■ 月曜日は、クールな子が通る
平成も、もう二十九年が経ちやがったのか。来年は平成三十年。いつまで続くんだかな。
部屋のカレンダーは、俺の好きな弁当屋がくれた、カツ丼の写真ばかりのカレンダー。どういうセンスしてんだよ。
いつも通り、俺は朝から弁当を食い、窓を開けて、道を眺めている。アパートの反対側も、アパートだ。いつもカーテンが閉まってやがる部屋が、ちっと気になるんだがな。
十月だってのに、あちぃ。肥満体に近い俺には、まだまだきつい暑さだぜ。
すた すた すた すた すた すた すた
お。いつもの子だ。月曜日になると、俺んちの前をテンポ良く歩いていく、可愛い子だ。
サラサラショートの茶髪で、クールなメイクと表情。なのに服装は、山ガールのようなナチュラルオシャレ系。俺は、この子の雰囲気がたまらねぇ。この子が通ると、月曜日って感じがする。
なぜ、月曜日にしかここを通らないのかは謎だがな。
すた すた すた すた すた すた すた
きれいな顔だ。笑いもせず、いつも一人で歩いてんだなぁ。
秋らしい色のロングスカートが、似合ってんな。ブーツも、けっこう格好いいじゃんか。
キラっと光るピアスだかイヤリングも、クールな子にばっちり似合ってやがるぜ。
どこの大学の子なんだかな。すげぇ気になるんだ。
すた すた すた すた・・・・・・ ぴたり くるっ
ん。珍しく立ち止まって振り返ったぞ。何だ。何だ。何だ。俺の方を向きやがったぞ。
「あのさ・・・・・・あたし、通る時にいつも思ってんだけど、このゴミ溜めが邪魔なの気づいてる?」
なんだと。クールな子が、こ、この俺に声をかけてきやがった。夢じゃねぇ。現実だ。
気づいているとも。ああ、気づいているさ。伊達に毎日、ここで外を見てるわけじゃねぇぜ。
「・・・・・・たまには下に降りてきて、アパートの前を掃除くらいしたらどう? ・・・・・・じゃ!」
・・・・・・すた すた すた すた すた すた
初めて声を聞いたかと思ったら、言うことはいきなりそれか。確かに俺んちの前は、粗大ゴミやチラシ屑や生ゴミがぶんながってるけどよ。っていうか、また、すたすたと行っちまいやがった。
だがやっぱり、月曜日のクールな子はシビれるぜ。マジ、すげぇ美人で、可愛い子だ。
―――― 夕方 ――――
ばくばくばく もしゃもしゃ ごくごく ばくんばくん・・・・・・
ふぅ、食った食った。やはり、肉はいいぜ。腹が満たされる。うまい弁当だ。
弁当屋にいたパートのオバチャンが辞めちったらしいが、味が同じなら関係ねぇぜ。
・・・・・・すた すた すた すた すた すた すた
お。あのクールな子だ。時間的に、授業を終えて帰ってきた感じか。俺んちの前をいつも月曜日に行きも帰りも通りやがるってことは、やっぱ、この道の先に住んでんだろうか。
朝、多少なりとも会話しちまったからな。どうせなら、今度は俺から声をかけてみっか。
そうそう、ゴミは俺が昼間のうちに片付けてやったぜ。どうだ参ったか、クールな子よ。
「・・・・・・。・・・・・・あ、ない」
ふっふっふ。そうだろう、そうだろう。俺が、三時間かけて片付けてやったぜ。
クールな子よ。あんたが俺のどストライクな可愛さじゃなかったら、ここまで動くことはなかったんだぜ。自分の美貌に感謝するんだな。
「・・・・・・。・・・・・・おーい。あんたー・・・・・・」
お。こっちに気づいたか。そんなに見つめないでくれぇ。照れちまうじゃねぇか。
「・・・・・・。・・・・・・。・・・・・・片付けてくれたんだ?」
おぅよ。いつも気になってたみたいだから、ガッツリと掃除させてもらったぜ。すげぇ疲れた。
「ふーん。・・・・・・。・・・・・・やるじゃん。言ってもやってくれないもんだと思ってた」
ま、それほどでもねぇけどな。俺は、言われたらやる男だぜ。
「できれば言われる前にやってよ。通行の邪魔だったし。・・・・・・。・・・・・・サンキュ!」
な、なんだこれは。あのクールな子が、お、俺に礼を言ってウィンクをしやがった。ぬおお。何と言うことだ。このタイミングは、逃してはいけねぇ。これは、大学と名前をぜひ聞かねばならぬ。
クールな子よ、あんたの名前は何なんだ。ホワッチュアネィム。あと、どこの大学なんだ。
「あたし? あたしは・・・・・・ミズキ。御湯ノ水女子大の三年。・・・・・・あんたは、学生?」
なんと、御湯ノ水だと。意外だったぜ。通ってる学生はお嬢様系ばかりじゃなかったんだな。
俺は東京理数大学理学部四年のタマオってモンだ。覚えといてくれ、クールなミズキちゃんよ。
「理数大なんだ。ふーん。・・・・・・。・・・・・・もっと運動したら? いつも思ってたけど、太り過ぎ」
な、な、なんてこったい。俺の身体のこと、いつも思ってたのか、クールなミズキちゃんよ。
「いつもあたしを見てたの、気づいてたし。・・・・・・。あんた、実は面白いんだね。・・・・・・じゃ!」
なんと。こんな留年デブな俺が、面白いだと。こりゃあ今後、ますます月曜日が楽しみだぜ。