5.「非テンプレ」での物語の動かし方
本編よりも力が入りつつある、このエッセイ。今の状況に納得できないのだから仕方が無い。
あと、これを読んで本編に興味を持って欲しいという、卑しい思惑もある。
それはさておき、ざっくりとした「テンプレ」ではない物語の考え方を提示したので、実際にどうやって物語を進めていくのか、具体例を考えたいと思う。
本編序盤の方向性をざっくりと「テンプレ」とそうでない場合の話の流れを比較してみよう。
条件は「ふとしたきっかけでカレーを作る事になった主人公」とする。カレーにまつわる騒動で、次の展開に話を切り替えるまでの進め方だ。
なお、香辛料等を手に入れる関係上、ロンドン市内でのお話とする。一応「ナーロッパ」っぽくはするが。リアリティはありつつ、史実とは少し違う感じで。
商人をするのに必要なマジックバックを手に入れるのを、次の話に向けてのテーマとしよう。マジックバックは良くあるチートアイテム及びスキルだが、ここでは非常に高価な魔道具として扱うものとしたい。
まずは、いわゆる「テンプレ」でのカレー騒動の物語。あまり得意ではないが、一般的な「なろう作品」で行われる一連のエピソードだと思って欲しい。
あくまで物語の「プロット」段階なので、詳細は省いています。本来は、もっと色々な描写が入る筈です。
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ひょんな事から自分の作ったカレーが大好評だった。毎日お客が列をなすことになった。やれやれ、こんな事になるとは思いもよらなかった。
暫くして、美味しいカレーの屋台の噂を聞きつけたこの街のギルド長が会いに来た。
「こんな行列が出来たんじゃ、他の店の迷惑になる。街の外れに使っていない店舗があるから、そこで営業して欲しい」
迷惑が掛かるとなっては申し訳ないので、提案に従って店を開いた。相変わらず、お店は繁盛していつの間にか宮廷にまで噂が流れたのだ。
「この美味いカレーを是非、宮殿で披露して欲しい」
王家の使いの方からそんなお話があって、私達は王家の夕食に出しても恥ずかしくない、カレーの改良に取り組んだ。よし、珍しい食材の調達の為に冒険に出発だ!
……そして、運命の日。
私達は、王族の方々に高級素材をふんだんに使ったカレーを振舞った。全員、美味しいと物凄い好評だった。
「うむ、これ程美味い食べ物を食べたのは初めてじゃ! よし、そなたに褒美をやろう」
「そんな、めっそうも御座いません。ただカレーを作っただけで……」
「そう言えば、そなたは商人を目指しているとか。では、我が王家に伝わるマジックバックを褒美としよう」
……そう言われては、遠慮するのも却って失礼だ。私は王様からマジックバックを頂いた。
商人になる為には、マジックバックが必要だった。これなら重い荷物を運ぶ必要も無いし、人件費も掛からない。
何より、マジックバックを持たない人間は、商談に参加出来ないというルールがある。……商人として認められる最低条件が「マジックバック」の所有なのだ。
よし、これで行商人として別の商売ができるぞ!
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てな感じだろうか。これをベースとして、カレーの改良や仲間達のお店でのやり取りを膨らまして、文字数を稼ぐ。いわゆる「なろう作品」で良くある話ではないだろうか。
良くある巻き込まれ系のお話だ。題材がカレーなので分かり易いし、日常回としてもキャラの描写が出来るだろう。主人公凄い! と持ち上げるのも簡単だし、アイテム入手もしっかりできる。
カレー以外の食材にするとか、冒険の内容を少し変えればバリエーションも増える。
なお、本場の「テンプレなろう作品」だと、王様が店に来たりする。もしくは、従業員として働くヒロイン達でハーレム状態だったりする。
……げっぷが出る程、見た光景である。具体的な作品名は言わないが「金貨」とか。
何だろう? ……書いていて、とても薄っぺらく感じる。これを世に出しても良いのかと言ったレベル。背徳感が半端ない。例え文章を推敲しても、とても内容が増えるとは思えない。
まず、王族やらギルド長やらがチョロい。……こんな内容で主人公を持ち上げるの? と言う位にチョロい。まあ、それが「テンプレ」なんですけど。
あと、主人公の「やれやれ、面倒な事に巻き込まれた」感がありますね。何も自分で決めず、向こうからイベントがやってくる感じ。主人公とカレーの関係性があまり無い。
……とはいえ、そう言う話にウンザリしているのだからこういうものなんでしょう。もしくは、私が下手なのか? ベテランの「テンプラー様」は、もっと重厚な物語を書けるのだろうか。
閑話休題。
実際問題、かなり省略した。よく日常回と称して、これでアニメを一話分やったりする。「カレーな日常回」である。……あっ、あの作品でもやってた。主要キャラ死亡後の翌週が、こんなカレー回だったっけ。
……考えなくとも、スラスラと書けるのは間違いない。
問題は、読者の方は「何回目だよ、これ!」と思う事だ。あまりにも先が予測出来るし、無駄な時間を使った感がある。……そこら辺も含めて「なろう系」だよなあ、と思う。
目的と行動、そして結果が直結する……。主人公が努力した、と言うのは分かる。だが、周囲の反応がおかしいのでは? ご都合主義と言われても仕方が無い。
おまけに、もう店舗を構えて儲けているのに「行商人になれる!」という意味不明の話の流れ。矛盾していると突っ込まれる事は避けられない。
他の例だと「S級冒険者に認められた後に冒険者学校に入学する」とか。「なろう作品」では、とても良くある話ではあるが……。もう少し考えましょうね、と言うお話。
という訳で「テンプレ」とはどういうものかと言う実例なのだが……。そもそも、目的と展開に矛盾がある。無理矢理、ギルド長やら王様が出てくる必要も無い。
ただ、商人になるためにマジックバックを入手する、と言うお話だ。この部分を無理に広げる必要は無い筈なのだ。
高価なマジックバックを探し出して、何とか入手して商人と認められたい。それだけで良い筈なのに、色々と話を膨らませ過ぎだ。
そして「非テンプレ」として考えた、カレー屋の顛末はこんな感じ。本編をベースにしています。
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ひょんな事から自分の作ったカレーが大好評だった。毎日お客が列をなすことになった。仕方が無いので、商人として活動する事を目指す事にした。目標は大きく、大富豪だ!
カレーのお店は、順調に売り上げを伸ばしている。だが、商人になる為にマジックバックが必要だ。あれなら重い荷物を運ぶ必要も無いし、人件費も掛からない。
だが何より、マジックバックを持たない人間は、商談に参加出来ないというルールがある。……商人として認められる最低条件が「マジックバック」の所有なのだ。
だが、マジックバックはとても貴重品だ。聞く所によると、マジックバックの所有をギルドや王族で管理している事も多いそうだ。
色々な人からの紹介で、引退した商人の方からマジックバックを譲って貰う事になった。……但し、莫大な借金付きではあるが。
どんな事をしてでもマジックバックを入手しなければ、大富豪としての道が閉ざされるのだ。仕方が無いと割り切ろう。
どういう訳だか、お金儲けをするために借金をする事になってしまった。……今までのカレー屋の売り上げでは、頭金を用意するので精いっぱいだった。
そして、毎月何百万円もの返済が必要となる……とてもではないが、カレー屋の売り上げだけでは返済が出来ないのだ。さて、これは困った。一刻も早く何とかしないと。
よし、新しい商売のネタ探しだ! あちこちを旅して、お金儲けをしなくては。このマジックバックを駆使せずに、商売は出来ない。
……明日のご飯を食べる為にも、お金を稼がなきゃいけない。まったく、世知辛い世の中だ。
こうして、私はあちこちを旅して儲かりそうな品物を手に入れながら、がっぽりと儲かる収入源を探す事になったのだ。
……大富豪への道は遠い。どうしてこうなったのだろうか?
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どうだろうか? マジックバックにまつわる商人の世界。主人公が行商をする理由。そして何より、主人公自らが「どうなりたいのか」を明示する。
それなりに、世界観や行動原理に一貫性が出ていないだろうか。少なくとも矛盾していると突っ込まれる事は無い筈だ。唐突なご都合主義も無い。多額の借金の返済と言う、リアリティ。
本編のバックグラウンドはこんな感じ。ちなみに「マジックバックは商人として認められる最低条件」と言う設定は伏線であり、ちゃんと後の話で回収される。
オリジナリティと個性の話であれば、何処かで聞いた事のある設定ではある。だが、少なくとも商人になりたいという主人公の行動と、商売人の世界のすれ違い的なニュアンスは出ていると思う。
物語の進め方はこんな感じになる。目標とそれに合わせた世界観を出して、行動した結果で次の物語へと繋げる。簡単なようで難しい。
おまけに、後の話を膨らませる為の伏線も入れておかないといけない。……少なくとも、この位は考える事がある訳だ。だが、いわゆる「テンプレなろう作品」特有の既読感は、無くなったと思う。
……どうでしたでしょうか。次回も、実例と本編紹介を含めた感じで投稿しようと思います。
では、皆さんの良き作家ライフの参考になれば幸いです。