3.そもそもテンプレなろう系は特別なのか?
不定期に思いついた事を書き込むこのエッセイ。
いわゆる「テンプレなろう系」の仕組みは、素晴らしいとか人気があるとかいう主張がある。別に何を言おうと構わないが、それほど「テンプレなろう系」が特別なのだろうか?
また、本当に人気があって有名作品が商業化に成功していると言えるのだろうか?
創作物として、他の作品群との比較から「テンプレなろう系」の特徴を洗い出してみれば、自然とどんな構造をしているのか分かるのでは、と考える。
このエッセイは、特定の個人や作品を貶める為の活動ではない。他の創作物だって善し悪しがあるものだ。論理的に分析していきたいと思う。
まず「ナーロッパ」と呼ばれる剣と魔法の中世ヨーロッパ風の世界観に王族や貴族、冒険者ギルドがありそこでは活動によりランク付けがされている。そして、レベルやステータスの概念がある。
魔王を倒すために勇者がいて、それを退治する為に高ランク冒険者として活躍するというのもストーリーの根幹にある。ゴブリンやスライム、竜などが跋扈するという感じだろうか。
これらの設定や世界観を読者側は暗黙の了解として、共有する仕組みと言う話である。とにかく世界観の説明が省ける事で、ストレスなく読み進めるのが特徴と言える。いわゆるシェアワールドの仕組みに分類されるだろう。
だがしかし、それは唯一無二の素晴らしい仕組みなのか? と言えば、そうでもない。そもそも一般的に読者側に一定の認識を要求する事で、世界観の共有を行っている作品群なんて珍しくも無いのだ。
特に顕著なのがSFだろう。スペースオペラと言う偏った物ではない。科学的な説明を読者側が共有し、タイムパラドクスやらありえたかもしれない歴史など提示し、その知識を当然の物として読者側に要求する。
そこまでハードルが高くない作品群だってある。例えば、やる夫スレと言うものが過去に流行った訳だが、あれは二次創作物として、登場人物の原作における性格や能力と言ったものは読者側は認識した上で成立している。アスキーアートを使う、と言う点で若干制作側の難易度は高い。
世の中にあふれているマンガだってそうだ。海外ではマンガに人気が無くアニメが好まれる。無意識にだが、日本人にとってマンガを読むためのテンプレートを持っている為に違和感が無い。
海外から見ると、漫画の約束事が理解出来ない為に非常に難解なのが、問題だと言う。読者側が知識を持っている事が前提だから発生する事象と言えるだろう。
なろう系も同様である。「ナーロッパ」と言う世界観を持たない一般人にとって、それは『何だかよく分からない物語』であり、楽しめないという原因なのだろう。
それでも、他の創作物と比較すれば必要な知識は多くない方だと言える。対比としてSCPの作品群があげられるだろう。あれは、特殊な用語が当然の様に溢れ出ており、凄まじい敷居の高さとなっている。
また、シリアルナンバーを付けるという点も独特だ。どういう事かと言えば、作品の数が有限だという事。簡単に投稿できない、一定の質が求められ審査される訳だ。
また、やる夫スレやSCPと言った作品群は特に儲からないというかめったな事では書籍化しないという点も独特だろう。儲からないのだ。いわゆるボランティア活動なのだろう。
それでいて、まとめサイトを作る者や解説動画を投稿する人も居る。ただ、面白い作品を世に広めたい、と言う純粋な思いが強い故に特定の人々から愛されるのだろう。
SCPに至っては、世界中で各国の特色に合わせた物語が生み出されており、可能な限り他者の作品の真似がしにくいというのも特別な理由だろう。オリジナルティが高く、非常に独創的で新たな発見があると感じている。
「ちゃんとしたストーリーも無く、難解な用語ばかりで理解出来ない様な作品ばっかり」と、なろう系以下と批判する人間もいるとは聞いているが、なろう系を擁護する際の発言と矛盾していると思う。
ともかく、世の中には「読者側に世界観などを共有している前提で創作される物語」と言うのは珍しくない、と言うかむしろそれは当たり前の事なのだ。
それを理解せずに「なろう系」を語るのは、いかがなものか。
なろう系に分類される作品群の特徴は、むしろ他の部分にある。
まず、作品を作るハードルが恐ろしく低い。そして、盗作や他人の作品とのダブりを気にされない。ゆえにそれが横行する。
また、投稿する為のコストがほぼ不要と言うのも大きい。つまり、「とりあえず投稿してみて反応が悪かったら、別の作品を書けば良い」と言う、書き捨てが大量に発生しているのが、現在の「なろう系」の状態であろう。
ノーリスクで運次第だが書籍化されるというハイリターンな仕組み。つまりは金儲けや一発逆転の可能性を求めて、投稿を行うという不純な動機が「なろう系」にはある訳だ。
結果として、どれも流行った設定やどこかで聞いたような世界観をとにかく乱造する。「悪貨は良貨を駆逐する」と言う格言通り、読むに堪えない質の悪い作品が溢れて真面目に創作している人の邪魔をする。
いずれは、廃れる事は明白だ。……だって、有名になりたい・お金持ちになりたいという考えは、作品内に無意識に表れるから。「いじめられた描写と作者の欲望しか感じられない」と言うのは、そういう事なのだろう。別に読者のストレスを解消する意図なんてない。
つまり「なろう系」の特徴は、とにかく作者側のデメリット無しで書籍化される可能性がある、と言う一点に尽きる。その為に特定のジャンルや短編の山が出来上がる訳だ。
出版社側も「上手い事儲けてやろう」という思惑が見え隠れする。ブックマークやポイントが多いから、人気があって、商業ベースに乗せれば売れるだろう、という事。
だが、「なろう系」が好きな読者がまぁ10万人いたとする。……物凄い人気がある様に見えるが、実際売り上げはそこまででも無い。
良く「累計発行部数」を売り文句にしている作品があるが、あれは数字のマジックだ。一巻辺り10万部売れて、50巻も出せば500万部にはなる。しかも、売り上げた部数ではない。書籍として作っただけで良いのだ。
そして、一般人は「なろう系」の知識が無いから、その手の書籍や漫画を買う事は無い。
10万1人目の読者が生まれないのだ。……もちろん、それに当てはまらない有名作品だってあるかもしれない。だが、物凄く奇跡的に面白かった訳でそういう作品は「テンプレなろう」を用いているのではなく、むしろネタ元になっているだけである。
投稿されたのが「小説家になろう」だっただけであり、どこに出しても書籍化されるような作品だっただけだと思う。
「なろう系」が人気がある、商業的に成功していると主張する方々には、それがイレギュラーであり普通は質の低い作品を低予算で商業化しているだけ、と言う事実を目を背けずに考えて欲しい。
結論として、「テンプレなろう系」の作品群は何処かの作品の劣化コピーをノーコストと言う特性を生かして乱造されているだけで、何ら特別では無いという事。
むしろ、他の創作群の方が一定の質を担保するという点においては、圧倒的に優れていると思う。
なろう系を読んで泣いた事は無いが、お勧めのやる夫スレやSCPの記事で泣いたり笑ったり、心を動かされた事は数知れない。
人の心を動かすのが良い作品であり、創作する為の仕組みが優れていたり商業的に成功していても、それは全くの見当違いなのではなかろうか。