■ 火曜日の子は、お高くとまってやがる
俺のルーティンをひとつ、教えてやるぜ。弁当を食うだけが能じゃねぇんだぜ。
火曜日の朝は、いつも、俺んちの近くにあるこの寺まで散歩してんだ。どうだ、健康的だろう。これをやることで、弁当のカロリーも消費でき、健康なデブでいられるってわけだ。
そういや、この俺と同じようなルーティンを持った女たちに、ここ最近、遭遇したんだ。
その女どもは、三人一組で火曜日に寺参りに来るんだ。この寺は、学業成就と恋愛成就、家内安全の祈願で有名らしい。俺は信心深くはねぇんだが、恋愛成就だけは信じることにしてやるぜ。うん。
「・・・・・・――――今日で、二回目だね。このお寺、火曜日に三十回参ると願いが叶うんだって」
「超難しい授業のテストがAAになるよう願掛けしたら、見事、成績が『AA』だったんだぁ!」
来やがった。例の女どもだ。そのうち二人はまったく好みじゃねぇ。まず、ヘチマみてぇな感じの顔で、さらにキャーキャーうるせぇから、俺は好みじゃねぇんだ。
だが、その中のあと一人は違うぜ。まず、うるせぇ女どもとは顔のレベルが違う。それに、キャーキャー騒がず、上品な感じだ。黒い髪がサラサラで、いつも、俺の方に石鹸のようないい匂いが漂ってくる。間違いない。この女は、俺好みのいい女だ。
「・・・・・・でも、神頼みで良い成績とっても、自分のためにならないんじゃないかしら?」
まったくだぜ。さすが、いい女だ。落ち着いていて、凜としていて、いい女だ。
キャーキャーわめいてお参りしてたら、神も仏も頭痛くなっちまう。良い成績なんかじゃなく、うるせぇ二人にはバチでも当ててやれ。
「あーあ。アミって、真面目すぎるんだからー」
「ほんとほんとー。ねぇ、アミカ? こういうのって、お遊び感覚でいいんだよーっ!」
「そーだよー。御湯ノ水女子大一年生御用達の、パワースポットなんだからさぁー」
なんだと。クールなミズキちゃんと同じく、この女どもも御湯ノ水女子大なのかよ。なんだかうるせぇし、高校生みてぇにガキっぽいな。きっと一年だからだな。
まてよ。ってことは、あのいい女も一年なのか。どう見ても、俺より数段落ち着いてやがるな。
「・・・・・・わたくしは・・・・・・あんまり、寺社仏閣のお参りを、お遊び感覚ってのは・・・・・・」
「あ、そうー。じゃあ、いいよー。アミって、お堅すぎて、一緒にいてもつまんなーい」
「アミカはもう、真面目に家でお勉強してなよー。・・・・・・もう行こう。じゃあね、アミカ!」
なんて女どもだ。これだから、女が群れるとロクなことが無ぇ。アミカっていう子なのか、あのいい女は。かわいそうに、置いて行かれちまった。ぽつんと、独りで、かわいそうじゃねぇか。
よし。ここは俺が、慰めにちょこっと声をかけちまおうじゃねぇか。
「・・・・・・え? い、いえ。何でもありませんので、お構いなく。さようなら」
なんだと。そそくさと行っちまいやがった。でも、お高くとまったその雰囲気、良い感じだぜ。
―――― 夕方 ――――
日暮れ前に、この寺のベンチで缶ビールを飲みながら、スルメを囓る。これがまた、なかなか味のある飲み方だろう。そう思わねぇかなぁ。
ん。なんだ。誰か来やがった。
「・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ。・・・・・・お願いします。パワースポットの、仏様・・・・・・」
なんだ、あの子だ。昼間はああ言ってたのに、またお参りに来たってのか。独りで、いったい何をお参りするんだかな。
ぺこり ぺこり ぱん! ぱん! ぺこり
「わ、わたくし・・・・・・友達を、増やしたいんです。・・・・・・お願いします、仏様・・・・・・」
二礼二拍手一礼、か。なかなか律儀に、作法を守る子なんだなアミカちゃん。
かなりお上品な様子だが、きっと、ちゃんとした家の良い育ちをしたお嬢様なんだろうな。
だが、言ってやろうか迷っていることが一つ。ここは寺だぜアミカちゃん。今やったそのお参りは、神社でやる作法だ。果たして、わかってるんだろうか。
いや、待てよ。お上品な子だが、けっこう、天然っぽい面があるのかもしれねぇ。俺はそういう、ギャップみてぇなことは、大好きだぜ。
「・・・・・・お願いします、仏様。・・・・・・どうやったら、お友達を増やせるんでしょうか?」
ぺこり ぺこり ぱん! ぱん! ぺこり
ま、まただ。ええい。これはもう、日本人の魂全開で、アミカちゃんに教えてやるしかあるまい。
アミカちゃんよぉ、お寺は普通に「合掌」でいいんだぜぇ。神社と混ざっちまってるぜ。
「え・・・・・・? あ、あなたは、朝の・・・・・・。ど、どちら様なのでしょうか?」
俺は東京理数大学理学部四年のタマオってモンだ。覚えといてくれ、お上品なアミカちゃんよ。
「と、東京理数大? ・・・・・・あ、あのー、なぜ、わたくしの名を知ってるの?」
そ、そんなに警戒すんなよアミカちゃん。朝、友達らがそう呼んでたじゃねぇか。
「あ、その時に・・・・・・。わ、わたくし、作法が間違ってたのですか・・・・・・。やだ、恥ずかしい!」
ぬおお。な、なんだその仕草は。こっちが赤くなって恥ずかしくなっちまうじゃねぇか。
お上品なアミカちゃん、その、頬に手を当てて顔を隠す仕草、グッドだぜぇ。
そうだ。友達が欲しいなら、この俺が立候補してやるぜ。どうだ、アミカちゃんよぉ。
「・・・・・・ありがとうございます。ですがわたくし、男性が苦手なので、お気持ちだけで・・・・・・」
な、なんだと。また、そそくさと行っちまいやがった。上品だけど、高嶺の花かアミカちゃん。
男性が苦手なんて、何か過去にあったんかよ。そんな、警戒されるような男なのかな、俺って。