表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウィーク & ウィーク  作者: 糸東 甚九郎(しとう じんくろう)
7/16

■ 土曜日は、コンビニの子の顔を見よう

 土曜日ってのは、特別だ。週の終わりってこともあるが、明日が日曜だからか、気持ちがホリディでいいもんだ。まぁ、俺は毎日お休み状態に近いけど。

 昨日はぶっこわれた水道のせいで、えらい目に遭ったぜ。だが、それもこのタマオがしっかりと修繕してやった。どんなもんだ。お水のトラブル、タマオにお任せあれ。


 そうそう。昨夜から、俺の心の友とも言えるダチが家に来てやがる。土日は休みだから久々に来たんだと。暢気なもんだぜ、公務員ってやつぁ。


「ヒューイ! 朝だけど、酒飲もうぜぇ。コンビニに、買い出し行こうぜぇータマオ!」


 社会人だろうが、お前は。何でそんなにチャラいノリなんだ。その変わらなさが俺にとっては気楽でいいんだけどよ。とりあえず、パンツ一丁じゃ買い物に行けねぇだろ。ズボン履け。

 そんなわけで、俺はダチのゲンタと共に、サンダル履いて近くのコンビニへ。大手チェーンのコンビニじゃなく、個人経営らしいが、酒やつまみの品揃えは天下一品だ。


 さてさて、ゲンタと朝から酒を飲むことになった。しかし、もう一つ言わねばならぬことがある。

 最近、このコンビニで、土曜限定で元気な女子大生っぽい子がバイトしてんだ。コンビニの子を見に行くだけでも、土曜の朝の目覚めにはいいもんだぜ。


「オ、オイィー。見ろよタマオ! か、可愛い子がいるぜぇ! ヒョーイ!」


 そうか。お前は知らなかったなゲンタよ。俺はここ最近、毎週この子を目にしてる。どうだ、羨ましいだろう。


「おはようございます。いらっしゃいませぇーっ!」


 うむ。朝から、透き通るような元気で明るい良い声だ。笑顔も眩しいぜ、コンビニの子よ。


「お、おはよっすーぅ! カワイイねぇ! オ、オイラとこれから、遊びに行こうぜぇーっ!」


 バカなのか、ゲンタ。コンビニの子は見ての通り、いまバイト中だぞ。ナンパしてどうすんだ。


「きゃははは。ごめーんなさいっ! 訳あって、うちは無理でぇす! あと、仕事中なのでー」


 ほれ見ろ。呆気なく躱されただろうが。しかし、どうやらこのコンビニの子、なかなかのツワモノかもしれん。困る素振りも見せず、戸惑うことも無く、ゲンタのナンパアタックを一瞬で躱して返すとは、やるな。きっと、こういうゲンタみてぇなナンパバカに、何度も言い寄られたんだろう。

 すまんな、コンビニの子よ。バカなゲンタを許してやってくれ。お詫びとして、スパイシー鶏唐揚げ二十個と、でかい缶のハイボールを二十本買ってやっからさ。許してちょんまげ。


「たくさん買うぜぇー。どぉだ! 俺らは朝から、酒を飲むぜぇー。最高だと思わねぇかいー?」

「きゃはは。楽しそうですねー。飲み過ぎに気をつけてくださいねー。ありがとうございまーす」


 レジ打ちをしながら、ゲンタと目も合わせずに笑って返すそのテクニック。シビれるねぇ。コンビニの子よ、また、このバカが夕方に帰ったら、店に来るからな。一旦、アディオス。



   ―――― 夕方 ――――


「楽しかったぜぇ、タマオ! じゃ、オイラは電車で帰るぜぇー」


 いつも飲むだけ飲んで食うだけ食って、ゲンタは片付けもせずに帰りやがる。まったく。俺んちをファミレスと勘違いしてねぇか。まぁいいや。片付けも終わったし、俺はゆっくりとまた、あのコンビニの子の顔を見て、夕飯でも買うとするか。


「いらっしゃいませー。こんばんはー。・・・・・・あ。いつもの、朝来るお客さん」


 そうだ。覚えてくれたかコンビニの子よ。さて、朝とは違うこのタマオの買い物ラインナップを見るがいい。

 ん。そう言えば今日は初めて、名札をしてやがるぞ。

 なになに、「きもり(あき)」だと。名字だけでなくカッコ書きの名もあるということは、この店は少なからず二人以上は「きもり」という名の店員がいるということか。


 じゃあ、キモリちゃん。このタマオの買い物を、そこのレジから眺めているといいさ。

 缶チューハイを八本。

 イカゲソ揚げ三パック。

 安い日本酒の四合瓶を二本。

 缶ビール、しかも第三や発泡酒じゃないやつ十本。

 サラミと明太子をそれぞれ六パック。

 おつまみサラダ二パック。

 カルビ肉弁当二つ。

 チョコレートアイスを五個。

 メロンパン六個。

 そして、シメのカップラーメンを四個だ。

 まぁ、今日はこれくらいにしといてやるとするか。


「わぁ、今日も多いですね! こんなにお買い上げなんて、お客さんって、社長とかですかぁ?」


 どこをどう見たら、シャツにハーパン、ボロいサンダル履きの眼鏡デブが社長に見えるんだよ。まぁ、冗談だろうな。うん、冗談だろう。なかなかいいぜ、キモリちゃん。

 俺は東京理数大学理学部四年のタマオってモンだ。覚えといてくれ、キモリちゃんよ。むしろ、そっちはいったい、どこの大学生なんだい。高校生ってことはねぇだろう。


「うちは、習学院女子大社会学部二年の木森ってもんだぁ。覚えておいてね、タマオさんっ?」


 何てことだ。やるな、キモリちゃんよ。まさか習学院女子だったとは。お嬢様って感じもせず、かといってバカっぽい軽さもなく、ハキハキして明るい良い子だな。キラッと光る笑顔が眩しいぜ。

 しかも、この俺の名乗り方を真似るとは、なかなかの手練れだなキモリちゃんよ。


「タマオさんはいつもたくさん買うし、バッチリ印象に残るお客さんなんで! (キラッ☆)」


 お、いいこと言うなキモリちゃんよ。じゃあ、今度はもっと買うことにするぜ。それにしても、俺は社長じゃねぇが、あながち遠からずってとこだ。俺の実家は栃木県右野市(とちぎけんうのし)の一角にある「葛尾地区(くずおちく)」で一番でかいセメント会社なんだぜ。


「じゃあタマオさん、次期社長じゃん。すごーい! また来てね、タマオ社長っ! (キラッ☆)」


 社長なんて呼ばないでくれキモリちゃん。まぁ、じいさんやおやじが引退したら、このタマオが小山内(おさない)石灰(せっかい)化学(かがく)株式会社の重役になる。・・・・・・かもしれないから、そこまでまだ待っててくれ。

 しかし、朝と夕でさすがに買いすぎか。心はあったかくても財布が寒いことになっちまったわ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ああ~、だから矢鱈と金を持ってる感じなのか、タマオ。 甘やかされて育っちゃったんだな。
[良い点]  まさかの御曹司!!  いや、でも、世の中舐めてそうでいて、ひとが善さそうですからね。  水道なおせたり、ポテンシャル高い?!
[良い点] 糸東先生、新作開始おめでとうございます。 と、思ったら、もうあっという間にこんなに公開されていたのですね。 今回の作品は、これまでのものとは路線が違いますね。ショートコメディなのでしょう…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ