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【メイドアチートスキル】貴族学園の落ちこぼれている天然少女はレジェンドだった〜追放されたら魔法使い、ないし冒険者の王女〜  作者: 猫村有栖
『竜化少女「マリア・ノバラ」救出特殊作戦』.ep2〜即席の仲間達と暴走する少女を救出する〜
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第六話 ラビュリントスの結界


***


まるで霧のように舞い降りたその少女は言った。


「その竜を渡してもらう。ジェームズ研究所……」


少女は魔導書を片手に抱えて、仕草で感情をワトソンらに剥き出しにする。言葉に従わぬのなら、その敵意を暴力にすると言わんばかりに。


「待って下さいよ、そもそもアンタ誰なんですか!何で私達のことを知ってるんです!」

「聞かなくてもいい。その、必要がない」


その独特な口調は、動揺するメリルに語気を強めて言った。


「……heredium……」


ぼそりとつぶやいたのをワトソンは耳にした。メリルよりもはるかに小さいだろう少女のその背丈から、黒い触手が伸びて蠢く。


「黙っていうことをきいてもらう」

「きゃっ!?」

「メリル!!」


「……………………!!」

「次はワトソン、あなたも縛ってあげる。……heredi………」


「………………させ……ない。【カリバーン】……」


その声の主の背から、十数本の剣が飛び黒い触手を断つ。それらの剣は全て同じように光を灯している。


「なっ」

「この剣は……勇者の!」


まるで見切れない、浮かび空に咲く剣の舞。

騒めく触手を無情に殺して、メリルを拘束するそれを無慈悲に裂く。


「ひ、ひぃぃぃぃぃー!!!!」


勇者の力の『七つの技能』のうちの【カリバーン】。


「……おどろいた。なんでおきてるの?【千里眼】と、【カリバーン】の、スキルの同時行使なんて……どこでみにつけた?」

「根性よ………………」

「アーリアさん、やっぱりまだ身体が」


ぐらりとアーリアの視界は揺れて、倒れた身体を起こすことすら出来なかった。洞窟の壁にもたれたままに、それでも声を発している。


「けど、精神同期の状態で自分の身体まで動かすなんて、相当な無理をしているはず。あなたのその力では……メイを止めることはできない」

「メイって、一人称…………?」


「あなたの名前ね……マリアに覗かせてもらった記憶にあったわ」

「記憶に名前が……」


「……メイ・ノバラ。」

「そう、メイは……私は、マリア・ノバラの姉」


「待って待って待って下さいーなら一体、どうして私達に攻撃を仕掛けるんですか!?」

「……………………」



「私達は寧ろ助けようとしてるんですよ!竜化したあんたの妹を!こんな風に縛られるいわれはないですが!!」

「落ち着いてメリル……話が通じる相手だと思う?」


依然として少女メイ・ノバラは戦闘体制にあった。


「あの力はどう考えても魔術じゃない。けど……かと言ってスキルかと聞かれれば違和感がある。風の噂でしか聞いたことの無い魔法だけど、これは所謂呪術の力……?」

「さすがの推理力だ。けど、分かった所でどうしようもない。いま、メイの魔法は最強。あの勇者と……あの『魔法使い』さえ無力化できれば、あなた達ジェームズ研究所はどうしようもない」


『勇者』アーリアは本来指一本動かせない状態だ。精神を少女マリアに接続した状態で、自分の肉体を動かす芸当を成り立たせていたのは、アーリアの心の持ちようによる、一粒分の奇跡だった。


そしてメルファ。

『魔法使い』と呼ばれたかのものはここにはもういない。


「…………あ、あのメルファさんが……この子に戦いでやられちゃったんですか?」

「その可能性は低いんじゃない。あんな結界を破るようなインチキ魔術が使えるのに、たかがこの触手に破れるなんて思えない。そうじゃない?アーリアさん」


「そうね。いくら鈍感なあいつでもそろそろ異変には気がついているはず。勇者すら倒せるあいつを人で留められるとは思えない。妨害工作……そうね、当ててあげる。それは、何かしらの特殊結界じゃない?」

「……いくら無力化しているからといって時間をかけるのはよくなかった。勇者は、喋らせるだけでおそろしい……」


特殊結界とは、その通り一般の結界とは構造が全く異なるものを指す。現代の魔法魔術の技術では解析すら困難であるものが殆ど。


故に、触媒による方法のみ結界の展開が可能となる。

そして、現代まで唯一現存している触媒のひとつ……


ミノタウルスのラビュリントス。

入り込んだものは二度と昼夜を拝むことはないと云う。


それをここで展開すれば、瞬く間に洞窟は迷宮となる。


「その謎の力しかりラビュリントスしかり……はあ全く。どっから手に入れたものなのよ……」

「えーと先輩?要約すれば私達ってつまりは……」

「うん、メリル。私達は生命が絶体絶命の刺激的でピンチなシチュエーションってことだよ」



「やだぁぁぁ!!!お家帰るー!!!!!!!」

「はあ、メリルらしいね……」


***


「おかしい……!」


私のさっき通ったばかりの道に分岐路などはそう多くは無かった。殆ど道を辿るだけで地下に辿り着けたのだ。


だが進んでいくうち分岐路が幾つも出て来る。通信もまだ完全に繋がらないし、引き返しても無い筈の分かれ道が出現する。


幾ら進もうとも、幾ら引き返そうと、砂が掌から溢れるようにとりとめがない。


「まさかとは思ったけど。これは特殊結界……!?」


アキラさんの言う通りになってしまった。

確かに罠だったのだ!


……これは。


***


「次は本気だ。手加減しない」

「……来る!アーリアさん…………」


「分かってる。けどあと……三回が限界。私の【カリバーン】はSP消費が多すぎる……」


「……heredium」

「【カリバーン】……!」


数えきれない剣と触手がその刃を交わして、敵の命を狩らんと跳ねる。一つは守るため、一つは奪うため。


「グァツ――――――――」


その鳴き声に、鍔迫り合いが止まる。


「アンタのせいでアンタの妹に跳弾が当たりましたよ!?死んだらどうするつもりですか…………!!」

「…………………………」



「そのつもりだから、構わない」

「え?」


「そいつ…………は……殺すから」

「……え……殺すって……?」

「メリル!また来るよ!!」


「……メリル……だまれ……お前も…………殺してやる」


「もう限界か。仕方ない……ワトソン、逃げて」

「アーリアさんそれはダメだ。いくら私達でも超えちゃいけないライ……」

「いいから!メリルを連れて逃げて!!」


「…………?」


ワトソンはハッとして、ついそれを顔に出してしまいそうになるのを抑えた。アーリアの言っている意味が分かったからだ。


「メリル!逃げるよ!!」

「えっ…………」


「……………………」


少女メイは、黙ってそれを見つめていた。


「……ストックは使いたくなかったけど!」


メリルの腕を引っ張り、ワトソンは右腕で瓶を投げる。


「……heredi……」

「まだいけるわ……【カリバーン】……!」

「だまれ…………!!!」


ジェームズの二人はその瞬間、たった一つの出口に転がり込んだ。煙幕を張り視界を遮ることが出来たのだ。


***



「メリル……あの女はあなたを見捨てた」


先程と比べれば、会話が成り立つ程度に落ち着いている少女はアーリアに語りかける。


「あんないくじなし……ころす価値もない」

「……は」


アーリアは「ふん」と鼻で笑う。


「あんたも、あのメリルも、まだまだ子供ってことよ」

「……うるさい。もうそのいきがりは飽きた」


しかしその彼女の顔は年不相応なまでに大人びていて、随分と説得力のある言葉に聞こえる。


「heredium……かのものの遺産よ。これでおわり」



「…………………………spは……尽きたに等しいわね」


「ふふ」とアーリアは笑う。


「……まあたあの馬鹿に助けられるのはシャクだけど、それよりもメイ…………あんた、少し教育してあげるわ」

「…………何、その顔は。もうあなたに抵抗する手段なんてないでしょ?メイは知って……」


アーリアは「ぱちん」とウィンクしながら、メイに諭した。


「……傲慢と油断ってのが、どれほど恐ろしいかをね。だからあなたはまだ、『子供』なのよ」



それは瞬く間に舞い降りた。

それはメイにとっての完全な変数。


存在すら認知しなかった、たった一つの小さな隙。



彼女は「とん」と、革靴の心地よい音を間に響かせる。


「可愛らしいお嬢様ですね、ご機嫌よう。マツリ家……いや、現在はメルファ様専属メイドのメアリーと申します。以後お見知り置きを」

「どうして……!?あなたは宿で待機しているはず……」


「おや、どうしてそこまで具体的に私達の行動を知っているのかは分かりませんが……貴女は【気配遮断】というスキルをご存知ですか?」

「………………まさか!ついてきたって言うの!?【気配遮断】を使ってここまで、洞窟の下まで…………!!?」


「ふふ、実は最初からご主人様の隣に待機しておりましたよ。皆さんはお気付きにはなられなかったご様子ですが。ご主人様のお申し付けで、ずっとそのようにしていたのです」

「……う…………こいつ…………遺産が通じない……!」


メアリーには笑う余裕さえメイに見せた。


「ふむ……謎の力の触手とは言うものの……断てば塵に還るのは同じなのであれば、後は刻むのみではありませんか。こんなもの、メイドであれば朝飯前でしょう」

「…………いや、あんたのメイド観は何なのよ……」


「……ですがようやくご主人のお役に立てそうで、実際安堵するばかりですね。前は散々なことになりましたが……」

「こんの――――慢心変態メイド!!さっきの私の言葉をまるで聞いてないのね!はあ…………こんなのに助けられるとは…………私って…………情けないわ…………」


「あら……それは私、聴いておりました。けれどそれに反することは一切やってませんよ?メイドとは……永遠の17歳なんです」

「……………………???」

「あ、あなたたちはいったい何を喋っているの?」


「ですからまだまだ私は子供です。子供が慢心しても可愛らしいだけでしょう?ほら、私って可愛いじゃないですか」

「……あんたの実年齢、私覚えて」


メアリーは「スッ」「ドゴッ」と、2アクションでアーリアを気絶させて、メイの方向に身体を正した。


「アーちゃんさんには精神同期で、少女マリアを救って貰わねばいけませんからね。ここではそれに集中して頂くとしましょう」

「………………ふざけてる。こんな……こんなことが」


「降参する気はありませんか?少なくとも、もう私のアドバンテージは揺るがないとは思いますよ」

「やり遂げてみせる……それしかない。やると決めたのだから……私がやらなきゃいけない……!」


「………………」

「もうメイは……引き返せない…………から」


少女の握りしめたその小さな拳は、決意と…………


「降参の気配は無さそうですね」


「heredium……出力全開……かのものの遺産よ……!」

「空を舞うように、その呪いを撃ち落として見せましょうか……」


意思の揺らぎの表れだった。



***

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