俺の嫌いな数字
俺はあの数字が嫌いだ。心底嫌いだ。そう『なな』の数字が。
人は俺の事をツイているやつとか幸運な人間とか言うが、それは違う。断じて違う。
俺はツイていない、いや……多分、運の良さはみんなと同じなんだ。
確かに俺は常日頃はツイている。金は拾うし、懸賞も当たるし、酔った女に誘われるし
お菓子の当たりクジに、乗り遅れると思った電車が遅れて駅に来たり
卵の黄身が二つ……とまあこの辺でいいか。
だが、やはりそううまい話はない。
俺は普段ツイている代わりに『なな』のつく日には必ず不幸な目に遭っている。
巷じゃ『なな』の野郎はラッキーセブンなんて言われているが俺にとっちゃその逆さ。
『なの日』『十しち日』『二十しち日』
毎月、その日は警戒信号ビンビンさ。特に『しち月』は危ないんだ。
こんなことを友人に話すと
「いや、偶然だろ?」
「ただ単に印象付いているだけ」
「名前が名前だから、意識しすぎなんだ」
「そんなことより、この前宝くじ当たったんだって? 金をさ、貸して――」
といった具合に誰も真面目にとり合っちゃくれない。
無論、一理ある。俺だって当初はそう考えたさ。
だが、何度も大きな事故に遭っちゃ、そうも言ってられなくなる。
200なな年。俺は両親と行ったプールで溺れて死にかけた。
波が起こる大きなプールだ。
両親がちょっと目を離した時に波に呑まれ、ざらついたコンクリートの地面に額を擦り
っと、まあ当時、俺は四歳だったから覚えちゃいないが、その十年後。201なな年。
居眠り運転のトラックに轢かれ、俺はまたも死にかけた。
幸いにも……と言いたくもないが足の骨折で済んだ。
因みに、どちらも『しち月なの日』つまり『なな』が揃えば揃うほど危険だって事だ。
尤も、それ以外の年の『しち月なの日』も危険だ。
『たなばた』祭りの日。まだこの現象を知らなかった俺は
毎年、馬鹿みたいに絡まれるわ、財布を盗まれるわ自転車に轢かれるわで散々だった。
織姫と彦星、ファッキュー。八つ当たりごめんな。
そうそう、織姫と彦星と言えば恋人選びにも気をつけた。
その名前にもし『なな』が一つでもあったら……。
『なな原な央樹』『なな』二つ入った俺の名。
そこに『なな』を名に持った女が合わされば『なな』が三つ……恐ろしいね。
ひどい目にも遭ったさ、いやホント。
まあ、無関係な気もしなくもないが
これもそれもあれも『なな』が多すぎるのがいけないのかもしれない。
幸運をくれって、欲をかけば罰が当たるのは、むかしばなしの定番だろう?
両親がせっかくなら名字だけじゃなく名前の方にも
『なな』を入れようって考えたらしいが
ま、こうなるって予期しようがないから恨んじゃいないが勘弁してほしかったね。
さ、202しち年まであと数年。
件の日は家に閉じこもって過ごすつもりだ。それでもどうなるかはわからないがな。
去年の『しち月なの日』は扇風機がショートし、燃え上がった。
熱かったぜあれは。まるで生き物みたいだった。
ホームアローンの地下室のボイラーを思い出した。
まったくどうしてこうなのか。俺が思うに普段『なな』のつく日以外がツイているせいで
その揺り戻し、バランスを取ろうと世界の理とでもいうのか
目には見えない大きな力が働いているのだと思う。
ま、今日。今年の『しち月なの日』は何事もなく終わりそうだ。
誕生日が一番不幸なんて、皮肉な話だよな。
両親も気を使って、この日はこのアパートに荷物とか送らないでくれているし
大学の友達連中にも上手いこと言って誕生日パーティーなんてもんはない。
寂しくはない。昔、ケーキを切る際に滑って転んで包丁が胸に刺さったら
恐怖のほうが勝るさ。
こうしてテレビをぼんやり観ながら酒を呷り
ひとりでこうやって人生を思い返しながら過ごすっていうのも悪くはない気がする。
うん。自分を見つめ直す日、それが誕生日。両親に感謝……おっと危ない。
カジノ特集だとよ。『なな』『なな』『なな』
それが揃ったスロットマシーンをこの目に映した日にはどんなことが起きるか。
肝が冷えるぜ。チャンネルを変えてと。はーぁ、何がラッキーセブンだ。
追い求め、縋り、人を不幸にする数字だ。アンラッキーセブン。ファッキュー。
と、うお、なんだ? この轟音……と空?
ヘリ、飛行機……いや、まさか、でも『なな』は一つもないはず。
今だって頭の中だろうが思い浮かべないよう、昔から訓練して……。
あ……そこに――