■ 月曜日の夕方、藤咲水紀と八百屋で会った
たまには野菜を食わないといけねぇな。そんなわけで、今日は肉を食わずに野菜にするぜ。
「らっしゃい! 何だ、タマオ! 今日は肉屋や弁当屋じゃねぇのか? うちに肉はねーぞ!」
八百屋「やお段」のおっさんは、いつもこういうシャレで迎えてくれやがる。たまーに果物や野菜を買おうとすれば、これだ。まぁ、冗談が通じないロボットみたいな店主じゃ嫌だけどな。
「本気で今日は野菜ってわけか。何にする?」
何にするって言ったって、野菜なら何だっていいんだろうが。適当にキャベツ十個でも食っときゃ問題ないだろう。それだけじゃダメなら、白菜も十個かじってやるぜ。
「・・・・・・相変わらず面白すぎだね、タマオ。バカなの? モンシロチョウにでもなるつもり?」
な、なぜここにクールなミズキちゃんが。いきなり声をかけられちゃ、驚くってもんだ。
「らっしゃい! あれ? なんだ、フジちゃんもタマオの知り合いだったんか」
フジちゃんだと。何だそれは。この子はクールなミズキちゃんだろうが。どういうこっちゃ。
「・・・・・・藤咲水紀。あたしの名前。だから、フジちゃんでもミズキちゃんでも、合ってる」
な、なるほど、そういうことか。確かにそれは、どっちでも合ってるな。うん。
「それよりタマオ。あんた、バランスってものを考えないんだね?」
な、何を言うミズキちゃん。俺は、普段肉を食いまくってるからこそ、それと釣り合うような量の野菜を食う気だったんだぞ。バランスはオッケーじゃないのか。それにしても、可愛すぎだな。
「オッケーじゃないでしょ、どう考えても。・・・・・・ねぇ、普段どんな食生活してんの、タマオ?」
「はぁっはははは! いいじゃねぇかタマオ! まるで奥さんがいるみてーだなぁ!」
「おじさん、バカ言わないで。・・・・・・勘弁してよ」
こっちだって勘弁してくれぇ。何だか、俺の食生活が犯罪級にダメだと言われてるみてぇじゃねぇか。ミズキちゃんが気にかけてくれることで、こうして可愛い子と会話が出来るのは俺にとって最高の栄養剤なんだがな。
でも、待てよ。この流れはもしかして、うまく会話を持ってきゃ、ミズキちゃんが俺んちで手料理でも作ってくれるってことにならないか。よし、だったら、俺だってうまく会話を誘導して、いい流れに持ってくぜ。
美人で可愛いミズキちゃんに、俺は、何気に惚れちまったかもしれねぇのさ。
「なんかあたし、タマオって、妙にほっとけないんだよねぇ。・・・・・・面白いんだもん」
そ、そうか。妙にほっとけない・・・・・・。ほっといてもらった方が俺はいいんだが、ミズキちゃんなら話は別なんだ。
「とにかく、肉一辺倒から野菜一辺倒みたいな食べ方は、やめなよね? いつかぶっ倒れるよ?」
なぜ、ミズキちゃんは俺をそこまで気遣ってくれるんだい。ま、まさかっ・・・・・・。
「何でだろうね? まぁ、あたし、タマオみたいな人、嫌いじゃないし。・・・・・・じゃ!」
あ、大根だけ買って行っちまった。嫌いじゃないってことは、これは、脈アリだ。間違いないっ。