……やっぱり
「どうしてもダメだよ。もしここでそんなことをしたら、確かに100%私たちは勝つ」
「……私が『勝つ』とは思ってる訳ね……はぁ……ほんと調子が狂うわ……」
「?……それでも、貴女の身体は致命的なダメージを受ける……例え死ぬほどじゃなくても」
「……けど、確実な方法はそれしかないわ。あんた、あいつを止める方法があるってのならやってみなさいよ」
「…………」
「……ないでしょ。あれは触れただけで人を溶かす呪いよ。勇者だとしても……もうどれだけ外殻を溶かされてるか分からない。……もう、絶対、確実な方法を取るしかないのよ」
「それは、最後の最後の最後に取っておいて」
「最後って……」
「貴女が、私が大好きな魔法で苦しめられる姿を見るなんて耐えられないんだよ!それに……」
分かりきった結果によって動く感情など存在しない。
私が知る魔法は――いつも、私の心を揺さぶるのだ。
貴女のその行動を見過ごせば、私は『魔法使い』では無くなる。
人を感動させるような、奇跡を『魔法』と呼ぶのだから。
「奇跡…………ね」
「方法なら……ある」
「!」
「……なやみやはまややまややまやまは9wは山端濱家wら……!!!」
「!この……空気読みなさいよ……!!!」
「は、はやく、みさしゃま撤退をっ」
「BC隊落ち着け!みだらに動くな、機を待て!!」
「もうストックが無いわよ!!あと一分だって持たない!!あぁもう……メルファ!さっさとやるならやりなさいよ!!!」
彼女はすかさず魔力による盾を展開した。
降り注ぐ呪いの雨粒を、金色の傘が遮る。
洞窟の壁面に達した呪いは表面を抉り、溶かす。
もしも生物が食らえば終わりだ。
呪いは生物の化学反応をショートさせる効果を持つ。ミクロの単位で物と物の結合を引っぺがしたりくっ付けたりするので、つまり物体の構造を無茶苦茶にする。
消化、吸収、分泌、呼吸、全て化学反応の賜物だ。
それが停止してしまえば……そんなの語るまでもない。
そう。
これはもしも、の話。
「メルファ!!何よ、その方法って!!早く話しなさいよ!!!」
何代にも渡る化学反応が人間を作る。
カウントするのも億劫な進化の数がヒトを作った。
であれば、また私は進化しよう。
……一度くらいなら神も目を瞑るでしょう。
「……【コンセントレイト】」
……人間の身体は、科学の奇跡だ。
私は、それを今から否定する。
「……メルファ氏!?呪いの海に飛び込んで――そんな無謀な!!!」
「バッ――――――カじゃないの……!!!!?」
「メルファさん!!」
身体が呪いに触れて――――痛みが走る
何も、聞こえない。
聞こえなくなった。
「8767979644ぬ979799799」
「757877々7げ7997」
――息ができない
――何も聞こえない
――何も動かせない
――感覚もない
ない、ない。
……高純度の呪いが私の身体を溶かしている。
恐怖が私に付いてくる。
私が私でなくなる感覚、出血に似た脳の悲鳴。
だが――
「これまでにないくらい、私は――」
楽しいと、心から思っている!
私は魔法のためなら命だって賭けてしまえる。
人の事を言えないことに今更気付いた。
私は、性根から魔術に魅了されてしまっているらしい。
しかし、何のために命を賭けるのか?
……思い出した。
私が『魔法使い』になりたかった理由を。
「……それは……歪んだあなたの顔が見たいんじゃない!」
「…………隣にいる貴女の笑顔が、見たいから……!」
……見たこともない魔法に、目を輝かせるあなた。
……その顔に、私は魔法を感じたのだから!
「……【コンセントレイ……いえ……名付けるならば……」
「【ウトナピシュテム】!今有る奇跡より賢人へ!」
「はまやまなたら、まら88794997……?」
「――新たなる奇跡の刹那へ、逸れ者達を導かん!」
――作り変えてしまえばいい。
化学反応をショートさせるのならば、
科学と決別し、魔法の身体を作れば良い。
「……メルファ氏の心拍、ロスト!……しかし、しかし!?」
「そ、そうです!彼女は『生きて』います!」
「メルファさん……宙に浮いていないか!?」
「繋がってるから分かるわ。あいつ……身体を魔法で作り変えてる!……あはははははははは!」
「アーリア氏!?」
「……あー……ほんと、馬鹿なんだから。んなの聞いたこともないわよ」
「マホウデカラダヲツクリカエル……?な、何なんだ……すまん理解できないのだが……」
「呪いってさ……科学特効な訳。私達の身体も例外じゃないしね、だから危険なんだけど。それを対策するために、身体から科学の構造を極限まで減らして、つまり!魔法による新しい構造に作り変えたのよ」
「なるほど、凄いのは分かるぞ!意味不明だがな!!!」
「なぱぁ――!!」
「メルファ氏!?宙でもがいていますが大丈夫ですか!?」
「初心者のドローンみたい……あ、壁にぶつかってる……」
「……あいつ、物理法則まで消えたのね……ちったぁ格好つけなさいよっ!」
「ああもうわかってる!……撃て、【ウトナピシュテム】!」
「ゅww.x.p876788787875(8pt.jゆまのまゆ!??」
「き、効いています!!凄いぞかっこいいぞ!我ら逃げなくて良かったです何ですか、あれ!!!」
「確かに……あんな魔術、見たことも」
「なまはまやまらま………………!!!!?」
「聞いたこともない。ははは!有るのだな、このようなことが!!あぁ……彼女に出会えて良かった!しかし困る、困るぞ!私達がこんな人に何を返せるか――」
「おわ、おわ、ゃな00.100010001101」
「……これで、終わりっ!」
「――こんな疑いもない、魔法使いに!!」
呪いに手を伸ばす。
影は光を覆わないのだから、彼女は私を拒めない。
「やめ、やめ、やめめめめめめめめめめめめ……!!!」
「人形の数が……急増しています!」
「なたはらまやまはら」
「らまらまらら」
「人形は魔術で撃破しろ!……異常値を上げるな!」
「……YES、SIR!」
「【魔力増幅】【火炎射出】!」
「『ヴィヴィアーン』!」
「アーリア氏!身体は……」
「大丈夫、無理してないわ。これはストックしてた分だから……というかそれよりも人形を倒して!」
「もう異常値はギリギリだ!メルファさんが彼女を止めるまでもう私達は止まれない!!」
「呪いの核を……早く、メイ・ノバラを取り出して!メルファ!!」
暗闇を掻き分けて進む。
慣れない感覚を制御し、魔法の身体を動かしてもがく。
「あ………………」
「………………!見つけた!!メイちゃん!!!」
「……そ……ん………………な…………」
「…………私は……私は……私……」
「何も……守れなかた……の……」
「…………と――」
「――りぁぁぁ――!!」
その呪いの海から、メイを引きずり出す。
「……まや…………た……た……」
「5.……5…………」
呪いは核を失い……そうして、洞窟の闇に消える。
***
……目の前に二人の姉妹がいた。
「帰ろう」
「……私……何も……守れなくて……私……何も……できなかった……!」
「……お姉ちゃん……」
「……メイは、貴女をただ苦しませただけ!!」
「……メイは、そこに帰れない」
二人は再会できた。
それでも元のままの関係ではいられない。
過ちには責任を取らなければならないから。
「いいんだよ。お姉ちゃんは悪く無いよ……」
「ただ、あの人に利用されただけでしょ……?」
「………………無理だよ。だって……」
「……メイには、マリアに差し出せるものが……ない」
「…………だって、お姉ちゃんはいじめられてた!ずっとずっとお母さんに、一番いじめられてた!!」
「マリアを決めつけで殺そうとして……、」
「いつも殴られて、酷いことを言われて、最近は……おかしな薬だって飲まされて……!!」
「それがマリアの幸せだからって……!!」
「……それで……最後はこんな終わりかたなんて……」
「メイは好き勝手に暴れた!ただの悪者!!」
「……悲しすぎるし、良いことだってひとつも無いじゃん……!」
「……だから、だから、私は……ここで死ねば……」
「……何になるの?」
「…………あなた、は」
「こんにちは。やっと、話ができるね」
「………………」
「厳しい事を言うけど、あなたがここで死んでも」
「ただマリアちゃんを悲しませるだけだよ」
「マリアちゃんは、帰って来て欲しいでしょ?」
「……はい」
「……それでも、私には……その資格……が……」
「差し出せるものがない、って言ったよね」
「あなたはまだ子供だから、そんなの初めから持つべきじゃないよ……けど……メイちゃん」
「…………はい」
「貴女が本当に、償いたいのなら」
「償うために帰ってくればいい」
「……ほんとは…………そうしたい……」
「でも……何も……私には……ない……」
「……メイちゃん」
「確かに今、償うことはできないけど」
「責任を取るために、成長するんだよ」
「……子供はその力に耐えられない」
「だから大人になる」
「……学んで」
「……くじけても」
「生きて……成長する……」
「……あなたができる償いは、」
「償うために、生きることだよ」
「!…………」
「……メルファさん……!」
「お姉ちゃん」
「メイ……は……」
「……ありがとう、お姉ちゃん。私のために、復讐しようとしてくれて。全部聞いてたよ……あのかっこつけた呪文も」
「!?」
「……お姉ちゃんは、ちょっと、力の使い方を間違っただけ!……だよね、メルファさん」
「……うん」
「きっと、やり直せるよ」
「……それにねお姉ちゃん、私も、竜になって色んなものを傷つけた……から、私もいろんなひとに謝らなきゃいけない」
「………………」
「……だから、私が謝るのを手伝ってほしい」
「そのために、なかなおりしようよ」
「……マリア…………ごめん」
「……今まで、ごめんなさい……マリア……!!」
「メイ、大人になる……」
「……責任持って、償うから!!!」
「……それでいいの。お姉ちゃん……ごめんね……」
「どゔじでマリアがあやまるのぉ……」
二人はまた再会した。
元のカタチには戻らないのかも知れないけれど
……それでも、成長するのだから
(そうすれば、また、きっと――)
次回、ep2最終回。お楽しみに!