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セーラー服を着てみたかった  作者: にたまご
1/1

出会い?

出会い。

セーラー服っていいよね。

 青空のような瞳が、綺麗だと思った。


 思い出してみれば、僕の人生は酷いものだ。

 あの人に出会ったこと以外は。

 

 好きじゃない。

 だけど、会いたい。もう一度会って、言いたいことがあるんだ。

 


★★★★★



「一人にしないで下さ………」

 自分の寝言で目が覚めた。

 携帯の画面を見ると午前3時。窓の外は暗闇だ。

 起きるにはまだ早い。しょうがないのでまた寝ようとするけど眠れない。またあの夢だ。

 小さい頃から頻繁に見る夢がある。でも目が覚めると内容はほとんど覚えていない。覚えているのは始まりの部分だけ。確か、白い花が咲いていて、女の子が笑っていたような…?

 僕は思い出すのをやめて、水を飲みにキッチンへ向かった。夢の内容を思い出すことほど無意味なことはない。目が覚めれば現実で、ただその日を無難に生きるだけだ。

 冷蔵庫を開けて、中に入っていたミネラルウォーターをコップに開ける。それをゴクゴクと飲み干して一息つく。

 「高校生にもなって、一人にしないでって…。」

 小さい子じゃあるまいし。恥ずかしい。誰かに聞かれたらどうするんだ。まあ、一人暮らしだから誰もいないけど。


『おはようございます。5月16日、リブシェ共和国中央テレビです。今朝のニュースはご覧の通りです。まずは毎年恒例の仮装パレードを中継ーーー』

 結局、よく眠れないまま朝になった。登校するために支度をする。毎朝同じことをするのに毎朝同じところで時間をロスするのはなんでだろう。

 ああ、もっと焼けば良かったと思いながらパンを頬張る。不味くもないが美味しくもない。元々食事はそんなにこだわりはない。母親は栄養が偏るといけないとか、もっと味わって食べろとかうるさかったけど。

 銀色の髪に付いた寝癖を直す。髪の色は父親譲りだ。母親は黒髪だったけど、我が家の男は何故か代々銀髪らしい。

 ノロノロと着替える。あれ、このベルト、ブカブカ…これは父親のものだ。まったく、そこら辺に投げておくから間違えたじゃないか。

 「いってきます。」

 家のどこからも、誰からも返事はない。

 三ヶ月前に交通事故で死んだ両親が、写真の中からジロリと僕を見た。

 

 アパートの玄関扉を開けると、太陽の光で目が眩んだ。

 空は澄み切って清々しい。日差しは暖かいを通り越して暑いぐらいだ。風が気持ちいい。

 遠目に見える、旧市街の建物の屋根がオレンジ色に照らされて綺麗だ。眺めだけは良いんだよな、うちのアパート。

 ぼんやりと思いつつ、アパートの外階段を降りる。

 旧市街と違って、僕の住んでいる新市街は記号的で機能的な建物が増えた。昔ながらの煉瓦造りの家は壊されるか観光資源として使われるかのどちらかになってしまった。

 おとぎ話に出てきそうな旧市街を遠目に眺めながら、高校に向かって歩く。

 僕の住んでいる中央区は、この国の中では一番大きい都市で、大まかに旧市街と新市街に分かれている。旧市街が王様とか騎士がいた時代の街の中心。新市街は今の政治の中心。

 はっきり言って旧市街は金儲けの観光地だ。昔の時計塔とか貴族の館とか錬金術師の隠れ家とか魔術師の研究施設だとか…そんな大昔の遺産ばっかりだ。国の歴史とか伝統とか、僕は興味がない。ましてや錬金術師や魔術なんて今どき信じるのは子供くらいだ。くだらない。

 僕が旧市街に行くのは、声楽のコンクールのために古い劇場に行く時ぐらいだ。

 これははっきりいって自慢だけど、僕は声楽のコンクールで度々入賞するちょっとした有名人だ。学生の中で少し名が知れている程度だけど。

 歌は別に好きでも嫌いでもないけど、母親が喜ぶから続けていた。だけど………


「あっれ〜?天使の歌声のノルベルトきゅんじゃね〜?お歌のお稽古はいいんでちゅかあ〜〜〜?」

「………。」

 僕と同い年くらいの、男子高校生が話しかけてきた。

 僕は静かに暮らしたいだけなのに、多少有名だからこのように登校中に絡まれる事もある。大体は僕のアンチか、僕の才能を妬んだ奴らだ。

「天才のノルアルド君はあ〜〜〜最近お稽古サボってるみたいでちゅねえ〜〜〜?…そんなんじゃ、コンクール落選するぞ。」

「…………。」

「おい!!無視してんじゃねえよ!!」

 こいつは確か、コンクールでよく一緒になった奴だ。一度も僕より上の賞を取ったことはないけど。それより、なんで僕が声楽のレッスンに行ってないの知ってるんだ?きも。

「……………。」

「おい!!まさかこの俺を忘れた訳じゃねえだろ?」

 すごく安い小悪党みたいだな。そんなことをぼんやり思った。アンチには無視。これが鉄則だ。妬み嫉みをいちいち相手にしていたらキリがない。

「……………。」

「お高くとまってんじゃねえぞ!!!」

「…………歌はやめた。」

 歌を歌うと母親が喜んだ。入賞するともっと喜んだ。母親が喜ぶと父親も喜んだ。だから続けてた。

 でも、もう喜んでくれる人はいなくなってしまった。

 僕は、少し歌が得意でほぼ友達がいない普通の高校生だった。でも、ある日を境に一人ぼっちになってしまった。急すぎて二人の葬儀が終わってもなんだか実感が無いが、僕なりに悲しんでいた。

 それなのに、なんだこいつは?歌のコンクール?

「俺はコンクールでお前と常に比べられて惨めな思いをしてきたんだ!!それを勝手にやめたなんて許さねえぞ!!!」

 なんなんだ?

「…………… 。」

「おい黙ってないでなんとかいっ…」












 ドゴォォォォォォオオオオオオ!!!!!!!!!











 ふっとんだ。


 人が。


 50メートルぐらい。


「は????????」

 なんだ?なんなんだ?さっき突っかかってきた奴が吹っ飛んでいった?なんで?

 いや、僕はみていた。見ていたけど脳が理解できなかった。

「ノルくんっ!おまたせっ!」

 女の子だ。金髪のショートカットで、大きな目は晴天のように青くて澄んでいた。その女の子が僕に絡んでいた奴に飛び蹴りをしてメチャクチャ吹っ飛ばしていた。

「約束、守りにきたよっ!」

 約束?約束ってなんだ?僕はこの子を知らないのに。

 女の子はニコニコして僕の言葉を待っている。正直、色々良いたいことがあるが、一番言いたいのは…


「なんでそんな風俗店みたいなセーラー服を着ているんだ!!!!!!!あんた!!!!!!!!!」


「フ、ウ、ゾク?」

 って、何?とでも言いたげな顔でこちらをみてくるな。僕をみるな。なんだそのテカテカで極端に丈の短いエッチなセーラー服は!!!

 (ちなみに僕は未成年だし風俗店には行ったことない。文献で得た知識だ。)

 いや、おかしいだろ?朝だぞ?学校のそばで人通りもそれなりにある。なのに、僕と大して年が変わらなそうな女の子がエッチなセーラー服(主観)を着てるっておかしいだろ?なんなんだ?ストレスで僕の頭がおかしくなったのか?

「え〜?変かなあ?この格好。女学生はこういう服着るんでしょ?」

「着る訳ないだろ!!!!!!!!そんなイヤらしい服!!!!!!!!」

 ブチ切れた。こんなにキレたのは生まれて初めてだ。女の子はキョトンとした目で僕をみる。僕をみるな!!!!!!変な気持ちになるから!!!!!!!

「え〜?そうなの?まあそれは良いんだけど…」

「いや、良くないだろ!!!!!!!!」

 その時、パトカーのサイレンの音が聞こえた。まさか…

 辺りを見回すと、こちらを遠巻きに見ていた人々がバッと目を逸らした。誰かが通報したらしい。

 吹っ飛んで意識のない男子高校生。謎のエッチなセーラー服を着た女の子。そして僕。マズイ。マズすぎる。なんだこの状況は?誰が説明してくれ。


「ノルくん。私ね、ずっと…」

「今は話してる場合じゃないでしょう!?とりあえず逃げないと!!」

 どこの誰だかも知らない女の子の手を取って逃げる。

 僕はこの子を知らないが、どうもこの子は僕のことを知っているらしい。この子が警察に僕の名前を告げたら非常にマズイ。

「逃げるって、なんで?」

「なんでって…。あなた警察に捕まりたいんですか!?」

「ケーサツって、なに?」

「…はあっ?」

 エッチなセーラー服着て不思議ちゃん気取りかよ。とんでもなく痛い女だな。

「…っいいから!行きますよっ!」

 半ば強引に女の子の手を引く。女の子は急に手を引かれて少しよろめいていたが素直に僕についてきた。


「…はあっはあっ!はあっ…。」

 さっき出てきたばかりのアパートに戻り、急いで部屋に戻り扉の鍵を閉めた。今日は遅刻決定だ…。

 僕が息を切らせている横で、例の女の子は涼しい顔をしている。

 しまった。勢いで家に入れてしまった。

「ねえ。ノル君。」

「な、なんですか!?」

 突然話しかけられてドギマギしてしまった。女の子は依然セーラー服のままだ。

「手が…。」

 て?手がなんだと言うんだ?

 声をかけられて、自分の手を見ると女の子の手を握ったままだった。

「!!す、すみません…。」

 繋いだままだった手を振り払うように離した。自分の体温が上がるのを感じた。

「ふふ、相変わらずかわいいね。」

 クスクスと女の子が笑う。笑った顔、可愛いな…。じゃなくて。

「相変わらず?相変わらずって、どういうことですか?僕、あなたに会ったことないですよね?」

「えっ??????」

 女の子の丸い目がさらにまん丸になった。色素の薄い瞳でも、瞳孔は黒いんだな。

「覚えて、ないの…?」

「何を?」

「私のこと、とか…昔の、こととか…。」

 昔?昔って子供の時のことか?よくある、子供の時に口約束で婚約したとかか?それか小さい頃から一方的に僕のファンだったとかか?

「すみませんが、僕はあなたを知らないですし、昔のことも思い当たることはありません。誰かと勘違いしているんじゃないですか?」

 キッパリと否定した。ここで曖昧な返事をすると後で面倒くさいことになると知っている。

 女の子は案の定、口をパッカーンと開けて「ウソでしょ!?」という顔をしている。さっきから思っていたけど、この子の感情ダダ漏れすぎでは?色々大丈夫か?

 そのまま30秒ほどフリーズした後、もう一度聞いてきた。

「ノル君…だよね?」

「確かに僕はノルベルトという名前です。苗字はノヴァーク。誕生日は10月31日現在16歳。サソリ座のA型。生まれも育ちも中央区。好物はラザニア。嫌いなものは他人の邪魔をする奴。まあ、ここまではSNSに全部書いてありますが。他に何か僕に関する情報は?無いならあなたは僕の知り合いではないと思います。」

 一気に捲し立てた。知人を装った勧誘並びにハニートラップはお断りだ。女の子は何やら「むむ?」とか「んん〜」とかうめいていたが、ふいにこう呟いた。

「そっか…忘れたなら、よかった。」

 よかった?忘れたならよかった?

 てっきり、思い出してよ!とか忘れるなんてひどい!とかいう言葉が来ると思っていた。なのに。

「…それは、どういう意味ですか?」

「忘れたんだよね?それなら、そのままの方が良いよ。」

 僕の目の前にいる子が嬉しそうに、でもどこか寂しそうに笑った。

 僕は、本当にこの子を知らないのか?本当に?もしかしてどこかで…

 今度は僕がフリーズする番だった。誰だ?何時だ?本当に会ったのとはないのか?

 そんな様子の僕をみて、女の子は苦笑した。

「いいよ。無理に思い出さなくて。…ごめんね。急に話しかけて。」

 話しかけたっていうか、絡まれてたのを助けてもらったんだけど。そういえは、まだお礼をしてなかった。

「そういえば、あの時…助けて頂いて…ありがとうございました。」

 僕がそういうと、女の子はひどく吃驚した様子で、目を見開いた。いちいちリアクションが大きいな。

「あ、あ、あの時って…?まさか…。」

「さっき、知り合いから絡まれていた時に、助けてくれてありがとうございました。」

 再度お礼をいうと、女の子はがっかりした様子だった。変な子だ。

「…どういたしまして。」

  全然『どういたしまして』感のない返事だ。なんかこちらが悪いことをしている気になる。急に出てきてなんなんだこの子。

 どう言葉を続けたらいいか分からなくて、沈黙してしまう。

「…っごめんね!急に来て。げ、元気そうで良かった。」

 沈黙に耐えかねて口を開いたのは女の子の方だった。

「………あなたには、僕が元気そうに見えるんですか?」

  口から気持ちがするりとこぼれ出てしまった。

「え?」

 青い瞳が僕を凝視する。まるで心の中まで見ようとしているようだった。

「……………。」

「ご、ごめんね…?ノルく…」

「………元気な訳ないじゃないですか。」

 それだけ言って、今度こそ言葉が出なくなった。

 口うるさいけど優しい母親。無口だけど頼りになる父親。僕は神経質で感情を表に出すのが得意ではない。友人と呼べる人はいない。両親だけが僕の世界の全てだった。

 目頭が熱くなるのを感じた。やばい、泣きそう。

 両親が死んで三ヶ月。遺体はグッチャグチャだから見ない方が良いと病院の人に言われた。死んだ両親の顔を見ることなく実感の無いまま葬儀と埋葬を終えて、なんとなく日々の生活に慣れてきたような気がしていた。

 だけど、日常に戻ったところで以前と同じ日常ではなく、僕の世界は僕しかいなくなってしまった。

 噂を聞きつけて同情してきた奴らも、わざわざ世話を焼こうと寄ってきた親戚も、邪険に扱っていたらそのうち何処かに行った。

 失うのが怖いなら、最初から手に入れなければ良いんだ。

 持っていたものも手放せば失うことはない。

 人付き合いも極力しないで、声楽の教室も辞めた。

 僕の世界からは音が消えた。


「頑張ったんだんだね。ノル君。」


 そう言って、女の子が僕の頭を撫でてきた。

 まるで、大事なものにそっと触れるように。


「もう無理しなくていいよ。私がいるから。絶対、一人にはしないから。」


 出会って数十分、名前も知らない女の子にそんなことを言われた。今までだってそんなことを言ってくる奴はたくさんいた。でも、なんでこの人の言葉だけ心に響くんだろう?


「もう二度と離れない。だから、泣かないで。」


 僕の目からは涙なんて流れてない。

 なのに、この女の子は僕の頬を撫でてそう言った。

 今まで流した涙を拭うように。


「………一つ、いいですか。」

 僕は声を絞り出して聞いた。

「なに?」

 女の子小首を傾げて愛らしく答える。






「いい加減に!!!!!!そのエッチなセーラー服を!!!!!!!!!ぬげ!!!!!!!!!!!!」


 


「ぬ!!!!!!!!??????????」




 ちがう、ちがう、ちがう!!!!!!!!

 僕が言いたかったのは、早くその丈の短くてテカテカでエッチなセーラー服が恥ずかしいから着替えてほしいということであってなにもやましいことはなくてああほらまたアホ面してるなに頬赤らめているんだよちげーよ僕がイタい客みたいじゃないかそんな目で僕をみるな!!!!!!!!


「ノ、ノル君…。そういうのは好きな人とが良いと思うよ…?」

「違う!違う!違う!!!!!そういうんじゃなくて!!!!!!早くそのトンチキな服から着替えて下さい!!!!!!みっともないので!!!!!!!」

「みっ、とも、な…。」

 女の子は漫画だったらガーンという文字が書いてあるだろう表情を作り、固まった。


 この子といると、自分のペースが乱される。こんなのは初めてだ。ていうか何気に今フラれた?なんなんだマジでムカつくこの女。


「ノ、ノル君。とりあえず、脱げば良いの?」

 セーラー服のスカートの先を持ち上げて言う。

 

 だからちげーよ大人しくしとけよバカ女!!!!!!


 僕は着替えを取りに自室に猛ダッシュした。

ぬ!!!!!!!!

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