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ウィーク & ウィーク  作者: 糸東 甚九郎(しとう じんくろう)
3/16

■ 火曜日の子は、お高くとまってやがる

 俺のルーティンをひとつ、教えてやるぜ。弁当を食うだけが能じゃねぇんだぜ。

 火曜日の朝は、いつも、俺んちの近くにあるこの寺まで散歩してんだ。どうだ、健康的だろう。これをやることで、弁当のカロリーも消費でき、健康なデブでいられるってわけだ。


 そういや、この俺と同じようなルーティンを持った女たちに、ここ最近、遭遇したんだ。

 その女どもは、三人一組で火曜日に寺参りに来るんだ。この寺は、学業成就と恋愛成就、家内安全の祈願で有名らしい。俺は信心深くはねぇんだが、恋愛成就だけは信じることにしてやるぜ。うん。


「・・・・・・――――今日で、二回目だね。このお寺、火曜日に三十回参ると願いが叶うんだって」

「超難しい授業のテストがAAになるよう願掛けしたら、見事、成績が『AA』だったんだぁ!」


 来やがった。例の女どもだ。そのうち二人はまったく好みじゃねぇ。まず、ヘチマみてぇな感じの顔で、さらにキャーキャーうるせぇから、俺は好みじゃねぇんだ。

 だが、その中のあと一人は違うぜ。まず、うるせぇ女どもとは顔のレベルが違う。それに、キャーキャー騒がず、上品な感じだ。黒い髪がサラサラで、いつも、俺の方に石鹸のようないい匂いが漂ってくる。間違いない。この女は、俺好みのいい女だ。


「・・・・・・でも、神頼みで良い成績とっても、自分のためにならないんじゃないかしら?」


 まったくだぜ。さすが、いい女だ。落ち着いていて、凜としていて、いい女だ。

 キャーキャーわめいてお参りしてたら、神も仏も頭痛くなっちまう。良い成績なんかじゃなく、うるせぇ二人にはバチでも当ててやれ。


「あーあ。アミって、真面目すぎるんだからー」

「ほんとほんとー。ねぇ、アミカ? こういうのって、お遊び感覚でいいんだよーっ!」

「そーだよー。御湯ノ水女子大一年生御用達の、パワースポットなんだからさぁー」


 なんだと。クールなミズキちゃんと同じく、この女どもも御湯ノ水女子大なのかよ。なんだかうるせぇし、高校生みてぇにガキっぽいな。きっと一年だからだな。

 まてよ。ってことは、あのいい女も一年なのか。どう見ても、俺より数段落ち着いてやがるな。


「・・・・・・わたくしは・・・・・・あんまり、寺社仏閣のお参りを、お遊び感覚ってのは・・・・・・」

「あ、そうー。じゃあ、いいよー。アミって、お堅すぎて、一緒にいてもつまんなーい」

「アミカはもう、真面目に家でお勉強してなよー。・・・・・・もう行こう。じゃあね、アミカ!」


 なんて女どもだ。これだから、女が群れるとロクなことが無ぇ。アミカっていう子なのか、あのいい女は。かわいそうに、置いて行かれちまった。ぽつんと、独りで、かわいそうじゃねぇか。

 よし。ここは俺が、慰めにちょこっと声をかけちまおうじゃねぇか。


「・・・・・・え? い、いえ。何でもありませんので、お構いなく。さようなら」


 なんだと。そそくさと行っちまいやがった。でも、お高くとまったその雰囲気、良い感じだぜ。



   ―――― 夕方 ――――


 日暮れ前に、この寺のベンチで缶ビールを飲みながら、スルメを囓る。これがまた、なかなか味のある飲み方だろう。そう思わねぇかなぁ。

 ん。なんだ。誰か来やがった。


「・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ。・・・・・・お願いします。パワースポットの、仏様・・・・・・」


 なんだ、あの子だ。昼間はああ言ってたのに、またお参りに来たってのか。独りで、いったい何をお参りするんだかな。


   ぺこり  ぺこり  ぱん!  ぱん!  ぺこり


「わ、わたくし・・・・・・友達を、増やしたいんです。・・・・・・お願いします、仏様・・・・・・」


 二礼二拍手一礼、か。なかなか律儀に、作法を守る子なんだなアミカちゃん。

 かなりお上品な様子だが、きっと、ちゃんとした家の良い育ちをしたお嬢様なんだろうな。

 だが、言ってやろうか迷っていることが一つ。ここは寺だぜアミカちゃん。今やったそのお参りは、神社でやる作法だ。果たして、わかってるんだろうか。

 いや、待てよ。お上品な子だが、けっこう、天然っぽい面があるのかもしれねぇ。俺はそういう、ギャップみてぇなことは、大好きだぜ。


「・・・・・・お願いします、仏様。・・・・・・どうやったら、お友達を増やせるんでしょうか?」


   ぺこり  ぺこり  ぱん!  ぱん!  ぺこり


 ま、まただ。ええい。これはもう、日本人の魂全開で、アミカちゃんに教えてやるしかあるまい。

 アミカちゃんよぉ、お寺は普通に「合掌」でいいんだぜぇ。神社と混ざっちまってるぜ。


「え・・・・・・? あ、あなたは、朝の・・・・・・。ど、どちら様なのでしょうか?」


 俺は東京理数大学理学部四年のタマオってモンだ。覚えといてくれ、お上品なアミカちゃんよ。


「と、東京理数大? ・・・・・・あ、あのー、なぜ、わたくしの名を知ってるの?」


 そ、そんなに警戒すんなよアミカちゃん。朝、友達らがそう呼んでたじゃねぇか。


「あ、その時に・・・・・・。わ、わたくし、作法が間違ってたのですか・・・・・・。やだ、恥ずかしい!」


 ぬおお。な、なんだその仕草は。こっちが赤くなって恥ずかしくなっちまうじゃねぇか。

 お上品なアミカちゃん、その、頬に手を当てて顔を隠す仕草、グッドだぜぇ。

 そうだ。友達が欲しいなら、この俺が立候補してやるぜ。どうだ、アミカちゃんよぉ。


「・・・・・・ありがとうございます。ですがわたくし、男性が苦手なので、お気持ちだけで・・・・・・」


 な、なんだと。また、そそくさと行っちまいやがった。上品だけど、高嶺の花かアミカちゃん。

 男性が苦手なんて、何か過去にあったんかよ。そんな、警戒されるような男なのかな、俺って。



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― 新着の感想 ―
お寺と神社を間違えるのは、あるあるかも知れない。 ただ、お寺で祈願するのはこういう現世利益ではないと思うが………。 参拝の仕方も知らない人だとそんなものか。 でもお寺でこういう事をするのは本殿だよね…
[良い点]  このご時世。  悲鳴をあげられたり、通報されないだけましなのかも。 [一言]  私も、異性のかた苦手なので(汗)  ええ、異性に限らず、老若男女、苦手です。  猫と仲良くなりたい。…
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