■ 土曜日は、コンビニの子の顔を見よう
土曜日ってのは、特別だ。週の終わりってこともあるが、明日が日曜だからか、気持ちがホリディでいいもんだ。まぁ、俺は毎日お休み状態に近いけど。
昨日はぶっこわれた水道のせいで、えらい目に遭ったぜ。だが、それもこのタマオがしっかりと修繕してやった。どんなもんだ。お水のトラブル、タマオにお任せあれ。
そうそう。昨夜から、俺の心の友とも言えるダチが家に来てやがる。土日は休みだから久々に来たんだと。暢気なもんだぜ、公務員ってやつぁ。
「ヒューイ! 朝だけど、酒飲もうぜぇ。コンビニに、買い出し行こうぜぇータマオ!」
社会人だろうが、お前は。何でそんなにチャラいノリなんだ。その変わらなさが俺にとっては気楽でいいんだけどよ。とりあえず、パンツ一丁じゃ買い物に行けねぇだろ。ズボン履け。
そんなわけで、俺はダチのゲンタと共に、サンダル履いて近くのコンビニへ。大手チェーンのコンビニじゃなく、個人経営らしいが、酒やつまみの品揃えは天下一品だ。
さてさて、ゲンタと朝から酒を飲むことになった。しかし、もう一つ言わねばならぬことがある。
最近、このコンビニで、土曜限定で元気な女子大生っぽい子がバイトしてんだ。コンビニの子を見に行くだけでも、土曜の朝の目覚めにはいいもんだぜ。
「オ、オイィー。見ろよタマオ! か、可愛い子がいるぜぇ! ヒョーイ!」
そうか。お前は知らなかったなゲンタよ。俺はここ最近、毎週この子を目にしてる。どうだ、羨ましいだろう。
「おはようございます。いらっしゃいませぇーっ!」
うむ。朝から、透き通るような元気で明るい良い声だ。笑顔も眩しいぜ、コンビニの子よ。
「お、おはよっすーぅ! カワイイねぇ! オ、オイラとこれから、遊びに行こうぜぇーっ!」
バカなのか、ゲンタ。コンビニの子は見ての通り、いまバイト中だぞ。ナンパしてどうすんだ。
「きゃははは。ごめーんなさいっ! 訳あって、うちは無理でぇす! あと、仕事中なのでー」
ほれ見ろ。呆気なく躱されただろうが。しかし、どうやらこのコンビニの子、なかなかのツワモノかもしれん。困る素振りも見せず、戸惑うことも無く、ゲンタのナンパアタックを一瞬で躱して返すとは、やるな。きっと、こういうゲンタみてぇなナンパバカに、何度も言い寄られたんだろう。
すまんな、コンビニの子よ。バカなゲンタを許してやってくれ。お詫びとして、スパイシー鶏唐揚げ二十個と、でかい缶のハイボールを二十本買ってやっからさ。許してちょんまげ。
「たくさん買うぜぇー。どぉだ! 俺らは朝から、酒を飲むぜぇー。最高だと思わねぇかいー?」
「きゃはは。楽しそうですねー。飲み過ぎに気をつけてくださいねー。ありがとうございまーす」
レジ打ちをしながら、ゲンタと目も合わせずに笑って返すそのテクニック。シビれるねぇ。コンビニの子よ、また、このバカが夕方に帰ったら、店に来るからな。一旦、アディオス。
―――― 夕方 ――――
「楽しかったぜぇ、タマオ! じゃ、オイラは電車で帰るぜぇー」
いつも飲むだけ飲んで食うだけ食って、ゲンタは片付けもせずに帰りやがる。まったく。俺んちをファミレスと勘違いしてねぇか。まぁいいや。片付けも終わったし、俺はゆっくりとまた、あのコンビニの子の顔を見て、夕飯でも買うとするか。
「いらっしゃいませー。こんばんはー。・・・・・・あ。いつもの、朝来るお客さん」
そうだ。覚えてくれたかコンビニの子よ。さて、朝とは違うこのタマオの買い物ラインナップを見るがいい。
ん。そう言えば今日は初めて、名札をしてやがるぞ。
なになに、「きもり(あき)」だと。名字だけでなくカッコ書きの名もあるということは、この店は少なからず二人以上は「きもり」という名の店員がいるということか。
じゃあ、キモリちゃん。このタマオの買い物を、そこのレジから眺めているといいさ。
缶チューハイを八本。
イカゲソ揚げ三パック。
安い日本酒の四合瓶を二本。
缶ビール、しかも第三や発泡酒じゃないやつ十本。
サラミと明太子をそれぞれ六パック。
おつまみサラダ二パック。
カルビ肉弁当二つ。
チョコレートアイスを五個。
メロンパン六個。
そして、シメのカップラーメンを四個だ。
まぁ、今日はこれくらいにしといてやるとするか。
「わぁ、今日も多いですね! こんなにお買い上げなんて、お客さんって、社長とかですかぁ?」
どこをどう見たら、シャツにハーパン、ボロいサンダル履きの眼鏡デブが社長に見えるんだよ。まぁ、冗談だろうな。うん、冗談だろう。なかなかいいぜ、キモリちゃん。
俺は東京理数大学理学部四年のタマオってモンだ。覚えといてくれ、キモリちゃんよ。むしろ、そっちはいったい、どこの大学生なんだい。高校生ってことはねぇだろう。
「うちは、習学院女子大社会学部二年の木森ってもんだぁ。覚えておいてね、タマオさんっ?」
何てことだ。やるな、キモリちゃんよ。まさか習学院女子だったとは。お嬢様って感じもせず、かといってバカっぽい軽さもなく、ハキハキして明るい良い子だな。キラッと光る笑顔が眩しいぜ。
しかも、この俺の名乗り方を真似るとは、なかなかの手練れだなキモリちゃんよ。
「タマオさんはいつもたくさん買うし、バッチリ印象に残るお客さんなんで! (キラッ☆)」
お、いいこと言うなキモリちゃんよ。じゃあ、今度はもっと買うことにするぜ。それにしても、俺は社長じゃねぇが、あながち遠からずってとこだ。俺の実家は栃木県右野市の一角にある「葛尾地区」で一番でかいセメント会社なんだぜ。
「じゃあタマオさん、次期社長じゃん。すごーい! また来てね、タマオ社長っ! (キラッ☆)」
社長なんて呼ばないでくれキモリちゃん。まぁ、じいさんやおやじが引退したら、このタマオが小山内石灰化学株式会社の重役になる。・・・・・・かもしれないから、そこまでまだ待っててくれ。
しかし、朝と夕でさすがに買いすぎか。心はあったかくても財布が寒いことになっちまったわ。